ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

空賊! 使い魔と婚約者の狭間で

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空賊! 使い魔と婚約者の狭間で

双月が重なる夜。
空は星々と月により完全な黒には染まらず、物静かで悲しげな蒼をしていた。
船は夜空を飛ぶ。風の魔力を込められた風石を動力源にして。

ワルドが船長に用意させた客室で、ルイズは椅子に座り込み身をすくませていた。
キュルケやギーシュ達は無事だろうか?
仮面メイジが自分達を追ってきたという事は、フーケはギーシュ達を襲ったに違いない。
承太郎がいたからこそ勝てた相手、キュルケなら無理に倒そうとせずうまく逃げれたか?
そして勝利の鍵であった承太郎は仮面メイジにやられて負傷している。
幸い船に逃げ込めたから仮面メイジが追ってくる事は無いが、これから乗り込むアルビオンにはまだまだ貴族派の刺客が待ち受けているかもしれない。
ルイズはマントの中にしまっているアンリエッタ姫の書状を抱きしめ、任務の成功と、仲間の無事を祈らずにはいられなかった。
しかしそれも今では難しい状況。
ワルドが船長から聞いた話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は、攻囲されて苦戦中であり王党派と連絡を取るには陣中突破しかないそうだ。
果たして――無事、ウェールズ皇太子に会えるだろうか。

翌日、いきなりもう無理っぽい雰囲気になった。
浮遊大陸アルビオン――通称『白の国』。
大陸の大河からあふれた水が空に落ちる際、白い霧となって大陸の下半分を包んでいる。
霧は雲となり大雨を広範囲にわたってハルケギニアの大陸に降らすのだ。
地球では見られない絶景に承太郎が感心していた時、空賊が襲ってきたのだ。
大砲を突きつけられて停戦命令を出され、ルイズ達の乗った船は呆気なく降参した。

貴族の客、という事でルイズとワルドは船倉に捕らえられてしまう。
船の積荷だけでなく、ルイズ達の身代金でもう一儲けするつもりらしかった。
貴族の一味という事でメイジではない承太郎も一緒に船倉に連れられた。
その承太郎の顔色が悪いので、ルイズは心配になって怪我の具合を問いただす。
「たいした負傷じゃあない……気にするな……」
「だったらちょっと見せなさいよ!」
ルイズは承太郎の学ランを掴むと、袖をたくし上げた。
抵抗しようとした承太郎だが力が入らず、弱々しいものだった。
「きゃ! ……酷い」
稲妻の直撃を受けた承太郎の左腕は手首から肩までミミズ腫れが続いており、それが悪化して酷い水ぶくれにまでなっていた。
見ているだけで痛々しく、そして気持ち悪い。
ルイズは空賊を呼んで水のメイジがいないか、怪我を治して欲しいと頼んだが、空賊は少しも取り合おうとせず無視された。
するとルイズは泣いてしまう。
「うっとおしいぞ、メソメソ泣くくれーなら最初から依頼を受けるんじゃねえ」
「使い魔君、そんな言い方はないだろう。彼女はまだ十六歳の小さな少女なんだ」
「貴族だ何だと偉ぶってるくせに気合の足りねー態度は気に食わねぇ。
 ルイズは『殺されるかもしれない覚悟』をして依頼を受けたはずだ。
 そして『同行する俺やギーシュが殺されるかもしれない覚悟』もしているはずだ。
 だから……この程度の負傷でピーチクパーチク泣かるようじゃ、話にならねぇ」
「ルイズは僕が守る。君も僕が守ろう。誰かが殺されるなどと不安がる必要は無い」
「杖がねーと何もできないてめーが、この状況をどうにかできるのか?」
「今は根気よくチャンスを待つ。こんな時こそ知的にクールにいこうじゃあないか」
決闘で承太郎に敗れた事を気にしているのか、
やけに丁寧な口調ながらも何だか挑発的なワルドを見て、ルイズの不安が増す。
自分と違って、この二人は強い。もはや任務成功の鍵はこの二人が握っているのだ。
それなのに不仲になられては非常にまずい。それに――。


(それに――何だろう。二人が喧嘩してると、すごくヤな気分になる)
心情的には礼節な婚約者の肩を持ちたい。
けれど無愛想な使い魔の事も気になる。
承太郎は時々怒るけど、怒り方が二種類あると思う。
単純に怒っているだけなのと、そうでない怒り方。
今の承太郎は後者な気がする。
怒っていても、優しさを感じてしまうような、不思議な印象――。

しばらくして、空賊が食事を持ってきた。
粗末なスープと水の入ったコップ、それが三人分。
最初は文句を垂れたルイズだが、体力の維持のため渋々スープを飲む。
その後、ルイズはシャツの袖をちぎると、自分の飲み水に浸し、承太郎の火傷を冷やした。
「余計な事はするな」
「意地張ってんじゃないの。一応、私の使い魔なんだから、たまには言う事聞きなさい」
「…………」
冷やされて痛みを感じているのか、承太郎は唇を噛みしめているようだ。
しかし抵抗はしない。ルイズの心遣いを受け入れてくれた、という事か。
何か言った方がいいかな、と思ってルイズは口を開きかけ――。
「あの、ジョ……」
再び船倉のドアが開かれた。食器を回収にきたのか、空賊が入ってくる。
そして三人を見回すと楽しそうに質問をしてきた。
「おめえ等はよぉ~、もしかしてアルビオンの貴族派かい?
 いや、そうだったら申し訳ないと思ってさぁ~。
 俺達はおめーさん達のおかげで商売できるって事になるし、
 王党派に味方しよ~ってヌケサクどもを捕まえる密命も受けてんだよ」
「それではこの船は反乱軍の軍艦なのかね?」
「質問を質問で返すなッ! アレか? 貴族は質問には質問で返せと教わってんのか?
 このスカポンタンがッ! クソッ! 舐めてんじゃねーぞゴルァ!」
ワルドの質問にブチ切れた空賊は近くにあった樽を蹴飛ばした。

「怒らせてすまない。ただ相手が空賊なのか、
 反乱軍なのかも解らず質問に答えるというのも怖くてね」
「ケッ、ま~い~か。俺達は雇われてる訳じゃねーさ。
 反乱軍とはあくまで対等な関係で協力してるだけさぁ~。
 で、どうなの? おたく等、貴族派? それなら港まで送ってやるぜ」
ここで「はい、そうです」と嘘をつけば無事港に行けるだろう。
だがルイズは! 逆に馬鹿正直に答えた!
「誰が薄汚い反乱軍なものですか。私は王党派への使いよ!
 私はトリステインを代表してアルビオン王室に向かう大使なのだから、あんた達は私達をそう扱うべきなのよ!」
あまりに正直に言ってしまったもので、承太郎もワルドも黙り込んでしまった。
もう何を言っても手遅れだ。
後は成り行きを見守って、ヤバそうなら実力行使に移るしかない。
空賊はゲラゲラと笑う。
「正直者だなぁ~、あんた。そこんところは褒めるけどよ、ただじゃすまね~ぞォ」
「あんた達に頭を下げるくらいなら死んだ方がマシよ。
 私は『殺されるかもしれない覚悟』をして密命を受けているのだから」
「あぁ~ん……ほんじゃ、まあ、頭に報告してくらぁ」
ルイズ達をどうこうする権限を持たないのか、空賊の男は船倉に鍵をかけて去った。
死刑確定、ではない可能性を承太郎は考えていた。
あの空賊の態度、どこか演技を感じられた。些細な違和感……勘違いかもしれない。
さて、ルイズの行動は吉と出るか凶と出るか。

吉と出た。
空賊の頭の正体はアルビオン王党派どころか、
アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーが変装したものだったのだから。
「アルビオンへようこそ大使殿」
ついさっきまで空賊をやっておきながら善意100%スマイル。
この皇太子、大物である。

王党派に味方する外国の貴族がいるなんて夢にも思わなかったため、ルイズ達は試されていたのだ。
空賊の頭を演じるウェールズの前でも意地を張り通したルイズのおかげで、何とかその信用を得る事に成功した。
まさに僥倖である。
「アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」
ワルドが優雅に頭を下げる。
「ふむ、姫殿下とな。君は?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。
 そしてこちらが姫殿下より大使の大任を仰せつかったラ・ヴァルエール嬢と、その使い魔の男でございます。殿下」
「して、密書とやらは?」
ルイズは慌てて手紙を取り出したが、ウェールズの顔を見て、ちょっとためらう。
「あ、あの……」
「何だね?」
「その、失礼ですが、本当に皇太子様であらせられますか?」
ウェールズは美形である。大人の気品を持ったギーシュの如き美形である。
だがついさっきまで髭ヅラに変装して空賊の頭なんぞやっとりました。
ルイズが不安になるのも仕方ない事だろう。
ウェールズは笑って、薬指にはめていた指輪を外すと、ルイズの手を取り水のルビーに近づけた。
ふたつの宝石が共鳴し虹色の光があふれる。
「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。
 君がはめているのは、アンリエッタがはめていた水のルビーだ。そうだね?
 水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
「大変、失礼をばしました」
ルイズは一礼して、手紙をウェールズ皇太子に手渡す。

ウェールズは愛しそうに手紙を見つめ、花押に接吻をしてから手紙を取り出した。
真剣な顔で読み、真剣な声で問う。
「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」
ワルドが無言で頭を下げ肯定する。再びウェールズは手紙に視線を下ろした。
そして、最後の一文を読む。
その時、彼の表情が無表情になった。
固く、固く感情をせき止め、あふれんばかりの感情を押し殺した表情に。
「……了解した。姫の望みは私の望み。例の手紙を返すとしよう。
 だが手紙はニューカッスル城にある。多少面倒だがご足労願いたい」

ウェールズの船は雲の中を通り大陸の下部からニューカッスルに近づいて、王家だけが知る秘密の港に船を入港させた。
こうしてルイズは無事、ウェールズの案内の元、城に到着する。
ルイズだけを質素な自室に招き入れたウェールズは、小箱を開けた。
ふたの内側にはアンリエッタの肖像画が描かれている。
そして、小箱の中から一枚の手紙を取り出した。
何度も繰り返し読んでいるのか、ボロボロになっている。
その手紙をウェールズは再び、最後にもう一度だけ読み直した。
表情は優しく、しかし悲しげであった。
手紙を丁寧にたたみ封筒に入れたウェールズは、それをルイズに渡す。
「これが姫からいただいた手紙だ。この通り、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」
「明日の朝、非戦闘員を乗せた船がここを出港する。
 それに乗ってトリステインに帰りなさい」
その言葉を受け、ルイズはしばし考え込み、
やがて意を決したように質問を投げかけた。

「あの……殿下。王軍に勝ち目はないのでしょうか?」
「無いよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。
 我々にできることは、勇敢な死に様を連中に見せつけるだけだ。最後まで誇り高く」
「殿下の討ち死にされる様も、その中には含まれるのですか?」
「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」
明日死ぬ身の上、しかしウェールズは落ち着いていた。死ぬ事を受け入れていた。
それが――ルイズには納得いかない。
「殿下、失礼をお許しください。この、お預かりした手紙の内容、これは……。
 この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫様のご様子、尋常ではありませんでした。
 そう、まるで……恋人を……案じておられるような……。
 先程の殿下の物憂げなお顔といい……もしや……姫様とウェールズ皇太子殿下は……」
ウェールズは微笑み、ルイズの言いたい事を悟った。
「君が想像している通り、今渡した手紙は恋文だよ。
 確かにこれがゲルマニアの皇室に渡ってはまずい事になる。
 アンリエッタがゲルマニア皇帝に誓う愛は偽者となり、結婚および同盟の話はご破算。
 そうなればトリステインは一国の力で我が国の貴族派と戦わねばならない」
「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!
 お願いであります。私達と共にトリステインへいらしてください!」
「それはできんよ」
「そんな……でも! 手紙には、手紙の末尾には、姫様は記したのではないのですか!?
 あなたに亡命を求める一文を。記したはずです!」
「そのような事は一行たりとも書かれていない」
ウェールズは首を振った。
「私は王族だ。嘘はつかぬ。姫と、私の名誉に誓って言おう。
 ただの一行たりとも、私に亡命を勧めるような文句は書かれて……いないッ」
苦しそうな口振りだった。それだけで、ルイズはそれが嘘であると解ってしまう。
「……君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。
 正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。
 我等が王国が迎える最後の客に相応しい人柄だ。是非最後のパーティーに出席して欲しい」
こうしてアルビオン王国最後の夜が、ついにその足音の届く距離に迫った。

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