ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第四章 後編

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匿名ユーザー

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次の日の午後、アンリエッタは久しぶりに、自室でくつろいでいた。
アンリエッタは疲れきっていた。
日々の政務が日増しに多くなっている。
その多くが、アルビオンとの戦争関係のものだ。

「ウェールズ様……」
その独り言が自然と出る。
アンリエッタのそばにいた女官が、察するかのように外へと出て行った。

そのとき、、ふいに、
「僕のことを呼んだかな?」と、外の窓の所から、声がしたのだった。
アンリエッタは外を見て驚愕し、会心の笑顔を見せた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次の日の昼、ルイズたち三人は、トリスタニアの食堂『魅惑の妖精』亭で食事をとっていた。
零戦を受領したアカデミーの人間が、鉄の羽衣について、シエスタに聞きたいことがあるらしくシエスタを引き止めていたのだ。
さらに、マザリーニとアンリエッタが、ルイズたち三人に対し、タルブ村での出来事を詳しく聞きたい、との思惑もあり、そのためルイズたち三人は、今しばらく王都に滞在することになっていたのである。

しかしルイズたちは暇でも、アンリエッタたちは多忙を極めている。
そのうえ、アカデミーの人間は、いまだトリスタニアには到着していない。
だから、ルイズたちはやることもなく、王都をぶらついているのが実情であった。

ブチャラティがサフランのリゾットの最後の一口を口に入れたそのとき。
ふいに、城の方向から、叫び声とともに、兵士の一群が走ってこちらに来ていた。
その中にマザリーニもいる。
「いったいどうしたのかしら」
ルイズがつぶやくのと、マザリーニがルイズのことを見つけるのは同時だった。
「おお、ミス・ヴァリエール! アンリエッタ姫様を見かけませんでしたか?
 何者かが城内に侵入し、姫様の近習を殺害。姫様はさらわれてしまったのです!」

「なんてこと! 私たちも探しましょう」
「私はトリスタニアの街内をを探します」シエスタは言った。
「私たちは外ね。馬で行くわよ、ブチャラティ!」
「ああ、良いだろう!」
二人は同時に街の外へと駆け出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ルイズたちはラ・ロシェールへと続く街道を馬でひた走っていた。

「この道で間違いないみたいだな」ブチャラティが言った。
彼らの行く手には、先行していたらしい、トリステインの近衛魔法騎士隊の死体が累々と横たわっている。
「酷い、誰がこんなまねを?」ルイズが嫌悪感に顔をゆがめた。
その視線の先には、喉仏を切り裂かれた男の死骸が横たわっている。
「生存者はいないのだろうか?」
「あそこ!」
ルイズの指差した先には、一人の騎士が、ヒポグリフの死体を背に横たわっていた。
肩で息をしている。
「大丈夫か?」ブチャラティが馬を下りた。ルイズもそれに続き、騎士に近寄っていく。
「あ、あいつ……こっちの攻撃を食らっても、びくともしないんだ……」
騎士はあえぎ声を出した。
「アイツとは?」
「ウ、ウェールズ公……」その言葉を最後に、騎士は意識を失った。

ルイズとブチャラティは、顔を見合わせた。
「どういうこと?」
「ウェールズは生きていたのか?」
「なら、なんで、こんな」ルイズはあたりの死体を見回し、
「マネをするのかしら?」と、最後にブチャラティをすがるように見た。
だが、その答えはブチャラティにもわからない。
黙って首を振るのみであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

夕闇の迫る逢魔ヶ時。
アンリエッタとウェールズは連れ添って馬に乗り、ラ・ロシェールへの道をひた走る。
だが、速度を求めている馬はただ一頭。
もう一頭、アンリエッタの操る馬は、時々、乗り手の意を汲むかのように、徐々にス
ピードを落としていった。
「アンリエッタ、またさっきの話かい?」ウェールズが言う。
「だって、どうして。あなたは騎士たちを殺してしまったのですか?」
「今は、何も考えずに僕と共に来てくれ。僕のかわいい人形におなり、アンリエッタ」
「ですが、三年前のあなたは言いましたわ。『僕は自分の民を不幸にはできない』と。
 どうして、私の民を不幸にさせるのですか?」

「三年前とは色々と変わったのさ。君はもうすぐ女王になる。僕も変わった。
 だが、僕と君との愛は、これは絶対に変わらぬものだよ」
その言葉に、アンリエッタの心が、心地よく混ざる。
アンリエッタには、先ほど見たトリステインの騎士の死など、もうどうでもよくなっ
てきていた。

そのときだった。
「姫様、どうしてこんな真似を!」ルイズの声だ。
「あなたにはわからないのだわ。愛する者のこの意志が!」アンリエッタが叫ぶ。
「ええ、わからないわ! 私はわかりたくもない! たくさんの人々を手にかけて、
 そこまでして何をしたいというのですか!」

「私はこれからウェールズ様とアルビオンに渡ります。そこで、貴族派の人々を手
 なずければ、戦争を回避することすらできるかもしれないのよ。
 お願いルイズ!
 行かせてちょうだい!」

ルイズは戸惑った。
ひょっとしたら、姫様はウェールズ様と一緒に行かせるべきじゃないのかしら?
そうしたら、トリステインは、アルビオンとの戦争を終わらせられるかもしれない。

そのように考え始めたルイズの隣で、ブチャラティが口を開く。
「アンリエッタ。俺はかつて、露伴とともに、あなたの王族としての覚悟を聞いた」
「ならば、ここで再度問おう! 今の君の決断は、果たして真の進むべき道か?
 それが、その血みどろの道が、君の進むべき王道の姿なのか!?」

「くうぅ!!!」

「ウェールズ! 君にも問おう! 君は貴族派に組したのか? 
 それならば、あの、アルビオンでの内戦は一体なんだったのだ?!」
「ブチャラティ君。人は誰でも恋に狂うものさ」
「それで、その物言いで! 
 君の名の下で死んでいった者たちが、浮かばれるとでも言うのか!」

おかしい。ルイズは思った。
このウェールズ様は、あのニューカッスル城で出会った英君とは、なにか決定的に違う!
「あなた、本当にウェールズ様?」
「ああ、私は紛う事なきウェールズ・チューダーだ」
「姫様をアルビオンに連れて行くのは、あなたの信じた道なのですか?」
無言のウェールズ。
「姫様に、貴族派との喧騒を見せ付けるのが、あなたの覚悟なのですか?」
ウェールズは答えない。
「ニューカッスルで見せてくれた、姫様を気遣う態度の結果が、これなのですか?」
沈黙。
「なぜ何も答えない!」ブチャラティは言った。

「僕は生まれ変わったのさ。ブチャラティ君。
 クロムウェル卿、アルビオン皇帝の手によってね」
「アルビオンでの貴族派の政治は知っている。
 君は、あの恐怖政治を、失政を許すとでも言うのか!」
「僕は悟ったのだ。人は恐怖でしか変われぬ。
 恐怖こそが人を正しい方向へ導くことのだ」

アンリエッタは、心の中に違和感を感じた。
愛情の歯車が、今まで滑らかに動いていた律動が。
何かの『異物』によって乱されていく。
ルイズは言った。
「ウェールズ様、あなたは、今のアルビオンの独裁を良い物と思っている?」
「そのとおり」
ぴしり。

「姫様を連れて行くのはあなたの愛ゆえ?」
「どうかな」
がくん。

「姫様とクロムウェル。どっちを選ぶ?」
「……閣下だ」
ぱちん。



っああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


「決定的だな」ブチャラティが言った。
「ええ。姫様、ウェールズ様は操られているわ。貴族派の手によって」
だめ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「いや! 
 聞きたくない!!!!!!!!!!!!!!」
いや!
いやいや!!

 ききたくないききたくないききたくないききたくないききたくないききたくない
 キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ
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「姫様……」
「やはり、アンリエッタもうすうす感ずいていたのか」

「さて、ばれてしまっては、くだらない茶番もこれまでだ。アンリエッタは頂いて行くぞ」
「それは、させない」ブチャラティが言った。

アンリエッタは放心したようにうずくまった。
ルイズが駆け寄ろうとしたが、立ちふさがるウェールズに邪魔をされた。
彼の目には、今までにないほどの邪悪さがある。
「さがっていろ、ルイズ」ブチャラティが言った。
スティッキィ・フィンガーズを出現させる。
ウェールズとスタンドの間合いはニメイル。

スタンドの拳が男の体を貫く。
だが、肉片と化し、散り去ったはずの体の部位が、見る見るうちにふさがっていく。
「今の私の『モード』は水。君の攻撃は効かんよ」
ウェールズのが杖を振ると、ブチャラティの周囲の水蒸気が集まり、ゼリー状にな
ってブチャラティの口をふさいだ。
「そのまま窒息死してもらおう」
ブチャラティはもがくが、如何ともしがたい。
スティッキィ・フィンガーズのビジョンが薄くなっていく。
彼の意識がなくなっていく証拠だ。

ルイズは思った。
あの水をエクスプロージョンで吹き飛ばそうか?
いや、だめ。ブチャラティまで吹き飛んでしまうわ。
ルイズはなきそうになった。
私は何もできない。
虚無に目覚めたというのに。
せっかくここまでついてこられてたというのに。
ブチャラティの手助けもできない。
姫様を慰めることもできない!
私は、このままいつまでも傍観者のままなの!?

おねがい!
だれか、私に力を!!!

そのとき、ルイズの持っていた『虚無の祈祷書』が光るのを、ルイズは見て取った。
ルイズは開き、そこに書かれていた呪文を唱えはじめる。
それは『ディスペル・マジック』。
効果は他の魔法の効果を打ち消すこと。

ルイズは、杖を振り下ろした。

そのときだった。
「アン……?」
ウェールズの声である。
だが、先ほどまでとは打って変わった、温かみのある声だった。
「ウェールズ様?!」
アンリエッタは駆け寄り、倒れ掛かったウェールズを支えて、彼の顔を覗き込んだ。
そこには、澄み切った瞳があった。
先ほどまで、アンリエッタに対して甘い声をかけていた男にはない瞳の輝きであった。

「僕は一体……いや……僕は操られていたのか……」
「ウェールズ、まさか、正気に戻ったのか?」ブチャラティがむせながら言う。


ウェールズは顔を向け、
「君は、ブチャラティ」といった。が、その声はとても弱々しい。

「ウェールズ様……!」
アンリエッタが息を呑む。
それもそのはず、ウェールズの体が、徐々に黒焦げていったからだ。
あわててアンリエッタは回復の魔法をかけた。
だが、ウェールズの焦げていくさまをとめることはできなかった。
「いいんだ、アンリエッタ……僕は今、本当は生きちゃいけないんだ」
「そんな……そんな!!!」

アンリエッタは首を激しく振り、己の持つ魔法力を限界まで使い、回復魔法をかける。
アンリエッタの意識が飛びそうになる。
ウェールズはそれを見て、
「アンリエッタ……最期のお願いだ。僕を、あの泉へ連れて行ってくれ……」
と、つぶやいた。

アンリエッタはこくんとうなずいた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一時間後。
ラグドリアン湖の湖畔、ウェールズとアンリエッタは、アンリエッタが肩を貸す形で、
ただ、たたずんでいた。
「アンリエッタ……」
ウェールズはそういった。そういうのも難しいらしく、息も絶え絶えだ。
アンリエッタはそれを全身で支えながら答える。
「ウェールズ様……」


「君とは、かつてこの湖畔で誓ったね……」
「ええ、でも、愛を誓ったのは私だけ……
 あなたは、『私とこの湖畔で二人で再会する』としか誓ってくださらなかった。
 どうしてですの?」

「それはね……僕は、君を不幸にしたくなかったんだよ」
そう答えるウェールズの足から、一歩ずつ、力が抜けていく。
「私は、あなたに愛されることだけが望みでしたのに」
アンリエッタは泣きそうになった。だが、懸命にこらえた。

ウェールズは薄く笑い、微笑んだ。
「アンリエッタ。ひとつ誓ってくれ。今生の頼みだ」
アンリエッタは嗚咽を誤魔化すかのように叫ぶ。
「何でしょう。私にできることなら、何だっていたしますわ!」


「僕を、ウェールズを、忘れると誓ってくれ……」
「……え?」
「僕は死ぬ。君を幸せにできない。だから、君は別の人を好きになってくれ」

ウェールズはそれだけ言うと、湖畔のそばに崩れ落ちた。

「そんなこと誓えませんわ。嘘を言えるわけないでしょう!!!」
「お願いだアンリエッタ。でないと、僕は君を不幸にしたままあの世に行ってしま
 うことになる。だから、ラグドリアン湖の前で、水の精霊の前で、誓ってくれ」

ウェールズは虚空を見つめ、
「さあ、アンリエッタ、僕にはもう時間がない……」
そうつぶやいた。もはや目に力がない。

アンリエッタは誓いの声を口にした。
「ウェールズ様、私は誓います」
だが、アンリエッタは深呼吸を一回だけ行うと、はっきりと続けた。
「私はウェールズ様以外の誰も愛さないことを。
 今宵限り、永久に私は他人を愛することはないでしょう」

ウェールズはわずかに微笑んだ。
「困ったな……僕は不幸なのか、果報者なのか……」
「同じことですわ、ウェールズ様……」
「そうか……」
ウェールズはその言葉を最後に、完全に炭になった。
ラグドリアン湖へと吹き寄せる風が、かつてウェールズの肉体であったものを塵と
して湖に運んでいく。

「これで、よかったのでしょうか?」ルイズがアンリエッタに言った。
「ありがとう、ルイズ。私の一番大切な親友……」
アンリエッタは、目に浮かんだ涙をぬぐったのだった。
「いま、私は確かにウェールズ様と分かり合えたわ……」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アンリエッタは、トリステインの王であることを示す王冠を頭に載せ、王宮のテラス
に姿を現した。
眼下に見下ろす広場には、多数のトリステイン国民がつめている。
本日はトリステイン王国の戴冠式が王宮にて行われていた。
この日に限っては、貴族・平民の区別がなく、王女…もとい女王を見上げていた。
皆が王冠を頭に載せたアンリエッタの姿を羨望している。
彼女はそれらを一瞥すると、大きく、深く息を吸い上げた。

「親愛なる国民の皆さん」

オオッと、歓声が上がる。平民の声が多い。今の彼女の言葉は、トリステインの伝
統に基づいた宣言文書には記載されていないからだ。
本来ここでは、王者の口からは、始祖ブリミルに統治の安寧を願い、加護を請う言
葉が紡がれる筈であった。

「このようなめでたい日ですが、一つ、悲しい報告をしなければなりません」
――なんという滑稽な日……
「わたくし達の友、親愛なるアルビオンの王家が、貴族派によって滅ぼされました」
――ウェールズ様……

「ハルケギニア中にあらさまに露呈したこの暴挙には、いったい何の意味があるというのでしょう。
 彼らのの行いは、単に王家への侮辱というだけでなく、始祖ブリミルそのものに対する侮蔑なのです。
 始祖の教えに従い、共に生きようと願う人々の仲を引き裂いているのです」
――これで、いいんですよね?……


「彼らは、傲岸不遜にも我々を屈服させ、聖地をエルフより取り返したいと考えているようです」
――傲岸不遜……この私にこそ最もふさわしい言葉……
「しかし、彼らのような礼儀知らずの愚か者達に、始祖ブリミルの意思を継ぐことができるのでありましょうや?」
――意思……これは誰の意思?
「まして、始祖ブリミルの子孫を打ち滅ぼす事など、始祖御自身が望むのでしょうか?」

「今こそ、我々は、この国が始祖ブリミルによって創られたことを思い出さなければなりません」
――そう、これは私の意志。
「始祖ブリミルの意思を継ぐのは我々です」
――私だけの意思。
「貴族も、平民も区別なく、すべて始祖ブリミルの子として使命を果たさなければならないのです」
――貴族の意思でも、平民の意思でもない。


「私は本日、トリステイン王国王女として戴冠いたしました」
――人形であったものが。
「そしてまた、わたくし、アンリエッタは、始祖ブリミルの正当なる子孫として」
――利己的な人間らしく。
「また、こちらにいるアルビオンの方々の推挙により」
――くだらない根拠によって、
「アルビオン王国の、国王の位を受け継ぐことを宣言いたします」
――無限の血が流れるのを望むことを宣言します。
広場の一角から歓声が上がる。彼らは、アルビオンから亡命してきた元王党派の面々であった。

一寸、アンリエッタの目の前に、ありえるはずのない光景が出現した。
アルビオンの王冠を抱くウェールズと、その傍らには同じ紋様の、王妃の冠をかぶったアンリエッタ。
隣同士の玉座に座る二人の間に、小さな子供がが元気よく走り回る……

「たった今から、アルビオンとトリステインはひとつになりました」
――今、はっきりとわかりました。
自分の声で我に返る。目の前に見えていたはずの幻影が、哀しいほどに愛おしい。

「わたくしたちこそが」
――私こそが……
「わたくしの王家があり続ける限り、総ての国民が」
――私が女王である限り、総ての国民が……
「アルビオンとトリステインの国民総てが、いまやわたくしの兄弟・姉妹なのです」
――すべての国民が不幸であり続ける……
「今こそ始祖ブリミルの子らに申し上げます!」
――わたしは、虚無だ。

「わが兄弟のアルビオン人よ、あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを問いましょう。わが姉妹のトリステイン国民よ、我が国があなたのために何をしてくれるかではなく、わたくしたちと共に兄弟の為に何ができるかを問いましょう」
――私は、私に何ができるかを確かめる。

「私はロンディニウムで、アルビオンの王冠の戴冠式を執り行うつもりでいます」
――私にはそれを止めるつもりは無い。
「それは、現在アルビオンを牛耳っている叛乱軍との交戦を意味します」
――それは私が望んだこと。
「その過程で、あなた方はこう思うに違いありません。『アンリエッタを王女にするのではなかった』と」
――そう、まさにその通り。
「わたくしは、国民の犠牲に対し、報いるものはほとんど持ち合わせておりません」
――その代わり、私はあなたがたに要求する。
「わたくしがあなたがたに提供できるのはただひとつ」
――あなたがたに、死ねと命じる。
「死につながる多数の道と共にある、栄光をつかむ極わずかな一筋の道のみです」
――彼らは皆、私に従って、失われる命も報われると信じて戦う……
「栄誉を唯一のたしかな報酬とみなし、神がわれわれの行動に最終的な判断を下してくれることを信じて、始祖ブリミルに祝福と助けをもとめながらも、このハルケギニアでは、神の仕事はわれわれ自身でなしとげなければならないということを肝に銘じて、われわれの愛すべき国を導くために前進しましょう」
――軍靴を履いて、どこまでも血塗られた道を進む。

万歳。どこからともなく発せられたそれは、さざなみのように広場中に広がっていった。
「アンリエッタ女王万歳!」
万雷の声が重なる。狂喜とともに。
「始祖ブリミル万歳! アンリエッタ女王に栄光あれ!」


この瞬間、この場所にいる人間は確かに一つの感情を共有していた。
たった一人の女性を除いては……


第4章
トリステインとイゾルデ Fine...


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