ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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匿名ユーザー

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「ほら! なにしてるのよあんたたち! はやく来なさいよ!」
晴れやかな午後の陽気の中。
ルイズをはじめ、二年生の同級生全員が、庭に集まり、思い思いにテーブルを囲んで、紅茶とケーキを愉しみながら談笑していた。
ルイズの話では、今日は午前中だけの授業なのだという。
しかし午後は全くの自由――というわけではなく、この昼下がりを茶会として過ごし、魔法使い――メイジ達と、その使い魔達のお互いの親睦を深める時間にあてているのだと。
つまり。
「……呼び出した連中を見世物にしようって魂胆なんじゃねーのか、コレ」
「……ああ。特に俺たちが一番注目されてるし」
茶会の入り口で、入りたくねー。という雰囲気を露にしている二人がいた。
シエスタからお礼兼昼食をご馳走になったあと。
主人の元になんとか昼休みまで戻ってきた二人だったが。
「遅いわ! 一体どこほっつき歩ってんのよ! 遅刻なんかしてらんないんだから! ほらさっさとついてくる!」
のっけからこの対応……。まったくカルシウムが足りてねーよなァ桃髪チビは。だから背も伸びねーし出るとこだって出ねーんだよォ。少しは牛乳飲め牛乳。
……と思ったジャイロに。
「ふんっ!!」
 ゴッ! と鈍い音。
それはもう、見事なほど完璧なシャイニングウィザードを、ルイズは撃ち込む。
「げほォッ!! ……な、なんも言ってねーぞチビ」
倒れたジャイロの頭を踏みつけ、「いま言ったじゃない」と言った。
彼女の目は明日の朝にはお肉屋さんに並ぶ運命の豚を見るのと同じ眼差しであった。
これが女の勘というやつなのか。……くわばらくわばら、気をつけよ。
そう、今日もルイズの癇癪の犠牲になるジャイロに黙祷を捧げる才人だった。AMEN。

茶会の様子は、まあ普通の親睦会とさほど変わりなかった。
違うところがあるとすれば、才人にしてみれば見慣れぬ生物がふよふよ浮かんでいたり、特技とばかりに氷を吐いたり砂になったりしている使い魔達がいるというくらいで。
でも、こうやって目の当たりにすると。
「ホントに……、おとぎの国だよなぁ……」
どこかの国に迷い込んだ女の子の童話と境遇が重なる自分に、可笑しさを憶える。
「ほらサイト。こっちにいらっしゃい」
ルイズが才人を呼ぶ。その方向には、ケーキを口に入れ、紅茶を静かに含むルイズがいた。
まったく貴族様は、いいご身分で。そう心に思いながら、へいへい。と才人が近づく。
そしてテーブルまであと二、三歩というところで。
「そこで止まりなさい」
「え? なんか用があるんじゃないのか?」
そこにいないとできないでしょ。と言いながら、ルイズは自分のケーキをフォークで一切れ、切り分ける。
もしかして食わせてくれるのか、と期待した才人だったが。
「いい? 私がいまこのケーキのかけらを空中に放り投げるから、手を使わずに口でキャッチしなさい。いいわね」
……ちょっと、待て。確かに、食べさせてくれるのはいいのだが。
「ま、まてまて! 急に言われてハイヤリマスって言えるもんか! できるかそんなの! 無理!」
「はあ? なに言ってんのよ。特技の一つも見せるのが使い魔でしょ! いいからさっさと準備なさい!」
「俺がいつそんなことできるって言ったよ!? やったことねーだろ!」
「うるさぁーい! あんたまでニョホ金歯みたいに反抗的になってー! つべこべ言わずにやんなさいよぉー!」
ブゥンッ! とルイズのフォークが勢いよく振られ――、ケーキが投げられる。
ルイズのことである。学友に使い魔の特技を聞かれ、いいとこの一つも披露したくなったのだろうが。
チクショウ! やるしかねえのかよ! と、才人は自棄になりながらも覚悟をきめた。
天高く舞ったケーキを注視する。ピーナッツを食うのと同じ要領だ。なんとかなる。そう、思ったが。
でももし、失敗なんてしちゃったら。
なんかルイズに逆恨みされまくった挙句、――素手で首を吹っ飛ばされるような、そんなイメージが、脳裏をよぎる。

そんな余計なことを考えている間に、――もうケーキは、折り返し地点だった。
えーい。ままよ!
ここだ! と思う地点で待ち構え、思いっきり口を開けた才人の目の前を。
思いっきりでかいドラゴンが通り過ぎ、ルイズの放ったケーキをかっさらっていった。
「……悪い子」
「ちょっとタバサ! なにするの!」
ルイズが叫ぶ。
才人の狙ったケーキを横取りしたのは、タバサの使い魔だった。
その巨大な体躯が地面すれすれで滑空したのだから。あたりはものすごい風に包まれた。見ると風圧でいくつかのテーブルも吹っ飛んでいる。
「ちょっとタバサ! びっくりするじゃないの、もう」
突風で乱れた髪を直しながら、キュルケがやってきた。
「……謝罪」
自らの使い魔の行いを、彼女なりに詫びる。
「まあ、貴方の使い魔だけ除け者ってのも、可哀想だしね。大目に見てくれるわよ」
ねーみんな。とキュルケが言う。他の貴族はそれに、一致で頷いた。
なんかある意味強制のような態度に見えなくもなかったが。
「あーら。ルイズのお馬鹿と平民くんだけなの? 愛しのダーリンはどこぉ?」
キュルケが唇に指を当てながら、きょろきょろ見渡す。
その言葉に、才人も見渡したが――、ジャイロが、いなかった。
「ちょっとキュルケ! 私の使い魔に何の用よ!」
ルイズが立ち上がってずかずかキュルケの前に立つ。
「あーら。使い魔すら満足に使役できないゼロのルイズじゃない。ねぇルイズ、隠さないであの人出して」
「別に隠してるわけじゃないわよ! どこ行ったかわかんないわよあの馬鹿は!」
「使い魔に満足に命令もできないの? やっぱりゼロねえ」
「うるさい!」
小馬鹿にしたように挑発するキュルケと、敵意剥き出しのルイズ。
ああ、近くにいたくない修羅場空間だと、才人は思う。
「サイト! ジャイロ捕まえてきて!」
ルイズにそう言われて。また爆発に巻き込まれるよりはいいや、と判断し。
才人は、ぶらぶらと当ても無く――探しに行くのだった。

才人がジャイロを探して茶会の場所である中庭をうろちょろしていたとき。
通りかかったテーブルで、シエスタが給仕をしているのを見かけた。
「や、シエスタ」
「あ。サイトさん」
「仕事中か。ご苦労様。大変そうだな」
「いいえ。やりがいありますから」
お互いに笑う。
「なあ、そういやシエスタ、ジャイロみてない?」
「え? ジャイロさんですか? ……うーん。見かけていませんね」
「そっか……。わかった。仕事の邪魔してすまない。頑張ってな」
そう言って、才人はシエスタの傍を離れる。そして、次はどこを探しに行こうか、と思ったとき。
「も、申し訳ありません貴族様!」
必死な声で謝る――シエスタの声を聞いた。
声のする方に急ぐ。すぐにその、姿が見えた。
必死になって謝るシエスタ。その向かいには――、一組の男女。
才人はこの時、彼の名前を知らなかったが。
男の名は、ギーシュ。
女の名は、モンモランシー。
近くにいた貴族達が、そう言っていた。
そして、モンモランシーと呼ばれた少女は、自らの手を庇っている。
シエスタは何かを抱きかかえるように、守っている。
彼女の服の中に。白い毛並みの――、子猫がいた。彼女が助けた、猫だと、才人は気付く。
ギーシュと呼ばれた男が、シエスタに近づく。
乱暴に、彼女が守っていた猫を奪い取り。そしていきなり――、蹴っ飛ばした。
何が起こったのか、理解できなかった。
その表情は、敵意を剥き出しにするものでもなければ、愉しんでいる顔でもない。
鉄面皮。そう呼ぶほうがいい、表情だった。
だがその面の下には。間違いなく、殺意がある。
猫をもう一度蹴り、壁に叩きつけた。そしてもう一度蹴ろうと足をあげたとき。
シエスタが、子猫を庇って抱きしめる。
それに構うことなく、ギーシュはシエスタの背中を、蹴った。
我慢できなかった。――気がつくと才人は、彼らの間に割り込むために、駆け出していた。

そこにあの子がいたのは――彼女のせいではない。
さっき助けたとはいえ、給仕役にしかすぎない自分がこの先飼うというのは、難しいものがあった。
だから、飼ってくれる人を探そうと、思っていた。
今日の仕事が終わったら、誰かに相談してみようと思い――あの子は、休憩室の前に置いてきた。はず、だったのだ。
知らぬ間にシエスタのあとをついてきた子猫が、彼女の仕事を行う茶会の場所に迷いこんでいた。下手をすれば、メイジの使い魔の餌になってもおかしくなかったというのに。
そして子猫に一番最初に目をつけたのが、茶会に出席するために戻ってきたモンモランシーと、それに連れ添うようにやってきたギーシュだった。
モンモランシーが子猫を見て、かわいい猫、と言った。
そして頭を撫でようと指を近づけたのだろうが、子猫はそれに怯え、彼女の指を、引っ掻いたのだ。
痛い、と悲鳴をあげた彼女。それにシエスタが気付く。彼女の足元には――あの子が。
どうして、と思った。
何で、とも考えた。
だがそれよりも早く、彼女は子猫を抱きかかえ、跪いて必死に。
「申し訳ありません貴族様!」
そう、謝罪したのだ。
小さく震えて謝る給仕を、ギーシュはらしからぬ無表情で見下す。
傍らにいるモンモランシーは血がぷくりと湧き出た指を押さえ、その痛みに耐えていた。
「申し訳、ありません。この子がこのような場所に迷い込んだのは、私が目を離していたからです。どうか。どうか……、お許しを」
お許し、ください。と、シエスタは小さく、呟くように懇願する。
ギーシュは、それに応えない。……ただ。
「モンモランシー……。大丈夫かい?」
そう、彼女に問う。
「……痛い。……痛いわ、ギーシュ」
彼女は、そう、答えただけだったのだが。
「痛い……、か。当然だ。血が出ている」
そう言うと、いきなり、彼は給仕の懐から、白い毛並みの猫を奪い取る。
「貴族様! 何を!?」
「彼女が痛がっている。だからこれにも」
痛みを知ってもらう。
そう、言うなり、子猫を放し。――ド畜生が。と、一言呟いて、蹴り飛ばした。
嫌ぁ! と、シエスタの悲鳴が木霊した。

「何やってんだテメェッ!?」
才人がギーシュとシエスタの間に立つ。
「ルイズの使い魔……平民の少年、か。邪魔だ。どきたまえ」
「わけもわかんねぇのにどけって言われたって……どけるかよ!」
「理由は簡単だ。……その給仕の猫が彼女を傷つけた。だから同じく傷ついてもらう」
それだけだ。とギーシュは言う。
「それだけって……。おまえ指ケガさせたぐらいで蹴っ飛ばすか!? 猫にそんなことやったら死んじまうぞ!」
その答えは。
「彼女を傷つけるということは、それだけの償いが必要だということだ。その動物にはその価値がまるでわかっていない」
「何だとテメェ……」
一歩近づく。顔面を殴ってやろうとして。その動きは、シエスタに止められる。
「だ、駄目ですサイトさん! サイトさんまで、……巻き込むわけには」
シエスタが必死に止める。才人を巻き込めないと言って。
「ならば、君が償うか」
それもいいだろう、とギーシュが、何かを放り投げる。
それは一枚のバラの花びら。それがシエスタの手前に降りる。その瞬間、花びらは短剣となって地面に突き刺さった。
「償うというのなら、その短剣で、……指を切れ」
「て、テメェいい加減にしろこの野郎ゥッ!」
頭の血管が切れそうになった才人を、シエスタが力を込めて必死に制する。
「駄目……駄目です。サイトさん……。堪えて、お願い……しますから」
シエスタが短剣に手を伸ばす。それが耐えられなくて、才人は短剣を蹴り飛ばした。
「……最低だぜ! 女の子虐めて楽しいかよ!」
ギーシュの表情は変わらない。
かえってそれが――不気味に思える。
それは彼の傍らに立つ――モンモランシーも、同じく思っていた。
かつての――彼女がよく知るギーシュは。キザで安っぽくて軽薄で。軟派で根性無しで浮気性な貴族と呼ぶには語弊のある男ではあったが。
それでも――女性に非道を働く人間ではなかった。
これでは本当に――別人では、ないか。
モンモランシーもまた、ギーシュの変化に恐怖を感じていた。

「なら――君が償え」
花を向けた方向は――才人ではなかった。後ろにいるシエスタでも、無い。
さらにその後ろにいた、――ジャイロに、矛は向いていた。
「ジャイロッ!?」
才人と、シエスタが振り向く。
いつの間にここにいたのか。
「オレを名指しするたァいい度胸だぜ。……だがな、いっとくがオレはやさしくねーぞ」
その顔は、――いつもの陽気な、彼のものではない。
ジャイロが歩み寄る。その進路を遮るように、才人がギーシュに向いた。
「ま、まて! おまえがケンカ売るってんなら、俺がやってやる! かかってこいよ!」
才人が虚勢を張る。
ギーシュは才人を見ない。いないものであるかのように振舞っている。
「し、シカトしてんじゃねえ!」
「悪いことは言わない。君は下がれ」
「何だと……!?」
才人を見ないまま、ギーシュは語る。
「もし……、仮に。僕と君が決闘したとするなら……だ……。君は僕には勝てない。……『後ろの彼』なら、可能性はある。だから下がれ。それが理由だ」
才人が言葉を呑む。とても同世代の人間から出る言葉とは――思えない、凄味があったから。
「……もう少しだけ話をしよう。僕がメイジで……君が平民だからだ。魔法に敵う戦術を平民は持たない。どんなものだろうと魔法は全てを凌駕する」
才人は完全にギーシュの言葉に呑まれる。足にもさっきまであった力が込められず、踏み出せない。
「だが彼は魔法とは別の力を持っている。その力に……僕も一度は降った。だが次は完全に、僕が勝利する。それが……僕が進むべき道」
「なんか大分前によォー。オタクと同じよーなこと言ってたヤツがいたぜ」
「これは僕の試練……、“敗北”という汚点は克服しなければならない! それが!」
「『男の世界』ってやつかァーーーッ!!」
ジャイロが叫ぶ。それにギーシュはそうだっ! と応えた。
「『男の価値観』とは! 『社会的な価値観』とは違う! 男には守るべきものがあり! 戦わなければならない敵がいる! 克服しなければならない試練がある!」
「それがこの『決闘ゥ!』」
「そのとおりだルイズの使い魔! 決着をつける! 『進むべき未来』のために!」
再び――、いや、改めて、『男の戦い』が、火蓋を切ることになる。


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