ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

外伝-6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
領地の境界から屋敷まで一日をかけてたどり着いた屋敷でジョルノは壁際に置かれている様々な彫刻にジョルノは見入っていた。
大理石で出来た少年の像。今にも動き出しそうな躍動感に満ちた一匹の獣に挑む勇壮な男の像。この世界の英雄達らしき像。
薄布を纏った少女。ヴィーナス。etcetc…土の魔法で作られたそれらはどれも素晴らしい出来だった。
滑らかな表面には傷一つ無く、製作者の意志が込められ時には写実的でないものや不自然なポーズで固定されたものもある。
だが年代が古い物もあるだろうが、全て固定化の魔法により腐食や変色が防がれ埃なども丁寧に取り除かれている。

「見事な彫刻ですね」
「お気に召しましたか? 確かそれは…三百年ほど前のトライアングルが製作したものと聞いております。あぁそちらはこの屋敷の主人であるヴァリエール公爵の手による物で」

周りを警戒するように右へ左へと世話しなく目を動かしながら、説明するバーガンディ伯爵にジョルノは顔を向けた。

「ほぉ、ヴァリエール公爵が?」
「はい。ヴァリエール公爵は彫刻などを始めとした芸術に強い関心を持っておられるだけでなく、ご本人も土系統の魔法による彫刻制作で高い評価を得ておられます」

説明を聞くジョルノの周りでは深く帽子を被ったテファも、並べられた彫刻やそれ自体が芸術品に値する程の細かな細工が施された壁面などを興味深そうに眺めている。
ラルカスも貴族らしく多少は芸術方面に造詣があるらしくテファが興味を持ったものを一つ一つ丁寧に説明していた。

所でトリスティンを始め、この世界では絵画に名画と呼ばれるものは殆ど無い。
貴族達は魔法を使えば然程時間をかけずにジョルノが眺めているような石像が作れてしまうからだ。
水魔法で水や油を動かすことはできるが、色を作ったり配置したりするセンスも要求されてしまい彫刻に比べ長い時間がかかる。
その時間に見合うものができないというのがハルケギニアでの評価であり、その評価故に志望する人の数が少なくなり作品数もすくなくなるという状況なのだ。
ちなみに平民の手仕事には芸術は行えないとさえ考えている者が多い為平民の芸術家はほぼいない。

「ところで伯爵…なにか良いフレーズありませんか? 実はまだ彼女に贈る詩ができてなくて」
「一度位できなくても「駄目です!ワタシの命が危ないでしょう!?」

震えるバーガンディ伯を見てジョルノはため息をつく。

メディチ家歴代の美術コレクションを収蔵するウフィツィ美術館やミケランジェロの傑作『ダヴィデ像』が所蔵されているアカデミア美術館には及ばないが…
このヴァリエール家所蔵の品々は十分美術館と呼べる程の品揃えがあるというのに、何故婚約者に震える年上男の為に詩なんぞ考えなければならないのか?
ここに到着するまでも含めて、これで8回目となればジョルノの口からため息が出るのも仕様が無かった。

「では代わりの物を送ってはどうです?」
「念のために用意もしてありますが、やはり女性には詩や花が受けが良いらしくて…」

まぁ彼女の実家がコレですから普通のプレゼントでは満足できないのかもしれませんが、とバーガンディ伯は自嘲気味に笑った。
そういうものかとジョルノは適当に相槌を打つ。
こちらの女性で仲がいいのはテファ位だったし、元の世界でも女性経験が豊富とはいえないジョルノには判断が付かなかった。
母親に問題があったせいかジョルノは、平均的イタリア人男性程軽薄にはなれない性質だった。

「お待たせしてすまない、バーガンディ公爵。よく来られた」
「ヴァリエール公爵!」

かけられた声にバーガンディ伯が振り向く。
ジョルノ達もそれに習うように声のほうを向くと、初老の男女が穏やかな笑みを浮かべつつジョルノ達の元へと歩いてくるのが見えた。
バーガンディも笑顔を浮かべてそれを出迎え、ジョルノは一歩引いて声をかけられるのを待ちながら今暫し彫刻を眺める。
確かにこのヴァリエール公爵は血筋を辿れば王家にたどり着く程のこのトリスティンでも有数の貴族だ。
だが仲良くするべき相手かどうかというと、微妙な所だ。
長い歴史を持つ。それは彼らの中では美点だが、平民が金で地位を買い貴族になるゲルマニアにおいては古くからいる貴族と親交がある事に嫌悪感を持つ者もいるのだ。
そしてそんな者達こそ今上がり調子だったりするのだから、ジョルノとしては今回はどんな相手か見ることができればそれでよかった。

「すまないがエレオノールはあいにくと急な用ができてお会いする事ができない」
「そ、そうですか! いやぁ残念です。HAHAHA」

今のバーガンディ伯爵の態度では彼の紹介でヴァリエール家と親交を持っても長く続くとも思えないというのもあった。
馬車内でも少し話を聞いたが、本当に結婚できるのか?
ジョルノにはそれが疑問だった。

「ネアポリス伯爵、でしたかな? 初めまして。彫刻に興味がおありですか?」

未来の義理の息子を伴い、ヴァリエール公爵はジョルノの隣に立った。
手が差し出され、ジョルノはその手を取る。

「初めまして。ええ、私も芸術には少々興味があります。この石像、公爵の作品だという事ですが…」
「ええ、私も土系統を得意とするメイジ。練習がてら始めた事がちょっとした特技に成ったというわけです」

ジョルノは公爵の返事を聞きながらその薄く色づいた大理石の像を眺め、ついで公爵の隣に立つヴァリエール公爵夫人を見る。

「奥様ですか。初めまして、ジョナサン・ブランドー・フォン・ネアポリスと申します…公爵、この像はもしや奥様をモデルにされたのでは?」
「おや、おわかりになりますか!」

公爵は照れたようにジョルノの言を認め妻の方をチラチラと見た。
ヴァリエール公爵夫人は、一歩引きジョルノにも軽く挨拶をしただけにとどめていたので、ジョルノも彼女の手の甲に挨拶をしたりはしなかったが。
ジョルノはそれを不気味に感じていた。
夫人はバーガンディ公爵より年上の娘がいるとは思えない程若々しく見えるし、身長だけで言えばテファよりも小柄な女性だ。
が、その視線の動き、そこから感じられる微かな表情は、公爵などより余程手ごわい相手のようにジョルノには感じられた。

「ええ、奥様への想いの強さでしょうか。ここに飾られた石像の中でも特に苦心が窺えます」

畏怖とか色々と感じられましたとは言わなかった。
ただ視線を交わす。奇妙だがそれだけで分かり合える確かなものがあった。

だがジョルノは既に公爵から視線を外している。
これで確認できたからだ。

このヴァリエール家の真の支配者が誰であるか…
彼らの視線が交わるその一瞬、たったの一秒にも満たない時間が齎した深い共感を、ヴァリエール公爵夫人は敏感に感じ取ったのを理解したからだ。
彼女の小さな手が微かに揺れて…公爵の背中に滝のように汗が流れ始めたのはジョルノの勘違いではないだろう。

先ほどまでの深い共感から芽生えた同士への暖かい視線が今は間逆の冷たいものへと変わっているからだった。
今度はヴァリエール公爵から視線を外したジョルノの手が動き、少し離れていたテファが夫妻の前に来る。

「ご紹介するのが送れて申し訳ありません。私がさる方からお預かりしているティファニア嬢と、私の「使い魔のラルカスと申します。公爵様」」

ジョルノに紹介されるまでもなくラルカスはガリア貴族としての作法に乗っ取りヴァリエール公爵夫妻に挨拶をする。
それを見た夫妻は眉を顰めた。
亜人が使い魔となるという話は夫妻にしても聞いた覚えが無い。
だがその脅威度から犬や猫、カエル等よりは上だと認識している。
メイジの腕を知るには使い魔を見ろ、そう末の娘にも教えている夫妻はジョルノのメイジとしての腕を高いものと考えたようだ。

「亜人を使い魔としているとは…伯爵の事は主にビジネスの世界で噂として聞いておりましたが、メイジとして優秀でおられるようですな」
「戦闘は得意ではありません。彫刻なども…あぁ一つ。治療に関しては多少覚えがありますが」
「治療? ですと」

夫妻の間に緊張が走る…テファの胸をヴァリエール公爵が見たからだけではない。
いや、確かに公爵は更に流す汗の量を増やしていたが、何か彼らにとって重要なことに踏み込んだのかもしれない…ジョルノにはどーでもいいことだったが。
ジョルノとしてはさっさとテファを紹介させて欲しかった。
テファが今後どうなっていくかはジョルノにもわからない。

だが、テファの母は今アルビオンの貴族派との戦争において劣勢に陥っているというアルビオン王家の国王の弟の妾だった。
当然テファの父はその国王の弟であり、テファがその事を証明すれば王太子ウェールズに次ぐ王位継承権を得てしまうのは明白だった。
もし表に出る事になった場合、テファは妾との子供でしかもエルフというハンデも背負ってという事になる…

そんな考えが浮かべば、たかが大貴族夫妻相手に挨拶位はしておかせたかった。
テファが緊張した様子でジョルノを少し見上げたが、ジョルノは笑顔を見せじテファの手を引いてやるだけに留めた。

「ええ、体に空いた穴位なら修復して見せますが。さ、お二人に「ネアポリス伯爵。折り入ってお願いしたい事があります」
「カリーヌッまさか!?」
「はい。見ていただいたほうがいいでしょう。治癒だけを見れば、これほどの腕のメイジに出会ったことはありません」

妙な事になってきた。
ジョルノは思わぬ展開に戸惑う牛とテファは置いてきたほうがよかったかもしれないと思った。
そんなジョルノ達の事など見えていないように夫妻は見つめあい、言葉を交わすことも無く公爵が負けた。
幾分肩を落とした公爵がジョルノに遠慮がちに言葉をかける。

「ネアポリス伯爵。貴方の腕を見込んでお願いします。私の娘を診察していただきたい」
「…まずは詳しい話を聞かせていただけますか?」

少し考えてから、ジョルノはそう答えた。

頷き、ヴァリエール公爵はジョルノらを別の所へ…その一度ジョルノに診せたい娘の下へ向かいながら説明する。
ヴァリエール公爵家には3人娘がいる。
長女はバーガンディ公爵を恐れさせている程キツイが、今は王都だ。
末娘もどうやらキツイ性格だが魔法が苦手らしい。今は魔法学院だ。
その二人の間に挟まれ、どういうわけか二人とは全く逆の特徴を備えているのが、これから引き合わされようとしている次女カトレアだという。

つまり性格が大らかで病弱、胸が大きいってわけですか。
ヴァリエール公爵がカトレアの部屋に入り説明をする間部屋の外で待ちぼうけを食らったジョルノは冗談半分にそう考えたのだが…
公爵が部屋から出て、ジョルノ達に部屋に入るよう促す。
カトレアの部屋に通されたジョルノは…ついさっき冗談半分に考えた通りのカトレアらしき女性を目にして少し頭が痛くなった。

「今度のお医者様はとてもお若いのね。ごめんなさいね、こんな格好で」

部屋に入ってきたジョルノを見て、動物に囲まれて大きなベッドに横たわっていた二十そこそこの女性が上半身を起こす。
優しい性格で、怪我をした動物などをよく拾ってくるとは公爵から説明を受けていたが、その周りにいる動物達の種類、動物達が体を起こそうとするカトレアを気遣うような動きを見せたのに、ジョルノ達は驚いた。

「いえ、そのままにしてください」

彼女がカトレアらしい。見知らぬ侵入者に動物達が少し警戒するような動きを見せ、カトレアがそれを嗜める。
母親と同じ桃色がかったブロンドだが、表情…とりわけ眼差しが穏やかで、向けられると奇妙な安心感が心の隅に沸くのをジョルノは感じた。
寝巻きに包まれたプロポーションは女性らしく成熟しており、寝巻き姿で客を迎える事に恥じらいを覚えるような人でもあるようだ。

「初めまして。ジョナサン・ブランドー・フォン・ネアポリスです。ご説明があったと思いますが、貴方のお父上から一度貴方を診るよう頼まれました」
「ジョナサン?」

それに、勘も鋭いかもしれない。
入った所で足と止めていたジョルノは少し部屋に足を踏み入れ、次いでテファとラルカスも部屋に入り順に自己紹介をする。
ジョルノはその間に未だ警戒を解かない大きな蛇を目で圧して、カトレアの傍に寄った。
テファとラルカスの自己紹介を聞きながらも、その動きを見逃さなかったカトレアは微笑を浮かべてジョルノを迎えた。

「貴方の事はジョナサン君でいいのかしら?」
「ご自由に。シニョリーナ。キスのご挨拶をしてもよろしいですか?」

手のかかる子供でも見るような目に微かに戸惑ったジョルノは軽口を一つ叩いてみた程度の気持だったが、その一言で蛇やら鳥やら、カトレアに拾われた動物達が逃げ出し始めた。
ヴァリエール公爵の放ち始めた圧迫感のある雰囲気のせいだ。
ラルカスも少し軽薄とも取れる態度が気に入らず止めろと目で告げるが、ジョルノはラルカス達に背を向けている。
祈る事。ラルカスにできるのはそれだけだった…カトレアも戸惑ったような表情を見せていた。

「まあ!」
「…変なことを言いましたか?」

動物達が逃げるのを見たジョルノはそう尋ねた。
カトレアは首を振り恥じらいとちょっぴり残念そうな顔をする。

「いいえ。私、貴方のような若い紳士の方に言われるのは初めてだったの。でも私はこんな体ですから、何かうつってしまうかもしれないわよ?」
「そんなことを言う人がいたんですか?」
「私の体のことが何も分からない方は時折そう…お父様、どうかされましたか?」

苦笑したカトレアの言葉を聴きながら、ジョルノは柔らかい掛け布団に少し沈むカトレアの手を取りその指先と甲に口付けをする。
少し冷く、細いというより痩せた手だった。

「ネアポリス伯…! すまないがさっさと見てやってくれませんかね」

堪え切れなかったのだろう。ヴァリエール公爵の怒りの篭った声が背中にかけられ、ジョルノはカトレアの手を掴んだまま彼女の額に手を当てたりして診察していく。
カトレアにそういう態度を取ったメイジがその後どーなったかは尋ねないほうがいいのだろうなとか考えながらだったが。

今にも爆発しそうな公爵を宥める夫人の声を聞きながら係りつけのメイジや今までカトレアを診たメイジの記録を読んでも見たが、大した記録が残されていない…
患者の容態をしっかりとした記録を取って残すという考えが一般的でないのかもしれないし、ヴァリエール家としては残したくないか残してしまわない方がいいとメイジ本人が考えているのかもしれない。

その辺りは想像するしかないがこれでは詳しい状態を知るのがジョルノ一人の感覚になり、ジョルノの感覚や知識が間違っていて誤認してしまう可能性も高まる。
波紋によるスキャンに加えて、ジョルノは誤認を減らす為にカトレアに幾つかの質問をする。
水系統のメイジなら、カトレアの体を流れる水から彼女の体調等を感じ取ってしまうので余りそうした記録は取っておかないのかもしれないとちょっと不思議そうにしたカトレアを見てジョルノは思った。

フーゴと一緒に集めて作っていた亀書庫には医学書も一揃いあり、一応目は通してある。
何せ多少特殊とは言えメイジのふりが出来たほうが便利になりそうだからだが…聞くに連れて表面上はともかく、ジョルノの内面は揺れた。
ここにたどり着くまでの会話からもどうしようもないのでは?
という考えが既に浮かんでいたが、蓋を開けてみれば全くその通りでジョルノにはどうにもできないようだ。

ゴールドエクスペリエンスは体の部品を作り埋め込むことで治療を行う。
それにある程度の病なら亀の中に常備されている薬をやればいい。
抗癌剤さえ少しはある。その位の物になるとジョルノの知識で投与するのを決めてしまうのは問題があるが。

唯一効果がありそうなのはポルナレフの話から訓練を続けている『波紋』だったが、ジョルノの波紋ではどれほどの効果があるかわからない。
ジョルノの波紋は所詮壁に張り付く程度の能力。
ポルナレフの話に出てきたジョセフやリサリサなら違うのだろうか…?
多少無力感を感じるジョルノにテファが声をかける。

「ジョナサン、治してあげられそう?」

ジョルノへとかけられたテファの質問はその場の全員が思っていることだった。
ヴァリエール家の三名は半ば諦めているが…何せ今までに様々な医者を連れてカトレアの治療を頼んできたのだ。
かけた金額をそのまま領民に分ければ何割かは年単位で働かずとも暮らしてゆける。
カトレアの体に良い食べ物を手に入れる為、医者を連れてくる為、医者が必要だといった薬の材料を得る為に支払った労力をかければこのヴァリエール領はモットモット発展していただろう。

そう言ってしまえる程度のことをヴァリエール家は行ってきたが、結果はこの様だったのだ。
いや、カトレアが今生きているのはそれ位の事をしたからかもしれない…一歩引いていた公爵夫人が公爵を差し置いて出てジョルノに言う。

「ネアポリス伯、はっきり言ってくださって構いません。無理なのでしょう?」

ジョルノは頷いた。

「はい、私には治せません。私には貴女の痛みを和らげることしか出来ないでしょう」

公爵は肩を落とす妻を抱き寄せて慰めの言葉をかける。
今よりも体調が良い日が増えるなら僥倖ではないかとか、気休めの言葉を捜す公爵に背を向けたまま、ジョルノはカトレアの手をとり、考え込んでいた。

テファが話しかけてくれたことが、実に良かった。
試してみる価値のある考えが頭に浮かんでいた。

だが…本当にいってよいのだろうか?
思いついた手で目減りするのは自分の物ではない…落胆した空気が流れる部屋で暫し考えたジョルノは決断した。

「ですが、ラルカス、貴方の相棒と変わってもらえますか?」

ラルカスが頷くと同時に若干身にまとう雰囲気が軽くなる。

「なんだジョナサン?」

テファ達の前という事を考慮し、地下水もジョナサンとジョルノを呼んだ。

「俺の力を当てにしてるなら無理だぜ。確かにコイツは俺が知る中でもモノスゲー治療が得意なメイジだが、まだ足りないんじゃね?」

今度はジョルノが少し落胆する。
ラルカスは自分の体を治療する為に手を尽くしてきた水のメイジだ。
ヴァリエール家ほどの財力などは無かったが、人体…特に治療に関してはスペシャリストと言っていい。
その知識と能力に地下水の能力を+しても治療できないという…予想通りだが、これでテファにお願いするしかジョルノには手が無い。
ジョルノは気付かないようにしていたが、先程から物言いた気にしているテファに声をかける。

「そうですか。テファ、貴方の母上の形見、お借りして構いませんか?」
「ええ!ぜひ使って」

テファは嬉しそうに自分の指に嵌めていた指輪をジョルノに渡す。
ジョルノは礼を言うが、テファは付け加えるようにこう言った。

「気にしないで。貴方が言い出さなかったら、私から言い出してたわ」

そのやり取りに、公爵達は首を傾げていた。
形見だの、亜人の使い魔が優秀なメイジだの…突拍子も無い話ばかりであるように彼らには感じられていた。
そんな公爵夫妻にジョルノは至って真面目な表情で告げる。

「…公爵。あなた方にいくつか条件があります」
「なんだね」

弱いところを見せた珍しすぎる妻を慰めるのに忙しかった公爵の声は少し憮然としていた。

「治療が成功したらヴァリエール家にはテファの味方になっていただきます。構いませんね?」
「…構わんよ。元よりそのつもりだ。治せればの話だがね」

ジョルノはさわやかだがダーティな笑みを浮かべた。

「ベネ。ラルカス、こちらへ。指輪は貴方の方がうまく使えるでしょう」

巨体に似合わぬ俊敏さを見せて、地下水が操るミノタウロスはカトレアの横たわるベッドの傍までやってくる。
初めて間近に見るミノタウロスにカトレアは怯える所か喜んでいるようだった。
地下水は配置に付き、ジョルノが波紋を流してカトレアの肉体を活性化させていく。

「チッと集中するから待ってくれよ」
「はい、これで無理ならお手上げですから」

かなり本気で二人はぼやき、地下水はミノタウロスの全魔力を込めて魔法を唱えていく。
幸い、ミノタウロスは自分の治療や移植などの経験から医療に関する知識は随一。
必要なスペルもすぐに思いついた。

ミノタウロスの手の中で、テファから預かった指輪の宝石に似た物体が溶けていく。
地下水の指示でそれはカトレアに飲まされ…そして地下水が魔法を唱え終えた。

特に光ったりだとか爆発したりという派手なエフェクトはなかったが…結果から言うと、成功だった。
波紋でカトレアの体を活性化すると同時にスキャンしてもいたジョルノにはそれがよくわかる。

「…わるいが、俺もう限界」
「お疲れ様です。いい仕事でしたよ」

カトレアの体を蝕んでいるのは先天的な疾患だったと言うのにジョルノの波紋によるスキャンで感じられるのは普通の肉体だった。
ちょっと胸など以外が痩せている為、後は健康的な生活を行っていけば完治じゃね?と言えるほどだ。

「ネ、ネアポリス伯爵…まさか!?」
「はい。カトレア。貴方の治療は完了しました。後は、良い食事と適度な運動を心がけてください」

治ったとジョルノが言うなり、公爵夫人がジョルノ達を押し退けて娘に抱きつき、公爵が他の医者を呼び事の真偽を確かめさせる為に動き始めた。
本当に治っている事がわかるにつれ、彼らの表情が笑顔になる。

「波紋+水のペンタゴン(スクエア+地下水)+水の秘宝…これで効果がなかったらお手上げでしたが、うまくいきましたね」
「うん…」

だが代わりに、テファの母親の形見でもある指輪の宝石はとても小さくなってしまっていた。
台座に残っているのは滴数滴ほどの小さく薄っぺらい塊だった。
喜ぶヴァリエール親子の傍で、ジョルノはテファのほっそりとした指へ台座の先が無くなったせいで印象ががらりと変わった指輪を嵌める。
テファは治った事を喜んでいたが、指に差しなおした指輪の変わりようを見て、テファの顔が微かに曇るのをジョルノは見逃さなかった。

「ネアポリス伯爵! 今日は宴だ。さっ貴殿には私の心からのもてなしを受けてもらわねばならん…覚悟はいいか?私はできている」

既に酔っ払ったようなテンションの公爵はジョルノの手を引いて、連行していく。
テファは夫人やカトレアに捕まっているようだった。

「まずは風呂だ。息子よ! 準備が整うまでそこでゆっくりと語り合おうではないか!」
「いつから息子になったんですか…」
「息子同然だということだ。貴公は野蛮なゲルマニア人だが、娘を治したとあっては息子同然に扱うしかあるまい!」

後で忍び込んでこっそり治した方がよかったかもしれない。
近すぎる満面の笑みを浮かべた暑苦しい顔に、ジョルノはマジでそう思った。

その後一晩で、テファがエルフとの混血であることはあっさりばれてしまったが、カトレアの大らかさと夫人の冷静さに助けられた。
ヴァリエール家はテファへの援助を惜しまないという事を言葉だけでなく書面にまで残してくれた。
だがヴァリエール家を出たジョルノの表情は余りよいものではなかった。
公爵に色々と勧められ、長話にもつき合わされたから、だけではない。
狭い馬車の中、向かいに座るテファの選択が腑に落ちないのだった。

「それでね、昨日はカトレアさんと一緒に眠ったの」

ジョルノはウンザリさせられた昨夜の事を楽しそうに語るテファの顔をジョルノは眺める。
毎日届く報告書を兼ねた手紙を読みながらだが、まだ相手にしてるだけマシだった。
地下水とラルカスは話に相槌を打つのが面倒なのかそれとも昨日飲みすぎたのか馬車に乗った次の瞬間には寝ると言ってうつらうつらしているのだから。

「なんて言ったらいいのかしら。マチルダ姉さん…ううんお母様に似た感じがして、暖かかったわ」

(まだ痩せ細っているが)健康体になったカトレアと過ごした時間はテファにとって楽しいものだったらしく、ちょっぴり興奮した様子さえ窺える。
そのせいで更にテファがここにいるのが腑に落ちないジョルノだったが、一先ず相槌を打つ。

「母? フーン…普通はあぁいう感じがするものなんですか?」
「え、どうして?」

手紙を読みながら返された返事にテファは首を傾げた。
母親に関して、どういう認識を持っているか…テファにとっては優しく暖かく包んでくれる存在だった。
幼少期の頃の記憶の中で、母と過ごしていた時間は大事なものだ。
広い館の中で過ごしたものだけだが、幸福な記憶…それの終わりが母の死であったように、テファにとって母の存在は幸福な時期を象徴する存在だった。
だがジョルノにとっては違うのだろうか?
テファの視線の意味を悟ったのか、ジョルノは顔をあげた。

「あぁ、僕は育児放棄されてましたから」
「育児放棄?」

こちらの世界にはない単語にテファは首を傾げた。
簡単に言うと、とジョルノは手紙を読みながら教えてやる。

「子育てしないってことです」
「そんな…冗談でしょ?」

絶句して聞き返したテファだったが、ジョルノは同じ事は言わなかった。
ばつが悪くなったテファは重くなってしまったように感じる馬車内の空気をどうにかしたかった。
けれど、いい言葉が思いつかない。こんな時何かを言ってくれても良さそうなラルカスはまだ眠ったままだった。
実の所、おきてはいるのだが昨日行ったカトレアの治療で消耗した魔力が完全に回復しておらずラルカスは眠くて仕方が無かった。

車輪が石に乗り上げ大きく揺れる。

「じゃあ…私がジョルノのお母さんになってあげるわ」

胸に手を当てて、顔も満面の笑みでそう言われ、ジョルノは一瞬聞き間違えたのかと思った。
コロネを弄りながら顔を上げたジョルノはなんともいえない微妙な表情でテファを見る。
見慣れないジョルノを見たテファは言葉が足りなかったと感じたのかたどたどしく説明を付け加える。

「ええっと、その…昨日カトレアさんが私の事を少し話したらお姉さんになってくれるって…! 私、嬉しかったから」

あの女は何を吹き込んでいるのか。
嘆息して揺れる馬車内でも飲み易いように蓋とストローを取り付けたコップを取り、紅茶を少し飲む。

「僕に母親は必要ありません。僕が死ぬまでそれは変わらない…それよりテファ、どうして公爵家に残らなかったんです?」

いつも通り届いた手紙から顔を上げてジョルノは尋ねた。
出る時、ジョルノはテファにヴァリエール公爵家に、というよりあの優しげでジョルノに奇妙な感覚を覚えさせるカトレアのところに残ることを勧めた。
安全で公爵はともかくカトレアはある程度信頼のおける相手と判断したからだ。
元々孤児院に向かうのが無理になったから緊急避難として一緒に行く事にしたのだから、当然だった。
だがテファは不満そうに言う。前に身を乗り出した瞬間、ラルカスの視線が揺れる一点を見つめていたが、もはや誰も突っ込まなかった。

「だって、ジョルノは亀を探しにいくでしょ? 私はまだジョルノと一緒に旅をしたかったの」
「…そうですか」

ジョルノは困ったように眉を寄せたが、口元は緩く孤を描いていた。
しかし仕事の規模が裏も表も大きくなってきている。
麻薬が一般家庭にも存在する以上、まともな薬を作ったりしなければならない。その為には金が必要なので必然的に規模を大きくするしかないのだ。
その為にジョルノはラルカスに目を向ける。
ラルカスは砂糖が吐けそうな顔をしていたが…「ラルカス、トリスティン王都に行ってもらえますか?このままでは被害が大きくなる」
「行けと命じられれば」

条件反射と言ってもいい速さで返事を返したラルカスは手早く自分の荷物を掴むと馬車の後ろに用意していた予備の馬に飛び乗る。
ラルカスの大きな体を乗せるのに足る馬に、ラルカスは牛の顔で器用に笑みを浮かべた。
だが同時に、ミノタウロスを乗せられるほどの馬をどこから用意してきたのか…手綱を馬車から切り離しながら、ラルカスは考える。
先日合流したばかりだというのに既に大きな馬を用意したジョルノに微かな畏怖を覚えながら、ラルカスは王都に向かって走り出した。

さっさと終らせなければ、まだステップ1で苦労しているとはいえステップ2や3を教わる事ができず、一日の半分とかを地下水に明け渡す羽目になる。
ラルカスはじゃあなんでジョルノはこんな事を命じたのか考えながら、急いでいた。
それを読み取った地下水がふと呟いた。

「…もしかしてテファの胸を見てたのがばれたんじゃね?」
「あ、ありえる…」

さっきも揺れていたメロンとか冬瓜とかっぽい見た目の何かを思い出しながらラルカスは唇を噛んだ。
何故ボスはあの誘惑から目を離していられるのだ…それともそれがあの強さの理由なのか!?
色々と間違った事を考えながらラルカスは叫ぶ。

「うおおおっ!」

ラルカスは馬を走らせたまま手綱から手を離し頭を抱えた。

自分はボスと一緒にいる間何をしていたのか?
波紋呼吸の練習。胸の鑑賞。皿洗い。揺れる胸の鑑sy…そうか! 

不意にラルカスは理解した(ような気がしただけだった)。

「地下水。私が本能に打ち勝つ為に習っている『波紋』だが、波紋は規則正しい呼吸によって生み出されるのだ」
「そうみたいだが、今更なんだ?」
「胸を見てる私は冷静じゃあないよなぁ? その状態で規則正しい呼吸ができると思うか?」

地下水は何を言いたいのか能力で悟ってしまい呆れて返事もできなかったが、ラルカスは馬上で続ける。

「呼吸は乱れて波紋は練られない…つまり! 呼吸を乱すのは『本能!』だが『本能』を支配した時! (胸を見ないわけだから)呼吸は規則正しく乱れないッ!」
「お前、それくらいにしとけよ?」

忠告にも、ヒートアップしたラルカスは止まらなかった。

「理解したぞボス! ボスが何を考えているのか頭ではなく心で理解した…! 波紋呼吸が出来た時、既に私は『本能』を支配しているんだなッ!」

そう言って頭を抱えたまま雄叫びを上げ続ける牛男に馬の方がびくついていたが、逆に怖くなったのが実に良い鞭となってより速度を上げさせていく。
唯一この場で間違いを正せる地下水は呆れすぎて話しかけられるまで何も突っ込む気になれなかった。

「あの胸を一人鑑賞しようとしたのが間違いだったのか!」
「色々と突っ込んでやりたいがアンタ、牛の本能の前に人として本能を制御しろってことにやっと気付いたのか」
「おおおっ! すまないボス! 全身全霊をかけてこの任務達成し、成長して戻ってみせようぞ!」
「駄目だコイツ…俺がどうにかしないと…」

その雄叫びはジョルノ達にも届いていた。
テファは顔を赤くして胸を抑えている…「ジョルノ。やっぱり、私の胸、おかしいのかしら? だからラルカスも」
手紙を読んでいたジョルノはため息をついてテファへ目を向ける。
浮かんでいる表情は聊か冷たくて、テファは口を噤んだ。

「テファ、それは違います。(こんなこと説明するのも切ないですが)男って生き物はサイズの好き嫌いはともかく女性の胸が好きだし、テファ位の人はあんまりいないんで思わず見ちまうんでしょう」

言われたテファは胸を隠すように、と言っても完全には隠せないが…手で押さえながらジョルノを上目遣いに見た。

「そうなの? やっぱり普通と「普通と違うってことは希少価値ってことでもあります。大抵の男性にとってはとても魅力的ってことです」

何度か瞬きをするテファに、自分が言った言葉を考えてジョルノは馬車の外へと視線を転じた。
言っててなんだが悲しくなったからだ…
読み終えた手紙を仕舞い、新しい手紙を何通か出しながらジョルノはやれやれと首を振った。
今の言い草ではジョルノがわざと牛を横にいさせたように受け取られても仕方ない話だ。

「…ジョルノもそう思う?」

至って冷静な声音のまま解説されたテファは顔を赤くしてそう尋ねた。
それにジョルノは冷静な視線でテファの全身をザッと見てから返事を返す。

「僕は貴女の胸より目が好きです」
「目? どうして?」

疑っているというよりは単純に疑問に思ったらしいテファにジョルノは言う。

「いいですかテファ。『牢獄』で一人の囚人は壁を見ていた。もう一人の囚人は鉄格子から覗く星を見ていた。そんな話が僕の故郷にはあります。貴方は後者だ」

生まれてからは屋敷の中に、エルフと知られた母が殺された後は村にずっといて人を蔑視する事も敵視もしていない、というのはジョルノには見慣れない価値観だった。
ジョルノなら、自分の運命と決着をつける為に兵士達に復讐するだろう。

「貴女の目は、自然と星を見ている。そこが気に入っています…まぁ、どうしても気になるならこの手紙を書いた子達への返事で相談してみたらどうです?」

取り出した手紙を示しながらジョルノが言った言葉にテファは頬を赤らめて手紙を受け取る。
抽象的な言葉だったが、とても嬉しく思いながら目をあわせていられずに受け取った手紙へ視線を移す。
差出人は、ロマリアの孤児院にいる子供達だった。
何人かで一通書いたらしく、名前を書く欄には良く知った名前が並んでいて自然と口元が緩んだ。

「伯爵、馬車が一台立ち往生してますぜ」

馬車内の空気を吹き飛ばすように、御者台から報告があがる。
ガリアで購入したガーゴイルの声だ。
手紙に気を取られているテファから視線を外し、ジョルノは窓から顔を出す。
見ると、少し先で確かに馬車が一台止まっていて…この場所にはいないはずの人が地団駄を踏んでいる。

「イザベラ様。こんな所で何をしてるんです?」
「な、何を言ってるのかねぇ…わ、私はガリア王女なんかじゃ…」

傍に停車した馬車の窓から出たジョルノの顔を見て、特徴的な青い髪をそのままにしているくせにとぼけようとしたイザベラは言葉を失った。
捨て置くわけにもいかぬしと、停車を命じたジョルノは馬車をおりてイザベラの前へと出て行く。

「どちらへ向かわれるんです? よろしかったらお送りしますが」

放っておくって手も無いわけじゃなかったが、ジョルノはそう申し出た。
ここから人のいる所までは歩いていくには聊か距離がある。
見ればイザベラだけでなく足を痛めた馬を労わる御者などもいて、放って置けば彼らが必死で走らされるのは目に見えていたからだ。

「え…そ、そうだね! どうしてもって言うならアンタのその馬車に乗ってやってもいいよ」
「ええ、どうぞこちらへ」

無理をさせられ潰れた馬に一瞬哀れむような目を送り、ジョルノはイザベラを伴い馬車に戻ろうとする。
イザベラはこんな所からはすぐに離れたいのか、駆け足で馬車へと向かっていく。
乗っていた馬車の事など忘れたように見えたので、ジョルノは念のため、残されるものの処遇について言っておくことにした。

「馬は後で迎えをやりましょう。治療の手配も必要ですね」
「フンッ、あんな柔な馬潰してしまえばいいのさ。それと、私は今お忍びなんだ。名前は「イザベラ」ゲルマ…!」

愚痴を遮られ、呼び捨てにされたイザベラは振り向き声を失った。
イザベラがそんな目を向けられる事など殆どなかったとはいえ、見下ろすジョルノの視線はそれ程冷たく鋭かった。

「僕の馬車に乗る以上、それに身分を隠されている以上僕のルールに従ってもらいます。いいですね?」
「なん…う、ん」

言い草がイザベラの癇に障り、尊大かつキツイ言葉を叫ばせようとしたが、ジョルノにはそれを言わせぬ凄みがあった。
ジョルノにとってはさほど険しい顔を見せたわけではなかったが、父ジョゼフから見捨てたような態度で送り出されたせいもあったかもしれない。
王女である事を隠すため、普通の貴族となんら変わらない装束をした現在のイザベラには軽い目に見えぬ圧力にも過敏だった。

その態度をジョルノは少し妙に感じたが、ジョルノ達の馬車の後方から聞こえ始めた馬の蹄が地面を蹴る音にあっさりと考えの外に置いた。
イザベラも音を聞いたのだろう。体が一瞬大きく振るえ、それまでよりもっと急いでジョルノの馬車へ向かう。

だが、馬車に付くより早く、木々に挟まれた道に一頭の馬が現れる。
逞しい筋肉の動き、何よりその大きさから一目見てそれが軍馬だということがわかる。
しかし乗っているのはローブを深く被り素性が分からぬようにした男、…その男はイザベラを見て杖を懐から抜いた。

流れるような動きで、その男は杖を動かしている。
何か魔法を使うつもりだと思うより先に、ジョルノは懐から取り出した拳銃で馬の銅を撃っていた。
地球の技術を取り入れた拳銃とはいえ拳銃ゆえに、射程距離は然程長くは無い為だ。
口径も小さく、その場にいた人間や動物達を驚かせる事は出来たが、馬を殺すには至らない。

一瞬、音に驚いて詠唱を止めた男が撃たれた痛みに慄く馬から落ちる。
馬は撃たれた痛みにもがき苦しみ、馬自身危険な程急激に体勢を崩していた。
ジョルノはそれを確認することなく彼らに近づいている。

攻撃の為の魔法を唱えていた男は、レビテーションも間に合わず今しがたジョルノの馬が通って出来たわだちに顔を突っ込みそれでも止まらず空中で回転し背中を強打する。
イザベラが悲鳴を飲み込むのを背中に感じ、徐々にその男との距離を詰めながらジョルノは男の肩に銃弾を打ち込む。

命中精度がまだ低く、威力もこの距離でもまだ致命傷を与えるには至らないが悲鳴を上げさせたり魔法を唱えられないような状態に追い込むのには十分だ。
それでも杖を落とさない胆力は褒められたものだが、ジョルノはやっと十分な距離に近づいたことを安堵しながら男に問いかけた。

「なんです? 目的と誰の手の者か吐けば命は助けてあげます」

男はそう問いかけられるまで熱いだのなんだのと喚き散らしていたが、「ごぶっ…王権の…簒奪」

「あぁなるほど」

ジョルノが呟き、男の顔面に銃弾を打ち込まれる甲高い音が辺りに響き渡る。
ゴールドエクスペリエンスで男の身元などを確認する物が無いか調べながら、ジョルノは青ざめた表情で震えるイザベラを見やった。
襲撃者の狙いが自分だったからだけではない。銃声を聞くのは初めてなのかとても驚いているようだった。

スタンドを飛ばすが、襲撃者は他には見えない。
持ち物からすると他にも仲間がいるはずだが…一枚岩ではないのかもしれない。
おつむが間抜けなお陰で襲撃者が誰かなど色々と足の付きそうな物を取ってから、ジョルノは最初に銃弾を打ち込んだ馬へと歩いていく。
暴れそうになる馬を容赦なく戻しておいたゴールドエクスペリエンスで殴りつけて静かにする。
ついでにジョルノは能力で傷を治し、ジョルノはイザベラを馬車へと誘った。
だがイザベラは警戒心を露にして一歩も動こうとしなかった。
今しがた襲撃を受けたと言うのに誘うのはおかしい…そう考えたようだ。
そう考えたジョルノに対してイザベラは後退りながら言う。

「あ、あんた…目的と誰の手の者か吐けば命は助けるって言ってたじゃないか。なのに…」

ジョルノにとっては当然過ぎて気付かなかったが、今見せたばかりの容赦ないジョルノの姿がイザベラを恐怖させているらしい。
ぶっ殺すと思った時には既にぶっ殺した後、というのが常識の世界に生きているのだが、こちらは暗殺対象になるような人物でも違うようだ。
ジョルノのことも怪しむイザベラにジョルノは言う。

「僕は貴女を殺しません…僕は今の貴女を踏み台にして喜ぶほどゲスではありませんからね。一人でどうにかするという貴女におせっかいを焼くほど世話好きでもありませんが」

言うなり置いていこうとされては、歩いて目的地に向かうという考えが頭に無かったイザベラは去っていこうとするジョルノの後についていくしかなかった。
そして…馬車に残されたテファは我が目を疑っていた。

『神父様がエルフと新教徒とだけは喧嘩していいって言うんだけど…テファお姉ちゃんはエルフじゃないよね?』

「テファ?どうかしましたか?」
「う、ううん! な、なんでもないの…そうだわ。カトレアさんが話したがってたから、今度お手紙を送るのはどうかしら?」
「…まぁ構いませんが」

戻ってきたジョルノはテファの反応から、手紙に何か書かれている事を知ったが…イザベラが乗ってきたので気付かない振りをした。
ジョルノ宛にも一通だけ、勉強の出来た子供から手紙が届いているのでそれを読めば事情が分かる…そう考えていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー