ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

発現! スタープラチナ・ザ・ワールド!!

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発現! スタープラチナ・ザ・ワールド!!

ルイズは死を確信した。
ウェールズ皇太子は倒れ、ワルドはエア・ニードルの先端を自分の胸に向けている。
そして、それが恐ろしい速度で突き出されるのをルイズは見ていた。
自分は死ぬ。
他の事を思考する暇など無いほどの速度で殺される。
心臓を貫かれて。
瞬間、世界が色彩を失ったような、世界が反転したような錯覚に陥る。
ああ、これが死か。とルイズは思った。
――そう、思ったのだ。他の事を思考する時間など与えられていないはずのルイズが。

ドクン。心音がやけに大きく響く。
ドクン。服を突き破り、胸の皮膚を一枚えぐったところでワルドの杖が止まっている。
ドクン。皮一枚の傷から血がにじみ出る。
ドクン。心音の他に、足音が聞こえる。
ドクン。振り向く。足音のする方向を見る。そこに誰がいるのかを確信して!

「ジョータロー!」
「ルイズ!」

ドクンッ! 一際大きく、鼓動が跳ね上がった。

承太郎は真っ直ぐに力強くルイズへ向かって走っていた。
自分を狙っている四人のワルドになど目もくれず。
涙が出た。ルイズは、泣いた。
ワルドに裏切られた悲しみの涙?
ウェールズ皇太子の負傷に対するショックの涙?
ううん、違う。きっと違う。
この涙は――彼が来てくれた事を喜ぶ涙だ。


ルイズは手を伸ばした。
承太郎も手を伸ばした。
二人の手が重なり合い、ルイズは承太郎に力強く抱き寄せられる。
そして――。
「オラァッ!」
ウェールズを倒し、ルイズにまで毒牙をかけようとしていたワルドの胸に、スタープラチナは助走をつけて鋼をも砕く拳を叩き込み陥没させる。
ルイズは奇妙な光景を見た。
胸を陥没されながらも、ワルドはピクリとも動かない。悲鳴すら上げない。
殴られた衝撃で少し後ろに動いただけだ。
そして――気がついてみれば、ウェールズが不自然な格好で倒れていた。
うつぶせに倒れている、が、その身体がわずかに浮いているのだ。
上半身がまだ地面についていない。
ウェールズは『倒れている最中』のまま停止していた。

「……そして、時は動き出す」

承太郎が呟いた直後、ウェールズが完全に床に倒れる。
と同時に胸を陥没させたワルドは後方に吹っ飛びつつかすみのように消え去る。
どうやら偏在で作った分身の方だったらしい。
「な、何だとッ!?」
残った四人のワルドが驚愕し、承太郎の姿を探す。
『隠れる事なく堂々とルイズへと走っていった』承太郎の姿を探す。
そして偏在の一人がやられた事で、そちらを見て、気づく。
偏在の一人を倒し、ルイズをしっかりと抱き寄せる承太郎の姿に。
その奇妙な光景を見たルイズは、恐る恐る承太郎の服のすそを掴んだ。
「じょ、ジョータロー……。いったい……何が……?」
「安心しろルイズ。もう……誰にもおめーに手出しはさせねえ」


承太郎がルイズから手を離す。そして一直線に一人のワルドに向かっていった。
「ルイズ、ウェールズの傷を見てやってくれ。止血をすれば死にはしねー。
 ……さて、ワルドはどいつが本体なのか解らないが……だとすれば答えは簡単だ。
 全員ぶちのめす。この俺のスタンドで、徹底的にな……」
エア・ニードルを構えたワルドが、承太郎を射程距離にとらえると同時に突きを繰り出す。
同時にもう一人のワルドが承太郎の背後に回り込みウインド・ブレイクを、さらに横から後衛担当のワルドがライトニング・クラウドを放つ。
剛風が承太郎に命中して動きを封じ込め、回避不能の雷光が承太郎の身体に触れる瞬間!

「スタープラチナ・ザ・ワールド!!」
       ドォ―――――z______ン

ルイズが再び世界の色彩が反転したと思った刹那、雷光が空中で停止する。
「風とは……空気の流れだ。だから時が止まれば……風も止まる」
風の影響を受けなくなった承太郎は、自分に突きを繰り出している目の前のワルドのマントを引っ掴んで、自分と稲妻の間に放り込み、スタープラチナの拳を数え切れないほど叩き込む。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
吹っ飛ばされたワルドだがすぐに空中で動きを止め、稲妻が背中に突き刺さりながらも表情ひとつ崩さない。
さらに承太郎は一歩横に移動し風の範囲から逃れると、自分の背後に回っていたワルドに向き合う。
その一部始終を、ルイズはウェールズの腕を抑えながら目を丸くして眺めていた。
「ハッ!?」
ワルドが気づいた時、ライトニング・クラウドを己の偏在が食らっていた。
そして承太郎の真後ろに回ったはずの偏在は、なぜか承太郎と一歩ずれた位置にいる。
しかも承太郎は背中を向けてなどおらず、偏在を睨みつけている。
「オラオラオラオラオラァーッ!」
偏在が反応するよりも早くスタープラチナを叩き込む承太郎。
ライトニング・クラウドを受けた偏在と、背後に回り込まれラッシュの直撃を受けた偏在がほぼ同時に消え去る。
残ったのは後方から魔法を放っていた二人のワルドだけだ。

「な……何が起こっている!? なぜ『気がつくとやられている』のだ!?」
ワルドは狼狽し、じりじりと後ずさる。
「か、彼はいったい……?」
「私にも解りません殿下……ただ、ワルドの動きが止まったようにしか……」
困惑しながらもルイズはウェールズの右腕の袖を破って包帯代わりにし、細い腕で力いっぱいきつく縛って血を止めようとする。
その様子をチラリと見てから、承太郎は静かに語り出した。
「ルイズを守り、名誉を守り、そのためにウェールズは負傷した。それはいい。
 だが……てめーのやった行動は、何よりも卑劣で許されないものだ。
 このままてめーを帰す訳にはいかねー……」
二人のワルドが杖を構える。
臆する事なく杖に向かって歩を進める承太郎。

「……そういえば『世界』を手に入れるとか言っていたな」

ワルドが魔法を詠唱した。
肉を切り裂く竜巻と、ほぼ同時に承太郎に命中するよう調整して放たれた稲妻。

「だったら……俺の『世界』を見せてやる……!」

竜巻が承太郎の帽子のつばに触れようとした刹那、再びそれは起こった。

「 ス タ ー プ ラ チ ナ ・ ザ ・ ワ ー ル ド !! 」

ピタリと停止した竜巻の中を堂々と承太郎は歩む。
そして稲妻の前にフォークとナイフを放ると、それは空中で制止した。


二人のワルドにまで接近すると、とりあえず近くにいたワルドに、スタープラチナの拳を機関銃のように浴びせる。
不気味にひしゃげたワルドのかたわらを通りすぎ、承太郎は最後に残ったワルドの前で立ち止まった。わずか二~三歩の距離だ。
「……時は、動き出す……!」
拳の弾幕を一身に浴びたワルドが、背後の壁目掛けて吹っ飛ばされる。
そして壁に激突して風穴を空けた直後にかすみのように消し去る。
突如目の前に現れた承太郎を見て、最後のワルドは恐怖の汗をダラダラと流した。
「ば、馬鹿な……我が偏在が……閃光の名を持つ私が……こんな……」
「お前に対する慈悲の気持ちはまったくねえ……。
 てめーをカワイソーとはまったく思わねえ……。
 しかし……このまま……おめーをナブって始末するってやり方は、俺自身の心に、後味のよくねえものを残すぜ」
「ぐっ、うぅっ……」
「魔法の詠唱を終えるのに何秒かかる? 三秒か? 四秒か?
 詠唱が終わると同時にスタープラチナをてめーに叩き込む! かかってきな!」
ワルドは杖を承太郎に向け、唇を震わせた。
詠唱しなければ、殺される。魔法で倒さなくては、殺される。
しかし承太郎を倒せる魔法など無い。何ひとつ通用しない。理由は解らないが……。
だからワルドは、その魔法を選んだ。
「ウインド・ブレイク!」
至近距離で人を吹き飛ばす剛風を放つと同時に、ワルドは後ろに跳んで逃げた。
今の承太郎がいったい何をどうやって戦っているのかは解らないが、あのスタープラチナという奴は承太郎から距離を取って行動を取れないらしい。
だから距離を取れば! 射程距離外に逃げれば、自分は逃亡できる!
「うおおっ!」
スタープラチナが剛風の中、力強く前方に踏み出す。
そして拳を斜め上から振り下ろすようにして繰り出した。
ワルドの回避行動は素早く、しかしスタープラチナの攻撃速度も素早かった。
拳を受ければ自分は殺される。
そう理解した上でワルドは冷静に拳が『届く』か『届かない』かを見極め――。

ニヤリ。

数サントの距離で『届かない』と判断した。
最初の決闘の時、承太郎の拳をギリギリで避けはしたが、スタープラチナがさらに追撃を仕掛けてきて回避しきれなかった。
だが今度はそのスタープラチナ自らが手を伸ばしてきているのだ。
今度は、もう、これ以上『射程距離』を伸ばす手段は無いッ!
ワルドは自分の無事に安堵しつつ、奇妙な疑問を抱いた。

なぜ、スタープラチナは人差し指と中指を立てているのだろう。
あんな拳の握り方では力が入らないし、指を伸ばした程度で攻撃は届かない。
だが! その判断は間違いだった。
指を伸ばした程度では届かない攻撃を、スタープラチナは文字通り『指を伸ばす』事で攻撃を成功させた。

「流星指刺(スターフィンガー)!!」

人差し指と中指が二倍から三倍ほどの長さまで伸び、まるで剣のような鋭さを持ってワルドの左腕を切断した。

「ぐおおおおっ!!」
「ウェールズの腕を切断したお返しだぜ。利き腕じゃないのがちと残念だがな」
ワルドは悲鳴を上げながら、後方の壁に空いた穴に飛び込んで逃走する。
再び時を止めて後を追おうとした承太郎だが、連続して時を止めすぎた反動か、ワルドに一矢報いた事で多少溜飲が降り怒りが多少おさまったせいか、時を止められずにウインド・ブレイクの暴風を受けて吹っ飛ばされる。
「ぐうっ……!」
祭壇まで吹っ飛ばされた承太郎は、ウェールズの隣に倒れた。
「ウェールズ、大丈夫か?」
「ううっ……何とか、ね。君のおかげで命拾いしたようだ」
血の気の引いた青白い顔をしながらも、ウェールズは穏やかな笑顔を見せた。

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