ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-22

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匿名ユーザー

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霧に溶け込んだ白を基調にしたドレス。
その後姿をルイズが見つけ出したのは奇跡としか言いようがなかった。
それを始祖の導きと信じ、ルイズは大声で彼女を呼び止めた。

「姫様!」

僅かにルイズへと向けられるアンリエッタの横顔。
しかし、それも一瞬。
すぐさま彼女は前へと向き直り、再び走り出す。
ルイズの姿を見止めても彼女の足は止まらない。
息を切らせながらルイズがその後を追う。
追いかけっこのように続く二人の歩み。

互いに必死に前へと突き進む中、
重いドレスを纏ったアンリエッタの腕をルイズが捕らえた。
それでもアンリエッタは振り払おうと、残った手を振り回して叫ぶ。

「手を離してルイズ! 離しなさい!」
「ダメです姫様! 早く学院から避難してください!」

幾度も顔に当たるアンリエッタの手を堪えながらルイズは答えた。
何が彼女をそうさせるのかは分からない。
だけど、このまま行かせてしまえばどうなるか。
ルイズの網膜に焼きついた死体と目の前のアンリエッタの姿が重なる。
込み上げる恐怖から逃れるように腕に力を込める。
崖から落ちそうになっている人を助けるように、
彼女はありったけの力でアンリエッタの腕を捕まえていた。

その場に繋ぎ止められたアンリエッタが言葉にならない叫びを上げた。
彼女の視線の先には何もない。白い壁と化した世界が連綿と続くのみ。
だが、光を追い求める虫のように彼女は向かおうとする。
溢れ出した彼女の想いが言葉となって流れ落ちる。

「止めないで! あの人が行ってしまう! 
私の元に帰って来てくれたのに…! ウェールズ様がまた行ってしまう!」
「姫様…?」


悲鳴じみた声を上げるアンリエッタと困惑するルイズ。
二人の少女の姿を幾つもの瞳が捉えていた。
白い靄の中に真っ白い目が浮かび、彼女たちを見ていた。
全身を覆う布の中で唯一外界に晒された目が見ていた。

その内の一人が指先で指示を飛ばす。
それに応じて彼女達の逃げ場を奪うように男達は左右に拡がった。
彼女達に悟らぬように狭められる包囲網。
ただ仕留めるだけならばそこまでする必要はない。
先程までの連中と同じく音もなく忍び寄り首を掻き切ればいい。
だが、彼等はルイズ達を逃がさない事を最優先に行動した。

足音を殺し彼等は二人へと近寄る。
仮に息を殺さなくてもルイズ達は彼等の接近には気付かない。
半狂乱になった少女の叫びが周りの音を掻き消す。
それに紛れて唱えるのは“眠りの雲”。
後は杖を振るうだけという段に入り、
あまりの呆気なさに男達は笑みを浮かべた。
一国の姫を攫うという大仕事のはずが鴨を撃つよりも容易い。


その刹那。にやけた男の口から何かが飛び出す。
長く細い棒。目を凝らせばそれは鏃だった。
後頭部を貫通して出てきた矢を咥えながら一人が前のめりに倒れた。
即座に残った仲間が詠唱の終わった魔法をそのまま、矢の飛んできた方向へと放つ。
他の攻撃魔法に切り替える余裕などない。
だが最悪、眠らなかったとしても睡魔に襲われた状態では矢の狙いは定められない。
逆にこちらから仕掛けるチャンスだと踏んで男は飛び出した。
足を踏み出した彼の目に映ったのは視界を覆う銀色。
風を切りながら飛来したそれは男の眼球を抜けて突き刺さった。

頭を打ち抜かれた死体が新たにまた一つ地面に転がる。
それを見下ろす男の目には明らかな恐怖が浮かんでいた。
敵の姿はおろか気配さえも掴めない。
訓練を受けた自分達以上に隠密行動を得意とする敵。
騎士ではない、かといって他の貴族の護衛とも思えない。
ましてや生徒や教師であろうはずがない。
何の抵抗も許されず、何も分からぬまま殺されていく。
そして最後に一人残された自分。
耐え切れなくなった男がその場を駆け出した。

“ここに自分たち以外の誰か……いや、何かがいる”

それを伝えようと彼は分かれた仲間の下へ戻ろうとした。
しかし放たれた矢が鋭い痛みと共に男の足を貫く。
流れ落ちる血にも構うことなく男は杖を振るい、
矢の飛んできた方向へとエア・ハンマーを放った。
打ち出された空気の塊が僅かに霧の幕を押し退ける。

そして彼は敵の正体を目にした。
舞踏会の参加者を模したアルヴィー。
その身の丈は成人の膝上にも満たない。
子供が喜びそうな玩具の手には、
矢を番えた本物の武器が握らされていた。

「………!」

男が杖を握り締める。
未知の敵への恐怖は消えていた。
眠りの雲が効かなかった理由も、
気配を探れなかった理由も明らかとなった。
そして、それは目の前の敵を叩くだけで解決する。
霧に再び覆われようとするアルヴィーに男は杖を振るう。

直後。風切り音が響いて男の手から杖が零れ落ちた。
男の掌を穿っているのは仲間を撃ったのと同じ矢。
“他にもまだアルヴィーがいたのか”
伏兵の存在を疑わなかった自分を罵りながら男は杖へと駆ける。
アルヴィーの手にあるボウガンは連射が利く物ではない。
一度撃てば次の矢を番えるまで間がある。
だからこそ前方のアルヴィーだけ警戒していればいい。

そう踏んだ彼のもう一方の足を矢が貫いて転倒させる。
それは前から飛んできたものではなく彼の背後から放たれたものだった。
“三体目……まだ伏兵がいるのか”
しかし落とした杖は目前。手を伸ばせば十分に届く距離にある。
杖さえ拾えばアルヴィーの数体程度どうにでもできる。
自分が受けた仕打ちを倍にして返してやろうと男は必死に手を伸ばした。


次の瞬間、男の腕に何本もの矢が突き立てられた。
手の甲も二の腕も余すところなく矢が突き刺さり剣山と化す。
激痛に悲鳴を上げてのたうつ男の視界にそれは現れた。
先程と同様に武器を持ったアルヴィー。
耳を凝らしても聞き取れないような小さな足音が、
まるで漣のように静かに広がっていく。
人形、人形、人形、人形、人形……。
彼の視界を埋め尽くすように、それらは並び立つ。

まるで自分を中心に輪になって踊るかの如く、
アルヴィーの群れが男を取り囲む。
その手の内では凶悪な武器が鈍い輝きを放つ。

「や……止め…」

何度も耳にしながら一度も口にした事のない台詞。
当然それは彼が今までそうしてきたように聞き流された。
降り注ぐ矢の雨は彼が絶命するまで止む事はなかった。


「本命はお姫様か、それとも彼女か」

その光景を遠見の鏡で眺めながらロングビルは呟く。
彼女の操るアルヴィー達が襲撃者を包囲する。
霧の中でも遠見の鏡は彼等の姿と居場所を明確に映し出す。
それは頭上から盤面を見下ろしているのに等しい。
この学院で起きる事全てを彼女は把握している。
遠目の鏡に映るコルベールとエンポリオ、そして炎上する校舎。

「では予定通り彼女たちから先に保護しましょうか」

その惨劇を横目で見ながら彼女は無視した。
彼女にとって何よりも優先されるのはジョゼフの命令。
そこに学院と生徒達の保護は含まれない。
それに、もし主人の思惑が彼女の想像通りだとすれば、
学院での犠牲者は多ければ多いほど望ましいはずだ。

「主の意図を汲み取って動くのも従者の務めですもの」

そう囁く彼女の口元には艶やかな笑みが浮かんでいた。


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