ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

依頼! 風のアルビオンを目指せ! その⑤

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依頼! 風のアルビオンを目指せ! その⑤

承太郎とワルドは練兵場で二十歩ほど離れて向かい合った。
そこは物置き場になっているらしく樽や空き箱などが積まれていた。
「何でジョータローとワルドが決闘を……」
「やあルイズ、遅かったね」
「ワルドがしつこくジョータローに手合わせ願ったのよ」
「お手並み拝見」
ギーシュとキュルケはお菓子とジュースを持っての観戦だ。
明らかに楽しむ気満々である。

「では、介添え人も来た事だし、始めるか。全力でかかってくるがいい」
ワルドは腰から杖を抜き、フェンシングのように構えた。
杖、というより形状はシルバーチャリオッツの持っていた細身の剣に近い。
承太郎はチャリオッツを前にしているような気分になった。
構えから解る。ポルナレフほどではないが、この男には剣の心得がある。
それプラス、魔法衛士隊の隊長を務めるだけの魔法の技量。
手加減できる相手ではなさそうだ。
対峙しただけで、承太郎はそこまでワルドの実力を評価した。
「せっかく決闘に乗ってやったんだ。遠慮せずかかってきなッ!」
承太郎の語尾と重なるようにワルドが疾駆し杖を突き出した。
速いッ。だがチャリオッツほどでは――ない!
腰を捻って半身を引き杖を回避、杖が後ろに引かれるのに合わせ前進。
「オラァッ!」
生の拳をワルドの腹部に叩き込もうとした瞬間、
ワルドは風のように後方に舞って拳を見切り、わずか一サントの距離で回避。
ドゴンッ! ワルドの腹部に強烈な衝撃が走り、後方に吹っ飛ばされる。
「ガフッ!」
「舐めてんじゃねえぞ。全力でかかってこいと言っておきながら、
 手を抜くたぁどういう了見だ? オラッ!」

壁に激突する直前、ワルドは風のクッションを作ってゆるやかに着地した。
しかし腹部へのダメージは大きかったのか、片膝をついてしまう。
「なるほど……これが、フーケを倒した能力か」
そう、承太郎は拳が届かないと悟った瞬間、
己の拳にスタープラチナの拳を上乗せして繰り出したのだ。
「恐ろしいパワーだ……様子見など必要無いという事か。
 だがね、魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱える訳じゃあない!
 詠唱さえ戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作。
 杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
「御託はいい、かかってきな」
「……君は確かに強い。さすがは伝説の使い魔だ。
 しかし! 私とて『閃光』の名を持つメイジ……負けはしない!」
先程よりも速く、疾く、風の如く、ワルドは承太郎に肉薄した。
そして近距離パワー型のようなスピードで杖を連続して繰り出す。
これにはさすがの承太郎もスタンドを使ってガードせねばならなかった。
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
閃光のような連撃の最中、ワルドが詠唱する。
承太郎が今まで戦った魔法は、ギーシュのワルキューレとフーケのゴーレム。
ある意味スタンド使いとの戦いと近かったが、今回は本格的なメイジが相手だ。
――どんな魔法が来るのか解らないッ!
この世界での戦闘経験・魔法知識の不足が承太郎を窮地に追いやる。
「エア・ハンマー!」
しかし! 彼の詠唱最後の一言が承太郎に優れた判断力を発揮させた。
右側で空気が圧縮されたような音を出す。
『そこ』に魔法が存在すると解れば、魔法の『軌道』も予測できる。
後退して回避するかッ!?
前進してワルドを攻撃しつつ魔法も避けるかッ!?
承太郎が取った行動は――。


「オオオオオオラァッ!!」
スタープラチナの拳が承太郎の右側を全力でぶん殴る。
すると硬い空気の膜のようなものを拳が突き破り、巨大な風船が弾けたような轟音がして風が四方八方に散った。
その風圧にその場にいる全員が動きを止める。
「なるほど……。どうやら『魔法』と『スタンド』は干渉するらしいな」
「貴様ッ、私の魔法を実験台にしたというのか!?」
「おかげでメイジとの戦闘経験を得させてもらったぜ……。
 礼に手加減してやろるから感謝しな……オォォォーラッ!」
スタープラチナが素早くワルドに足払いをかけ、さらに顔面を鷲掴みにして地面に叩きつけようとする。
「ワルド!」
ルイズが悲鳴を上げた瞬間、ワルドの後頭部と石の地面の距離が一サントというところで、
スタープラチナは動きを止めた。
「勝負あり、だ」
承太郎が勝利宣言をし、スタープラチナを消す。
ワルドは一サントの高さから後頭部を地面に打ちつけ、悶絶した。
もし承太郎が本気だったら、彼の頭はトマトのように潰れていただろう。
ルイズは慌ててワルドに駆け寄り、抱き起こす。
「ワルド、しっかり」
「う、うう……む。参ったな。愛するルイズの前でこんな失態を見せるとは……」
「よかった、小さなコブができているだけみたい。
 ……ジョータロー! 二度とこんな事したら許さないから!」
安堵したルイズは、勝手に二人が決闘をした怒りの矛先を承太郎に向けた。
「やれやれ……勝負を持ちかけてきたのはそいつの方だぜ。
 文句があるならその髭ヅラに言うんだな……」
「決闘を受けたあんたにも責任はあるわ! それから、ワルドを侮辱しないで!」

楽しく愉快に興奮して観戦していたギーシュ達だが、ようやく雲行きが怪しくなってきた事に気がついた。
どうにも険悪なムード。
承太郎とルイズが睨み合っている。
先に折れたのは意外にも承太郎だった。
「つき合い切れん、俺は夕飯を食いに行くぜ」
「勝手になさい!」
こうして承太郎は去り、ギーシュ達も何だか居づらくなって食堂に向かう。
その場にはルイズとワルドだけが残された。
「みっともない姿を見せてしまったね……軽蔑したかい?」
「そんな……仕方ないわ、相手はジョータローだもの」
「……信頼しているんだね……彼の強さを……」
「そういう、訳じゃ……」
「昨夜の話を覚えているかい? 僕の可愛いルイズ」
ルイズは一瞬顔を伏せ、しぼり出すように答えた。
「結婚の……事?」
「ああ。今回の任務が終わったら結婚しようという話。
 僕は急がないが……必ず君は僕を愛するようになる。
 だから、僕がこの程度の事で終わる男だと思わないでもらいたい。ルイズ」
「……私は……よく解らない。解らないわワルド。
 いったい『何が解らないのか』すら解らない……気持ちが整理できないの」
「……この任務を終えた時、ゆっくり心の整理をすればいいさ」
日が、没した。
闇夜が港町ラ・ローシェルに来訪する。
ふたつの月の色は淡く揺らいでいるように、ルイズには見えた。

仲間より一足先に食事を終えた承太郎は部屋のベランダで月明かりを眺めていた。
何かと気に食わない事も多い世界だが、あの双月の美しさは穢しようがない。
しかし――承太郎が真に美しいと思うのは、空にひとつしか浮かばず双月ほど大きくないちっぽけな月。
故郷の月への懐かしさがじわじわと込み上げてきた。
「ジョータロー」
突如声をかけられたが、その声がルイズのものであったため承太郎は振り返らなかった。
それにしても声は明らかに室内からのものだ。ドアを開ける音に気づかなかったとは。
「月を……見ているの?」
「…………」
「夕方の事だけど……少し言いすぎたわ。だから、元気出して」
「何を勘違いしてやがる。俺はてめーに言われた事なんざちっとも気にしてねえ。
 ただ故郷の月や……仲間を……思い出していただけだ」
「……そう。…………ごめんね」
「…………」
「この任務が終わったら、あんたが帰れる方法、探すから」
「…………」
「……何とか言いなさいよ、馬鹿ッ」
「フン。期待しねーで待っててやるぜ」
背中を向けたまま微動だにしなかった承太郎が、ゴソゴソと手を動かした。
何だろう、と思ったら、口元で何かいじってる。またタバコに違いない。
ここならタバコの煙は流れてこないな、とルイズは少し安心した。
安心して、何となく、ほんの少しだけ、寄りかかりたくなってしまう。

「ねえ、ジョータロー……。私、ワルドから結婚を申し込まれてるの。
 この任務が終わったら結婚しよう……って。
 でも彼は急がないとも言っていたわ。私の心の整理ができるのを待つって。
 ……だから……あの……。えっと、ジョータローは……どうしたらいいと思う?」
「…………知るか。てめーの問題だ、てめーで決めろッ」
承太郎の声色に冷たい苛立ちが含まれていて、ルイズはビクッと身をすくませる。
どうしたんだろう。承太郎が、少し、怖い。
「な、悩んでるから相談してるんじゃないッ。少しは優しくできないの!?」
「勘違いしてもらっちゃ困るぜ。俺はてめーの使い魔でも恋人でもねーんだ。
 俺がお前を優しくする理由は無いし、結婚に口出しする資格もねー。
 ただお前が俺を召喚し、俺がお前の部屋に住んでいる。それだけの関係だ」
それだけの関係。って、何よ。とルイズは思った。
それはつまり、友達とか仲間とか、そういう関係に見えるギーシュ以下って事?
ルイズは深く考えず、それが本心なのかも確かめず、勢いで言う。
「私、ワルドと結婚するわ」
「そうかい、好きにしな」
結局承太郎は一度も振り返ってすらくれなかった。
ルイズは怒って、プイッと背中を向ける。背中と背中を向け合う。
「……貴様はッ!?」
突如、承太郎が警戒と敵意を込めた声を上げる。
緊急事態を察知しルイズは振り返った。承太郎の見上げる窓の外が暗い。
ルイズは窓に駆け寄り、その正体を見た。
巨大な岩のゴーレムが宿に取りついている。その肩には風になびく緑の髪。
「そんなッ、あんたはチェルノボーグの牢獄に投獄されているはずの!」
「土くれのフーケ!」
「YES I AM! チッ♪ チッ♪」
また何処かから電波を受信し、右手を振り下ろしたり、
左手の親指を立てて上げたり下げたりと謎の動作を繰り返していた。

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