ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-14

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城にある小さな礼拝堂、そこでは結婚式の最中だった。キュルケにタバサ、
ンドゥールが客、ウェールズが司祭の役。
だが新婦であるルイズはどこかぼんやりとしたままでワルドの言葉を聞いて
いる。ウェールズの言葉も耳に入っていない。両目は赤くはれ上がっている
のは夜通し泣き明かしたからだ。
「ねえ、ダーリン」
キュルケが小声でンドゥールに話しかけた。
「いいの? このままで」
「別にかまわん。それに、ワルドが俺が思ったとおりの人間なら、じきにこ
の場は崩壊する」
どういうことかはわからなかったが、キュルケは静かに杖に手を伸ばした。
タバサも黙ったまま同じ行動を起こす。

ルイズの目にはワルドが映っている。幼いころから憧れていた男、婚姻の約
束を交わした男、結婚しようと言ってくれた男。それは心から嬉しかった。
このおちこぼれの自分を好いてくれるのだ。でも、どうしても彼と結婚する
というのはしっくりこなかった。脳裏に思い浮かべられないのだ。自分がワ
ルドの妻となって、彼を支えるという姿を。
それに、抵抗もあった。ワルドを思い浮かべるともう一人の男が彼を跳ね除
けるようにやってくるのだ。
フーケと戦ったとき、身体を抱きしめてくれたその大きな腕に『安心』した。
言葉は恐怖をかき消してくれた。
だが、その男は自分を止めてくれなかった。好きにすればいいと。しかし、
同時にいつになっても自分を助けてくれるとも言った。恩を返すだけだと。
情けないことだが『安心』した。結婚をしてもそばにいてくれる。なんと図
々しいことなのだろうか。
自分はなんなのか。甘えているのではないか。
そう思ってしまうと、もうルイズには不可能だった。
彼女は司祭と新郎に向かって言った。
「私、この結婚、できません」
ワルドの表情が凍った。
ウェールズは目を瞬かせて、尋ねた。
「……新婦は、この結婚を望まぬと?」
「そのとおりでございます。お二方に列席していただいた三名には大変失礼
なことですが、私はこの結婚を望みません」
ありゃあとキュルケが口をこぼした。隣のンドゥールに尋ねる。
「こうなるって予想できていたの?」
「まさか。だが、たぶんここから大変なことになるぞ」

壇上ではウェールズがワルドを説得している。
「子爵、お気の毒だが花嫁が望まぬならば式を続けるわけにはいかぬ」
「……緊張しているだけなんだ。そうだろう?」
ルイズは違うといった。
「そうじゃないの。あなたとは結婚できないの」
はっきりとした決別だった。ワルドは怒りか恥辱か、わなわなと身体を震わ
せてルイズの肩を掴んだ。表情が朗らかなものからトカゲを思わせるものに
変貌した。
「世界だ! 僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」
ワルドはそれからは恐ろしい剣幕でルイズを欲した。
君が必要だ!
君の力が必要だ!
優秀なメイジへと成長する君が必要なんだ!
ルイズはそれを聞きながら身体に恐怖が走った。おかしい。これまでの紳士
ではなく、身も蓋もなく渇望するそのさまは亡者のようだった。それはただ
見ていただけのものたちにも不信感を募らせた。
「おやめなさい!」
キュルケが叫ぶ。
「あなた、黙って聞いてればさっきからずいぶんとふざけたことばかり言っ
てるじゃないの。一言もルイズを好きだなんて言ってないし、自分のことば
かり考えてる。口説き文句、少しは考えたの?」
「部外者は黙っておれ!」

キュルケの言葉をさえぎったワルドの瞳にはドス黒い光が宿っていた。彼女
はンドゥールの言葉を思い出す。確かにこの場は崩壊した。
睨みかえし、言葉を続ける。
「部外者じゃないわ。ルイズは私の級友なんだもの。これ以上侮辱するって
んなら、相手になってあげるわよ!」
そう言って杖を向けた。そばにいるタバサも杖を構えている。
ウェールズはこの一触即発の事態を取り直すため、まずワルドとルイズを引
き離そうとした。瞬間、彼は突き飛ばされた。
ウェールズの顔に赤みが差す。
「な、なんたる無礼! 子爵よ、ラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!
さもなくば我が魔法の刃が貴殿を切り裂くぞ!」
さすがに三人に囲まれて観念したのか、ワルドはルイズから身を引いた。顔
には満面の笑みがあるがそれは空虚なものだった。恐怖を駆り立てる。
「仕方あるまい。目的の一つは諦めよう」
「一つ?」
ルイズが言うとワルドは、うむ、と呟いた。
「僕はこの旅に三つの目的を持って挑んだ。一つはルイズ、君をこの手にす
ること。そして二つ目は、君のポッケに入ってあるアンリエッタ王女の手紙
だよ」
ワルドは杖を抜いた。キュルケ、タバサ、ウェールズが呪文を唱える。しか
し、一瞬遅かった。
「三つ目は――皇太子の命だ」
「レコン・キスタ――」
魔法は間に合わず、ワルドの杖はウェールズの胸に突き刺さった。

ウェールズは倒れた。
だが、ワルドは苦虫を噛み潰した表情をしていた。
「やってくれたな使い魔!」
ンドゥールはワルドの怒りを受けながら立ち上がる。彼もデルフリンガーを
抜いた。
「驚いたな。中身はただの水じゃなかったのか」
「俺のスタンドをこめておいた」
ウェールズとワルドの間、そこに水が立っていた。ンドゥールの水が彼を守
ったのだ。ワルドは顔面を歪ませてンドゥールを睨んだ。
「使い魔、君はいつから気づいていたのだ?」
「あえて言えば最初からだ。俺は悪人の中にいたのでな。そういう匂いに敏
感なのだ」
「なるほど。つまりただの勘ってことか。それにしても、僕が悪人と?」
「違う」
「じゃあなんだと?」
「小物だ」
水がワルドへ襲い掛かる。少量であるためか力はなく、ワルドの服を破る程
度である。しかし、注意を向けられれば十分、無防備な彼へ炎と二つの風が
食いかかった。
「ぬう!」
ワルドは魔法で相殺しようとするも、三重の力に対抗することはできない。
壁に叩きつけられる。もはや圧倒的劣勢、不意打ちが失敗した時点で彼は逃
げるべきだった。判断を誤った。
それでも両の眼球には強い、ギラギラした光があった。

ルイズが悲痛な声で叫ぶ。
「もうやめて。ワルド」
「やめられないさ。それに勝ち目がないわけじゃない」
ルイズの呼びかけにワルドは不適に笑い、指を鳴らした。
同時に、礼拝堂は火に包まれた。仕込みをしていたのか火の回りは速い。
瞬く間に熱と光が充満する。
「どういうことだ?」
火に囲まれたなか、いち早くンドゥールがワルドに問い詰めた。
「この火は俺の能力を殺す。知っていたのか」
ンドゥールの言うとおり、水は熱に力を奪われたのか立つ事ができなくなっ
ていた。ワルドは答えた。
「まあね。君に恨みを持つ人物から教えられているんだよ。水を使うってね。
もっとも、それだけじゃないだろう。聞こえてきたのは」
「複数のお前の声が聞こえた」
「風の遍在。そういうことか。スクウェアのクラスであってもなかなか困難
な術だというのに」
ウェールズは納得したようだがンドゥールもルイズも意味がわからなかった。
だがキュルケは、ついこの間受けた授業を思い出した。
そのとき『疾風』という二つ名を持つ教師は風が最強といっていた。
その所以とは……
礼拝堂の戸が開かれ、四重の魔法が射ち込まれた。


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