ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

虚無! 伝説の復活 その②

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匿名ユーザー

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虚無! 伝説の復活 その②

操縦桿を握りつつ、スタープラチナの左腕をルイズの腰に回し固定する。
そしてルイズがバランスを崩さない程度に加速してレキシントン号に迫った。
ドンッ、ドンッと発砲音がし、承太郎は華麗に砲弾を回避する。
だが、その回避した先にワルドの風竜が待ち構えていた。
機首を下げてエア・スピアーをギリギリ回避し、ワルドと空中ですれ違う。
刹那の時、承太郎とワルドの視線が交錯した。
静かなる怒りと、激しい怒り、ふたつの怒りがぶつかり合う。

   エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

しかしルイズが歌うような詠唱を始めると、承太郎はなぜか心地よい安らぎを覚えた。
心が奮える。怒りではない、本能がルイズを守ろうと優しく勇ましく猛る。
同様にルイズの心も奮えていた。身体の中で何かが流れ、生まれつつある。
神経は研ぎ澄まされ、どんな雑音も耳に入らず、感じるのは虚無。
自分の系統は火ではない。水ではない。風ではない。土ではない。虚無である。
確信がルイズの精神を突き動かす。
次のルーンを、次のルーンを唱えよと、唇が勝手に詠唱をつむいでいる気さえする。

   オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

ワルドの風竜にシルフィードが上空から飛び掛った。
すれ違い様、お互いに魔法を放ち合う。
ワルドのエア・スピアーと、タバサの氷の槍(ジャベリン)が衝突し、氷が砕け散る。
そしてキュルケは火の二乗によるフレイム・ボールを放つ。
ファイヤー・ボールより一回り大きいそれは、ワルドの風竜の翼をかすめた。
「羽虫が我々の戦いの邪魔をするな!」
追撃の魔法エア・ハンマーがシルフィードに炸裂する。

「きゃっ!」
「がんばって」
「きゅいーっ!」
シルフィードは回転しながら落下しつつも、即座に体勢を立て直す。
そして自分の背中にご主人様とその友達が無事乗っている事に安堵した瞬間、
シルフィード目掛けてレキシントン号の砲弾が飛んできた。
「エア・ハンマー」
神業的タイミングでタバサが砲弾を真横から空気のハンマーで叩き、射線をずらす。
シルフィードの顔のすぐ横を砲弾が通り抜け、風圧でさらにバランスが崩れた。
これ幸いにとレキシントン号は標的をシルフィードに変える。
「いったん防御に集中」
「任せてッ! 砲弾なんて全部焼き払って上げるわ!」
シルフィードの背中の上で、迫り来る砲弾を迎撃すべく、
若きトライアングルメイジは素早い詠唱を開始した。

   ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシュラ

承太郎は空を見た。もうまもなく、太陽と月が完全に重なる。
ルイズの詠唱が終わるのが先か、日食が終わるのが先か。
「やれやれだぜ……」
そう呟いた直後、承太郎はレキシントン号からの弾幕が弱まったのを感じていた。
奇妙に思い敵が狙っている先を見ると、タバサ達が窮地に追い込まれている。
しかし承太郎に彼女達を助けるすべは無い。今はルイズを詠唱を守らねば。
と、承太郎の意識がルイズとタバサ達の二方向に分かれた瞬間、
機体に今までとは違う衝撃が走る。
甲高い音がして、装甲が破れるのをガンダールヴのルーンが感知した。
「ガンダールヴ! 伝説と誉れ高きその命、貰い受ける!!」
「燃料タンクを……! 野郎、やっかいな時にやっかいな場所を……」

ぶれる機体を持ち直すのにさすがの承太郎も少々手こずった。
相当揺れたため、ルイズは大丈夫かと思った承太郎だが、
ルイズは承太郎の膝の上に綺麗に座ったまま詠唱を続けている。
何という集中力と精神力か。
承太郎は、自分がルイズに召喚された理由を何となく理解した気がした。
「トドメだ! ガンダールヴ!!
無情にもワルドが迫る。ゼロ戦の体勢を立て直すのが精いっぱいだ。
しかも、ワルドの反対側からレキシントン号の砲門がこちらを狙っている。
回避しきれない!

「エア・スピアー!!」
「スタープラチナ・ザ・ワールド!」

世界が、停止した。
砲門からは砲弾の頭が顔を出したまま。
ワルドの杖からは、風の槍が放たれたまま。
シルフィードも翼を羽ばたかせる事無く空中で停止している。
タバサの巻き起こした風が散弾を弾き飛ばしている最中だった。
キュルケの放ったフレイム・ボールが、砲弾と正面衝突しようとしていた。
風竜よりも速く飛翔する竜の羽衣――ゼロ戦までもが完全に停止した世界。

動いているのは、ゼロ戦の中の二人だけ。
ゼロ戦のコックピットという小さな小さな世界だけが動く事を許されていた。

   ジュラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……

ふと、承太郎は思う。
虚無の詠唱には時間がかかる。だが、止まった時間の中で詠唱する事ができたなら?
スタープラチナは時間を止める。虚無の担い手との相性は抜群と言える。
「俺が止められるのは、ほんの数秒だ……。
 その数秒が終わったら、俺達はワルドと戦艦の挟み撃ちを受け、ヤバイ事になる。
 後は……任せたぜ、虚無のルイズ。伝説の復活を見せてやれ」

詠唱が――終わる。時の止まった世界で、ルイズはついに虚無の魔法を完成させた。
しかし同時にルイズはその威力を理解してしまう。
あまりにも強大な破壊力。すべてを巻き込む。この戦場にいる人々さえも。
選択肢はふたつ。殺すか。殺さぬか。
破壊すべきは何か。
ルイズは目を開いた。
戦艦レキシントン号――あれさえ落とせば。
ルイズは杖を振り下ろして、呟く。

「エクスプロージョン。……そして、時は動き出す」

世界の時間が再び時計の針を刻み出した瞬間、それは唐突に現れた。
音も無く、忽然と、その場に現れ膨れ上がった。
小型の太陽のようなそれは白い光を放ちつつレキシントン号を飲み込んだ。
ワルドの魔法も、敵の砲弾も、空に浮かぶすべての艦隊を包み込んだ。
巨艦レキシントン号を筆頭に、アルビオン艦隊が次々に墜落する。

そして光に巻き込まれたワルドは、それが恐らく伝説の虚無だろうと理解し、
なぜあれほど強大な力が自分の手の中に無いのかと吼えた。
「ガンダァァァルヴ! ルイィィィズ!!」

「何なのよこれ!? た、タバサどうすれば――」
「わ、解らな――」
同様に戦場にいたタバサ達も巻き込まれる。
エクスプロージョンの音無き爆発は人間に直接危害を加える事はなかった。
しかしあまりの眩しさと、あまりの魔法の力の奔流に呑み込まれ、
シルフィードはタルブの草原へと落下していった。

アルビオン艦隊が全滅する様をアンリエッタは呆然と眺める。
だがマザリーニは、アルビオン艦隊が全滅した今こそ勝機と悟る。
そして号令をかけ、未だ地上に残るアルビオンの残存部隊の討伐に向かう。
アンリエッタは、勝利をもたらした謎の竜を見上げた。
竜は日食によって月の陰に隠れつつある太陽に向かって真っ直ぐに飛翔していた。
「……ルイズ・フランソワーズ?」
なぜ、あの竜を見て唯一の友達の名が頭に浮かんだのだろう。
アンリエッタは無性にルイズに会いたくなった。恐らく魔法学院にいるだろうルイズに。

落下するシルフィードの首にしがみつきながら、タバサは空を見上げた。
黒く染まった太陽の中へ、竜の羽衣が飛んで行く。
「……多分、さよなら」
そう小さく呟いて、タバサはシルフィードにレビテーションをかけた。
どうやらシルフィードは光のショックで気絶してしまったらしい。
それから親友のキュルケの姿を探したが、シルフィードの背中の上にはいなかった。
が、少し離れた空中に目立つ赤毛を発見するとホッと息を吐く。

シルフィードの背中から投げ出されたキュルケは、
自身にレビテーションをかけながらゆっくりとタルブの草原へと近づいていた。
そして隠れた太陽とそれに向かって飛ぶ竜の羽衣を見る。
「ちょっとー。ジョータローの里帰りにルイズまでついてく訳?
 抜け駆けなんて、ちょっとズルいんじゃない? まったくもうっ」

森の端にある木の根元に座り、幹に背中を預けて天を仰いでいるギーシュ。
その瞳には太陽に飲み込まれていくような竜の羽衣の姿があった。
間に合うかどうか、正直ギリギリすぎて、ギーシュには判別つかない。
「ああ……何とも幻想的な光景じゃないか。日食の中を飛ぶ鋼の竜……」
不思議と別れのさみしさは無かった。
別に彼が故郷に帰るのを失敗する、と思っている訳ではないが、
無事帰れるにせよ、残念ながら帰れないにせよ、
自分は彼から多くのものを学び、受け取ったと、心が理解していた。
けれど。
「……ジョータローさんの、嘘つき」
ふいに、負傷したギーシュに付き添っていたシエスタが呟く。
涙で濡れた一途な瞳は、真っ直ぐに竜の羽衣を見つめていた。
「誰も一緒に連れて行く気は無いって言ったくせに、
 ミス・ヴァリエールだけはお連れしちゃうんですね。
 だったら、私だって勝手にします。勝手に、貴方の帰りを、待ってますから」
ギーシュからルイズも竜の羽衣に乗っていると聞かされた時から、予感はあった。
その予感が現実になろうとしている。
承太郎は行ってしまう、ルイズと一緒に行ってしまう。
お爺ちゃんのふるさとへ。

「ルイズ……!」
承太郎は操縦桿を戻そうとしていたが、虚無の詠唱にガンダールヴの力が反応した反動か、
疲労により腕に力が入らず、ルイズが握りしめている操縦桿を動かせない。
「馬鹿野郎、このままだとお前まで……」
「だって、仕方ないじゃない! タバサ達まで落ちてっちゃったんだもん!
 私だけ飛び降りて、レビテーションで拾ってもらうって訳にはいかないの!」
「ゼロ戦を地上に戻せばすむ話だろうが!」
「そうしたら、あんたが帰れなくなっちゃうじゃない!」
ゼロ戦の操縦方法などルイズには解らないが、
とりあえず今この体勢を維持すれば勝手に日食の中へ飛んで行くらしいとは解っていた。
その行為に迷いは無かった。
いや迷う余裕が無いだけなのかもしれない。冷静に考える余裕が無いだけかもしれない。
でも、ルイズの意志は何よりも固かった。
「私はジョータローに約束したわ! 元の世界に帰す方法を探すって!
 今! 目の前にそれがある! 私の都合で一方的に呼び出してしまったあんたを、
 元の世界に……帰す義務が、私にはあるのよ!
 私は貴族だから! ご主人様だから! それに、ジョータローと一緒なら……!!」
その先の言葉は、突然機体が揺れたショックで言えなかった。
ゼロ戦の前には眩い光が輝いている。二人の視界が、真っ白に染まって――。

   ジョータローと一緒なら、何が起こったって怖くないんだから!!

   やれやれだぜ。意外とご主人様らしいところもあるじゃねーか……ルイズ。



第三章 始祖の祈祷書 完

┌―――――――┘\
│To Be Continued   >
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