ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-39

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「あの、大丈夫ですか?」
「…ほっといてよ」
育郎に一通りの殴る蹴るの暴行、さらには首を絞めようとしたり、最後には月に
向かって叫んでみたり、一通りヒートアップしたエレオノールであったが、酒が
抜けてきたのか、今ではすっかり部屋の片隅でうずくまる負け犬となっていた。
あるいは酒が回りすぎているのかもしれない。
「そう言われても…」
まさかエレオノールを部屋に鎮座させたまま寝るわけにもいかないので、正直
気は進まないが、とにかくエレオノールを説得というか、とりあえず話を
聞いてみる事にする育郎であった。
「あの、こんな事を聞くのは失礼だとは思うんですが…何故そんな頼みを?」
問いかけには答えず、しばし恨みがましい目で育郎をじっと見るエレオノール。
いっその事廊下で寝ようかと考え始めた時、エレオノールがやっと口を開き、
ボソリと一言呟いた。
「…結婚したいのよ」
エレオノールの言葉をゆっくりと頭の中で反芻し、まっさきに頭に浮かんだ事
以外に、他の意味はないかとじっくりと思考する。
無かった。
「あの、それと胸が何の関係が?それにそういう事はバーガンディさんに相談」
「婚約解消された」
非常に気まずい空気が流れる。
「す、すいません…ってちょっと待ってください!まさか胸のせいで婚約を?
 まさか!そんな事あるわけが」
実際そんな訳はないのだが、それで納得するのならこんな事にはなっていない。
「じゃあなんでよ?私の何が悪いって言うの!?」

主にその気性

「はぁ…何か特別な事情があったんじゃ?」

ありません

「…例えば?」
「え?いや…それはその…」
婚約解消の理由などと急に聞かれても、そうそう思いつけるものでもない。
「やっぱり…どうせ胸の無い女なんて結婚できないのよ」
「いえ、ですからそんな事はないですって」
「それに年も…17じゃなかった、27にもなって結婚してないなんて」
「それぐらい僕の国では珍しい事じゃないですよ」
「嘘ばっかり…」
ますます塞ぎこむエレオノールを放っておく訳にも行かず、なんとか慰めようと
声をかけるが、当のエレオノールは育郎に疑わしげな視線を向けたままだ。
「う、嘘じゃないですって。その…エレオノールさんは十分魅力的ですよ」
「…じゃあ、もし貴方が貴族だったとして、私が婚約を申し込んだら受ける?」
「え?」
「やっぱり…」
「いえいえ!喜んでお受けしますよ!」

  「   嘘   だ  !!! 」

「お父様!?」
「ルイズのお父さん!?」
突如部屋に飛び込んできたヴァリエール公爵に驚く二人。といっても、実際は
扉の前で聞き耳を立てて部屋に乱入するタイミングを図っていたのだが。
「じゃなかった…話は聞かせてもらったぞ!
 お前たちが愛し合っていることは良く分かった!」
「「は?」」
「本来なら平民なんぞに大事な娘をくれてやるなど言語道断だが」
「お父様!な、なにか勘違いなさってませんか!?」
エレオノールが慌てて誤解を解こうとするが、公爵はかまわず話を続ける。
というか最初から聞こうとしていない。
「そこまで決意が固いなら…お前たちの仲を認めよう!」
「お父様!そもそも『コレ』は平民ですよ!?」
「お前の心配はもっともだ…さすがにわしも平民と貴族の結婚など認めん…」
その言葉に誤解は解けていないようだが、ややこしい事態は避けられたと
ほっと胸をなでおろすエレオノール。
「故に、まずこの男は平民でも貴族になれる国に行ってもらう!」
が、世の中そんなに甘くなかった。
「しばらく時間がかかるだろうが、彼が立派な貴族になれるその日まで、
 待ってくれるな、エレオノールよ…」
「いえいえいえいえいえ!何を言ってるんですかお父様!?
 ほら、アンタからもなんか言いなさ…って何処見てるのよ?」
見れば育郎は明後日の方を向いているではないか。さらに文句を言おうと
口を開こうとした時、突然育郎はエレオノールを押し倒した。
「ああああああああああんた一体ななななななな何を!
 お父様のいう事を真に受けるにしたって、もうちょっと時と場所を!
 それに順序とかムードとかそういうのを大事にって何言ってるの私は!?」
「大丈夫ですか、お父さん!?」
「…は?」
エレオノールを無視して、育郎は何故か床に倒れている公爵にかけよる。
「お父様!?な、何が起こってるの!?」
急な展開から、さらにわけのわからない状態に陥ったエレオノールの声に答えた
わけではないが、とりあえずの疑問の答えが足元から聞こえてきた。
「帰ってきたぞ相棒!」
「きゅい!」
視線を足元に移すと、先程エレオノールが窓から投げ捨てたデルフが転がって
いるではないか。さらに窓のほうを見ると、ルイズの友人の使い魔の風竜が
窓に顔をつっこんでいる。
「お前、部屋にいれろと入ったが、投げる事はねえだろうが。
 危うくこのきついねーちゃんにぶち当たるところだったぜ」
どうやら先程の育郎の行動は、エレオノールを守るための行動だったらしい。
礼の一つも言うべきかと思ったが、次の瞬間聞こえてきた言葉に、その考えは
はるか彼方へとふっとんだ。
「にしても、このおっさんも真正面から飛んできたんだから、避けれなかった
 もんかねえ?見事なまでに顔面直撃だぞ?やっぱあれか?歳か?」
固まるエレオノールをよそに、公爵を見ていた育郎が安堵の声をあげる。
「…よかった、気を失ってるだけみたいだ」
「よかないわよ!」
「え?」
「あー…相棒、ひょっとしてしっぽり始めるところだったか?」
「しっぽり?」
「ちがーーーーう!!!」
「きゅい!」
「あ、あんたらねえ…」
「どうした、何があった!?おお、旦那様!」
「エレオノール様、これはいったい?」
騒ぎを聞きつけたというか、この部屋に近づくなと公爵に言われていたが、
いくらなんでもコレを見逃したらそれはそれで問題になるだろうと判断した
衛兵達が部屋になだれこんで来た。
いい加減疲れてきたエレオノールだったが、さすがに入ってきたのが衛兵だと
分かると、顔色が変わった。
このややこしい状況を解決する為には、当然の事ながら何故自分がこの部屋に
いるのか話さなければいけなくなり、となると『胸でっかくしてもらいにきた』
なーんてのは、エレオノール的にはとんでもない恥なわけで。
もっとも、侍女が彼女の掃除中に豊胸グッズを一度ならず、何度も見つけたことにより、
彼女の胸の悩みなど、屋敷中の人間に知れわたっているのだが。

「あの、これは」
「だぁぁぁぁぁぁ!あんたはちょっと黙ってなさい!」
説明しようとする育郎の言葉をさえぎりながら、この事態を解決するべくその
類まれなる頭脳をフル回転させるエレオノール。
「ま、まさか貴様…」
「なに!貴様カトレア様を…変わり果てた姿にしただけでなく旦那様まで!」
「え、いやこれは」

こ、これよ!

「ちょ、ちょっとあんた!」
すばやくエレオノールが育郎に耳打ちする。
「な、なんですか?」
「後で私がちゃんと説明しとくから、ここはあの竜に乗って逃げなさい」
「え?でも」
「それにお父様が倒れてる間に逃げないと!あんた変な誤解されたままだし、
 このままじゃ本当に別の国に送られかねないわよ!
 あんたルイズの使い魔なんでしょ?」
育郎は床に倒れる公爵を見て、先程のやり取りを思い出す。
「そ、それもそうですね…」
「じゃあほら!早く!そこに転がってるうるさい剣も忘れないで!」
「わ、わかりました。すいませんエレオノールさん…シルフィード!」
「きゅい?」
「ちょっと下がってて」
「あ、待て貴様!何処へ行く!」
窓を占領していたシルフィードが下がるのを確認した育郎が、すばやくデルフを
拾い上げ、目にもとまらぬ速さで外に飛び出す。
「な、早い!?」
「竜に乗って逃げたぞ!追え追え!」
騒ぐ衛兵をよそに、これで安心と一息つくエレオノール。

あとは適当に言い訳を考えて、お父様の誤解をとけばいいわ…

とりあえず衛兵達に、育郎を追いかけるのを止めさせようとしたその時、視界の
片隅に、この場に一番いて欲しくない人の姿が映った。
「う…お、お母様…」
彼女の母親、ヴァリエール公爵夫人その人である。
「これは何の騒ぎですか!」
「お、奥様!」
やっとエレオノール的に騒ぎが沈静化したと安心したところであったが、
ヴァリエール家ヒエラルヒーの頂点に立つ母の登場により、再び事態が
ややこしい事になりかねないと、嫌な汗が流れる。

しかも怒ってる!
お母様が怒る時は大概ろくな事にならないってのに…

数々の嫌な記憶を思い出しながら、公爵を介抱する衛兵に近寄る母を見る。
「あなた…大丈夫なのですか?」
「あ、はい奥様。気絶しているだけのようです」
その言葉に公爵夫人はホッと一息つく…という事も無く、無表情にぺしぺしと
公爵の頬を叩く。
「ほら、何時まで寝てるんですか、それでもヴァリエール家の家長ですか」
「あ、あの、奥様?」
「そもそも公爵たるものが、こんな真夜中に…学生のころとは違うんですよ!」
最初はかるく叩いていた手に、どんどん力がこもっていく。
「う…あぁ…がう」
そろそろビンタから、ナックルと裏拳の往復に移ろうとしたその時、公爵がやっと
うめき声を上げた。

「やっと起きましたか」
「…ち、違うんだカリーヌ…アマゾネスなんてあだ名をつけたのはグラモンで…
 アマゾネスを越えて既にバーバリアンの領域って言ったの俺だって?
 グラモンの野郎裏切りやがったな…いやちが」
「…起きなさい!」
「グフっ!な…何が…」
「あなた、それはこちらの台詞です。何があったのですか」
「む、むぅ…急に何かが顔に飛んできたような…
 しかしやたら頬がヒリヒリするのはなんだ?
 あと顔より腹が涙が出そうなほど痛いのだが…」
「倒れた時、どこかにぶつけたのでしょう」
いけしゃあしゃあと言い放つ公爵夫人のその言葉に、あえてツッコミを入れる
ような命知らずは勿論この家にはいない。
「そもそも何故こんな部屋にいるのです?
 この部屋は…確かルイズの使い魔に用意した部屋のはずですが」
「むぅ…実はな、エレオノールとあの男」
「おおおおおおお母様!」
「…なんですか、エレオノール。そういえば貴女も何故この部屋に?」
「えーと…」
婚約云々の話が母の耳に入れば、それはそれで取り返しのつかない事態に陥り
かねないと、つい反射的に話をさえぎったが、まだ適当な言い訳等考えていない。
「あー、カリーヌ実は」
「あの男に襲われそうになったんです!」
「「「………は?」」」
その場にいた衛兵全員が互いの顔を見やる。

いや、それはないだろう
命知らずにも程がある
いや、でも見た目は…
2、3言葉を交わせば本性がわかるだろ?
すごいMとか
東方は進んでるな…

アイコンタクトでそんなやり取りを交わす衛兵をよそに、一人真面目にその
言葉を受け取った公爵夫人が、目を丸くしてエレオノールを見る。
「ど、どういう事ですか!?」
「え、いや…その…襲われたというか、迫ってきたというか…
 カトレアのことで話があると呼び出されて…こう、一目ぼれとかなんか」

「酷いのね!気持ちよく寝てたのに、いきなりその剣が降ってきたの!」
「ごめんね」
「い、イクローが悪いんじゃないのね…悪いのはあの女なのね!」
一方そのころ、自分がさらにややこしい立場に陥っているとは思いもよらない
育郎は、空の上でシルフィードのおしゃべりに付き合っていた。
「おめえ、あの姉ちゃんに俺をぶん上げたの、わざとじゃねえだろうな?」
「そ、そんなこと無いのね!手が滑ったのー!」
慌てて否定する様子が逆に怪しさ全開である。
「シルフィード…」
「きゅい…だって…お姉さまにもし何かあった時の為にって、眠いのを
 我慢して遅くまでおきてたのに…」
「そうか、タバサが」
後でお礼を言わなきゃと呟く育郎の背中で、デルフがあることに気付く。
「…ってすっかり寝てたんじゃねえか、おめえ」
「ちょ、ちょっとウトウトしてただけなのね」
「いや、気持ちよく寝てたって言ってなかったか?」
「き、気のせいなのね!」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー