ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

十一話 虚無の曜日

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十一話 虚無の曜日

 花京院は夢を見ていた。
 エジプトのカイロで、DIOと対峙する夢だ。
 張り巡らせたハイエロファントの結界、降り注ぐエメラルドスプラッシュ。逃げ場はない。全方位の攻撃を防ぐ手段もないはずだ。
 一瞬の間もなく、吹っ飛ばされる。
 建物に叩きつけられ、DIOを見上げる。
 吸血鬼、最強のスタンド、悪の化身……DIO。
 DIOは花京院から視線を外し、ジョセフの方へと向けた。

 そこで、視界が一瞬途切れた。

 次に見えたのは、惨劇の後だった。
 血を吸われ、干からびたジョセフが倒れている。
 血を流し、ポルナレフが苦しそうにうめく。
 全身をナイフで串刺しにされ、ピクリとも動かない承太郎。
 これ異常ないほど、絶体絶命の状況だった。


 今すぐ助けに行きたかった。勝てなくても、相手にならなくても、仲間のために戦いたかった。しかし、それはできない。
 ……僕がそこにはいないからだ。
 心の中で花京院は呟く。
 ……ハルケギニアという、異世界にいるからだ。
 それに気付いた瞬間、視界が揺らいだ。
 砂漠で見る蜃気楼のように景色は歪み、真っ暗になった。

 いきなり目が覚めた。
 身体を起こし、何度か瞬きをする。
 横のベッドに横たわるルイズを確認してから息をついた。

「……夢か」

 最近、同じ夢ばかり見る。
 仲間がみんなやられていて、花京院は助けにさえも行けない夢だ。
 いつ見ても、何度見ても、助けに行くことができない。
 自分だけが置き去りにされ、傍観するしかない。

 花京院は首をめぐらせ、窓の外を見た。
 外は既に明るくなり始め、どこかから小鳥のさえずりが聞こえてくる。


「夢だ。夢に決まってる……」

 自分を納得させるように、花京院は何度も呟いた。
 ……そんなはずはない。仲間がやられるわけがない。
 真実を知ることができない花京院は、ただそう信じるしかなかった。

       +    +    +

 花京院が悪夢を見ていることなど、ルイズは露も知らない。
 しかし、花京院に元気がないことには気付いていた。
 ルイズが話し掛けてもどこか上の空で、時々ぼーっと遠くを眺めているのだ。
 最初は故郷を恋しがっているのかと思っていたが、どうもそうじゃないらしい。寂しいとか哀しいとかではなく、焦っているような感じだ。

 どうすれば元気付けられるだろうか、とルイズは考えた。
 待遇を変えるというのは無しだ。使い魔の態度でころころと待遇を変えてしまったら主人として失格だし、もしかすると調子に乗ってしまうかもしれない。

 ……じゃあ、どうすればいいのよ?

 そう考えたルイズの頭に、名案が閃いた。


「これよ!」

 思わずルイズは叫んでしまう。
 財布を調べてみると、まだそこそこ残っている。それに、明日は虚無の曜日だ。
 買い物に行くのに、これほど都合の良い日はない。
 ルイズはある物が売っている場所を調べて、それをメモに書き記しておく。
 ぼんやりと買ってあげたときのことを想像してみる。
 主人の優しい配慮に喜ぶことだろう。感激して涙を流すかもしれない。
 そう考えると、自然と心が高鳴った。

       +    +    +

「起きなさい!」

 その日、珍しく花京院はルイズに起こされた。
 寝ぼけ眼をこすりながら花京院がルイズを見上げると、既にルイズは着替えも終えていた。
 起こすのも、着替えさせるのも花京院の仕事のはずなのに、ルイズが自分でやっている。
 珍しいを通り越して、奇妙でさえあった。

「……今日は何か特別な日なのかい?」
「そうよ。虚無の曜日じゃない」
「虚無の曜日?」

 花京院は聞き慣れない単語に首を捻った。
 虚無の曜日とは自分のことは自分でやる日なのだろうか。
 ルイズはため息をつきながらも、説明してくれた。

「休日よ。学校の授業もお休み」
「なるほど。それで?」
「あんた、わたしが何の用事もなくあんたを起こしたと思ってるの?」

 だんだんとルイズの表情が険しくなるが、わからないので素直に頷く。
 ルイズはドアを指差して言った。

「出かけるから、に決まってるでしょ」
「出かける?」

 そういえば、花京院はこの学院から出たことがなかった。
 しかし、この学院の外にも世界は続いているのだから街や村があるのだろう。食べ物もあるということは畑や農場などもあるはずだ。
 あまりにもこの世界について知らないので、今度図書館にでも行って調べてみようと花京院は思った。

「街に行って、買い物するのよ」
「買い物……何か買うものがあるのかい?」
「わたしじゃないわ。あんたのよ」
「僕の?」

 花京院は何を買うか想像してみるが、わからない。
 答えを求めてルイズを見ると、ルイズは何か企んでいるような笑みを浮かべている。

「まあ、何を買うかは街に着いたら教えてあげるわ」
「腑に落ちないが、行くと言うなら同行しよう」
「いい心構えね」

 理由はわからないが、逆らわない方が良さそうだった。
 珍しくルイズは上機嫌なのに、わざわざ不機嫌にさせるのも馬鹿馬鹿しい。
 それに、まだ見ぬ外の世界とやらにも興味がある。

「それじゃあ、これ持ってて」

 ルイズは机の上に乗っていた財布を投げて寄越した。
 受け取ると、ずっしりとした重みを手のひらに感じる。

「財布は下僕が持つものだから。落としたりしないでよね」

 ルイズはそう念を押した。
 中を覗いてみると、金貨がぎっしりと詰まっていた。

「街中ではスリにも気をつけなさいよ」
「わかった」

 花京院は返事をすると、上着の内ポケットに財布を入れた。
 ルイズは杖があることを確かめ、何かのメモを慎重に仕舞った。
 忘れ物がないことを確認した後、二人は部屋を出て行った。

To be continued→

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