ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-22

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未だに失神しているフーケを馬車の最後尾に乗せる。勿論彼女の杖はヘシ
折ってあった。彼女の足はギアッチョが未だに凍らせてあるが、そのくるぶし
から下は見るも無残に砕けている。この有様では国中のスクウェアメイジが
集っても再生は不可能だろう。その惨状にルイズ達は少しフーケを哀れに
思ったが、彼女の所業を思い出してその感情を打ち消した。フーケは、今
キュルケが抱えているこの破壊の杖の使用法を知る為だけに自分達を
おびき寄せ、そして使い方など知らないと解るや否や皆殺しにしようとした
のである。おまけにその後も使用方法がわかるまでおびき出して皆殺しを
繰り返そうとしていたのだから、正に悪逆無道もここに極まれりといった
ところだろう。その上、本来ならギアッチョは容赦なく彼女を全身凍結し
あっさり粉砕していたはずだ。オールド・オスマンから生け捕りを指示されて
いたからこそ、フーケは今生きていられるのである。両足の粉砕だけで
済んだのは、むしろ僥倖というべきであろう。――もっとも、どう考えても
彼女に死刑以外の判決が下されることはないだろうが。

そういえば、とタバサとキュルケに続いて馬車に乗り込んだルイズは
思った。先ほどギアッチョが珍しく驚いたような感情を露にして破壊の杖を
見ていた気がする。あの驚きようからすると、ひょっとして破壊の杖は
彼の世界の武器なのだろうか。そう思いながらまだ馬車の外にいる
ギアッチョを見ると、彼はギーシュに声をかけているところだった。
「おい、ギーシュ」
後ろからギアッチョに呼ばれてギーシュは振り返った。
「なんだい・・・って 僕の名前・・・?」
感じた違和感の正体を口に出して、彼はギアッチョを見る。
「てめーもよォォ 助かったぜ ・・・そしてよくやった」
「・・・よくやった?僕が?」
面と向かって言われているにも関わらず、あのギアッチョが本当に自分に
言っているのか信じられずにギーシュはオウム返しに尋ねた。馬車の上で
それを見ていたルイズ達は、思わず身を乗り出して話を聞いている。
「てめーのおかげでシルフィードに気付き・・・そしてあそこを突破できた」
ギアッチョはそう言ってギーシュを見据える。
「てめーの「覚悟」に敬意を表するぜ ギーシュ・ド・グラモン」
ギーシュはしばし呆然としたような表情でその言葉を噛み締めていたが、
やがてスッと姿勢を正すときびすを返して馬車に乗り込むギアッチョの
背中に向けて言葉を返した。
「ギアッチョ・・・君のおかげで僕は今ここにいる 君の全ての行動、
全ての言葉に僕は心から感謝を捧げよう!」
ギアッチョは何も答えなかったが、それでよかった。ギーシュは心の中で
彼にただ敬礼していた。

今度はちゃんと自分の横に座るギアッチョに気付いて、思わず顔が緩み
かけたルイズは慌てて下を向いた。が、ルイズはそれと同時にしなければ
ならないことも思い出していた。
ちらりと前に眼を遣る。ルイズの対面に座ったのはギーシュだった。
ルイズは口を開くが、言葉が出てこない。自分の為に命を賭けてくれた
彼らに謝らなければいけない、そして礼を言わなければならないのに。
自分のこんな性格を、彼らは理解しているだろう。だけどそれは逃避の
理由にはならないはずだ。拳を血が出そうなほど握り締めて、ルイズが
口を開こうと――
「礼ならいらないよ」
その言葉に、ルイズは顔を上げてギーシュを見る。
「この世のあらゆる女性を守ることが僕の使命なのさ 僕はその使命を
果たしただけ 礼も謝罪もいらないのだよ」
その相変わらずキザったらしいセリフを受けて、デルフリンガーが言葉を
継いだ。
「俺もいらねーぜ そこの坊ちゃんじゃねーが俺も同じよ 誓いを果たした
だけなのさ」
ギアッチョはギーシュとデルフリンガーを交互に見ると、やれやれと言った
顔で最後を締める。
「使い魔の仕事は主人の剣となり盾となることらしいからな・・・オレは
職務を忠実に遂行しただけってわけだ」
その言葉にギーシュがニヤッと笑い、喋る魔剣は陽気に笑った。ギアッチョは
そのままルイズへ首を向けて言う。
「そういうわけだ・・・ おめーは黙ってその情けない顔を何とかしな」
そう言われて、ルイズは自分がまた泣き出しそうな顔をしていたことに気付き、
「・・・・・・うん・・・」
彼らへの無数の感謝を心に仕舞い、ルイズはまた顔を下げた。

キュルケはそんな彼らを少し羨ましげに見つめていたが、ふとあることに
思い当たって声を上げた。
「・・・そういえば、皆乗ってるけど誰が運転するのかしら?」
その声に皆が顔を見合わせる。一般的に、御者というのは平民の仕事である。
馬を駆ることはあっても、馬車の運転となればそれはまた違った技術が
必要になるのだった。馬に乗ったことすら数えるほどしかないギアッチョなどは
更に論外である。馬車を捨ててシルフィードに乗るしかないだろうか、と皆が
思案していた時、
「ならばその役目、僕が引き受けようじゃないか」
ギーシュが御者に名乗りを上げた。
「なぁに、こう見えても僕はグラモン家の男、馬車の御し方ぐらい多少の心得が
あるのさ」
出来るんだろうなという皆の視線に余裕の表情で答えると、ギーシュは手綱を
握った。

そういうわけで今、一行を乗せた馬車は一路トリステイン魔法学院へと
向かっている。なるほど、ギーシュは確かに馬の御し方に「多少の」心得が
あるようだった。あっちへふらふらこっちへふらふら、そのうち路傍の木に
ぶつかるのではないかというぐらいテクニカルな運転をしてくれる。
一度などは横転しそうなほどに車体が傾き、「いい加減にしろマンモーニッ!」
とギアッチョに怒鳴られていた。呼び名が戻ってすこぶる落ち込んでいる
様子のギーシュに哀れむような視線を送ってから、キュルケは聞きたかった
ことを尋ねることにした。
「・・・ねぇギアッチョ あなたって一体何者なの?」
「ああ?」
「あなたがただの平民じゃないなんてことは誰が見ても解るわ あなたの魔法は
どう見ても私達のそれとは違うし・・・あなたはたまにまるで貴族なんてものが
いない場所から来たかのような振る舞いをするもの 一体あなたは何者?そして
一体どこからやって来たの?」
キュルケはギアッチョを見つめる。ギーシュは聞き耳を立て、タバサも本を
閉じて彼を注視していた。
「生徒達の間で あなたがなんて呼ばれてるか知ってる?」
「・・・しらねーな」
ギアッチョの両目を覗き込んだまま、キュルケは続けた。
「『魔人』だそうよ」
「なるほどな」とギアッチョは薄く笑う。
「得体の知れない魔法を使う異端者は、貴族でも平民でもないってわけか」
ルイズは周りを見渡す。キュルケ達の眼は、依然一瞬たりとも外れること
なくギアッチョに注がれていた。ルイズは最後に隣のギアッチョに顔を向け、
彼が深く黙考していることに気付いた。

ギーシュと決闘をした時、ギアッチョはキュルケに確かにこう言った。「オレが
何者なのか話してやってもいい」と。しかしそれはあくまでさっさと方法を
見つけてイタリアに帰るつもりだったからである。リゾットがどうなったか・・・
恐らく既に決着がついている今、そしてギアッチョ自身の心が変化を始め、
彼とその周囲との関係が変わって来た今、簡単に自分の正体をバラしても
いいものだろうか、と彼は考えている。ルイズは彼に、不穏分子は粛清される
可能性があると言った。キュルケ、タバサ、そしてギーシュ・・・ギアッチョは
彼らと幾度か行動を重ねて理解していた。こいつらはきっと、いつでもルイズの
味方になってくれるだろうと。しかし情報というものはどこから漏れるか解らない。
万一自分の身に何か起これば、自分に依存してしまっているルイズはきっと打ち
のめされるだろう。そこまで考えて、ギアッチョは知らず知らずのうちにルイズの
心配をしていた自分に気付いた。バカかオレは、と彼は心中で毒づいたが――
「・・・今度 話してやる」
結局どうしていいものか判断のつかないまま、彼は答えを先延ばしにした。

キュルケ達は、しかしそれでも満足していた。「今度」話してくれるというのだ。
「今度」、たった二文字の言葉だが・・・そこには様々な意味が込められて
いる。今は話せないが、自分達はそれを話すに足る人物だと。いずれ話せる
時が来るまで待っていろと。彼女達は、それで満足だった。


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