ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-09

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浮遊大陸アルビオン。
一定のコースで周回浮遊し、2つの月が重なる夜にトリステインの港町、ラ・ロシェールに最接近する。
ラ・ロシェールから見える下半分を常に白い雲に覆われた姿は美しく同じ名を持つ国家『アルビオン』は『白の国』と呼ばれ親しまれてきた。

始祖ブリミルの子供の1人が興したこの国は聖地奪還という大儀を掲げる貴族達の反乱により長い内乱状態にとなり、外見はそのままに国土は荒れ果てた。
国王を失いながらも勝利したアルビオン王家は内乱で荒廃が進んだ国内を立て直すために、新国王ウェールズは精力的に活動しようとしていた。
王女として認められ、父親の領地を回復したティファニア王女もそれを手伝おうとしている。

その水面下で…空を永遠に漂う白い国に隠された暗い闇は、二つに分かれようとしていた。

「アンタらはここで何をやってんだい!! 今がティファニア様のお手伝いをするべきじゃあないのかい!?」

王都ロンディニウムの片隅にある古い酒場に怒声が響いた。
アルビオン建国と同時期に開店したという店内には様々な服装の百近い人間が肩を寄せ合い、千年以上も昔から残る固定化を掛けられたアンティークが並べられている。
ここ百年程度に作られた椅子やテーブルに混じって並ぶそれらのせいで、目の利く者が見れば余りの年代のばらつきから気持ち悪さを感じる店のカウンターの真ん中で、妙齢の女性が張り上げた声だった。

コートで体をすっぽりと覆った女性の名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。
王が変わると同時に表舞台に立ったテファニア王女を先王から匿い続けてきた女性は、サウスゴータの町の太守に戻ることは未だ出来ていない。
今はモード大公となったテファニアの最も信頼厚き家臣としてモード大公家に、アルビオン王家に仕えていた。

「だが断る。わしはアルビオン王家の為に働く気は一切ない」

彼女から少し離れた店の隅から、随分と草臥れた服の老人が言葉を返す。
老人を鋭く睨みつけるマチルダの口からは舌打ちが漏れた。
上等の生地を使い仕立てられた服を数十年に渡り着続けるその老人のことは、今店内にいる者は誰もが知っていた。
エルフの愛人を作り、その間に娘を作った末に兄に処刑されたモード大公。
その大公に直接仕えていた者たちの中で最も年長でモード大公の信頼厚い人物がその老人だったからだ。

老人の言葉に店内の2割以上の人間が頷いた。
彼や彼と意見を同じくする者には、アルビオン王家への恨みを捨てる事は納得できない事だった。

「わしが今更貴族と呼ばれ、平民共に嫌々へーこらされる為にティファニア様を匿ってきたと思っているのか!? わしはモード大公に受けたご恩を返す為に生き恥を晒しながらティファニア様を匿い続けてきた! 単純だがただそれだけの理由だッ!」

老人は立ち上がり、店の客達の中でも老人のような一部の人間にだけ許されたアルビオン建国当時に作られたと言うこれまたみすぼらしい木のジョッキをテーブルに叩きつけた。

「そのわしがモード大公を殺し、奥方までも…更には、ティファニア様まで殺害しようとしたアルビオン王家に尻尾を振れるものかッ!!」
「気持ちは痛いほどわかる。しかしティファニア様はアルビオン貴族の、いや…王家の一員となられた。ウェールズの王党派しかおらぬハヴィランド宮殿にお一人で行かせるわけには行くまい」

マチルダの隣に座るアルビオン王国の魔法衛士隊の制服…翼を広げた竜の意匠が施されたマントを身に着けた壮年の男が言う。
熱くなろうとする老人を冷ややかに見つめ、諭すような口調で言うその男もモード大公縁の者には違いはない。
だがその男はマチルダと同じくモード大公が存命していた頃はまだ若く、その分モード大公への気持ちよりティファニアを案ずる気持ちが強かった。

「荒廃した国を立て直すことをティファニア様も望んでおられるのだろう。我々はそれに従うべきではないのか!?」

先ほど頷かなかった残りの人間達が皆一様にその言葉に賛同し、非難がましい眼を向ける。
この店内にいるのは全て彼らの同志であり、居合わせる者達の六割の意思はアルビオン王家に忠誠を誓うか否かのどちらかに定まっていた。
残りの四割、若手を中心とした層や優秀な者達は賛成とも反対とも付かない態度を示している。

今この店にはモード大公家縁の者達が一堂に会していた。
彼らは今日この日、この場で話し合うことで、王族の一員となったティファニアを助ける為にアルビオン王家に心底から仕えるべきか否かを決断しようとしていた。

「荒廃した国を立て直すことと王家を後押しするかは別の話しだ! 内乱を防ぐ事が出来なかった王家に実権を握らせる必要はない」
「フン、だがティファニア様はその王家の一員となられ、ハーフエルフであることも暴露してしまった。お守りするにはウェールズ陛下を立てる方が都合がよいのではないか?」
「それは…ウェールズ陛下がティファニア様を利用する気がなければの話しだ!」
「貴族派が消えたとはいえ、王権が弱まったのは確かなのだ。今これ以上弱まればどうなるかわからないのか? 枢機卿閣下や聖女様がいつまでも頼れるかはわからんのだ。
もうハーフエルフであることは暴露してしまったのだ。諸侯は、動揺している。これ以上の王家の衰退はティファニア様の身を危うくするぞ」

王家にエルフの血が混ざったことを聖女が肯定している。
教会上層部の意見もプッチ枢機卿の手によって肯定することで満場一致となっており目立った批判は出ていない。
だが今まで逆の教えを受けてきた貴族や平民達の間には反対する声も確かにあるのだった。
しかもそれは、国外だけの話ではなかった。

「王党派もティファニア様に対しては一枚岩ではない。支えられるのは我等だけなのだ。たとえ軽んじられようともな」

付け加える声がどこかから上がった。
ウェールズを主と仰ぐ王党派の貴族は、貴族派の裏切りに始まり、滅びる寸前の逆転、他国の駐屯を許す現状に、王党派の中には内乱を共にくぐり抜けた者しか信用しないという風潮があった。
そんな彼らにとって異分子でしかない王弟でありながら王家に逆らい処刑されたモード大公を父に、これまでのブリミル教の教えやハルケギニアの歴史からすれば宿敵であるエルフを母に持つティファニア。
そのテファにモード大公からの忠誠を尽くすモード大公家縁の者は軽んじられていた。

「幸いにしてウェールズ陛下はテファニア様の味方と見ていい。あの方を立ててゆけば大公家はアルビオンの重臣となる。
我等にはパッショーネで学んだ地球の学問がある。ネアポリス伯爵家がどのようにして発展したかも知っている。当然だ…我々がボスを影で支え、組織の政務を担ってきたのだからな」

自分こそがネアポリス伯爵家を、伯爵家と一体となったパッショーネをのし上がらせたと言う自負に満ちた言葉に店にいた者達の殆どが頷いた。
モード大公家縁の者達の中でも若者達が集まる店の奥のボックス席。杖で決着を付けねばならぬ状況に陥った際の為に保険として呼ばれた牛男もこれには頷かざるを得なかった。
彼らモード大公縁の者達はパッショーネに早くから参加し、そこで地球の学問に触れた。
代々下級役人や官僚、軍人を勤める貴族の血統。
父祖の姿を見て育てられた彼らの身体、精神の下地が知識の吸収を早めた上、実行にあってはハルケギニアの実情に合う手法を選ばせていた。
ガリア、ゲルマニア、トリスティン等の国から得た人材も加わったが、麻薬以上の利益を齎す真っ当な収入源を作り上げた功績は無視できない。
例え画期的で非常に合理的な手法を取ろうとしても、ハルケギニアで受け入れられるとは限らない。
大きな利益を上げられるだろうとと内乱中のアルビオンで貴族派、王党派の双方と商いを行うことを決めた際も
他の商人達を抑え、貴族派と王党派双方から大きな利益を上げられたのは、彼らが商船の乗組員としてアルビオンからの亡命者達を説得したお陰であった。
亡命者達がいなければ他の商人達がもっと利益を挙げていたであろう。
同時に貴族であった頃に培われた矜持に突き動かされ、民衆と共に残った者達は民衆に施しを与え結果的に民衆から人気を得ている。

更に内乱に乗じアルビオンの主要な産業である毛織物や木綿などに携わる職人、王家の庇護にあった畜産農家と彼らの所有する希少な品種。
ハルケギニア一の産出量を誇る風石の採掘に関わって来た労働者、利用法を研究開発する技術者やレキシントン号の設計者等を流出させ、保護したのも彼らの案であった。

特にその中でも確保された職人達は、ジョルノのゴールド・エクスペリエンスによって増やされた家畜やより品種改良された綿を使い良質で、
これまでハルケギニアには存在していなかった地球のファッションを取り入れた服飾を作り上げてネアポリス伯爵家に多大な貢献をしている。
風石に携わってきた者やレキシントン号の設計者も最近合流したコルベールと共に新技術を多数盛り込んだ船『オストラント号』を作り上げようとしているという。

「今は耐える時なのだ! 我らが尽力すれば、王党派とて我らを重臣として扱わざるを得なくなる! それがモード大公家の取るべき道だ!」

カウンターの上に立ち上がらんばかりの勢いで熱弁を振るう賛成派の男に先王への恨みから反対していた者達は、旗色悪しとみてそれまで黙りこくっていた一団に顔を向けた。
ボックス席に陣取る彼ら。縁の者達の若手を中心としたその一団は意見を求められているのを悟り、代表格の男…というか牛の顔色を伺った。
注目を集めながら牛がもったいぶる様に殊更ゆっくりに席から立ち上がる。
彼らの参加するギャング、パッショーネのボスの信頼厚きと思われている牛、ラルカスはボスを真似して冷めた声で言う。

「私から意見を言う前に2、3聞かせてもらおう」
「ん?」
「貴公等は何者だ?」

尋ねられた者達は怪訝そうな表情を見せた。
名を聞かれたのではなさそうだが…一人が答える。

「私はトーマス・イーストウッド。アルビオン王国モード…」

牛はもういいと不機嫌さを隠そうともせず首を横に振った。
トーマスと名乗ったアルビオン王家を支えるべきだとの意見を持つ男は、ラルカスの仕草の中に呆れたものを見て取り不愉快そうな顔をした。
ラルカスはそれを無視して意見を表明していない若手の一人を指差す。指された青年は立ち上がり…一点非の打ち所もないジョジョ立ちを決めた。

「私はトレス。ボスの命令でティファニア様を護衛するチームを率いている」

満足げに牛は頷いた。
牛だけではなく、その周囲に座る若者達と少数の議論の参加に消極的だった様々な年代の者達も力強く頷いていた。
モード大公の生きていた時代幼かった彼らや能力があっても大公に重く用いられなかった者、何よりジョルノ・ジョバァーナに忠誠心を持つようになった者にとっては、既にモード大公家やアルビオン王家は忠誠を尽くす相手ではなくなっていた。

そうした者達の筆頭であるミノタウロスの体にトリスティン貴族であった脳を持つラルカスは冷たい鉄のような硬い声で尋ねた。
2mを超える体格と牛の頭が凄みをより強め、今更パッショーネを踏み台にしてアルビオンがどうこうと言う貴族らに対し湧き上がる怒りが魔力のオーラとなって体から吹き上がっていた。

「もう一度聞こう。貴公等は何者だ? 返答次第では我々とは手を切らなければならないだろう。勿論我々からは傷つけないし監視したりもしないことは約束する」
「…私は」

返答に悩み、視線を避けるモード大公縁の者達をラルカスは見渡していく。
睥睨するラルカスの姿に彼らは要らぬ覚悟を強いられた…
牛や若者らの無言の圧力に圧されながらモード大公縁の者達の二割がアルビオン人である、大公家に仕える人間である、ティファニアに…と応えた。
だが多くの者達が、考えに考えた末に今はパッショーネだと結論をだした。

パッショーネと答える事ができなかた一部の者達と嘘っぽい者達と牛達は話し合い、手を切る決断をした。
その十数名は牛と組織から離れる際の契約を交わす。
パッショーネについては忘れることを条件に、ジョルノが指示していた額の恩給を貰うことが粛々と決められた。

恩給はこの場で…密会の為に奥に用意された個室で渡される事が決まり、彼らは道を別つことを決めたパッショーネの構成員達の様々な感情の浮かんだ視線の中を抜けて、個室へと入っていった。
個室には、既にラルカスに金の管理を任されている者がいた。
牛と同じく、縁の者ではないと紹介された人物で、コートと帽子を目深に被り人相を隠した者をこの場に集まった者は信用していなかったがそれを口にする者はいなかった。
予定が大幅に変えられ、組織から離れる事になった彼らは大恩あるモード大公より、貴族としてよりも犯罪組織に過ぎないパッショーネを選んだ彼らの気持ちがわからずにいた。

そんな彼らに彼女は杖を抜き、震える体を叱咤してあらかじめ唱えておいた魔法を使った。
その声を聞き、気持ちを沈めていた彼らは驚愕し叫ぶように彼女の名を呼んだ。

「ティファニア様!?」
「ご、…う、ううん。皆、今までありがとう…でも、たとえ貴方達でもジョルノの敵になるのは…ゆ、許せないの!」

微笑み、そして怒ったような顔でティファニアは内側の激情を現すように力いっぱい杖を振り下ろす。
かげろうのように、空気がそよぎ、室内の空気が歪む…

それがおさまった直後、個室の扉が外から開かれた。
扉を開き、慌しく個室の中へ入ってきたのはティファニアにとっては家臣の枠を超えた、姉でもあり母親でもあるようなマチルダだった。
ティファニアは入ってきた家族に笑顔を向ける。若干の疲れが滲むテファの表情に、マチルダは眉根を寄せた。

「この人達のパッショーネに関する記憶は全部消したわ」
「ティファニア。アンタ…」
「姉さん…ごめんなさい。わ、私。大公家の名誉とかはあんまりよくわからない。お母さん達のことを知っていた陛下は、し、死んじゃったし」

自分の叔父に当たる人物であり、ウェールズの父でもある先王のことを口に出すテファは、不安や悲しみや…恐怖で震えていた。
数日中にも死にそうだった先王が死んでしまった時の事。
自分を見て怒りを漲らせ、そのまま死んでしまった際の王の顔を思い出したのか杖を指が白くなるほど強く握り締めていた。
だがティファニアは驚愕するマチルダの視線を受け止め、目を逸らさず真っ直ぐに見つめ返していた。
言葉にし難い何かを感じ取り個室に駆け込んできたマチルダは諦めたようにため息をついた。

「こんなことをさせるために守って来たんじゃあないんだけどねぇ…」
「でも私が今出来ることって、これくらいだから……ジョルノの為にも頑張らないと」

ニヤリと、マチルダの背後で牛が笑った。
身に着けた短剣がそれを見られないように意識を奪い去り、直立不動の姿勢をとる。
インテリジェンスソードである短剣…『地下水』もラルカスの行動には賛成していた。

パッショーネは内乱に陥ったアルビオンを食い物にしてハルケギニアで大きく発展した。
これからはアルビオンが復興した際にパッショーネの息のかかった店舗が大通りに立ち並び、仲間の貴族を増やしていくことだろう。
その為にはこの店に集まるモード大公家縁の者達の力が必要だった。

モード大公家縁の者達の中にはテファが表舞台に立ったことで動揺が広がっているのは都合が悪い。
そう考えたラルカス達はティファニアに多少悪い方向に誇張した事情を説明して来て貰い、パッショーネに参加しながら未だに国家や王家に忠誠を誓う者達の姿を見せて、
テファの虚無、記憶を消す魔法を使わせた。

ティファニア達に組織への忠誠心を再教育する為の第一歩としては上々だ。
ジョルノの耳に入った後のことを考えると、嫌な汗が湧き上がってくるが…必要なのだとラルカスらは信じていた。

「テファが牛にたき付けられてこんなことをしてるってこと、ジョルノの奴知ってるのかねぇ?」

マチルダはその日、他の者達と朝方まで飲んだくれた。



モード大公家縁の者達が集会を開いている頃トリスティンに戻ったジョルノ・ジョバァーナは倒れたと言うカトレアに会いに彼女の領地に到着していた。
カトレア自身は直ぐに起き上がろうとしたらしいのだが、彼女がずっと病弱で床に伏せってばかりいたことを知る周囲の人間が大事をとらせて領地に帰らせたのだった。
領地であるラ・フォンティーヌ領の小さな屋敷を訪ねたジョルノは、野手溢れる庭園に通され…少し厳しい目をしたカトレアと面会していた。
重い空気を嫌ってか庭や屋敷のあちらこちらにいるカトレアに拾われた動物達も今は姿を隠している。

共にアルビオンに渡った者達の中では唯一ジョルノと共に戻ってきたペットショップがいつでもジョルノを守る事が出来、邪魔にならない位置で羽を休めていた。
カトレアが庭園に姿を見せた時、ジョルノはカトレアの体が大事無い事を知ってか届けさせた書類の処理を始めていた。

以前学園で会った時と同じように書類を処理していくジョルノを見ながら、テーブルにティーセットを載せた盆を置いてカトレアは対面の席に座る。
すぐに話しださずにカトレアはジョルノの仕事が一区切り付くのを待った。
学園の時もそうだったが、彼女にはなんとなく雰囲気でその瞬間がわかるのだった。

ジョルノの方もカトレアが待ってくれている事に感謝しながら、書類を流し読みしていった。
アルビオンに行き、少し滞在しただけだったがジョルノの判断を必要とする書類は溜まっていた。
組織をより強固にする為に仕事を細分化したり平民や貴族を教育し、事務担当にしようとしているがまだまだ十分ではないせいだ。

その上全く関わりがない他国の内乱で荒稼ぎするのももう終わり。
アルビオンの内乱が終結したことを受けて、パッショーネはアルビオンへ人材を向ける必要に迫られている。
それはパッショーネを他国内に浸透させる為に尽力していたアルビオンの元貴族達をテファニアの元へと向かわせて対応した。
荒れたアルビオンを建て直すのは困難らしく、それでもまだ足りていないようであるし、他の国も…特にトリスティンの戦力が不足していた。
にも関わらず、ジョルノは王都で仕事を任せていた男を一人、次はないと釘を刺して左遷することを決めた。
トリスティン国内でも長い歴史を持つ居酒屋の一つである『魅惑の妖精亭』をやりすぎて閉店に追い込んだというその男の後任にはその男を止めようとした女を抜擢し、今後の動きを考える。


トリスティン内のレコンキスタに賛同していた貴族を取り込む。
あるいは、マザリーニに売りその後釜にパッショーネの息のかかった者を配置するか、そうした人物達の部下に潜り込ませておきたいと言うのが現在トリスティンにおけるパッショーネの思惑だ。

だがネアポリス伯爵家と親交のある家のリストを思い起こしても、空く役職に就任するのに適した人物の数は少なかったし、彼らの所に潜り込ませる人材も心許ない。
人材不足に対処するために平民へ学問を学ばせていたが、一定の成果が挙がるにはもう少し時間がかかる。
報告通り、予定より苦しいが元々その家に仕えている者達の中にいる部下達に負担をかけるしかないらしい。

人手不足で悲鳴が上がる反面、各国から届く報告には以前直接会い金を渡した者達を中心に良い報告も上がっていた。
実験的に全国の貴族出身の者を集め父や祖父に持つハーフやクオーターの平民に魔法を教えゲルマニアで狂ったように研究に没頭しているコルベールの部下に回しているらしく、彼らが何を生み出してくれるか楽しみだった。

そのコルベールが、20年前にロマリアとトリスティンの密約の下で行われた大規模な異教徒狩り…『ダングルテールの虐殺』に関わっておりその生き残りから復讐の嘆願が届いているのは悩ましいことだが。
組織を頼ってきた女傭兵…今はワルドの裏切りを聞き、メイジへの不信感を持ったアンリエッタが結成させようとしている銃士隊の隊長に内定が決まった女性への対応を指示してジョルノは手を止めた。

「倒れたと聞いた時はまた病が再発したのかと思いました」
「心配させちゃったかしら…」

書類整理が一段落し、口を開いたジョルノに謝ったカトレアは視線を落とした。
細い声で少し恨みがましくカトレアは言う。

「ルイズやテファのことを聞いたわ」
「スマン」

数万人にも及ぶ貴族派のメイジと傭兵を消し飛ばし聖女になったルイズ。
全く別の世界でこれまで生きてきたのに王女になってしまったテファのことを言われたジョルノはあっさりと頭を下げた。
頭を下げた相手にカトレアは驚き、困りきった表情で首を横に振った。

「ごめんなさい。私ったら…ジョナサンを見て、なんとなく、貴方にとっても予想外だったって言うのはわかったのにね」
「相変わらず貴方は勘が鋭いですね。今回の件については、僕が甘かった」

苦笑するジョルノに疲労の色を見て取ったカトレアは心配そうに言う。

「少し疲れてる見たいだわ。休めないの?」
「まだラルカス達がこそこそしてますからね。ガリアとゲルマニアに行って早めにアルビオンに戻らなければいけません」

言葉の端々に、静かな怒りを覗かせるジョルノを恐れてカトレアは膝に置いた手を強く握り締めた。
カトレアがテファを養女に迎える話が、ウェールズやマザリーニ達によって二国の関係を強める為のものとして使われたことに引け目を感じていた。

それを察したジョルノは微笑んで安心していいと軽い調子で言う。

「ルイズにはポルナレフさんを付けてきました。それにサイトもいる。あの二人ならそう悪い事にはならないでしょう」
「あらあら、信頼しているのね。少し妬けちゃうわ」

重い空気を吹き払おうと言うかのように、カトレアの明るい笑い声があがった。
笑い声を聞いて彼女が飼っている動物達が何匹か顔を出す。
近くの木の陰から、熊が顔を出したのにはジョルノも驚いたようで呆気に取られた顔で熊を見る。

「可愛いらしいでしょ? 皆、もう出てきても大丈夫よ」
「そうですか…?」

然程興味なさそうに言うジョルノに、カトレアはちょっぴり残念そうにして擦り寄ってきた熊の頭を抱えた。
何処か得意げな顔でカトレアに擦り寄る熊や鳥を小突きながら、ジョルノは仕事をする手を止めて暫くゆっくりと時間を過ごそうとした。

それを邪魔するようにペットショップが二人の間を飛び、ジョルノに警戒を促した。
ジョルノも見上げ、近づいてくる小さな点…見覚えのある人物を乗せた老いたマンティコアの姿を視界に入れた。

蝙蝠の翼を持つ赤い毛皮をした人面のライオンに動物達が本能的に恐れ、カトレアの背に隠れた。
尻尾に生えたサソリのような毒針が、そして人面の口に3列に並ぶ鋭い牙が日の光で光っていた。
いっそう動物達を恐れさせながら、砂埃を巻き上げてマンティコアが二人の傍に降りる。
巻き上がった砂埃が突然吹いた突風によって吹き飛ばされるとトリステイン魔法衛士隊の制服に身を包んだ小柄な人物、
カトレアの母親であり現在魔法衛士隊の一つマンティコア隊に復帰したカリーヌ・デジレにジョルノは立ち上がりカトレアから一歩下がった位置で会釈をした。
カリーヌも会釈を返す。

「ありがとう伯爵。貴方が来て下さってカトレアも喜んでるわ。一緒にお迎えできなくってごめんなさいね」
「いいえ。貴方のご活躍は私の耳にも届いております。お忙しいようですね」
「貴方こそ、(アルビオンの)ゲルマニア領の重要な所領を一つ戴いてお忙しいのではなくて?」
「もう知ってらっしゃいましたか」

カトレアと揃って苦笑するジョルノ。
カリーヌはそれに白々しさを感じて微かに眉を動かした。

「アルビオンに残した遍在二人が今朝聞いた話よ」

アルビオンに居座るゲルマニアとガリアは早速アルビオンの領地を自分の物として貴族に分け始めていた。
カリーヌはその行動とそれに対しても大きく出られないトリスティンに義憤を感じていた。

仮面と帽子に隠れ多少わかりづらい怒りを感じられたが、ジョルノは薄く微笑んだままだった。
皇帝がレコンキスタの首領を討ったネアポリス伯爵に与えた領地は風石の鉱山や森林を有する土地だが、アルビオン領と接していたりと問題も多い。
逆に考えるならだからこそネアポリス伯爵に与えられたのだと言う事もできるのだろう。

「ゲルマニアに二人、トリスティンに三人…年は取りたくないわね。昔程精神力が続かなくって困ってるわ」

顔の下半分を覆う鉄の仮面をつけた母親がため息混じりに言うのを見てカトレアが笑った。
予定が詰まっているのか、カリーヌは席に着こうとはせず幾分強い口調でジョルノに言う。

「伯爵、貴方に二つお願いがあるのだけどよろしいかしら?」
「…それはもしや」

ジョルノはそれに何か思い出すように少し間を置いて返事を返す。

「エレオノール嬢と婚約者のバーガンディ公爵とのことでしょうか?」

外国人に過ぎないジョルノがもう知っていたことに然程驚いた風も無くカリンは頷いた。

「お姉さまがどうかしたの?」
「それは…」

療養中の為か、まだ知らされていなかったらしいカトレアが首を傾げる。
カリーヌが仮面越しにもわかる苦りきった表情で言う。

「バーガンディ公爵から婚約を破棄したいという話が来ているのよ」
「え……お母様、あ、あんなに頻繁に手紙のやり取りをされるくらい仲がよろしかったのにですか?」
「ええ、本当にどうなさったのかしら」
「ジョナサン、貴方何か知ってらっしゃいます?」

わざわざ傍に来て尋ねられたジョルノは頭を振った。
三人とも困惑した表情を見せていた。
一人だけは気付いていないのか分かっていて言っているのか分からないといった意味でだったが。


「…見当がつきませんね。彼と少し話して可能なら考え直させましょう。(無理強いしても離婚するのが落ちですから)それでよろしいですか?」
「ええ、ええ伯爵、ありがとう」
「もう一つをお伺いしましょうか」
「ルイズのことよ……ロマリアから私宛にアンリエッタ王女とゲルマニア国王の結婚を支持するよう打診があったわ。聖女様のことは我々にお任せを、という一文付でね」
「まぁ…!」
「貴方なら何か彼らとの窓口があるのではなくて?」

ルイズやカトレアと良く似た、だが凄みのある眼差しを向けられるジョルノには、公爵夫人が言うとおり幾つか伝手がある。
一つは言うまでも無い相手、ルイズにレコンキスタへ虚無を使わせ聖女に仕立て上げたエンリコ・プッチ枢機卿。
二つ目はロマリアのパッショーネが懇意にしている有象無象の聖職者達。部下達の伝手でもあるため少数のまともな聖職者から俗に塗れた者まで様々だ。
三つ目は、テファの孤児院にいた少年達が何名かロマリアにいる。本人の優秀さに加え、ジョルノが援助した為貴族や聖職者の師弟を押し退けようとしている。
反発も受けているようだが、最後には孤児達が勝つものだとジョルノは信じていた。

「これに関しては余りお役に立てません。ネアポリス伯爵家が懇意にさせていただいている聖職者の方々ならご紹介できますが、ラ・ヴァリエール公爵家程…ましてやマザリーニ枢機卿程のものではありません」

二つ目を選んだジョルノを見つめながら、カリーヌは黙したままだった。
カトレアの疑うような視線がジョルノの頬を撫でたが、最近富に真っ黒になっているような気がする髪が風に揺れるだけであった。

「戦勝パーティ会場でルイズさんを聖女にしたグロスター枢機卿はマザリーニ枢機卿とは十年来の仲だそうですよ」
「……プッチ枢機卿との会談を用意していただけるかしら」

首を横に振って言うカリーヌにジョルノは動揺を見せずに怪訝そうな顔を作った。
「最近枢機卿になったばかりの? あの方に然程の権限はありません。ルイズさんのことをお願いするには適当な方とは思えませんが」
「そうね。でも、閣下は法皇様の信頼も厚くガリア王とも懇意にされているそうだわ。そんな閣下なら説得できると思わない?」

少しずつ迫りながら言う伯爵夫人から凄みを感じてカトレアが喉を鳴らした。
感情の昂ぶりに、カリーヌは魔力のオーラを身に帯びていたが、ジョルノは目も逸らさなかった。

「申し訳ありません。私はプッチ枢機卿とは非公式に一度お会いしたに過ぎません。余り懇意にさせていただこうとは思いませんしね」
「というと?」

末の娘ルイズよりも一つ下だったはずだが…汗一つかかない若造に内心感心しながらカリーヌは聞き返した。

「黒い噂を耳にしましてね。顔が広いようですが、その中には盗賊達の姿も見受けられます」
「それでも構わないわ」

マンティコア隊の隊長に復帰した事により往年の凄みを取り戻しているのか、ジョルノの目にはカリーヌの態度は何時に無く迷いが無いように見えた。
その盗賊がジョルノだという事に気付いているのかは判断が付かなかった。根負けしたような素振りでジョルノはため息をつく。

「…わかりました。微力ながら協力しましょう」
「……ありがとう伯爵」

礼を言うカリーヌは瞬きもせずジョルノの挙動を見つめていた。
二人の間に走るただならぬ雰囲気を感じ取ったカトレアは胃の辺りを押さえた。

To Be Continued...

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