ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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じゃら、と、垂れ下がっている鎖を玩びながら、才人は時間を持て余す。
気絶していたとはいえ、睡眠は十分にとれていた。再び眠って、この目の前の世界が実は夢だった――、という希望を持つには、彼の頭は冴え過ぎていた。
そんな状態が、もう何分経ったのだろうか。
才人は隣にいる男に、何か、聞こうと思った。
少なくとも――いや、自分の常識では、かなり変わっている男ではあったが――自分達を囲んでいた連中より、彼は幾分かマシに思えたからだ。
「なあ。あんた」
ぞんざいに口を開く。
「……あ? なんだ坊主」
自分より多く鎖に絡められた男が、返事をしたが。
返された声も、またぶっきらぼうだった。
「あんた……、あいつらとは、違うんだよな」
「あいつら? ああ……。この城ん中住んでる連中のことか」
「あいつら、一体何なんだ?」
とりあえず、最初に聞いてみようと思ったこと。……何故、自分がここにいるのか、ということ。
そして、あの奇妙な連中は、一体何者なのか、ということだった。
だが、自分と同じように、何らかの方法でここに連れてこられたというのなら、その答えは大体決まっている。
――知らない。
そう言うだろうと、才人は聞いた後で考え付いて、自分の浅はかさを苦笑する。
「あいつら――、魔法使いなんだとよ」
そう、男はさっぱりと言った。
「あんた! あいつら知ってんのかよ!」
才人が驚く。自分が知らないことを、自分と同じ境遇と思っていた男が、知っていたから。
「そんなに驚くことじゃねーだろ……。あいつらが、自分でそう言ってんだからよ。信じるしかねーんじゃねーかぁ?」
男は落ち着き払った様子で、才人の動揺を受け流す。
だから――、おとぎの国。
彼の言った意味が、ようやく納得できた。
「じゃ、じゃあ! これから俺たちどうなるんだよ! 一体こんなとこで! 何されるっていうんだ?」
次々と溢れ出てくる不安に、彼はすっかり怖気づいていた。

「落ち着けよオメーさんはよー。なんか“使い魔”にするとか言ってたがよ……。別にとって食われるわけでもねーだろ。 …………たぶん」
「たぶん!? お前いま、たぶんって言った!? なんか俺に聞こえないようにちっちゃくたぶんって?!」
「だから落ち着けっての。オメーきっと勝手に突っ走って自滅するタイプだな……。まーあいつら、オレらを殺す気なんかねーんじゃねえか。……もし、そうならよ」
とっくに、やってんだろ。と男は抑揚無く、言った。
「まあ、まだ、オレらにもチャンスはあるってこった……。なあ、坊主」
そう、男は言った。
それは――ここから、脱出するということだ。
「……できるのか? 本当に」
「時期は必ず来る。……そんときを、見計らえば、な」
できる。
と、男は、確かに言った。
「……そ、そのときは俺も! 俺も一緒に!」
「連れて行けってか? そりゃ無理な相談だ」
男は彼の願いを一蹴する。
「どうして!?」
「オレには目的がある。……余計な荷物は持って行かねぇ。動きが、鈍るからな」
冷たい眼差しで、彼は言い放つ。
「なんだよ……。自分だけ、逃げようってのか。クソッ」
苛立ちを隠さず、才人は藁を蹴り飛ばす。
「オレは邪魔なもんは持たねー主義でな。……邪魔になりそうだからな。坊主は」
「坊主って言うな! 俺の名前は才人! 平賀才人だ!」
坊主という言葉が、見下されている感じがして、才人は男に反発する。
その行動に、男は苛立ちも不快な様子も、無かった。
一言、ニョホ、と愉快そうに笑い、
「ほー。じゃあ才人、オメーは自分の身は自分で守れるか?」
そう聞いた。

「何だって……?」
「オレに一緒についてきて、どんな痛ぇ目みても、オレは助けねーからよ……。自分の身は、自分で守れ。それができるんなら……、後ろをついてきな」
再び、蜘蛛の糸が降りてきたような気分を、才人は味わう。
「い、いいのか!?」
「嫌だってなら別にいいんだぜぇー。オレ一人で、逃げるだけだからよ」
その提案に、否応無く、才人は飛びついた。
「あ、ああ! わかった。……えっと。……あんた、名前は?」
「ジャイロ。ジャイロ・ツェペリだ」
そう、才人に、彼は金歯を剥き出しにして、ニョホ、と笑う。
その顔を見て。
不思議と才人も、笑い声が漏れたのだった。
がちゃり、とドアが開く音が聞こえた。
ゆっくりと、ドアが開く。
靴から、足が、そして――顔が、見えた。
ジャイロは彼女を知っている。
才人は彼女を直視するのは――、今が、初めてだった。
この部屋の主。
彼らの主。
稀代の魔法使いであり、“ゼロ”の魔法使い――――ルイズが、そこに立っていた。

「……起きたのね」
一瞥を二人にくれると、ルイズは自分のベットに向かう。
「おい! なんだよお前! 俺達をこんなとこに連れてきて! それにこの扱いはなんだ! 犬猫みたいに扱ってんじゃねえよ! おい! きいてんのかお――」
「ああもう!! うるさあぁいっ!!」
才人の矢継ぎ早の言葉すら打ち消すほど大きく、ルイズの怒号が部屋に響く。
「まったく! あんた達は私の使い魔なの! なのに反抗するし抵抗するしゆうこと聞かないし!! おまけに主人に向かって叫びごとばっかり! 自分の立場くらい弁えなさいよこの野良犬共!」
いいえ、犬のほうがまだマシだわ――、と、ルイズは向こうを見やる。
「なっ……。人を馬鹿にするのもいい加減にしろ! お前一体何様のつもりだよ!」
「ご主人様よ!」
お互いに、野犬の如くいがみ合う、ルイズと才人。
その、間に。
「なあ、おチビちゃん」
どげし、とルイズのつま先がジャイロの顔にめり込む。
「あんたはさっきからそればっかり! チビチビって他にいうことないの!?」
「……いや。だから言おうと思ったんだがな」
蹴り足を戻したルイズが、ベッドに腰掛ける。
「で? 何よ?」
「オレの鉄球はどこだ? まだ一個あるはずなんだがよォ」
ジャイロの目的――、それはこの場所から脱出し、元の世界に戻る方法探しだすこと。
そのために、まず、自由を確保しなければならない。
この鎖を断ち切るために、――鉄球が、必要だ。
「てっきゅう? なんのことよ」
「オメーが持ってるわけじゃねえのか」
どげしっ。再び、つま先が水月に突っ込まれる。
「言葉遣いが悪いわね! 私は! ご主人様! ご・しゅ・じ・ん・さ・ま・! はいもう一度!」
「おチビちゃん」
どげすっ!!
こんなヤツらが――、私の、使い魔だなんて。
――最悪、だわ。
そうルイズは、心で溜息を吐いた。

一方その頃、学園の医務室では。
大捕り物で名誉の戦死(ムスコが)を遂げた亡骸……のように見えるギーシュが、純白のベッドに横たわっていた。
傍らにはモンモランシーが寄り添うように椅子に腰掛け、その頬には涙の跡があった。
「…………っ う、」
「……! ギーシュ?! ああ、ギーシュ! 目が覚めたのね?!」
「こ、ここは……ぼ、僕は……?」
「先生! ミスター・コルベール! ギーシュが! ギーシュが目を!」
その声に駆けつけ、コルベールが姿をあらわす。
「ミスター・ギーシュ。……大丈夫ですか。もう、痛むところは」
「だ、大丈夫です。……ああ、モンモランシー。僕は、生きているんだね」
「ええ! 貴方はしっかりと」
「でも……でも。もう、僕は……」
彼は理解している。
もう、自分の体は、女性を愛せないと。
「モンモランシー……。夢を、夢を見たよ。……とても悲しい夢だった」
「……どんな?」
「夢の中で、僕はたくさんの僕に出会うんだ。その誰もが僕を……。僕を……!」
その悪夢に、どれだけ魘されたのか。熱い涙が頬を伝う。
「か……釜だ、鎌だと……。うっ……うう……」
たくさんの、別世界の自分。その誰もに、カマギーシュ。カマギ-シュと連呼される悪夢。
これほど嫌な夢もないだろう。
「いや、ギーシュ君。それについてなんだが……。ミス・モンモランシー、少し、席を外してくれるかな?」
わかりました。と、彼女は部屋を出る。

男二人だけになり、本題に入る。
「コホン……。結論から言おう。ギーシュ君。君のソレは……」
「……わかっています。僕のは、もう」
「……増えたんだ」
「……………………えっ?」
「いや確かに、最初はもう、こりゃもう無理だろって感じだったんだけどね……。モンモランシー君のたっての希望で、駄目元で、かけてみたんだよ。治癒魔法を」
そしたら、直っちゃったんだ。とコルベールはあっさり言った。
「ただ――、ただね。なんか意味不明の力が干渉しちゃって、普通には直らなかったというか……、なんかパワーアップしちゃったというか……」
「せ、先生ッ? それは、つまり……?」
「君は男性の尊厳を失ってはいない。いやむしろ、増えすぎて今後! 持て余すだろう! だって4つになっちゃったんだもの!」
災い転じて――なんとやら。
ギーシュはこの日、自分の新たな才能に、目覚めることになる。

……そんな彼の傍らで、ジャイロの鉄球を楽しそうに転がして遊ぶ、――ヴェルダンデの姿があった。


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