ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ストレイツォ-1

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「若返った事は我にとって至上の幸福だったぞ、JOJO!」
その一言を最後に、男は波紋の呼吸をしながら河へと落ちていった。
体は焼けいくつもの破片となり水面下へ沈んだ。
しかし男にはまだ意識があった。

男の強力な波紋は皮肉にも波紋の源たる肺を真っ先に焼き尽くし
死に至るまでの波紋を練り続けることができなかったのだ。
とはいえ相当の量の波紋がすでに流れている。
頭部と胸部の一部しかない今、このまま流れに身を任せていれば
いずれ意識が途切れるだろう。

男は流されながら夜空を見ていた。
チベットと違い、この都市ではろくに星を見ることもできない。
地上の明かりが強すぎるのだ。
月といくつかの一等星だけが夜空にあり、地上に光を投げかけていた。
(我が師、トンペティ 兄弟子ダイアー リサ…リ)

その時男の流れてゆく先に、水面に映った月とは違う輝きが現れていた。
しかし意識の混濁しだした男は気付かない。
気付いた所で避けようもなかっただろうが。
男は流されるまま静かにその輝きに飲み込まれていった。
その輝きは体を全て飲み込み終わると唐突に消えた。

こうしてニューヨーク爆弾魔騒動は終わりを告げる。
機関銃と手榴弾を持ち突如店を襲撃した男はぷっつりと消息を絶った。
その後の被害者の証言から、男の名はストレイツォ、チベットから来た
宗教関係者であることが判明する。
「あぁもう酷かったぜ。突然店に向かってトンプソン機関銃を乱射してきやがってよ!
さらには手榴弾まで。俺が波も… いやゲフ、カラーテ使いでなかったら死者が出ていたぜ」
「あの爆弾魔、捕まえようとした俺の顔を散々蹴った後橋の方へ逃げやがった。
確かに黒髪だったが東洋人なのか?あいつは。西洋人ぽい顔立ちだったような気がしたが
それに髪は短髪だった」
(後に男はこの証言を撤回する。代理人としてSPW財団顧問弁護士が書類を作成)

犯人が外国人であること、被害が物損のみであること
上層部の謎の圧力などもありこの事件は迷宮入りした。
担当の警官は肩をすくめてこういった。
「ニューヨークじゃ日常茶飯事だぜ」

使い魔召還の儀式はフィナーレを迎えようとしていた。
無惨な失敗という形で。
何十回という爆発ででこぼこになった地面と、それにより巻き上げられた砂煙で
薄汚れた少女は、悔しさの余り食いしばった口をもう一度開き唱え馴れた呪文を詠唱する。
爆発にさらに+1回。
(どうして!ゼロの私には使い魔すら勿体ないというの、始祖ブリミルよ!)
同級の者で召還を終えていない者はいない。
つまり自分が最後。
召還に成功した者たちは自分の使い魔と一緒に爆発の被害が及ばない場所に待機している。
最初はこの少女(ルイズという)の失敗を笑ったり囃したりしていたクラスメイト達も
あまりに回数が多い爆発ショーに飽きたのか自分の使い魔とのコミュニケーションに忙しい。
ただ一人火のついたトカゲのそばにいる赤毛に褐色の肌を持つ美少女だけが
ルイズの召還、ていうか爆発をじっと見守っていた。

頭髪の不自由な教師が見かねてルイズに声をかけた。
「どうしますミス・ヴァリエール。まだ時間はありますが日を改めて挑戦することも可能ですよ」
生徒にかけた優しい声とは裏腹にその教師、コルベールは腹の中では憂鬱な考えを持たざるを得なかった。
使い魔召還は神聖な儀式。さらには進級の実力考査も兼ねている。
ミス・ヴァリエールは不真面目どころか努力を怠ることがなく覚えも良い。
血筋にも文句はなく教師として教えがいのある子だ。
ただ一つ魔法を使えないという欠点以外は。
そしてその欠点は魚が泳げないというほど致命的だった。
他の全ての美徳努力もこの欠点の前には霞んでしまう。
(恐らく…ミス・ヴァリエールに会うのも後数回でしょう)
この儀式に失敗すれば進級はできない。そして留年はない。
ルイズに待ち受ける運命は退学しかない。
召還ができず学園を退学。
貴族でありながら魔法を使えないルイズがその後どのような人生をたどるかは…考えたくもない。

「いえ、まだできます、やらせてください。ミスタ・コルベール」
ルイズはふらつく体を意志の力で押さえまっすぐコルベールを見返しながら言った。
とはいえその意志も萎えてきそうな所を必死に押さえなければならなかったが。
日を改めた所で成功する保証などない。
今日のチャンスを自分から捨てるなんてしない。
少しでも回数をこなすためにも時間いっぱいまで粘ってやるつもりだった。
「そうですか。わかりましたミス・ヴァリエール」
コルベールにもルイズの熱意は伝わる。
彼とてむざむざ優秀な生徒を失うのは辛かった。
(満足のいくまでつきあいましょうミス・ヴァリエール。それが教師としての役目です)
そうだ、まだ失敗と決まったわけではない。
何千回失敗しようがただ一回成功すればいいのだ。

「あ~らまだやってたのルイズ」
先ほどから唯一人召還を見守っていた褐色の美少女が近づいて声をかけた。
「ずいぶん派手に爆発させてるようだけど、もう諦めたら?」
その少女キュルケはルイズのいわばライバルのような存在だ。
本人達は否定するだろうがコルベールの目から見れば仲の良いじゃれ合いを良くしている。
「誰がっ。私が諦める時は心臓が止まる時よ」
「そうよねー、ここで諦めたらあなた使い魔なし。ゼロの名前に磨きがかかっちゃうわ」
「私をその名前で呼ばないでって言ってるでしょう!」
「あらごめん遊ばせ。でも使い魔も召還できないようじゃあお似合いじゃありませんこと?」
「今までのは前振りよ!あなたがびっくりして腰を抜かして泣きながら謝ってくるようなのを
召還してやるんだから!」
「そ。楽しみね。せいぜい私を泣かせてちょうだいな」
軽く憎まれ口を叩いてキュルケはルイズから離れコルベールの隣に並んだ。
コルベールが小声でキュルケにささやく。
(ミス・ツェルプストー。ミス・ヴァリエールもよい友を持ちました。彼女に変わり感謝を)
(よしてくださいな、ミスタ・コルベール。彼女をちょっとからかっただけです)
そういいつつもキュルケの頬はほんのり紅潮していた。
もっとも褐色の肌を持つ彼女の変化は傍目にはよく分からないが。

そんなことお構いなしにルイズは召還を再開していた。
心の中で(キュルケのやつキュルケのやつ、自分がちょっと魔法が使えて美人でスタイルが良くて
血筋も良くて使い魔もサラマンダーでトライアングルなくらいで調子に乗って。アレ完璧超人?)
等と考えつつ先ほどの萎えてきそうな心は回復していた。
本人はそれに気付いていなかったが。

そしてコルベールとキュルケが見守る中、何十回目かの召還は行われた。
いつもより遙かに大きい爆発に軽くよろめきながらルイズは何かの手応えを感じていた。
「げほっごほっ でも今のはこれまでのと違ったわっ!威力とか!」
実際生涯爆発回数、この年にして数万というルイズでも今の爆発には目を見張る物があった。
ちなみに爆発に不慣れなキュルケは尻餅をついている。
コルベールはさすがに年の功か腰を落とし片手で爆風から目をかばいながら
爆発の中心を凝視していた。
「…これは、成功か」
いち早く立ち直ったコルベールがルイズに近づき声をかける。
その声につられルイズも爆発の中心を見た。
輝きの中心から滝の用に水が落ちてきている。
ということは自分の使い魔は水にゆかりの生物?
しかし舞い上がる粉塵のせいでよく見えない。
コルベールとルイズは水の止まった輝きに近づいた。

「「うっ?!」」
そして二人同時に見つけてしまった。
びしょぬれで頭部と胸部しかない、どうみても全裸の死体を。

「どうしたのよ、何を召還したの…うっ?!」
爆発から立ち直ったキュルケもそれを見てしまったようだ。
「こ、これはどう見ても。まさかさっきの爆発で?」
「いえ、ミス・ツェルプストー。手順的にそれはあり得ません。召還した後に爆発は起きません。
爆発が起きてその、コレが召還されたと見るのが正解でしょう」
「でもなんだかびしょぬれなのにシューシュー胸から煙出てますわよ、コレ」
「うむ、召還時に水も出て来たことから、何か火の魔法を受け、
それを消すために水に逃れた直後の人間を召還したという可能性がありますね」
その会話の最中も煙は治まる気配がない。
向こうは夜だったがこちらは昼。
午後の太陽は柔らかな日差しをまんべんなく大地に降り注いでいる。
ストレイツォがそのままチリに還るのも時間の問題だった。

彼にとって幸運だったのはルイズがショックで彼の頭に影を落としたまま呆然と立ちつくした事。
もう一つは観察力のあるコルベールの存在。
「とにかく死体ではしようがありません。ミス・ヴァリエールとりあえず私がコレの始末を
してきますので木陰で休んでいてください。ミス・ツェルプストーは他の生徒にしばらく待つよう
伝えてください」
何しろ大きな爆発だったのでルイズの召還を無視していた他の生徒達もこちらに集まってきている。
彼らにも見せることはあるまいとコルベールは壁になるように位置を変えた。
その瞬間。
(何だ?煙が止まった?)
今まで盛んに出ていた煙がやんだのだ。

(火が完全に消えたと言うことか?いや違うおかしいぞ。そもそも死体は服を着ていない。
火の魔法で服が燃えたにしては肌に火傷も無い。どこも燃えた後が無い。びしょぬれだ。
さらに肉が燃えていれば匂いがあるはずだ。昔嗅ぎ馴れた匂い。いや思い出すな、
今は目の前のコレだ。とすればあの煙は一体?)
周りを見てみると死体から剥がれた肉片がまだ煙を出しているのが見えた。
(アレはまだ煙が出ている。近くに行って様子を見てみるか)
そしてコルベールが肉片に向かって動いた瞬間、また死体から煙が上がった。
(何っ!またこちらから出ただと)
慌てて死体に向き直る。死体の煙は止まった。
(思い出せコルベール、この死体の煙は最初どこから出ていた?)
少し前のキュルケとの会話を思い出す。
シューシュー胸から煙が。
(あの時頭から煙は出ていなかった。それは何故だ?頭の方にはミス・ヴァリエールが立っていた。
ミス・ヴァリエールの影が落ちて暗くなっていた。明るい部分の胸がよく見えた。影?!まさか)
コルベールはゆっくりと動いて胸の一部分を影から出してみた。
煙はまた上がった。
慌ててまた死体を自分の影に入れる。
(この死体はどうやら日光に弱い。これはほぼ確実だ。ということは人間に見えてはいるが
これは亜人の一種である可能性が高いな。そして日光にこれほど反応するということは)
そこまで考えたコルベールは死体から離れた肉片が小さく動いているのを見つけた。
日光から遮られたことで多少元気を取り戻したらしい。
(馬鹿な。まだ生きているのか?!)
どのような亜人であれ頭部と胸部、右腕の一部だけになってもまだ生きているなど考えられない。
ましてやこんな小さな肉片が。
その肉片は徐々に大きく動きながらやがて触手のように自らを伸ばし、死体と同化した。
コルベールは見た。
穴の空いた胸から剥き出しになっていた心臓が小さく動くのを。
「回復の魔法が使える者はすぐに来てください!」
コルベールの叫びが午後の演習場にこだました。


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