一行はウェールズに案内され、彼の居室へ向かう。
そこは皇太子の部屋とは思えない質素な部屋であった。
ウェールズは机の引出しをあけ、宝石が散りばめられた小箱を取り出し、つけていたネックレスの先に
ついている小さな鍵を小箱の鍵穴に差し込み、中から一通の手紙を取り出す。
ウェールズは名残惜しげに手紙を開き、目を通した後、丁寧に畳み直し封筒にしまい、ルイズに手渡す。
「この通り、確かに返却した」
「ありがとうございます」
ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取る。
そこは皇太子の部屋とは思えない質素な部屋であった。
ウェールズは机の引出しをあけ、宝石が散りばめられた小箱を取り出し、つけていたネックレスの先に
ついている小さな鍵を小箱の鍵穴に差し込み、中から一通の手紙を取り出す。
ウェールズは名残惜しげに手紙を開き、目を通した後、丁寧に畳み直し封筒にしまい、ルイズに手渡す。
「この通り、確かに返却した」
「ありがとうございます」
ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取る。
「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が出発する。貨物船は代わりに接収させてもらうがね、
それで君達はトリステインに帰りなさい」
ルイズは目を伏せていたが、決心したように目をあげ、問い掛ける。
「あの、殿下…先ほど栄光ある敗北とおっしゃりましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
ウェールズは即答する。
「ないよ。こちらは三百、あちらは五万。攻勢側は防衛側の3倍の戦力が必要というが、3倍どころか100倍を優に越している。
それに、防衛側というのは有利な分、奇襲などで戦力差をひっくり返しにくい。
いくらこちらの士気が高かろうと、全員が玉砕覚悟でぶつかって三百も潰せれば成功した方だろう」
「その玉砕覚悟でぶつかる兵には殿下も含まれているのですか?」
ルイズは詰め寄る。
それで君達はトリステインに帰りなさい」
ルイズは目を伏せていたが、決心したように目をあげ、問い掛ける。
「あの、殿下…先ほど栄光ある敗北とおっしゃりましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
ウェールズは即答する。
「ないよ。こちらは三百、あちらは五万。攻勢側は防衛側の3倍の戦力が必要というが、3倍どころか100倍を優に越している。
それに、防衛側というのは有利な分、奇襲などで戦力差をひっくり返しにくい。
いくらこちらの士気が高かろうと、全員が玉砕覚悟でぶつかって三百も潰せれば成功した方だろう」
「その玉砕覚悟でぶつかる兵には殿下も含まれているのですか?」
ルイズは詰め寄る。
「当然だよ、だが不幸にも僕は皇太子でね、真っ先に突っ込んで死ぬわけにも行かない。生き長らえるつもりも
ないけれどね。今までこんな戦いに付き合ってくれた兵士たちを見届ける義務がある。一人でも多く戦えなくし、
一本でも多く武器を折り、一秒でも長く粘るつもりだ」
ルイズはウェールズの再び頭を下げる。
「殿下、失礼を承知でお聞きしたいことがあります」
「なんだね」
「この、ただいまお預かりした手紙の内容、もしかしてこれは…」
「ちょっと、ルイズ」
キュルケがたしなめるが、ルイズは意にも介さない。
「この任務を申し付けた姫様と手紙を預かっていた殿下のご様子、尋常ではありませんでした。
もしや、アンリエッタ姫様とウェールズ殿下は…」
ないけれどね。今までこんな戦いに付き合ってくれた兵士たちを見届ける義務がある。一人でも多く戦えなくし、
一本でも多く武器を折り、一秒でも長く粘るつもりだ」
ルイズはウェールズの再び頭を下げる。
「殿下、失礼を承知でお聞きしたいことがあります」
「なんだね」
「この、ただいまお預かりした手紙の内容、もしかしてこれは…」
「ちょっと、ルイズ」
キュルケがたしなめるが、ルイズは意にも介さない。
「この任務を申し付けた姫様と手紙を預かっていた殿下のご様子、尋常ではありませんでした。
もしや、アンリエッタ姫様とウェールズ殿下は…」
ウェールズは微笑んで応える。
「そう、その手紙は君の想像の通り、恋文だ」
「やはり、殿下は姫様と恋仲であらせられたのですね?」
「昔の話だ」
ウェールズは顔色を変え遠くを見るような表情になる。
「殿下、トリステインに亡命なされませ!」
ルイズの声色が強くなる。
ワルドがルイズの方に手をおき、諌めようとするが止まらない。
「お願いでございます!我々と一緒にトリステインにいらしてくださいませ!」
「そう、その手紙は君の想像の通り、恋文だ」
「やはり、殿下は姫様と恋仲であらせられたのですね?」
「昔の話だ」
ウェールズは顔色を変え遠くを見るような表情になる。
「殿下、トリステインに亡命なされませ!」
ルイズの声色が強くなる。
ワルドがルイズの方に手をおき、諌めようとするが止まらない。
「お願いでございます!我々と一緒にトリステインにいらしてくださいませ!」
「おいルイズ、それくらいにしておけ」
ワムウがルイズに低い声をかける。
「なによワムウ、あんたには関係ないでしょ!」
「それはお前も同じだろう、お前は話を聞いていて亡命などできんことがわからんのか?」
「そう、彼の言う通りだ。臣下達を見捨てて亡命などはできんし、仮に臣下達を逃がせるとしても
トリステインに迷惑をかけるわけにもいかないし、彼らも、僕も亡命などは選ばないだろう」
「なぜですか!自分の命が惜しくないのですか!おそらく姫さまも手紙で亡命を薦めているはずです!」
ルイズは涙を流しながら声を張り上げる。
ワムウがルイズに低い声をかける。
「なによワムウ、あんたには関係ないでしょ!」
「それはお前も同じだろう、お前は話を聞いていて亡命などできんことがわからんのか?」
「そう、彼の言う通りだ。臣下達を見捨てて亡命などはできんし、仮に臣下達を逃がせるとしても
トリステインに迷惑をかけるわけにもいかないし、彼らも、僕も亡命などは選ばないだろう」
「なぜですか!自分の命が惜しくないのですか!おそらく姫さまも手紙で亡命を薦めているはずです!」
ルイズは涙を流しながら声を張り上げる。
「惜しい、惜しいに決まってるさ。怖いし、恐ろしいし、辛いし、今すぐにも逃げたいさ。
だが、人間には命以上に大切なものというものがあるような気がする。武人として、貴族として、皇太子として、
アルビオン人としての名誉と、臣下の信頼を裏切って亡命などできない。
…人間は高度な知性を持っていると言うが、もしかしたら最も馬鹿な生き物なのかもしれないね」
ウェールズは自嘲気味に笑い、続ける。
「君は、正直な女の子だな、ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。
しかし、忠告はしよう。そう正直では大使など務まらないよ、しっかりしなさい」
ルイズに微笑みかけ、そういった。
「…だが、亡国への大使としては適任かもしれないね。明日には滅ぶ政府は誰よりも正直だからね」
ウェールズは腕に巻かれたこの世界でも珍しい、魔法で動く腕時計に目を通し言った。
「そろそろ、パーティの時間だ。おそらく我らの王国最後の客人よ、ぜひとも出席をお願いしたい」
一行はワルドを除いて部屋を出て行く。
ワルドは一礼し、ウェールズになにか頼み込んでいた。
だが、人間には命以上に大切なものというものがあるような気がする。武人として、貴族として、皇太子として、
アルビオン人としての名誉と、臣下の信頼を裏切って亡命などできない。
…人間は高度な知性を持っていると言うが、もしかしたら最も馬鹿な生き物なのかもしれないね」
ウェールズは自嘲気味に笑い、続ける。
「君は、正直な女の子だな、ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。
しかし、忠告はしよう。そう正直では大使など務まらないよ、しっかりしなさい」
ルイズに微笑みかけ、そういった。
「…だが、亡国への大使としては適任かもしれないね。明日には滅ぶ政府は誰よりも正直だからね」
ウェールズは腕に巻かれたこの世界でも珍しい、魔法で動く腕時計に目を通し言った。
「そろそろ、パーティの時間だ。おそらく我らの王国最後の客人よ、ぜひとも出席をお願いしたい」
一行はワルドを除いて部屋を出て行く。
ワルドは一礼し、ウェールズになにか頼み込んでいた。
城のホールで行われる華やかなパーティ。
「明日で終わりだっていうのに、随分華やかね」
ルイズの言葉にワルドは頷く。
「明日で終わりだからこそ、ああも明るく振舞っているのだ」
「明日で終わりだっていうのに、随分華やかね」
ルイズの言葉にワルドは頷く。
「明日で終わりだからこそ、ああも明るく振舞っているのだ」
貴婦人達の間から歓声が上がる。ホールの入り口から皇太子がつかつかと玉座へ近づき、
何事か父王に耳打ちする。
国王、ジェームズ一世は立ち上がろうとするが、年のせいかよろけ、倒れそうになる。
会場のあちこちから屈託のない笑いがこぼれる。
「陛下、お倒れになるのはまだ早いですぞ!」
「明日まではお立ちになっていただけなければ我々が困ります!」
会場から野次にも似た軽口が飛ぶが、国王も悪意はないとわかっており、軽口で返す。
「おのがたも二日酔いで決戦に参加するのだけは勘弁願いたいのう」
ウェールズが体を支え、立ち上がった国王が咳を一つすると会場の全員の顔が引き締まる。
「諸君。いよいよ明日正午、このニューカッスル城に立て篭もった我らを駆逐しようと逆賊どもの
総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らはよく従ってくれた。しかし、明日は戦いではない。
おそらく一方的な虐殺となるであろう。これも、無能な諸君らの責任である。朕は諸君らの
馬鹿さ加減にはほとほと呆れた。よって、ここにいる自分以外の全員、全てクビとする。
獲物になってやるネズミは朕一人で充分だ」
何事か父王に耳打ちする。
国王、ジェームズ一世は立ち上がろうとするが、年のせいかよろけ、倒れそうになる。
会場のあちこちから屈託のない笑いがこぼれる。
「陛下、お倒れになるのはまだ早いですぞ!」
「明日まではお立ちになっていただけなければ我々が困ります!」
会場から野次にも似た軽口が飛ぶが、国王も悪意はないとわかっており、軽口で返す。
「おのがたも二日酔いで決戦に参加するのだけは勘弁願いたいのう」
ウェールズが体を支え、立ち上がった国王が咳を一つすると会場の全員の顔が引き締まる。
「諸君。いよいよ明日正午、このニューカッスル城に立て篭もった我らを駆逐しようと逆賊どもの
総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らはよく従ってくれた。しかし、明日は戦いではない。
おそらく一方的な虐殺となるであろう。これも、無能な諸君らの責任である。朕は諸君らの
馬鹿さ加減にはほとほと呆れた。よって、ここにいる自分以外の全員、全てクビとする。
獲物になってやるネズミは朕一人で充分だ」
会場がざわめく。
「…明日の朝、巡洋艦『イーグル』号がここを離れる。国王として最後の命令だ、どこの港に
着けるかはわからない…しかし、止めてもらえる港へ風石が続く限り飛べ!ただ今より全員に暇を与える!」
「…明日の朝、巡洋艦『イーグル』号がここを離れる。国王として最後の命令だ、どこの港に
着けるかはわからない…しかし、止めてもらえる港へ風石が続く限り飛べ!ただ今より全員に暇を与える!」
ざわめきが大きくなる。
「諸君らがこの忌まわしき大陸を脱出した後、この老いた城は老いた貴族と共に散る。以上!出発の準備をせよ!」
「諸君らがこの忌まわしき大陸を脱出した後、この老いた城は老いた貴族と共に散る。以上!出発の準備をせよ!」
「あらら…、クビかよ」
「まいったね」
「どーする?」
「まいったね」
「どーする?」
兵の中から声が漏れる。
貴族たちが大声を上げる。
「殿下!老いた貴族と呼ばれるほどまだ私は老いていないと思っていたのですが!」
「私たちはもうクビにされた一人の人間、その命令は誰に言っているのですか?」
「これだけネズミが居れば、猫の数匹の喉を切り裂き、派手に散れるでしょうな!」
「耄碌するには早いですぞ、殿下!」
貴族たちが大声を上げる。
「殿下!老いた貴族と呼ばれるほどまだ私は老いていないと思っていたのですが!」
「私たちはもうクビにされた一人の人間、その命令は誰に言っているのですか?」
「これだけネズミが居れば、猫の数匹の喉を切り裂き、派手に散れるでしょうな!」
「耄碌するには早いですぞ、殿下!」
国王は涙目になる。
「この大馬鹿どもめ!だから貴様らはクビにされるのだ!一人も二人も百人も大して変わらん戦力差だぞ!
ここまで無能だとは思っていなかったぞ!」
「無能な貴族に守るものは名誉しかございません、殿下」
「アルビオン人として名誉を守り通しましょう、殿下!」
「アルビオン王国万歳!我らが名誉よ、魂よ、結束よ!永遠なれ!」
辺りは喧騒に包まれ、客人であるルイズ達に貴族らがかわるがわる訪れ、
料理を勧め、酒を勧め、冗談を言った。
ルイズは、泣き言も愚痴も一切言わない彼らの行動が逆に悲鳴をあげているように見えた。
いたたまれなくなり、ルイズは外へ出て行く。ワルドはそれを追いかける。
「この大馬鹿どもめ!だから貴様らはクビにされるのだ!一人も二人も百人も大して変わらん戦力差だぞ!
ここまで無能だとは思っていなかったぞ!」
「無能な貴族に守るものは名誉しかございません、殿下」
「アルビオン人として名誉を守り通しましょう、殿下!」
「アルビオン王国万歳!我らが名誉よ、魂よ、結束よ!永遠なれ!」
辺りは喧騒に包まれ、客人であるルイズ達に貴族らがかわるがわる訪れ、
料理を勧め、酒を勧め、冗談を言った。
ルイズは、泣き言も愚痴も一切言わない彼らの行動が逆に悲鳴をあげているように見えた。
いたたまれなくなり、ルイズは外へ出て行く。ワルドはそれを追いかける。
「ワムウ…」
ルイズが外に出て、最初に目に入ったのは甲板でたたずんでいるウェールズと話しているワムウだった。
「ねえ、ワムウ…なんであの人たち笑うの?なんであんなに明るいの?」
ワムウは返事をしない。
「どうして、彼らは死を選ぶの?皇太子さまは、姫さまが…恋人が逃げてっていっているのに…
なんでそれでも逃げないの?愛する人より大切なものなんかあるの?」
「俺は戦いに生きる。奴らは名誉に生きる。似たものとは言いがたいが理解はできる。
それが、人間というものなのだろう。ひ弱で、短命で、傲慢だが、いや、だからこそ俺は人間に
一目おくこともできる。もしかしたら、我ら柱の男以上に素晴らしい生き物なのかもしれない」
「なにが素晴らしい生き物よ!死んで残される人のことなんか考えてないお馬鹿さんばかりよ!」
「名誉のために、国や話したことも無い人間を守るために散っていく者は我が世界にもいた。
しかし、考え方は違うが精神的に戦士である彼らを馬鹿にすることは許さんぞ」
「あんたも、大馬鹿者ね。あんたは私なんかじゃなくてここのお馬鹿さんの使い魔になればよかったのにね」
ルイズは呟く。
ルイズが外に出て、最初に目に入ったのは甲板でたたずんでいるウェールズと話しているワムウだった。
「ねえ、ワムウ…なんであの人たち笑うの?なんであんなに明るいの?」
ワムウは返事をしない。
「どうして、彼らは死を選ぶの?皇太子さまは、姫さまが…恋人が逃げてっていっているのに…
なんでそれでも逃げないの?愛する人より大切なものなんかあるの?」
「俺は戦いに生きる。奴らは名誉に生きる。似たものとは言いがたいが理解はできる。
それが、人間というものなのだろう。ひ弱で、短命で、傲慢だが、いや、だからこそ俺は人間に
一目おくこともできる。もしかしたら、我ら柱の男以上に素晴らしい生き物なのかもしれない」
「なにが素晴らしい生き物よ!死んで残される人のことなんか考えてないお馬鹿さんばかりよ!」
「名誉のために、国や話したことも無い人間を守るために散っていく者は我が世界にもいた。
しかし、考え方は違うが精神的に戦士である彼らを馬鹿にすることは許さんぞ」
「あんたも、大馬鹿者ね。あんたは私なんかじゃなくてここのお馬鹿さんの使い魔になればよかったのにね」
ルイズは呟く。
そこに、追いかけてきたワルドが現れる。
「ルイズ、パーティを抜け出して、どうしたんだい?ずいぶん探したよ」
「ワルド様…どうしたんですの?」
「ルイズ、大事な話がある。使い魔君も聞いてくれたまえ」
「なんですか、ワルド様?」
「ウェールズ皇太子にも許可をいただいた。衣装も用意した」
「もう、なにをなんです?」
「ルイズ、パーティを抜け出して、どうしたんだい?ずいぶん探したよ」
「ワルド様…どうしたんですの?」
「ルイズ、大事な話がある。使い魔君も聞いてくれたまえ」
「なんですか、ワルド様?」
「ウェールズ皇太子にも許可をいただいた。衣装も用意した」
「もう、なにをなんです?」
ワルドが一泊あけ、ルイズの肩をつかみ、強く言った。
「日程は明日、媒酌は皇太子に頼んだ。場所はここの教会でだ。ルイズ、結婚しよう」
「日程は明日、媒酌は皇太子に頼んだ。場所はここの教会でだ。ルイズ、結婚しよう」
To be continued.