ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-18

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だれでも歓迎! 編集

康一は、学院の中庭で荒く息をついた。髪も服も、もみくちゃにされてボロボロである。
ちょうど厨房での熱烈すぎる歓迎から逃げてきたところなのだ。
「歓迎されるのはうれしいけど、引け目があるぶん素直に喜べないんだよなぁー」
褒められれば褒められるほどなんだか申し訳なくなってくる。
以前テスト中、はずみで他の人の答案が目に入ってしまったときの気分だ。
いい点数を取って先生や親に褒められたが、嬉しいというよりも後ろめたくなってしまうものだ。
康一はところで・・・と、あたりを見回した。
「ここ・・・どこだ?」
康一のまわりを塔が囲んでいる。
このトリステイン魔法学院は、中央の本島を囲むようにして、火や水などといった名前を冠する塔が立ち並んでいる。
どれもこれも似たような石組みの建物なので、まだここに来てまもない康一は自分がいるのがどこなのかわからなくなってしまった。
「ここは火の塔と風の塔の間にある中庭ですよ。」
康一が振り向くと、メガネをかけた女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
妙齢の美女といっていい。緑色のストレートな髪が風になびく。
それにしてもこっちの人の髪の毛はカラフルだよなぁー。と康一は思った。
「えーっと、どなたです?」
「わたくしはオールド・オスマンの秘書をやっています。ロングビルです。あなたをお迎えにきました。」
ミス・ロングビルは「お目覚めになったと聞いたので。」と微笑んだ。
「オスマンさんがぼくに何か用なんですか?」
ひょっとして帰る方法が分かったのだろうか。
「詳しくは直接お話したい、とおおせつかっておりますの。ついてきて頂けますか?」
「いいですよ。」
康一は二つ返事で承諾した。
そもそも、部屋を追い出され、厨房から逃げてきた康一には、行くところがなかった。
「よかったですわ。それではこちらへ。」
ミス・ロングビルは康一を先導して歩き出した。



ミス・ロングビルはノックをしてから扉を開けた。
以前にも来た事がある。学院長室だ。
「失礼しまぁーす。」
ロングビルに続いて康一も中に入った。
康一の中では、学校の職員室に来るときのような感覚である。
「おお、よくきてくれたね。ミスタ・コーイチ!」
奥の大きな机の向こうに座って、書きものをしていたらしいオールド・オスマンが、相好を崩した。
「ギーシュ・ド・グラモンとの一戦。遠巻きながら見させてもらったよ。もう体は大丈夫なのかね?」
実はあのとき、決闘をとめようとした教師達をオスマンは制止し、遠見の水晶球でその様子をすべて見ていたのだ。
当然康一のことを観察するためである。
「お、お陰様で・・・。」
康一は冷や汗を流した。
最初にあったとき、スタンドを見せてはいけないと知らなかった康一は、堂々と目の前でACT3を出してしまっているのだ。
オスマンはロングビルに目配せをした。
ロングビルは一礼して学院長室から出て行く。
二人っきりになったオスマンは、康一に椅子をすすめた。
「まぁかけなさい。いろいろしなければならない話もあるしのぉ。」
薦められるまま、康一はソファーに腰掛けた。
その正面に座った気のいい老人は、第一声でこういった。
「きみの『スタンド』は『マジックアイテム』ではないんじゃのぉ。」
康一はぎくりとした。
火あぶり、という単語が意識を横切る。
「さ、さぁ。どうでしょうね。」
康一はとぼけてみた。
オスマンは目を細めた。
「あの時、『ディテクト・マジック』をかけた生徒は、君が『マジックアイテム』を持っていないといった。しかし、君は以前見たのとは別の、二体の『スタンド』を出した。」
まさか全部見られていた!?
康一は驚愕した。
死角を使い、一瞬の隙を使い。できるだけばれないようにしていたのに!
康一は黙り込んだ。
「わしは、このハルケギニアで人よりも少々長く生きてきた。そのせいか、どうも常識に捕らわれてしまうことがあるようじゃな。」
ほっほっほっほ、とオスマンは笑った。
「どうしたかね?なにやら緊張しているようじゃが・・・」
ひょっとしたら、今すぐ逃げたほうがいいのかもしれない。
今なら目の前に座っているのは老人一人。切り抜けることができるかもしれない。
康一は半分覚悟を決めた。
「・・・この世界では、『系統魔法』以外の異能の力は『先住』と呼ばれているそうですね。」
「ほう。よく知っておるのぉ。」
「・・・ぼくの力が『系統魔法』によるものでないとしたら、どうしますか?」
康一は部屋の窓を確認した。あそこを破って飛び出せないだろうか。
「この部屋の窓は、スクウェアクラスの『固定化』がかけられておる。体当たりしたくらいではやぶれやせんよ。」
康一は身を硬くした。
心を読まれた!?そういう魔法でもあるのだろうか。
オスマンは顔の前で手を組んだ。
「君はどうやら誤解をしているようじゃの。わしが君を『先住』の使い手として王宮に突き出すと思っているのかね。」
康一は何も言えずに押し黙った。
「少しこの老人の話を聞いてもらえるかの?」
オスマンはソファーにもたれかかった。
「我々メイジが『系統魔法』を扱うことで、特別な地位を築いていることは知っておるね?平民やちょっとした魔物など、訓練されたメイジが一人いれば簡単に蹴散らせてしまう。」
「しかし、例外もある。それがエルフじゃ。エルフは始祖ブリミルの時代より聖地をめぐり、戦ってきた相手。そして、我々メイジは、『先住魔法』を使うエルフ達についぞ勝った事がないのじゃよ。」
「だから我々は『先住魔法』を極端に恐れるのじゃ。自分達が知らない力は、『先住』として恐れ、狩り立てる。」
じゃが・・・。オスマンは続けた。
「本来『先住魔法』とは自然界に宿る精霊の力を借りて力を行使するものじゃ。じゃから、別名を『精霊魔法』とも呼ばれておる。」
「ひるがえって君を見るに、君が見せてくれた3体の『スタンド』は、自然界の精霊とは明らかに異なっておる。わしも長く生きるが、そんなものは見たことがないのじゃよ。」
「じゃから興味が沸く。どうじゃね。『スタンド』とはなんなのか、わしに教えてはもらえんじゃろうか。」
話せる所まで構わんぞ?とオスマンはウィンクした。
康一は観念した。

「・・・『スタンド』は、『生命エネルギーが作り出す、パワーあるヴィジョン』と言われています。ぼくは、自分の『分身』って言ったほうがしっくりくるんですけど・・・」
「『分身』かね。」
「ええ、『スタンド』は『スタンド使い』の魂の形や強い思いを反映すると言われてます。ですから、一人一人形状も能力も違うんです。」
「君が『ACT3』と呼んでいたものは、『ものを重くする能力』というわけじゃな?」
「ええ。まぁそういうことです・・・。」
オスマンはこの康一の告白に驚くと同時に少し興奮していた。
「(この歳になってまだ知らぬことがあるとは、この世界も捨てたものではないわい!)」
しかしそれを表情には出さない。
「しかし・・・その『スタンド』とやらはどうやったら手に入るものなのかね?」
「いろいろです。生まれつきもっている人もいますし。ぼくは『矢』に貫かれて『スタンド使い』になりました。」

「『矢』・・・とは、あの弓で飛ばす矢のことかね?」
「はい。ある特殊な矢で刺されると、『スタンド使い』になる可能性があります。」
「可能性・・・ということは、なれないこともあると。」
「はい。相性のようなものがあるようです。」
「『矢』か・・・」
オスマンは何かを考えるようにして顎鬚を撫で付けた。
「何か心当たりでもあるのですか?」
「いや・・・恐らく君がいっているものとは違うじゃろう。じゃが、宝物庫に『弓と矢』がしまってあるのを思い出したのじゃよ。」
「そうですか・・・」
「(まぁここに『あの弓と矢』があるわけがないよなぁー。)」
黙り込んでしまったオスマンに、この際なので康一は疑問をぶつけることにした。
「あの・・・実はぼく、すごく不思議に思うことがあってですね・・・」
「ん?なんじゃね。いってみなさい。」
「本来は、基本的に『スタンド』は『スタンド使い』にしか見えないんです。」
「なん・・・じゃと・・・?」
オスマンは目を見開いた。
「でも、こちらの人はみんな『スタンド』が見えるみたいで・・・。だから最初、みんな『スタンド使い』だと思ったんです。」
「ふーむ・・・」
オスマンは腕組みをした。目を瞑って何かを考えているようだ。
「あのー・・・」
康一は不安になって尋ねた。
「ぼくはこれからどうなるんでしょうか。」
オスマンは目を開けた。
「君さえよければ、ミス・ヴァリエールの使い魔を続けてくれるとうれしいんじゃがの。」
「よかったぁー!」
康一は胸をなでおろした。どうやら大事にはならなさそうだ。
「驚かせてすまなかったの。もう帰ってもいいぞい。」
「あ、はい。それじゃ、ぼくそろそろルイズの部屋に帰りますね。」
康一は立ち上がった。
扉に向かう康一にオスマンは「君の『スタンド』じゃが・・・」と声をかけた。
「はい?」康一が振り向く。
「メイジではない、平民に見せたことはあるかね?」
「? えーっと・・・そういえば、ない・・・のかな・・・?」
「今度ためしに見せてみてはどうかね?ひょっとして何かわかるかもしれん。」
「はぁ・・・わかりました。」
康一は首を傾げながらも頷いた。



康一が出て行った後、オールド・オスマンは本棚から一冊の分厚い本を取り出した。
ぱらぱらとページをめくり、とある章で目を留める。
「・・・『ガンダールヴ』・・・か・・・」
その本を机の上に置く。
開かれたページには様々な紋章のようなものが並べられている。
そのうちの一つ。『始祖の使い魔』という項目に描かれていたのは、康一の左手に使い魔の印として刻まれているルーンだった。

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