ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ティータイムは幽霊屋敷で-14

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
息を切らせながらルイズはただひたすらに走った。
姫を探す当てもなく、がむしゃらに霧の中を駆け巡る。
どこに敵が潜んでいるかも分からない状況。
彼女の脳裏に、先程目にした誰とも知れない焼死体がちらつく。
だけど退けない。退くわけにはいかない。

「私は貴族よ! 魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ!」

それは彼女の決意表明。
誰かに聞かせるためにではない
自分を奮い立たせるように彼女は叫んだ。

「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」


ルイズの雄叫びが霧の中に響き渡っていた頃。
イザベラは堂々と襲撃者に背を向けて逃げ出していた。
邪魔なドレスの端を掴んで必死に足を動かす。
王宮で走り慣れているとはいえ、その動きは鈍い。
ギーシュを失った悲しみと悔しさから彼女の目尻に涙が浮かぶ。

“ああ、畜生! こんなに早く囮を使い捨てる事になるなんて!”

もう少し使い道があったかもしれない。
だけど後悔しようとも失われた物は戻らない。
唯一の救いはギーシュが殺されずに捕らえられた事か。
わたしに対する人質のつもりか、それとも身柄を確保するのが目的か。
もしかしたら“そういう趣味”のヤツが戦利品として、という事も有り得る。
どちらにしてもギーシュを捕まえてる限り、追っては来れない。
その間に出来る限り、この場から離れようとするイザベラの背に声が掛けられた。
それは怨嗟に満ちたギーシュの声ではなく彼を取り押さえる人物のもの。

「姫殿下、お待ちを!」

殺意ではなく敬意に満ちた言葉。
耳に響いた男の声に、イザベラは足を止めて振り返った。
霧の向こう側から現れた男の服装は彼女が良く知るものだった。
カステルモールを隊長とする東薔薇花壇警護騎士団。
混乱の続く霧の中で、彼女はようやく使えそうな駒と巡り合った。
しかし、彼女の眉は不機嫌そうに寄っていた。
鼻を鳴らしながらイザベラは男の言葉を棘付きで訂正する。

「生憎とわたしは姫じゃないよ。
シャルロットが死にでもしない限りはね」
「おお…イザベラ様でしたか!
いや、見違えましたぞ! とてもよくお似合いです!」

嫌みも気に留めず、花壇騎士はイザベラの姿に魅入るように答えた。
それにはギーシュも同意見ではあったが、
彼女が何も喋らなければという付帯条件付きでだ。
“ところで僕はいつまでこうしてなければいけないんだろう?”
そう思いながらも口には出さず、地面に這わされたギーシュが二人の会話に耳を傾ける。

「お世辞なんか今は聞いてる暇はないよ。
それより、どうしていきなり襲ってきたんだい?」

「……それは」

イザベラの問いに、騎士は言い淀んで再び彼女を見つめる。
彼女の着衣に乱れがない事を確認し、彼は口を開いた。

「イザベラ様が押し倒され、この男に衣服を剥がされそうになっていたとばかり」
「逆です」

耐え切れなくなったギーシュが男の言葉に反論する。
その声に視線を移せば、半ばまでギーシュはブラウスを脱がされていた。
ようやく間違いに気付いた騎士が彼を解放する。

「これは失礼を。非常時につき御容赦されたい」
「いえ、分かってもらえれば僕はそれで」

一番悪いのは誤解を招くような行動をしておきながら、我先に僕を見捨てて逃げた彼女です。
最初から信じてた訳じゃないけど、とても裏切られた気分です。
そんな彼女にも忠誠を誓わなければならない貴方に心から同情します。

喉下まで出かかった言葉を胸の内にしまい、
ギーシュはこれまでにないほど怨みの篭った視線でイザベラを睨む。
しかしそれにも彼女はどこ吹く風で、苛立たしげに一人思考を巡らせていた。

「やっぱり目立つか」
「はい。この霧の中でも御姿が浮かんで見えます」
「仕方ないね。お前のローブをよこしな。無いよりはマシさ」
「は!」

何の躊躇いもなく騎士が自分のローブを外しイザベラへと手渡す。
それを受け取って彼女はドレスの上から羽織った。
体格の違いから男のローブは彼女の身体を覆うには十分だった。
ローブの端を掴みながら両腕を交差させて襟下を重ねる。
今にもズレ落ちそうなローブに身を包みイザベラは騎士に告げた。

「状況を報告しな。わたしと見間違えたって事はあいつと逸れたんだろ」

イザベラが花壇騎士と合流していた頃、
アルビオンの中年の騎士もを同様に仲間と合流していた。
だが正確には仲間とは呼べない。
彼等は金で雇われた傭兵にすぎなかった。

「心臓を躊躇いなく一刺しか。
酷いもんだぜ、あんたの大切な部下だってのによ」
「安心してください。後ろから刺すなんて真似はしませんよ。
お金さえ払っていれば貴方方は信用できる人達ですから」

血に塗れた兵士の屍を見下ろしながら傭兵の一人が言う。
その言葉の裏を読み取って中年の騎士は返した。
あっさりと自分の胸の内を見透かされた傭兵は苦笑いを浮かべた。
その隣で、別の傭兵が口を開いた。

「それよりも予定より遅れているようだが」
「ええ。さすがに精鋭と名高い連中です。
不意を突いたとはいえ易々と敗れはしないでしょう」
「なら手を貸そう。このままじゃ仕事にも支障が出るしな」

騎士の返答に、傭兵の男は杖を手に前へと歩み出た。
その口元には獣を思わせる獰猛な笑み。
男の殺気が彼の系統である火を連想させる。
楽しげな表情を浮かべ、冗談交じりに騎士は彼に言った。

「勤務外手当ては出ませんよ」
「こいつは料金外でいい。連中にはちょっとした貸しがあるんでな」
「そうですか。なら私の言う事はありません」

さあどうぞ、と言わんばかりに騎士が道を譲る。
その横を血を滾らせた傭兵が通り抜けていく。
遠ざかっていく彼の背中を見つめながら騎士は笑っていた。
“なにもかもが予定通りだ”と。

騎士は彼がガリアに並々ならぬ怨みを抱いていた事を知っていた。
傭兵にとって一番大事なのは自分が生き残る事だ。
いくら高額の報酬を積んだとはいえ腕利きの騎士とは戦わない。
だが私怨であれば話は別。こちらから頼まなくても話に乗ってくれる。
そのおかげで信頼できる部下を無駄に死なせずに済むのだ。
花壇騎士団が彼に気を取られている間に我々は仕事を終わらせる。
最悪、彼が捕まったとしても良い撹乱になるだろう。

「では騎士の相手は彼に任せて、貴方方は本来の仕事を」
「ああ。任せておけ」

振り返ってそう告げる騎士に、残された衛兵達が応じる。
緩やかな足取りでその場を離れながら彼等は会話を交わす。
戦場に向かう兵士達の悲壮なものではなく、それは実に楽しげなお喋り。

「しかし、ちょっとばかし勿体無いな。
ここの学院の生徒一人連れて帰るだけでも、ちょっとした小遣いになるぜ。
身代金取るにしても奴隷として売り飛ばすにしてもよ」
「宝物庫だってあるんだろ? 仕事ついでに頂いていくか」
「そんな余分なもの運ぶ余裕があるかよ。
トリステインの衛士隊に追いつかれて皆殺しにされるのがオチだ」
「おい、お前達。少しは静かにしていろ」

口々に勝手な事を話す彼等を年長の男が制する。
騎士の目はアルビオンの連中が引きつける手筈になっている。
だからといって全員の注意を引くのは難しいだろう。
騎士と出くわさないように細心の注意を払って進むべきだ。
そう判断して彼は静かに一番前を歩いた。

「それにしても酷い仕事だ」

心の底で思った言葉が口をついて出る。
自分達の隊長ならば嬉々として実行に移しただろう。
もっとも彼の姿はトリステインでは目立ちすぎる。
アルビオンの使節団に紛れ込むなど、とても叶う事ではない。
これから行う事を再確認するように年長の傭兵は背後の連中に告げた。

「いいか、校舎に辿り着いたら四方を包囲する!
窓も扉も全て封鎖しろ!一人も逃さず生徒ごと建物を焼き払うんだ!」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー