ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-6

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匿名ユーザー

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 異世界よりの来訪者。ロマンを掻き立てずにはいられないフレーズだ。
 ただし「相手にもよる」という注釈つきで。
「そう。あなたは異世界からやってきたのね」
「驚かないんですか」
 驚きゃしません。あんたにそんなこと言われて驚く人は、一人だっていませんよ阿呆のグラモン。
「どうせ理解できないだろうけど、一応教えといてあげる」
「はい」
「あんた誰彼構わずその話してるでしょ。昔ならともかくね、今になって真に受ける人間は学院中探したっていやしないの」
「……」
 スッと表情が消え失せた。何も見ていない顔でわたしを見ている。お、怒ったのかな。
 何よ。ちょっとばかり気圧されるけど、ここで退くつもりはないんだからね。
「この期に及んで法螺話でお茶を濁そうとするっていうの? わたしがそれを許すと思う?」
「……」
 キーシュは机に立てかけてあった杖を手に取った。
 手の動きには一掬いの淀みもなく、右手を除き眉の一本さえ動かさず、その挙動からは感情の一端すら読み取ることができない。
 背中の産毛が逆立った。
「あんた、何をする気?」
 とっさにわたしも杖を抱き寄せた。
 何考えてるのこの男。どう考えてもわたしが被害者なのに。あんたは切れていい立場じゃないでしょ。
 まさかここでドンパチやらかそうってわけじゃないわよね? ね?
「……」
 杖を自身の口元へと近づけていく。
 口? 口に近づけて何する気なのよ。ああやだ。こんなやつに絡むんじゃなかった。
 わたしは杖を握る手に力を入れた。どうしよう。先制攻撃するわけにはいかないよね。でもこのまま待ってたらなんかとんでもないことになりそうな。うう。
 呼気が樫の肌を湿らせる直前まで近づけ、キーシュはそこで杖を止めた。

 この男がつかめない。何をしようとしているのか、何を考えているのか。
 脅しているの? ゼロのルイズだからと足元を見られている?
 怒りよりも先に他の感情が湧き上がった。認めなたくないけど、やっぱり怖いものは怖い。つばを飲み込む音が、骨を通して体の端々にまで響く。
 わたしの見ている前で、形の良い唇が緩み、軽く開き、キーシュはのどを震わせ、
「ええ、こちらは問題ありません。『特異点』は確保済み、『アカシックレコード』は依然均衡を保持」
「は?」
「この世界が内包する『宇宙エネルギー』は緩やかな進化の螺旋を下りつつあります。全ては『大宇宙の始まり』が定めたままに」
「……キーシュ?」
「なんですって? 『惑星開発機構』が動いた?」
「あのね」
「それではこちらもAクラスの能力者……『エージェント』を用意しなければ」
「いい加減にしなさいよ」
「なんということだ。これが『世界』の選択だというのか……」
「いい加減にしろって言ってんの! 杖とお話するのはやめなさいっ!」
 キーシュ。名門グラモン家の五男で末っ子。
 庶子とのことで、たしかにギーシュとは似ていない。きっと他の兄とも似てないんだろう。
 整った顔立ち、浮世離れした雰囲気、尖った耳、これらの特徴は彼の母親がエルフであるという噂の裏づけとなり、社交界でまことしやかに囁かれるグラモン元帥の荒淫ぶりも証明していた。
 その複雑な生い立ちを聞き、彼に同情を示した者は少なくなかったが、今となっては彼に同情する者などいようはずもない。
 そりゃねえ。こんなやつなら同情する気も無くなろうってものよね。

 キーシュを知る人間は、例外なく彼のことを変人と形容する。わたしは心の中で阿呆と呼ぶ。
 この阿呆メイジは、誰彼構わず異世界からの来訪者だと騙ってまわる。
 それを聞かされた九割九分の人間はこいつとの付き合いを断念し、残り一分の人間が真っ正直に信じちゃったせいで一時期問題になっていらしい。噂で聞いただけだけど。
 ここで退学処分にでもなれば良かったのに、結局キーシュは学校に居残った。
 これは父親の威光云々関係無しに、魔法の才能が惜しまれたんだと思う。悔しいけど。
 キーシュはとても極端な魔法の才能を持っていた。ごく初歩の魔法が使えなかったと思えば、スクウェアでもできないようなことを簡単にしてのける。
 最高クラスに純度の高い金を練成した。拳大の金剛石を練成した。それどころか世界に存在しないはずの物質を練成した。
 こいつに関して伝わってくる話は噂話の域を出ないものばかりではあったものの、先生の態度なんかを見ればどの程度の真実味があったのかは大体分かる。
 建設的なわたしは、思うだけで腹の立つこの阿呆のことをなるだけ考えないようにして、そうしているうちに名前まで忘れて今に至っていた。
「わたしは怒っているの。分かる? 怒っているのよ」
「モチロンワカッテイマスヨ」
「片言で話すなっ、わたしの目をみろっ、誤魔化そうとしないでっ!」
 名門の出、ドラマチックな出自、悪くないご面相、偏りがあるとはいえ天才的な魔法の腕。
 これだけのものが揃っていれば、薔薇色の学院生活を送ることができたはずよね。
 でもキーシュは法螺をふき続けて楽しい生活を捨てた。意味が分からないとかそういう問題じゃない。
 今ではまともに会話をしようという生徒なんて兄のギーシュくらいしかいない。
 「得意の法螺で貴族どもを慌てふためかせる」という不埒な理由から、使用人たちとは親しいらしいけど。
 平民貴族関係なく友達がいないわたしに比べればまだまだってとこね。

 ……あれ。なんでだろう、目から心の汗が……。


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