ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-01

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匿名ユーザー

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「わからないのか? おまえは『運命』に負けたんだ!
 『正義の道』を歩むことこそ『運命』なんだ!!」

目の前の小僧の高らかな勝利宣言とともに、主人の頭蓋が「ウェザー・リポート」の拳に押しつぶされた。
それと同時に自分の体から力が抜けていくのがわかった。

負けたのだ。
完全に、敗北したのだ。
人間の頂点がさらに上り詰めて行き着く能力が、負けた。

何故負けた?
ウェザー・リポート如きに、徐倫のヤツの最後の悪あがき如きに、こんなちっぽけな小僧如きに、何故負けた?
いくら考えても答えは出ない。
いや、出せない。
何故なら答えが出る前に、自分は消滅するからだ。

「このちっぽけな小僧がああああああああああああああッ!!!」

主人の、最後の断末魔が聞こえた。
主人の体を砕く、ウェザー・リポートの拳の音も聞こえた。
それだけだった。
もはや指一本動かない。
「時の加速」も何の意味も持たない。
ただ、終わっていくだけ。



ただ、終わっていくだけの、ハズだった。


1話


「ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」

生え際の後退著しい中年教師が意を決したように言う。
その教師――名はコルベールといった。

コルベールが監督するのは召喚の儀式。
ここトリステイン魔法学校にて2年生が行う中では最重要とも言える行事である。

その召喚の儀式は「あと一人」を残して、これまでのところ順調に進んでいた。
生徒は「あと一人」を除いて皆自分の使い魔を召喚できていたし、その中には風竜やサラマンダーを召喚した生徒もいた。
使い魔は主人の力量を表す。
メイジの良し悪しを見極めるその方法に則るならば、その二人はきっと偉大なメイジになるだろう。
そう思い、コルベールは目を細めた。

だが残っている「あと一人」の女子生徒のことを考えると、コルベールは気が重くなった。
別に彼女はヤサグレてる訳でもなかったし成績が悪かったわけでもない。
他の生徒とのコミュニケーションも十分に取れている。
しかしただ一つ。
本当にただ一つだが彼女には欠点があった。
そしてその欠点こそがコルベールを不安にさせていた。
が、そんなコルベールの心配をよそに――

「はい!」

「あと一人」の女子生徒――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは威勢のいい返事をした。
その返事を聞いて、コルベールはさらに気が重くなった。

「なあ…成功すると思うか?」
「いや、いくら『ゼロ』でも召喚の儀式ぐらいは…」
「でもあの『ゼロ』だぜ?」
「だよなあ…失敗するかもだよなぁ~~」

ルイズの儀式を見守る生徒たちのヒソヒソ声からは、彼らがコルベールと同じ考えであることが容易に推測できる。
ハッキリ言って、ルイズの儀式の成功を期待していないのだ。

そんな周囲の声がまるで聞こえていないかのように、あるいは聞こえていながらも無視しているのか、
ルイズは他の生徒たちには見向きもしない。
そして詠唱を始める。

「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ!
 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに答えなさい!!」

詠唱が終了した。
そして――



ドッグォォォォォオオオオオオオオン!!!



爆発したッ!
爆風で土くれと砂埃が巻き上げられ、ルイズもまた突き飛ばされたように地面にしりもちをついた。
召喚の儀式は、失敗した。

「オホッオホンッオホン!」
「ゲホッゴホッ! クソッまたやったな『ゼロ』!」
「使い魔の召喚にさえ…ゲボッ! 失敗するなんて君も筋金入りだなッ!」

周囲から聞こえてくる罵倒をルイズは地面に座りこんだまま聞いた。
そして泣きたくなった。

(なんで…どうして『成功』しないのよぉ~~~~~~~~~!)

成功するために何回も何回も練習した。
昨日は召喚のゲートもちゃんと出てきた。
なのに――なのに失敗した。

なんで失敗した?
たかが召喚の儀式なのに! 昨日は成功したのに! 何で? どうして?
いくら考えても答えは出ない。
いや、出せない。
何故なら――

「お…おい!煙の中に何かいるぞ!」
「ホントだ! でもあのシルエットは…」
「サルにしちゃあ背が高すぎるし…」
「人間にしたってあれはデカすぎる!2メイルくらいはあるんじゃないか?」
「じゃあ亜人? オーク鬼か何かってことか?」
「おい! 煙が晴れるぞ!」

何故なら、ルイズは召喚に成功していたからだ。

砂埃から現れたのは、実に奇妙ないでたちの人間、いや亜人だった。
贅肉の一切見当たらない真っ白な筋肉質の身体には文字のようなものがびっしり彫りこまれており、
頭には奇妙な形の頭巾、そしてその身に纏うのはいずれも紫がかった黒色の襟巻きと短パン、リストバンドにブーツのみで、
しかも襟巻きと短パンの二つが体の正中線で帯のようにつながっている。
民族衣装だとかその類だとしても、かなりきわどい、いや、むしろ変態的な格好だ。
しかもよく見てみれば、耳も鼻もこの亜人には無い。
削がれたような傷が無いあたり、生まれつきそれらを持っていないとでも言うのだろうか?

(なに…何なのコイツ? こんな亜人、あたし図鑑でも見たことなんて…)

そんなことを考えていると、この亜人がルイズの方へと歩み寄ってきた。
だがその姿は何か変な感じだ。
亜人の身長はかなり高い。
2メイルあるかないかってぐらいに高い。
なのに足音が全くしない。
亜人に踏まれた芝生にも足跡が全くついていない。
まるで体重がすごく軽いかのようなのだ。
そうして亜人はルイズの前に立つと、口を開いた。

「聞キタイ事ガアル」

それはまったく人間的でない声だった。
合成音声のような、加工された声のような、そんな声だ。

「しゃ、喋った?」
「喋ッチャア悪イカ」

仏頂面で亜人が言葉を返す。

「ココハドコダ?」
「こ、ここ? トト、トリステインの、ま、魔法学院、よ」
「トリステイン……魔法学院……」

亜人はそう呟くと、何か考えるように押し黙った。

トリステイン。魔法学院。
どちらの単語も亜人の記憶にはないものだった。
加えて、亜人の目の前に広がる光景も珍無類だ。
全員が示し合わせたようにマントをつけ、脇には動物を侍らせている。
動物の中にはファンタジー世界から抜け出してきたようなのもいる。
しかも全員が全員、自分が見えているらしい。
まったくもって、ワケがわからない。
既に消滅したはずの自分が、何故まだ存在している?
それに何故、今自分は「メイド・イン・ヘブン」でなく「ホワイトスネイク」なのだ?
何故こんなものを見せられている?
いくら考えても、見当がつかなかった。

「ち、ちょっとあんた!」
「何ダ?」

思考を遮られた亜人が無愛想な声でルイズに答える。

「あ、あんた、どういう種族なの?」
「『スタンド』ダ」
「すたんど?」
「……知ランノカ?」
「……初めて聞いたわ」
「…………」
「…………」

「スタンド」が見えている以上「スタンド」という言葉を知っているのは当然とする亜人。
一方スタンドなどという種族名など聞いたこともないルイズ。
嫌な沈黙が亜人とルイズの間に流れた。

周囲の生徒たちは、先ほどから固唾を飲んで亜人とルイズの会話を見守っていた。
だがこの有様に耐えられなくなったのか、近くの者とヒソヒソと喋り始めている。

「なあ、あれ……亜人、だよな?」
「でもあんなの見たことないぜ?」
「オーク鬼みたいなのとは全然違う……エルフの仲間かしら?」
「エルフは耳が長いのよ? あの亜人、耳がないからきっと違うわ」
「じゃあ一体…………」

そしてここにきてコルベールもようやく我に返る。
長年教師であり研究者であったコルベールにとって、
この未知の亜人はあまりにも衝撃的過ぎたからだ。
慌ててコルベールはルイズと亜人の元へ駆け寄った。

「ミ、ミス・ヴァリエール……召喚は無事に成功したようですし、使い魔との契約を行ってください」
「契約って……」

ルイズはその言葉の意味を頭の中で確かめると、目の前の亜人を見上げた。
……コイツと××しなきゃならないの?

この亜人……少なくとも弱くはなさそうだ。
「風邪っぴき」のマリコヌルのフクロウよりはずっと強いだろう。
でも亜人だ。人間じゃないけど、トロールとかよりはずっと人間だ。
それなのに……本当にコイツと××するの?
まだしたこともないのに、初めてなのに……。

ルイズがあまり考えたくない事実と直面している最中、亜人が口を開いた。

「使イ魔、トハ何ダ?」
「一般的にはメイジに仕える動物のことだ」
「『メイジ』トハ何ダ? ソレニ私ハ動物ジャアナイゾ」
「メイジとは魔法を使う者のことだが……うむ……そう、だね。確かに君は動物じゃあない」
「魔法ヲ使ウ……? ソレニ……仕エル、ダト?」

亜人はその言葉の意味を頭の中で確かめると、目の前の少女を見下ろした。
……コイツに仕えなきゃならないのか?
あり得ない。
こんな小便臭い小娘に、一度は世界を滅ぼしかけた自分がへーこらするのか?
マジにあり得ない。
かつての主人との落差があんまりにも大き過ぎる。

お互いがお互いを否定する不毛すぎる状況。
そこにコルベールの声がかかる。

「ミス・ヴァリエール。時間がもうありませんので……」
「…………」

コルベールの言葉にこの世の残酷さを感じるルイズ。
だがコルベールの言うとおりだった。
やるしかない。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」

杖を振って口訣を結び、いざ……となったところで気づいた。
ルイズの身長は150サント。
対して亜人の身長は2メイル。つまり200サント。
……届かない。

「あんた、しゃがみなさい」
「何デダ」
「いいから、しゃがみなさい」
「私ニ頭デモ下ゲサセルツモリカ?」

プッツ~~ン!

その瞬間、世の不条理への怒りと強情かつ不遜な亜人の態度への怒り。
その二つの入り混じりの感情をルイズは露わにした。

「しゃがみなさいって言ってんでしょうがッ!」

つまり、キレたッ!
その怒りは満身の力となって右足に込められ、そして亜人の足を思いっきり振り下ろされるッ!

ドグシャアッ!

「グオォッ!」

予期せぬ奇襲に、思わず呻いて体を折る亜人。
その瞬間――

ズキュゥゥゥーーーーーン!

××は――「キス」は完了したッ!

「コッ、コノ小娘! 一体何ヲ!」
「うるさいうるさいうるさい! 私だって、あんたなんかにファーストキス捧げたくはなかったわよ!」

理不尽にも足を踏みつけられた怒りと、スタンドによる攻撃でないにもかかわらずダメージを受けたことへの困惑、
その二つの入り混じりの感情を亜人は露わにした。
一方のルイズは貴族のファーストキスをこんな亜人に捧げなければならなかったことへの怒りと屈辱感。
その二つの入り混じりの感情で反撃した。
その直後だった。

「ヌゥッ……左手ノ、甲ガ……焼ケル!?」

亜人は焼けつく痛みの発信源に目を向ける。
するとそこには、彼(?)が見たこともない、奇妙な文字が記されていた。

「ふむ……珍しいルーンだな」

その文字を上から覗き込んだコルベールがそう言った。

「さて、皆無事に使い魔の召喚を終えたようだし教室に戻ろうか」

コルベールの言葉に従い、生徒たちは「フライ」の呪文で校舎の方へと飛んで行く。
その光景を亜人は痛みも忘れて凝視していた。

「……奴ラハドウヤッテ飛ンデルンダ?」
「『フライ』よ。そんなことも知らないの?」

ルイズが不機嫌そうに亜人の疑問に答える。

「知ラン。『フライ』トハ何ダ?」
「魔法よ、魔法!」
「魔法、ダト?」
「そうよ、魔法よ!」
「……信ジラレンナ」
「……あんた、いったいどこから来たのよ?」

何から何まで話が通じないことを、ルイズと亜人は互いに理解した。
だがひとつだけ、ちゃんと通じた会話があった。

「ところであんた、名前とかあるの?」
「……ホワイトスネイク。ソレガ私ノ名前ダ」





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