ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

反省する使い魔!-10

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反省する使い魔!  第十話「インテリジェンス◆ビート」


キュルケの誘惑を振り切った次の日。
音石は今、学院の広場にいた。
つい10分程前に彼は目を覚まし、
昨日と同じようにルイズを起こそうと(もちろんギターで)したが

「今日は『虚無の曜日』だからゆっくり寝かせて・・・」

そう言われ、ルイズは再び眠りに落ちてしまった。
『虚無の曜日』………、つまり日本でいう日曜日のような
休みの日のことを言っているらしい…………。
そういうことならと、音石ももうひと眠りしようとしたが
窓から差し込む快晴の光や鳥の鳴き声。
とても二度寝できるような状況じゃなかった。
以前も述べたかもしれないが、音石は刑務所にいた為
その規則正しい生活習慣が完璧に体に染み付いたおかげで
いやでも朝早くに目を覚ましてしまう。なんとも難儀な話である。
仕方なく音石は藁の上から立ち上がり、昨日と同じように
服にこびりついた藁を払い落とすと、ルイズの部屋を後にした。

ルイズの部屋を出ると、音石がまず最初に向かったのは
シエスタとはじめて出会った水汲み場だった。
音石はそこで顔を洗うと、清々しい風を肌で感じていた。
肌でモノを感じる。音石はギタリストとして
常に音やリズムなどを肌で感じている。
そのため音石にとって、肌でモノを感じるというのは
とても重要で素晴らしいことなのである。


そして現在に至る。
音石はその後、水汲み場からそのまま広場へと移動した。
そしてさらにそのまま、学院の男子寮、女子寮から
出来るだけ離れた広場の隅のところへと移動した。

「………さてと、ここら辺でいいか」

なぜ音石が男子寮、女子寮からできるだけ離れたかというと
彼なりの気遣いの配慮である。
なぜなら音石が寮から離れていったのにはわけがあったのだ。

「学院なんかでゆっくりと『コイツ』を堪能できる場所なんざァ
限られてるからなぁ。ここらへんなら寮にいる連中に
聞こえることもなけりゃあ文句言われることもねぇだろ………」

そして音石はそのまま『コイツ』こと、愛用のギターを手に持った。

ドギュウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

「YEAH!」

弦を指で弾き、発する音に合わせて体を激しく動かし、髪がなびく。
音石にとって、ギターを奏でている時間こそが何よりも幸せであった。
たとえ嫌なことがあってもギターさえ弾いてしまえば
その嫌なことを忘れさせてくれる。
既に音石の頭の中には派手なステージでスポットライトを浴び、
歓声が降り注いでいる自分の姿が出来上がっていた。
彼は今、最高に満足している。
今振り返ってみれば、彼はこの世界でゆっくりと
心ゆくままにギターを演奏するのは今が始めてである。
召喚された最初の日にはライトハンド奏法、一回だけ。
その次の日にはルイズのお目覚めリサイタルや
ギーシュの決闘の時に軽く弾いた程度である。

次第に音石の顔に大量の汗が溢れ出した。
しかし彼のギターのボディの材料、
中南米ホンジュラス産の1973年のマホガニー材が
彼の汗を呼吸するかのように吸い取り、
音石が汗をかけばかくほど、ギターの音が良くなっていった。
ネック部の弦には狂いがなく、100年間暖炉に使われてきた
超乾燥のくるみ材(盗品)を使用しているため、
音がビビることなく、音響的な渋い味わいを出している。
そしてなによりその渋い味わいの音を正確に
鳴り響かし引き出してるのは、ギターの材質関係なく
彼のギタリストとしての実力だろう。

ギュウウウーーーーーーーーーーンッ…………

「万雷の拍手をおくれ、世の中のボケども」【うっとり?】

【パチパチパチパチパチパチッ】

「おっ?」

ギターで一通り演奏し、ラストは自分の気に入っている
決め台詞で締めくくると、万雷とまではいかないが
小さな拍手の音が音石の耳に入った。
音石がその拍手のするほうへ振り向く。
そこに居たのは、ルイズと同じくらい小柄で水色の髪、
片手にはその小柄な体よりもはるかに長い杖、
もう片手には三冊の分厚い本をもっている少女だった。
音石はその少女に見覚えがあった。
確か召喚された日にギーシュに魔法で浮かされたとき
キュルケと一緒にいた記憶がある。
その次の日には、シエスタが落としそうになった食器を
拾い戻す前に空を見上げていたとき、ドラゴンの上に
跨っていた記憶もあった。だが名前は知らない。

「お前は………確かキュルケと一緒にいた………」
「………タバサ、あなたは?」
「音石明だ……、いつからそこにいたんだ?」
「だいぶまえから」
「そうなのか?コイツ(ギター)に夢中だったから気付かなかったぜ。
なあ、……さっきのオレの演奏どんな感じだった?」


音石としては、ギターが存在しないこの世界の人間に、
どんな印象を持たれるか興味深かった。

「初めて聴く音……、変わってたけどなかなかユニーク」
「ふむ、まぁそんなモンだろうな。
それでタバサ、こんなとこでなにしてたんだ?
寮からだいぶ離れてんのに………」
「……どちらかといえばそれは私のセリフ」
「ははっ、ちがいねぇな」
「わたしは図書室に借りていた本を返しにいって
あたらしい本を借りて、部屋に戻る途中に
奇妙な音が聞こえたから、気になって来てみたら貴方がいた」
「オレは随分と早く目が覚めちまってよぉ~~~………、
気晴らしついでに、腕が鈍ってないか確かめていたんだよ」
「腕が鈍っていないか?」

タバサが知る限りでは、音石はルイズに召喚されたときから
ずっとギターを決闘中だろうと肌身離さず抱えていた。
そんな彼がまるで久しぶりに演奏するかのような
物言いに疑問を感じたのだ。

「………ん、ああ。ワケあって牢屋の中にぶち込まれててな。
ちょうど出所したところをルイズに召喚されたんだよ」
「………そう」

なぜ牢屋の中に入っていたのか………。
気にならないと言えば嘘になる。
しかし無理に相手の詮索するようなことはタバサはしたくなかった。
人はそれぞれにいろんな『過去』を背負っている。
楽しかった思い出、悲しかった思い出、悔しかった思い出、
そしてそんな思い出には必ず理由が存在する。
だからこそタバサは、目の前の男が牢屋の中に
入っていた人間であろうと、少なからず何か理由があるのだろう。
そう解釈したのだ。


他の生徒や教師がこの事実を知れば音石に対して
強い警戒心を抱くだろう。
しかしタバサは違った。ワケがあって『過去』を
知っている彼女だからこそ
音石に対して、警戒することもなかった。

「………ひとつ、質問がある」
「ん?」

だがタバサにはまだ気になることがあった。
それは…………。

「ギーシュとの決闘のときに見せた
あれは…………………………何?」
「マジックアイテムを使った魔法だ」

当然嘘である。
音石は食堂でのマルトー達とのやりとりをもとに
自分のスタンドのことを誰に尋ねられたら
マジックアイテムと言って誤魔化そうと
昨日の夜から考えていたのだ。

実は言うと音石はタバサが自分を尋ねたときから
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことを
聞いてくるんじゃないだろうかと予想はしていたのだ。

なぜならここの生徒たちは決闘のこともあり
ほとんどが確実に音石にビビッている。
それは昨日すでに音石も確信している。
(まあ、もともとそのつもりでの決闘なのだが)
そのため、そんな生徒が自分に話しかけるなんて
よほどの物好きか、プライドの高い馬鹿、
チリ・ペッパーの謎を探ろうとしている命知らず。
音石はそう考えていたのだ。


当然、スタンドのことを話しても音石に得はない。
ルイズやオスマンに話したのは彼らを自分なりに
信頼しているからだ。
仮にキュルケにスタンドのことを聞かれても
音石は絶対に岸辺露伴の名言『だが断る』と言い切るだろう。

「嘘」
「なにィ?」

音石の答えをタバサがバッサリと否定した。

「あんな亜人を呼び出す魔法は私は知らない」
「おいおい、世界は広いんだぜ?
それに比べ、人間一人が脳みそにぶち込む記憶なんざ
たかが知れてるんだ。世の中お前が知らないことなんて
腐るほどあるんだよ……………」
「…………………」

音石は知らないがタバサは俗に言う『本の虫』である。
授業中はおろか、出歩くときも本を凝視している。
今日のような休みの日は一日中部屋に篭って本を
読むのが彼女の楽しみである。
それ故に彼女は成績も優秀、あらゆる魔法の知識を読破している。
マジックアイテムも例外ではない。
だから音石に知らないこともあると言われて
プライドが少し……だいぶ……ちょっと傷ついた。

「ならこれだけは教えてほしい」
「………なんだ?」
「あなたは…………どこの出身?」


(痛いトコつくなァーおい)

「ここからずっと遠い所だよ」
「遠いところ?」
「正直言ってオレにもわかんねーんだわ
だいぶ離れているせいでな…………
だからオレもここら辺の地理をよく知らねぇんだよ」
「そう…………」

音石が今答えられるのはこのくらいが精一杯である。
音石としてはいちいち答えてやる道理はないが、
もしもというときがある。
音石はあとでルイズにこの世界の地理や国のことについて
色々と教えてもらおうと考えていた。
ついでになぜ道理もないのにタバサの質問に答えたかというと
単なる気まぐれである。

「あ、オトイシさん!」

すると突然だれかに名前を呼ばれ、音石は振り返った。
やって来たのはシエスタである。
どうやら昨日と同じように洗濯をしていたようだ。
しかしなぜ水汲み場から広場の隅にきたのだろうか?
音石はそれが気がかりだった。

「おお、おはようシエスタ」
「あ、おはようございます!………あ、そうじゃなくて。
オトイシさん、ミス・ヴァリエールが探していましたよ」
「ルイズが?チッ、仕方ねーな。
んじゃあタバサ、そういうことだから…………いねェ」

音石が振り向きなおってみると
いつの間にかタバサはその場を去っていた。
まるで雪みてーな奴だな、現れたと思ったら
いつの間にか消えてやがる。


音石はタバサにそんな印象を感じながら、
シエスタと別れ、女子寮のルイズの部屋に帰っていった。
音石は知らない。タバサの二つ名がその印象どおり
『雪風』であることを…………。




そんなこんなで現在音石はルイズの部屋へと辿り着き
ルイズの部屋のドアノブに手を掛けた。

【ガチャ】
「あ、オトイシ!ちょっとアンタどこ行ってたのよ!?」
「ギターの練習だ。つーかよ~~…
どこに行こうがおれの勝手じゃねーか」
「もうっ!あんた、わたしの使い魔って自覚ある!?」
「はっ、オレにも人権ぐらいあってもいいと思うが?」
「ふん、まあいいわ。それはそうとオトイシ!
ゆっくり寝て気分もいいことだし、
今日は街に買い物に行くわよ!」
「お!街か~、いいねぇどんなのか楽しみじゃね~か~
なにか買いたいモンでもあんのかルイズゥ~?」

音石からしてみれば召喚されて以来
この学院を一歩も外に出ていなったので
この世界の街というのがどのようなものなのか
かの有名なルーブル美術館を観光するかのようで
非常に楽しみで心が躍った。

しかしそれはそうとして、なぜ急に街に行くなどと
言い出したのか。そこに小さな疑問を感じていた。

「わたしじゃないわ、オトイシ。アンタのよ」
「オレの?」
「そっ、さすがに自分の使い魔をずっと藁で
寝かしておくのもなんだし。
今日はアンタ用の枕やモーフを買ってあげるのよ!」

そのルイズの言葉に音石は目を見開かせ、
やがてその顔に笑みが浮かび上がった。

「おいおいおい!なんだなんだァ~ルイズ!
随分とメチャ嬉しい事してくれんじゃね~か~~!
こりゃ明日は空から槍が降ってくるぜェ、はっはっは」
「一言多いのよアンタは!
そ、それと勘違いしないでよね!
使い魔の面倒を見るのは貴族として
当たり前のことなんだから!」

はいはい、笑みを浮かべながら音石は言葉を返し、
街に行くための支度を手伝い、
部屋を出る際に小さな袋を手渡された。
袋の中を見てみると、音石は「おおっ!」と声を上げた。
小さな袋の中には輝かしい金貨がギッシリと詰まっていた。

「財布を持って守るのも使い魔の役目よ」
「なるほどな」
「あ、それから。街に行くんだからスリとかに気をつけなさいよ?」
「わかった、任しとけ」

音石の頼りがいがあるような態度に
ルイズはどこか安心したが、この時彼女は気付かなかった。
自分の使い魔が主人である自分の目を盗んで、
いつの間にか袋の中の金貨を四枚ほど抜き取り、
ポケットにいれていたことを。

音石明。この男、やはり悪党である。

ルイズはそのまま忘れ物がないか確認した後、
音石とともに自室を後にした。





学院の庭をルイズの後に続いて歩いていると
音石はあることに気付いた。

「おいルイズ、学院の門はあっちだろ?
どこにいくんだ?」
「街までは結構距離があるから
乗り物を取りにいくのよ」
「乗り物?」

音石の頭に?マークが浮かび上がると
奇妙な小屋に辿り着き、中からシエスタが出てきた。

「シエスタ?」
「ミス・ヴァリエール。頼まれていたモノは
用意しておきました」
「そう、ありがとう。それじゃあここまで連れてきて頂戴」
「かしこまいりました」

貴族であるルイズの前では
シエスタも給仕としての顔を覗かせており、
いつものシエスタからは想像も出来ない真剣な顔で
ルイズに対処していた。
音石はそんなシエスタにどこか感心していたが、
次に彼女が連れてきた『モノ』を見て、体がぴたりと止まった。

「………馬?」

そう、馬である。二頭のでかい馬。
その小屋は貴族用の馬を置いておく厩舎小屋なのである。

「なあ、まさか……こいつに乗って?」
「そうよ、当たり前でしょ?」

あっさりと返答するルイズに音石の頭と肩はガクッ下がった。

(マジかよ~、なんかもっとこう……
魔法を使った乗り物を想像してたぜ、
『アラジンの魔法のランプ』に出てくる
空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)的なモノをよ~~
うわァ~、一分前のおれ殴りてェ………)

「ちょっとオトイシ。どうしたのよ?」
「なぁルイズゥ~、オレ馬なんて乗ったことねぇんだけど」
「そうなの?あんたがいたトコって馬がいないの?」
「別にいねぇーわけじゃねぇんだが………」

そこで音石は、シエスタに聞かれると面倒だと判断し
ルイズの耳元で小声で話しかけた。

「オレの世界じゃ自動車や自転車やらの
移動手段があるから、馬なんて普通つかわねぇんだよ」
「そうなの?」
「別に馬がいないってわけでもねぇんだが………、
趣味とかスポーツぐらいでしか生の馬自体みかけねぇんだよ」
「え、じゃあオトイシ。
あんた馬を直接見たのコレが初めてなの?」
「当たり前だ。こんなのテレビぐらいでしか見たことねぇーよ!」

はあっ、とルイズに口から大きな溜め息が出た。

「もう、仕方ないわね。ええっと…確かシエスタだったかしら?
悪いけどその馬たちを門の外まで連れてきて頂戴。
オトイシ、さすがに学院内じゃなにかとあれだし
学院の外で私が馬の乗り方を教えてあげるわ」

(ご親切ありがてぇんだが、すっげー乗りこなす自信がねぇ……)

その後、音石はルイズのご教授の下、
乗馬についてとりあえず基礎から教えてもらい
貴族用の馬だけあってか、馬自身も利口でおとなしく
一時間半かけて音石は少しずつ順応していった。
しかしまあそれでもぎこちないのはお約束。
だがそれでも、わずか一時間半で
馬を走らせる程にまで扱えるようになれるのは、
成長性の高いレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体である
音石本人の驚異的な順応性や学習性の高さあってのものだろう。

そんなこんなでやっとの思いで何とか馬に乗って
走らすなどのある程の技術を使えるようになった音石は
ルイズの後に続いて壮大な草原を馬で走らせていた。

「はっはー!乗れるようになっちまうと
意外と楽しいじゃねーか!YES!GO!GO!」
「ちょっとオトイシ!あんまり調子乗ってると
おっこちちゃうわよ!落馬ってとっても危ないんだから!
あ、音石。そこを右に曲がって!」

ルイズよりも先行し、音石は馬を走らせ
はじめての乗馬経験でテンションが上がっており
落馬の危険も顧みず、お構いなしに馬のスピードを上げていた。
しかし音石は知らない。
目的地であるトリスティン城下町は
馬で走らせても三時間かかるほどの距離にあることを……。

790 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12:41:40 ID:d/YP6Vt0 [12/27]
そして一方こちらは、所戻ってトリスティン魔法学院。
そこはタバサの部屋である。
彼女は虚無の曜日を読書で費やすことを日課としており、
音石と出会う少し前に借りていた本を物静かに読みふけっていた。

【コンッ……コンッ……】

その静寂を小さく突き破ったのは
部屋のノック音だった。しかし誰かは見当がつく。
学院の教師に呼び出されるような心当たりはないし、
自分の部屋に尋ねてくる人物など『彼女』以外考えられない。
本来ならせっかくの読書の時間を無駄にしたくないので
このまま無視するにかぎるのだが、タバサを違和感を感じていた。
扉のノック音に『彼女』らしい、活発で元気な感じがなかったのだ。

「………どうぞ」

タバサがそう言うと、部屋の扉はゆっくりと開かれ
入ってきたのはキュルケであった。
キュルケを見たとき、表情には出さなかったものの
タバサは内心驚いていた。
キュルケの顔が見ているだけでわかるほど
とても暗い表情をしていたからだ。
いや、表情だけじゃない。目の下にクマが出来ており
よく見ると目元に乾いた後がある。泣いていたのだろうか?

791 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12:42:25 ID:d/YP6Vt0 [13/27]
「タバサ……、お願いがあるの…」
「……………何?」

とても暗い声、普段元気活発溢れる彼女からは
想像も出来ない声の低さにタバサは只ならぬものを感じた。
キュルケはタバサのかけがえのない親友だ。
その親友がこんな姿になっているなんて
余程のことがあったのだろうとタバサは察した。

「ルイズと……その使い魔のオトイシが
城下町に買い物に行ったの(シエスタから聞いた)
急いであの二人を追いかけないといけないのよ
だからお願い。貴方の風竜、シルフィードの
力を貸してほしいの、わけは………聞かないで」
「…………………」

タバサは無言のまま部屋の窓を開き、口笛を鳴らした。
するとどこからか青い肌をした竜、タバサの使い魔
シルフィードが現れた。

「ありがとうタバサ」

タバサがシルフィードに跨ると、キュルケもタバサの後ろに跨り
学院から飛び上がった。向かう先はトリステイン城下町……。



一方その二人、ルイズと音石は
トリステイン城下町の大通り、ブルドンネ街に辿り着いていた。

「…………………………………」

そして音石は、その一角の壁に手でもたれかかり
背中の腰辺りをさすっていた。


「もう!言わんこっちゃないわね!
乗馬初心者のあんたがあんな長い距離を
馬でとばしまくったら、そりゃ腰も痛めるわよ!」
「…………面目ない」

さすがに音石も言い返す言葉も見つからなかった。
調子に乗って墓穴を掘ってしまうのは彼の悪い癖である。
実質、三年前の杜王町の一件でも
この癖が原因で散々な目にあっている。
音石自身もこの癖には反省しようと努力してはいるのだが
元々彼の性格上の問題もあってか、なかなか直せるものでもない。
しかし言い換えれば、そこが彼の魅力のひとつなのかもしれない。

「………もしまだ痛むんだったらここで待ってる?
私ひとりで買い物済ませるから………」
「……いや、大丈夫。だいぶマシになった」
「無理してないでしょうね?」
「無理なんてする必要があるかっての」

音石は大きく背中を仰け反ると、背中からポキポキッと
気持ちのいい音がなり、それと同時に腰の痛みを引いていった。

「そう、ならいいわ。それじゃいくわよ!
はぐれて迷子とかにならないでよね」

ルイズが街中を歩き出し、音石もその後に続く。
しかし人ごみを進んでいるうちに音石はあることに気が付いた。

「それにしても随分と道が狭いな。ここって大通りなんだろ?」

音石が向こう側の壁とこちら側の壁を
目で測ってみると、だいたい5mぐらいしかない。



「そうよ、あんたの世界に比べたら狭いかもしれないけど
こっちの世界のわたしたちからしてみれば
コレぐらいが普通なのよ」
「まっ、そんなもんなんだろーな。認識の違いなんて」
「そんなもんなんでしょーね。あ、それはそうとオトイシ!
ちゃんと財布持ってるわよね?まさか取られて無いでしょうね?
いくらアンタでも魔法を使われたら一発なんだから
気をつけなさいよ」
「魔法?おいおい、魔法を使うって事は
貴族なんだろ?なのに盗みなんてするのかよ?」
「貴族にもいろいろいるのよ。
いろんな事情でその地位を追いやられて
傭兵や犯罪者に成り下がる奴もいるのよ」
「つまり没落貴族ってやつか?
やれやれ、この世界の世も末だな」

何気ない会話を繰り返していると
一軒の建物に辿り着いた。服などが飾られてる
ところから予想するとどうやら衣服店のようだ。
なぜ服屋に?とルイズに聞いてみると
どうやら音石のための変えの服も注文してくれるそうだ。

「いらっしゃいませ貴族様」

店に入ると、早速店員がルイズに
貴族相手の丁寧な接客を行いはじめた。

「今日はどのような御用で?」
「使い魔のための服をいくつか注文したいの」
「こちらの御方ですか、かしこまいりました
どのような衣装をご希望で?」
「そこは彼に任せるわ。オトイシ、どんな服がほしいの?」
「そうだな………」

音石は顎に手を置き、店にある衣装を眺め考えるが
この世界の時代が時代なだけあってか
はっきりいって、これだ!とくるようなモノはなかった。

「オレが今着てる服と同じやつは作れるか?」

音石がそう言うと、その店員は音石に
「失礼」と呟き、音石が着ている服を
手触りで調べ始めた。

「………なかなか変わった作りと材質ですね」
「ワケあって遠い地方から来てんだよ
で、作れんのか?」
「ええ、少し手間取るかもしれませんが
これならなんとか作れるでしょう。
ですが材質が材質のため少々値が張るかもしれませんが……」
「いいかルイズ?」
「ええ、お金はある程度多く持ってきてるから大丈夫よ
でもいいのオトイシ?
せっかくなんだしなんか別の服を買っても……」
「いらねぇよ、それにコイツ(今着てる服)には
けっこう愛着があんだよ。これからなにが起こるかわかんねーし
予備に何着か持ってたって損はねーだろ」
「まっ、あんたがそれでいいなら
もう何も言うことはないわ。
………それじゃ、服が出来次第ここに送って頂戴。」
「かしこまいりました」

ルイズがなにかを書き記したメモと一緒に代金を支払い、
音石と共にその店を後にし、
今度は別の店で枕やモーフを購入し、
服と同じように学院に送るようにと注文した。

やることも一通り終え、二人は現在街を出ようと移動していた。
すると音石はあることに気が付く。

「なあルイズ、この裏路地抜けていけば
近道になるんじゃねぇのか?」

音石の言葉に、ルイズは脳裏にいままで記憶している
この街の構図を展開し、道を辿らせる。

「確かに………、行けるかもしれないわね
事が早く済ませるのには越したことないわ
行きましょオトイシ」

ルイズ自体はその裏路地に入った経験はないが
記憶している街の間取り的に考えると
なかなかの時間短縮になると予想したからだ。
しかしこのような薄汚い路地裏に足を入れるのは
なにがおこるかわからないと抵抗はあったが、
自分にはオトイシという優秀な使い魔がいる。
そう考えると些細なことだと自然に思ったのだ。

そして路地裏を進んでいくと、四辻の道に入った。

「えっと、この道があーであの道があーだから……」

ルイズがその四辻でどの道に進めば
一番の近道になるか考えている一方、
音石はあくびをしながら路地裏の周りを
興味深そうに見回していた。
薄汚い野良猫、道端に散乱しているゴミ屑
そして殺風景な風景。
こうも絵に描いたような路地裏も逆に珍しい。
するとだ、音石の目にとある看板が目に入った。
その看板はファンタジーの剣の様な形になっており
なにか文字が書いてあったが、
生憎音石はこの世界の文字が読めないためルイズに質問した。

「なァなァルイズ」
「ん、なによ?」
「あそこの看板、剣みてぇーな形してっけど
……もしかして武器屋か?」
「あら、よくわかったわね?
確かに武器屋だけどそれがどうかしたの?」
「行ってみよーぜ!」
「はぁッ!?なんでよ!?
あんたなんなに強い能力もってるくせに
剣なんて持ってどうするつもりよ!?」
「別にほしいなんて一言も言ってねぇーだろー?
俺の世界っつーか国にはあんな武器屋なんて
どこにもねぇからよ。興味あんだよ
なあルイズいいだろぉ?ちょっと見るだけでいいからさ~」
「……はァ、仕方ないわね。
まっ、まだ時間には少し余裕あるし今回は特別よ?」

よっしゃ!と音石は歓喜の声を上げ、
早歩きでその武器屋に向かった。
店の中に入ると、壁に剣や槍が飾ってあり
つぼの様な容れ物にもあらゆる武器が収納されている。
おお!すげェ!っと日本ではまず見れない光景に
音石は興奮を隠せず、店の見渡した。
すると店の奥からどこか胡散臭そうな主人が現われた。

797 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12:47:10 ID:d/YP6Vt0 [19/27]
「これはこれは貴族様!
いらっしゃいませ、当店に一体どのようなご用件で?」
「別に用って程じゃないわ、ウチの使い魔が
どうしても見たいっていうから連れてきただけよ」
「は、はァ。さようでございますか………」

店主は内心舌打ちをした。

(ウチの店は見世物じゃなく、商売をやってんだ!
せっかくの貴族の客だってのにこのまま帰してたまるか!
この世間知らずの貴族からたっぷりと金を搾り取ってやる!)

悪巧みを考えている店主の視線がルイズから
店に飾ってある武器を眺め回っている音石に変わる。

(このにいちゃんがこの貴族の使い魔だってんなら
この貴族よりもこっちをうまく口車に乗せたほうが
効率がいいかもしれねぇな……………
見たところ武器に興味があるようだし
うまくいきゃあこの使い魔を通してあの貴族から
ありったけの金を搾り取れるぜ!!)

「お客様、武器に興味がおありで?」
「ん?ああ、俺がいたところじゃあ
剣みてぇな武器なんて売ってねぇからな」
「ほっほー左様で……、どうです?
せっかくですしなにかご購入なさってはいかがです?」
「必要ないわよ」

店主のあくどい接客にルイズが横槍を入れた。
さすがにその言葉に店主も戸惑ったが、
逆にそれを止めたのは音石だった。

「まぁまてよルイズ、このおっさんが
言ってることも一理あるぜ?
せっかく来たんだし、なにか記念に買って帰るのも
悪くはねぇだろ」
「あんたに武器が必要だとはとても思えないんだけど…」
「世の中『もしも』って時がいくらでもあるんだ
その『もしも』に備えとくのもありだと思うぜ?」

音石が言う『もしも』とは
スタンドの射程距離のことである。
レッド・ホット・チリ・ペッパーは
電線などによる発電物がない限り、
その射程距離は一般の近距離パワー型と
ほとんどかわらない。
ついでに近距離の場合の
レッド・ホット・チリ・ペッパーの
パワーの源である電力は音石の
精神力(スタンドパワー)によって補われている。
それ故にこの先この世界でどんなことが
起こるかわからない以上、ソレに備える必要がある。

例えば何らかの原因でまた貴族と対峙したとしよう、
彼らは基本、距離を置いての魔法を行使する。
コレが致命的であり、こちらのスタンドの射程距離に
相手が入らない限り、こちらは打つ手がない。

つまり音石は遠距離に対応できる武器がほしいのだ。
これはSPW財団から聞いた話なんだが
かつて自分が『弓と矢』を使って生み出した二匹の鼠、
その二匹はどうも遠距離のスタンドを使っていたそうだが
仗助はどうもベアリングとライフルの弾を使って
スタンド射程を補い、コレを撃退したそうだ。
その例もなる。用心に越したところで
別に損もないだろうと判断したのだ。
問題はどんな武器にするかだ。

「弓……いや、ナイフとかないか?
こう……投げる用に有効なやつ」
「かしこまいりましたお客様、少々お待ちを」

店の奥に移動した店主は影で音石たちを嘲笑った。

(やりぃー!うまくいったぞ!
この勢いでどんどんせしめ取ってやるぜ!!)

「これぐらいしか置いてありませんが如何でしょう?」

店奥から戻ってきた店主は、
木箱のケースに収納されているナイフを持ってきた。
音石はへぇ…っと呟き、ナイフを手に取り
ダーツを投げるような仕草でナイフを動かした。

「お気に召しましたかな?」
「ああ、なかなかいいじゃねぇか。気に入ったぜ」
「そいつぁよかった。どうですお客様?
そのナイフのついでにこちらの剣も如何です?」

すると店主はカウンターの下から、大剣を取り出してきた。

「我が店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの
錬金魔術師シュペー卿の傑作で。
魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさあ
どうです、美しい刀身でしょう?
今ならお安くしておきますよ?」


確かに見事な大剣である。宝石などもちりばめられ
その美しさを引き出している。
しかし少々度が過ぎる感じがある。
その大剣を見た瞬間、特に興味もなく
退屈そうにしていたルイズがはじめて
その大剣に興味を示した。

「あら、ほんとに綺麗な剣ね。一体いくらなの?」
「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ってところでさ」
「高すぎるわ。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの
もっと安く出来ないの?」
「貴族様ぁ~、勘弁してくだせぇ
ウチも生活がかかっているんですよ」

(別に剣はいらねぇんだがなぁ)

いつの間にか店主の交渉対象がルイズに変わってしまい
音石は何気なく陳列している武器を1つ1つ見ていると
とある一振りの剣に目が止まった。
鞘の形状からすると日本刀のように反りの入った剣だった。
音石はなにか引き寄せられるかのように
その剣に手を伸ばし……その剣を掴み取った。

「こいつはおどれぇーた、声もかけてねぇのに
俺をこの大量の武器の山から選び取るとは……」

すると突然、どこからか低い男の声が聞こえた。
音石は周りを見渡すが、自分とルイズと店主以外
この武器屋にはだれもいない。

「どこ見てんだよ……、あ~なるほどな
選び取れる筈だぜ。お前使い手か」

音石は耳を澄まし、声の発信源を探ってみたが
その声はどうやら自分が持っている剣から放たれているようだ。

「剣が………しゃべってんのかッ!?」
「おうよ!オレはデルフリンガー様だ!!」
「それってインテリジェンスソード?」
「なんだそりゃ?」
「簡単に言えば魔法で人格が宿ったマジックアイテムよ」
「ふ~ん。インテリジェンスソードね~」
「こらデル公!!お客様に変なこと吹き込むんじゃねぇ!!」
「うっせえクソおやじ!!おいお前!
出会ってばっかでなんだが、お前オレを買え!!」
「はっはっは!こいつはおもしれぇー。
剣が売れ込みをしてるぞ!!」
「ちょっとオトイシ、あんたまさかその剣
買うつもりじゃないでしょーね!?
インテリジェンスソードなんてやめなさいよ!!
うるさくてかなわないわ!
それにこの剣、よく見たら錆だらけじゃない
そんなのよりこっちの大剣のほうがよっぽどマシよ!」
「世間知らずの貴族の娘っ子には
俺様のすばらしさなんてわかんねーだろーよ!!
あんな見かけだけのデカイ剣なんかより
オレを買ったほうが絶対得だぞ!!」

剣と人間との口論のなか、音石は少し考え
あるいい方法を思いついた。

「なぁおやじ、この大剣は鉄も一刀両断できるんなら
当然それなりに頑丈なんだよな?」
「え?……あ、ええああそりゃあもちろん!
なんたってこの剣は【パキィンッ!】かの有名な……え?」

店主は一瞬何が起きたのか理解できなかった。
しかし次第に何が起きたのか理解していった。
そう、高値で売りつけようとしていた大剣が
突然真っ二つに折れてしまったのだ。

「どうやらなまくらだったようだな」
「な、な、なァァーーーーーーーーッ!!?
な、な、なんで!?け、剣が勝手に!?」

店主はせっかくの品物が使い物になれなくなった現実に
理解できないまま悲痛の声をあげていたが
ルイズは音石がなにをしたのかしっかりと理解していた。
レッド・ホット・チリ・ペッパーを発現させ
中指で大剣をでこピンするかのように打ちつけたのだ。
その結果、大剣は真っ二つに折れたのである。

「ちょ、ちょっとオトイシ。あんたなんで」
「おいおいルイズゥ~。剣を買う買わない以前に
オレにはコイツ(スタンド)があるんだぜ~~?
仮に剣を使うんなら、コイツの攻撃に
耐えられるような剣じゃねぇと意味がねぇだろ~?」
「お、おめー、今のは一体?」

手に持つデルフリンガーからも驚きの声が上がった。

「さすがに魔法で作られた剣だけあって
見えるようだな?さ~て…果たしてお前はどうかな?」

音石のレッド・ホット・チリ・ペッパーは
デルフリンガーの傍に近寄り、
中指を親指で押さえ、でこピンの体勢にはいる。

「え!?お、おい!ちょっとまて…」
【ガァアアアンッ!!】
「いってえええええええっ!!!」

レッド・ホット・チリ・ペッパーの強烈なでこピンで
デルフリンガーの刀身は大きな悲鳴を上げたが
なんと剣は折れることなく、それどころかヒビも入っていなかった。

「………なるほど、上出来だ」
「あ、あんた。時々怖いぐらい無茶するわね……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」

「で、でもやっぱりわたしの使い魔として
もっと見栄がいいモノがいいわよ~、例えばそうね~…」

するとルイズが許可もなく店の奥に
ずかずかと入っていった。

「え?ちょ、ちょっと貴族様!?」

ショックで落ち込んでいた店主も
ルイズの勝手な行動に我に返り
ルイズに制止の声をかける。
それでもルイズは足を止めず更に店の奥へと入っていった。
自分が貴族であることを鼻にかけているのだろう。


「しっかし汚い店ねぇ~~、掃除くらいしなさいよねぇ」

ルイズは自分のことを棚に上げながら
店に罵倒を浴びせ、店の奥の貯蔵庫を見回りはじめた。

するとだ……、散乱してる武器の中から
一本の剣がルイズの目に止まった。
ルイズはその剣を見た瞬間、一直線にその剣に歩み寄った。

「こういった薄汚いところに上等な掘り出し物があるって
以前だれかに聞いたことあるけど、
案外その通りなのね…。この剣、とても美しいじゃない
こう言った剣こそ私の使い魔の持つものとして
相応しいわ…………。でも本当に美しいわね……
いっぺん抜いてみようかしら………」

ルイズはそのままゆっくりと
その剣に歩み寄り、手に取ろうと手を伸ばした。

「ちょっと貴族様!さすがに困りますぜ!!
………ッ!?あァーーやばい!!!
その剣を手に持っちゃだめだァーーーーーッ!!!」

ルイズを止めようと追いかけて姿を現した店主が
ルイズがその剣を手に取ろうとした瞬間、
大声で静止の声をあげた。

しかし…………時既に遅し!!
店主が声を上げたときには
ルイズはその剣を『引き抜いていた』!
店主に続き音石もデルフリンガーを手に
ルイズを追いかけたが音石はルイズの顔を見た瞬間息を呑んだ
その顔はまるで別人で、目には殺気が充満していた。
ルイズはその剣を手に振り返り
音石に向かってある言葉をささやいた。

「お前の命………、貰い受ける」

その剣にはデルフリンガーのように名前があった。
   その名はアヌビス
それ以上でもそれ以下でもなく
それがその剣の名前だった。

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