ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は引き籠り-15

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匿名ユーザー

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オレは女の笑顔がこんなに怖かったのは初めてだね、マジに。
「さあイルーゾォ、別に怒ってなんか無いの。大人しくして、名前特技その他色々ありったけ全部吐きなさい」
だから杖を向けるなよ、畜生・・・・後ずさるまま部屋の隅まで追い込まれ、もう逃げ道はない。観念するオレ。
(イルーゾォ自身は気づく事すらないが、『コントラクト・サーヴァント』は彼の思考にある程度干渉し、
ことルイズに対し恐れは抱けど実際に拳を振るおう、という気を起こさせない。)

ギーシュは(途中から共犯って雰囲気だったくせに!)帰還を喜ぶ恋人に抱きしめられてデレってるし
まるっきり誘拐犯扱いのオレをメガネ女は感情の失せた目で見つめ、
反対に褐色肌の方はなにやら熱っぽい目で嘗め回す。(おい、好意的なら助けてくれよ!おいったら!)
「ほらッ!早く言いなさいよッ!!」
「はい!イタリアから来ましたイルーゾォ、特技は鏡の世界を行き来する事、職業は暗殺者です!」


 ・・・・。・・・・・・・・。


うわあ、凄く嫌な間。凍った空気。
テンション上げて聞き出した本人はビシッと固まったっきり動かねえし
抱き合う恋人同士は着信中の携帯電話宜しくガタガタブルブル震えだした。
メガネ女は何処から突っ込んでいいやらわかりません、と顔に書いてあるようだし
褐色肌も余りの事に血の気が引いて、肌の色が普通になってた。そんな訳は無い。


やがてルイズがおずおずと口を開く。
「い、今まですみませんでした・・・・殺さないで下さい・・・・」
「いえいえこちらこそ、殺さないで下さい。」

ラチが開きやしねえんだ全く。

「そんで、ええと?オレに何か用だったんだろ」
正直じっとして居たかった所を無理矢理引きずり出され、一刻も早くバックレたいオレとしては
この恐ろしい状況をすぐさま切り上げて鏡を探す旅に出るのが最優先。後、シエスタに癒されたい。
冷静に考えれば考えるほどに、向こうとこちらの戦力の差がマジに規格外で、その上わずらわしい事に
お向こうさんはオレの千分の一だって頭を使って動いてない。
オレがいくら理詰めで保身のために動いたって、向こうはそんな事意にも介さず力を振るうだけ。

だんだん判ってきたぞ。特にギーシュと十数分づつの格闘と会話を経て、脳の片隅で組み上げる。

こいつらがオレに向ける意思は、『敵意』でも『害意』でもなくただの『圧力』だ。
支配して当然という意思なんだ。
だから今オレが置かれている状況は、例えば『自分のボールペンが机の上から転がり落ちたから拾い上げた』のと同じように
『いないと不便だから、居たほうがいいから捕まえた』と、こういうことだ。

しかし此処へきて、拾い上げたボールペンはボールペンじゃない、って事に奴らは気づく。
もっと血の染み込んだ、鋭いものさ。


皆が次々と使い魔を召還する中、私だけ幾度も失敗する。
まあ、これは普通に予測できた事だ。
召還した使い魔は、なんと人間で、魔法を知らない平民だった。
まあこれだってあるかもね。予測こそ出来なかったけど、十分キャパシティに収まる。
魔法を知らない平民は、けれども不思議な力を使う。
 ・・・・これだって。鳥が空を飛べるように、魚が海を泳ぐように、私達に少し難しい事を、平気でやってのける使い魔は少なくない。大丈夫。

使い魔の正体は、暗殺者だった。
もうこれは、どうしようもなく『有り得ない』。

だってまず、暗殺者、って言ったら人を殺すじゃない。
もうそこから駄目。だってね、人前じゃあ絶対にこんな事言わないわ、けれど殺人鬼って言うのは怖い。凄く怖い。
私が貴族で、殺人鬼が平民でも、それでも怖いもの。
人を殺すような奴は、全員牢屋の中にいるべきなのよ。それが秩序ってものなの。

それだけじゃない、しかも『暗殺者』。一人や二人じゃあないぜ!って感じがひしひし伝わってくる。
しかも『正々堂々と誇りを賭けて』みたいな私達『貴族』の考えは全然通じないでしょう、『暗殺』っていうからには。
『貴族』は例え戦争だろうと誇りを持って戦うって私は信じてる。背中からグッサリ、なんてことはあってはならない。
けれど、『暗殺者』だったら違うんじゃあない?どうだろう。今まで知り合いに『暗殺者』がいなかったから、よく判らないけど。

決定的な脳味噌のつくりの違いだと思う。そしてそれは、私にとって完全に『他の生物』と同じぐらいの隔たりを持つ。
私は今まで何回だって『ぶっ殺してやるんだから!』って思ったけれど、
『よし、今から殺す』って言うのは無い。そんな選択肢は無いの。だって人は殺しちゃあいけないもの。
決闘を仕掛けたギーシュだって同じだわ!きっと口ばっかりで、思っても見なかったはずよ。


目の前にへたり込んで『暗殺者です』と言いやがった私の使い魔を見る。
笑っていた。それはもうニヤニヤと。
どうやら『暗殺者』っていうのは本当らしい。私達の心にちょっとずつでも(たくさんって訳じゃないわ!)芽生えた恐怖を
すぐさま嗅ぎ取って愉悦をもらす。そう、恐怖するって事は、自分が相手より弱いと認めること。
力ばかりじゃあない、メンタルとか、可能性とかの話。

私達五人がかりで今彼を取り押さえようとしたら、物凄く簡単だ。
でも、その結果の先に『イルーゾォの死』は有り得ない。
私達は殺せない、でも目の前の男は『オレは違うぞ』ってきっと思ってる。
逆に、凄く凄く難しいけれど、イルーゾォは私達を殺せる。その『可能性』がある・・・・

ニヤニヤ笑いは信憑性に直結していた。
「話は終わりか?」
言外に『殺さないさ、そんなに怖がるなよお嬢ちゃん』みたいな含みを感じて悔しかった。

――――上から押さえつけたから、押さえつけ返される。

じゃあどうするの?ルイズ。
杖を突きつける手が震える。怖かった。使い魔が殺人鬼なんて酷い受難。運命を呪う。イルーゾォの存在を恨む。
私は、私は――――

「関係ないわ。あ、あなたが暗殺者でも、私は貴方の主人なの。」

言った。
怯えも震えも飲み込んで、きっぱりと言った。『使い魔は主人の言う事を聞け。』従属は私の魔法で決定されている。
だから抗うな。

この選択は褒められたものじゃあない自覚はある。
この使い魔の人格ってものを、踏みにじる結果になるかもしれないけど。
それでも私はイルーゾォを召還して、決めた。何よりも『尊敬に足る主人になる』と。

イルーゾォの顔から笑みは消えていた。冷えた瞳は侮蔑と憎悪を含んで、私を透かして誰かを睨む。
ほら、彼は支配者を嫌っている。
彼はきっと覚えがあるのだ。抗い得ない力でもって支配し、配下の人格を一切省みない『主人』ってものに。

私がやっと成功させた魔法。
呼び出された使い魔は、今までもずうっと誰かの使い魔で、そして主人を恨んでいた。
これは乗り越えるべき試練だ。――――なにも、魔法の力で屈服させようというわけじゃないの。

彼が仕えても構わないと思うような主人にならなくちゃいけない。
『そういう主人』になるには・・・・自分の使い魔を恐れているようじゃいけないと思った。

「ルイズ?」
キュルケが私の背中に声を投げる。
それに続くように、ギーシュもそういう言い方は無いんじゃないか、と言った。
恐れから言っているのか、彼への憐憫で言っているのかは判らなかった。
――――両方だと思う。

「わかった。仕えろって言うんだな?わかったよ。」
冷えた瞳のままで、彼は無理矢理に笑顔に似たものを作る。ぎちっと軋む音すらしそうだった。
「暗殺者に何をさせる?ああ、前に言ってたな。身の回りの世話だったか。
掃除か、洗濯か、何かな・・・・?どれも得意って程でもない。――――お勧めは暗殺、なんだけど。」
「いらないわ。人殺しなんてもうさせない。」

何故だか漠然と抱いていた、彼と友人同士のように笑いあう未来が、ぱりんと音を立てて崩れる。
私達は、対等になることは決して無い。私がそれを選択した。
(それでも私は、これこそ彼への敬意の現れだと断言できる。)

「明日、外出するから。――――身辺の警護みたいなものだと、思ってくれればいいから――――予定を空けておいて。」
言外に命令であると含ませる。彼はそれを受けて、ふんと鼻を鳴らして頷いたあと、不機嫌に部屋から出て行った。
少なくとも今日はもう彼の顔を見ないだろうという確信がもてた。


「なんでもっと、素直になれないのよ!」

じゃあどうしたらよかったの?キュルケはずるい。手放しで彼のためだけに行動できるんだから。
イルーゾォがもし、キュルケの使い魔なら・・・・その台詞、私が貴方に言ったはずよ!


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