ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

哀別! 多分これでさよなら

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匿名ユーザー

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哀別! 多分これでさよなら

タバサに異常の見られたヨシェナヴェの昼食を終えたルイズ一行。
いよいよタルブの村と、シエスタとの別れの時がやってきた。
シエスタの実家の前で、総出の見送りをされる。
だが一人一人に別れを告げる役目はシエスタだ。
「ヨシェナヴェおいしかったわよ。休暇が終わったらまた作ってちょうだいね」
「はい。ミス・ツェルプストー。お気をつけて」
すっかりシエスタの料理が気に入ったキュルケがシルフィードに乗る。
「待ってる」
「は、はい。ありがとうございます、ミス・タバサ」
はしばみ草に関してシエスタに対し奇妙な友情を抱いたらしいタバサもシルフィードに乗る。
「ここはいい村だね。困った事があったら僕に任せたまえ。
 何せ薔薇は女の子のために咲くのだからね! では休暇の終わりを待っているよ」
「ありがとうございますギーシュ様。
 何だか不思議です、ギーシュ様とこんな風にお話できるだなんて」
「はっはっはっ! 僕もそう思うよ! 平民や貴族関係なく、君はもう僕の友人だからね」
こうしてギーシュもシルフィードに乗る。
「……じゃあね」
「はい。ミス・ヴァリエール、ジョータローさんをよろしくお願いいたします」
「私の使い魔だもの。ちゃんと面倒見るわよ」
ルイズもシルフィードに乗る。シエスタと同じさみしさを抱いて。
そして、最後に。
「色々と世話になったな……」
「いえ、私が好きでしていただけですから」
涙が出そうになるのをシエスタはグッとこらえた。
一緒に行く事も、待つ事もできない。だから、これで。
「多分これでさよならだ。ここに来てからの出来事は忘れない……元気でな……」
「さようなら、ジョータローさん……」
承太郎がシルフィードに乗り、シルフィードは空高く羽ばたいた。

タルブの村は見る見る小さくなっていく。
恐らくもう二度と来る事はないだろう。シエスタとも学院で会えるのだから。
小さく遠く離れていくタルブの村を名残惜しそうに眺める承太郎に、ギーシュが能天気に声をかけた。
「どうしたんだいジョータロー? 今生の別れって訳じゃないんだから。
 君が無事故郷に帰る事ができたら、同じ方法でまたこっちに来ればいいじゃないか」
「……そうだな…………」
察しの悪いギーシュではあったが、唯一明るく振舞う彼のおかげで、幾分か場の空気が和んだようにルイズには思えた。
そう、同じ方法でまたこっちに――。
それが可能ならば、どんなに素敵だろう。
シエスタの祖父だって、召喚された訳でもないのにハルケギニアに来れたのだ。
承太郎が自由にふたつの世界を行き来できるようになっても不思議はない。
でも――多分そうなる可能性は低いと、ルイズは心の奥底で感じていた。
きっとジョータローは元の世界に帰ってしまう。
シエスタはジョータローが好きだからさみしがっている。
なら、自分は?
ご主人様だから、使い魔だから、そういった理由だと思う。
けれどそれだけではない、とも思う。
ルイズは自分の気持ちを整理できないまま、トリステイン魔法学院に到着した。

承太郎はさっそく竜の羽衣を飛ばすため、コルベールに会いに行った。
竜の羽衣の中に微量ながら残っていたガソリンをサンプルに、まったく同じ物を錬金するよう頼まれ闘志を燃やしている。
承太郎も積極的に自分が知る限りの飛行機やガソリンについての知識を語り、さらにガンダールヴの力でゼロ戦から得た情報も加えた。
こうして承太郎とコルベールは研究室にこもりっぱなしとなった。
二人は急いでいた。
なぜならば日食が来るのはほんの数日後だったから。
使用可能なガソリンが錬金できても、竜の羽衣を飛ばすには樽で五本分は必要だ。
しかしのガソリンの錬金に成功した事で、後はコルベール任せですむようになり、竜の羽衣のチェックも終えた承太郎はようやく一休みできるようになった。

日食の日は、もう翌日にまで迫っていた。

食事をギーシュに用意させた承太郎は、久々に外で身体を伸ばしたりとくつろぐ。
ギーシュやキュルケも会いに来たが、承太郎が故郷に帰っても、またトリステインまで遊びに来てくれるものと思い込んでいた。
シエスタ相手とは事情が違うため、承太郎はあえてそれを否定しなかった。
事実、万が一元の世界とハルケギニアを行き来できるようになれたら、またこっちに顔出しするのも悪くないと考えている。
こうして承太郎は平和な一日を送ったが、気にかかる事がひとつあった。
ルイズがどこにも見当たらない。授業にも出ていないらしい。
いつしか承太郎はルイズを探していたが、
ルイズを見つけたのは夕食後に寮の部屋に戻ってからだった。

ルイズは今日一日、詔を考えるため図書館に閉じこもっていたらしい。
自分を避けていたのだろうと承太郎は察したが、その事について言及はしなかった。


日が沈んで空に双月が輝く時間。
ルイズはベッドに潜り込み、承太郎はソファーに寝そべっていた。
お互い、色々と思う事がある。
あの日、ルイズに召喚されて、承太郎を召喚して、もうどれだけ経っただろう。
最初は反発し合っていたのに、少しずつ距離が近づいていったと二人は思う。
自分達の関係は何なのだろう。
ご主人様と使い魔というのが正解かもしれないが、承太郎は認めていない。
友達とも違うような気がする。……仲間? しっくりこない。
承太郎もルイズも、自分達の関係をどう言い表せばいいのかよく解らなかった。
そんな風に二人は考え事ばかりしていたが、
先にこのままじゃいけないと思ったのはルイズだった。
「ね、ねえ、ジョータロー……」
「……何だ?」
何だ、と言われても、何となく声をかけてみただけです。とは言えない。どうしよう。
「か、帰ったら、どうするの? 何をしたい?」
布団の中から顔を出して、ソファーにいる承太郎を見るルイズ。
彼は帽子を深くかぶって目を隠し、表情を少しも読ませてくれない。
「そうだな……まず、飯を食って、風呂に入って、一眠りだな」
「そ、そう。……他に、やりたい事とかあるの?」
「……真面目にガッコーに行くつもりだ。ただでさえ出席日数がヤバいからな」
「学校? あんた、学校に通ってるの?」
「俺の国じゃみんな学校に通わせられるぜ。義務教育ってのがあるからな」
「平民も?」
「身分で通えないなんて事はない。金持ちな奴が通うお坊ちゃま学校とかはあるがな」
「そ、そうなんだ。誰でも学校に通えるなんて、すごい。
 でも魔法は無いんでしょう? 何の勉強してるの?」
「……色々だな。国語、数学、理化、社会、英語あたりが基本だ。
 メイジの系統のように、それぞれ専門分野に進む事も可能だ」
「ジョータローは何か勉強したい事あるの?」
「ん……まあな」
少し口ごもるのを見て、ルイズは好奇心を刺激された。
承太郎が勉強したい事って、何だろう。
「ねえ、詳しく話してよ。何を勉強したいの?」
「……海洋生物……だな」
「海の生き物? 何で?」
「……俺は母親を救うため『敵』を倒す旅に出た事がある。
 最初は空路で向かったが、敵の妨害で一般人を巻き込んじまった。
 仕方なく今度は海路を選んだんだが、船を沈められちまってな。
 結局旅のほとんどは陸路だった。砂漠を越えた事もあったな……」
「へえ……意外。学生なのに、そんな色々な冒険してただなんて」
「……つらい事がたくさんあったが、楽しい旅だった。
 仲間がいたから楽しかったと……今は思う」
「会いたい? その仲間に」
「……もう会えねー奴が多い」
「どうして? 帰れたら、会えるじゃない」
「死んだんだ。生き残ったのは俺の祖父と、もう一人だけでな」
「ご……ごめん」
マズイ事を訊いてしまったとルイズは慌てた。
そして、ウェールズ皇太子を思い出す。
自分が経験した『人死に』は彼だけだ。
二日程度しか顔を合わせていないが、アルビオンから脱出して目を覚ました時、もうウェールズ皇太子は戦死しているだろうと思うと悲しかった。
でも承太郎は、長い旅を共にした仲間を喪ったらしい。
その悲しさを、理解して上げる事ができない自分が悔しかった。
何がご主人様だ、何が使い魔だ。ルイズは自分の無神経さが嫌になった。
「まあ……そんなこんなで陸の旅ばかりをしてきた訳だが」
場の雰囲気が悪くなったのを感じた承太郎は、話題を元に戻す。
「俺はまた、あんな旅をしたいと思った。楽しかったからな。
 だから、陸の次は海が面白そうだと、今は思っている」
「海……」
「船旅をしたのは短かったからな。海と空の青さに挟まれるってのは悪くねーぜ。
 海を生業とする仕事はいくつもあるが、その中で面白そうだと思ったのが海洋冒険家だ。
 学校の図書室で偶然海洋冒険家の書いた本を見つけてな……」
「そっか。ジョータローは将来の夢があるんだ」
「おめーはどうなんだ? ルイズ」
「え、何が?」
「将来……どうなりたいと思っている?」
「……貴族として、メイジとして、自分を誇れるようになりたい。 でも私はゼロのルイズ……。……ん……だから……」
「貴族とは敵に背を見せない者の事だろう?
 ならルイズ、おめーはこの学院の中でも優れた貴族だ」
「……そう、かな」
普段なら当然といわんばかりに威張るだろうルイズだが、今日は弱気だ。
やはり承太郎が帰ってしまうというのがこたえているのだろう。
なら、帰る前に元気づけてやりたいと承太郎は思う。
「ルイズ……俺はもう、おめーがゼロだなんて思っちゃいねー」
「どうして?」
「なぜならお前はこの学院でもっとも強力な魔法を使ったからだ」
「……?」
強力な魔法? 何の事だろうか、まったく記憶に無い。
だいたい魔法が成功したのなら、それは絶対必ず鮮明に覚えてないとおかしい。
「お前は……サモン・サーヴァントで、俺を召喚したんだからな」
「あっ」
確かに、相手が異世界の人間という特殊なものではあったが、成功した。
そして承太郎が言う通り、もっとも強力な魔法に違いない。
なぜならば召喚された承太郎は誰よりもクールでタフな使い魔だったから。
フーケのゴーレムを倒し、スクウェアクラスのワルドさえ退けた。
まさに最強の使い魔と言えるだろう。

「解るかルイズ、お前は俺を召喚したんだ。この空条承太郎をな。
 偉ぶる訳じゃねーが、俺は恐らく最強のスタンド使いだった男を倒した。
 それが俺の誇りであり自信でもある。
 そんな俺を召喚できたお前が、ただのメイジであるはずがねー。
 知っているか? 俺の左手に刻まれたのはガンダールヴのルーン。
 あらゆる武器を使いこなす神の左手の証だ。
 そしてガンダールヴとは伝説の虚無の使い魔。
 ……もしかしたらお前は、まだ目覚めていないだけの、
 虚無のメイジなのかもしれねーな……」
承太郎を召喚したのだから自信を持て、というのはルイズにもよく解った。
だが、虚無の話は正直眉唾だ。
「私が虚無? コモンマジックさえ使えない私が、伝説の?
 そんな訳あるはずないじゃない。もうっ、馬鹿馬鹿しい……」
「あくまで可能性の話だ。だが俺は、いつかお前が……」
「ワルドも、私に才能があるって言ってたけど、きっと、無いわ。私はゼロだから」
「……いつかお前が、自分を誇れるようなメイジになれると思っている」
否定しても、承太郎は否定を否定する。
彼に言われると、本当にそうなんじゃあないかと思えてしまう自分がおかしかった。

伝説の虚無の系統? 馬鹿馬鹿しいと、気持ちよく笑う事ができる。
でも、うん、そうね、悪くない。
もしそうだったら、自分はすごく幸福だろう。胸を張って生きていけるだろう。
儚い夢だけど、もう少し、その夢を見ていたい。
伝説の虚無のメイジの自分と、伝説の虚無の使い魔のジョータロー。
それはとても素敵な光景に思えた。

儚い夢は、ルイズが眠りにつく事で終わりを迎える。
ルイズの規則正しい寝息が聞こえてくると、承太郎も静かに眠りに落ちた。
明日――明日、日食が起こる。多分これでさよならになる。

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