ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-18

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匿名ユーザー

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「まったく、死ぬかと思ったよ。僕のルイズ」
ルイズの魔法で盛大に吹っ飛ばされた男は、ルイズの懸命の治療の甲斐もあってか、しばらくすると意識を取り戻し、自分のことをワルドと名乗った。
それにしてもこの男、爆発する前はずいぶんと男前だったのだろう。今は無残だが。
彼の周りを包む空気が、自分の容姿や実力に自信を持っている人間特有の得意げな気を発している。
彼は現在の自分の状態をあまり気にせず、というかわざと無視して、ルイズに親しげに話しかけた。
「ああ、僕のルイズ。今日も元気そうだね。それにとても美しいよ」

ルイズは彼の声を聞いて驚いた。彼女の幼いころの記憶が甦る。
ルイズの実家によく遊びに来ていた、隣の家の青年。ルイズの懐かしい記憶。
庭のあずまやで、母親にしかられて一人泣いていたルイズをやさしく慰めてくれた。
あの頃、ルイズのことを『ゼロ』といわなかったのは彼だけだった。

「あら、あなたはワルド様だったの! お久しぶりね。何年ぶりかしら?」
ルイズは一瞬驚いた後、懐かしそうにワルドの顔を見つめた。
が、対照的に、ワルドの方は大いに不満そうに答えた。
「ひどいよルイズ! 昨日、王女様が学院に向かう途中であったじゃないか!
 それにそのとき、『今夜二人で会おう』って約束しただろう?
 僕は一晩中正門の前で待っていたんだよ……」

「あら、そうだったかしら?」
ルイズは思った。
そういえば、昨日露伴を失敗魔法で吹っ飛ばしたとき、ワルド様に会った気もしたようなしないような……
「ルイズ、彼とは知り合いかい?」
露伴がルイズに聞いた。もう王女の件は忘れてくれないかなーとか思いながら。
「ええ、彼はジャン・ジャック・フランシス・ワルド子爵。私の実家とは領地が隣同士なの」
「それだけじゃないだろう?」
ワルドはルイズの肩に手をのせると、ブチャラティ達に見せ付けるように、彼女を抱き寄せた。

ルイズはしばらく考えた後、うれしそうにワルドに微笑みかけた。
「ええ、そうね。この人とは幼馴染で、私が小さな頃とってもよくしてくれたのよ」
「……親同士が決めた許婚なんだよ。まあ、半分冗談見たいなものだけどね……」
「そうだっけ?」
ルイズがかわいらしく首をかしげる。ちょっぴり笑顔を浮かべてみてもいる。
ワルドはがっくりと肩を落とした。

「実は、アンリエッタ殿下に、君たちに同行するように命じられてね」
次の瞬間、健気にも気を取り直したワルドは、ルイズを中心に、皆に語りかけた。

「僕はグリフォン隊の隊長を勤めている。だから、自分で言うのもなんだが、僕の能力は折り紙つきといって良いだろう」
ワルドは胸を張って、ルイズと二人に自分をアピールした。
そして彼は口笛を吹いた。それと同時に朝もやの中からグリフォンが現れる。
鷲の上半身に、獅子の下半身がついた幻獣だ。立派な羽も生えている。本来なら。
「ワルド。ごめんなさい!」
ルイズが必死の様子で彼に謝った。なぜなら、グリフォンの羽が無残にも焼け焦げていたからだ。
おそらく、ワルドを誤爆したときについてしまったのだろう。
「いや……大丈夫さ、これくらい。だが、飛行はできないようだな」
ワルドはそういったが、彼は傍目から見てもはっきりとわかるほどに落胆している。


「ところで、ワルドは信頼の置ける人物だと思うか?」
ブチャラティが露伴に囁く。
「……なら、僕が彼を本にして読もうか?」

「あ゛?」
ルイズがワルドに気づかれないように振り返り、即座に返答した。
「いや、なんでもない」

露伴は思った。
目ェ細ッ! ってか怖ッ!
さっきワルドに向けた笑顔はなんだったんだ?
ていうか、ルイズは『王女の事』を忘れてないな。今度記憶を消しておこう……

「じ、じゃあ行こうか」
ルイズが露伴達をワルドに紹介した後、ブチャラティの呼びかけによって、一行はようやくトリステイン学院を出発した。

この日は丸一日走り通し。途中の関所で一晩仮泊まりした後、次の日も日が暮れるまで一行は馬上にあった。ワルドのグリフォンも途中で馬と交換している。彼はもっと速度を出したいようであったが、グリフォンの飛行ならともかく、馬の走行では彼の望む速度は出せないようであった。
道中、これといって特に問題のあるような事態は発生しなかった。
あえて言えば、魔法の使えない盗賊たちが少数で襲撃してきたが、ワルドが得意そうに魔法『ウインドストーム』を唱えると、とたんに戦意を喪失し、散り散りになり逃げ出したことがある位である。

詳しくは別に書かなくてもいいよね? どーせワルドだし。
途中で馬を何度も乗り換えたので、一向はラ・ロシェールまで二日でいけた。
日もとうに暮れ、いい加減ルイズの体力も限界に来ていた頃、街道の先に町の明かりが見えてきた。
「見てごらんルイズ! アレがラ・ロシェールの灯だ!」
ワルドが元気そうにルイズに話しかけるが、ルイズの反応はない。
彼女は返事をする気力もないようだった。
「今夜は宿に泊まって、明日の早朝アルビオンに向けて出発しよう」
ラ・ロシェールの町に到着したルイズ一行は、高級宿『女神の杵』で一晩泊まることにした。
この宿は、主に貴族を相手に商売をしている、格式のある宿屋である。
ワルドは宿の受付に向かい、得意そうに部屋を取ろうとした。
「親父、二人部屋を二つ頼む。そのうちひとつはこの宿屋で一番上等な部屋だ」
しかし、宿屋の受付は恐縮して頭を下げるばかりである。
「まことに申し訳ありません。一番良い部屋は昨日から別の貴族様がつかっていますので」
「その方たちはいつまでいるんだ?」
「わかりかねます、なんでも待ち人がいるそうで、いつ宿をおたちになるのかもわかりませんです」
親父は頭を下げながら先を続けた。
「またあいにく立て込んでおりまして。今ですと四人部屋しか空いておりませんが」
何でも、一攫千金をねらう貿易商人達が大挙して泊まっているらしい。
しかも中には、今更ながら傭兵として自分を売り込みに行くメイジもいるとのこと。
そんなわけで、ラ・ロシェル内の宿はどこもほぼ満室らしかった。
「話にならんな。なら、僕がその一番良い部屋に泊まっている貴族のところに行き、部屋を変えてもらうように頼んでみよう」

「ワルド、別に一晩くらいいいじゃないの?」
「いや、僕達は王女様の使いなんだ。それなりの格式も必要だよ」
ルイズの心配そうな口調をよそに、ワルドは魅力的な笑顔をたたえ、自信たっぷりにかぶりを振った。
そのまま一人で宿の奥に進んでいく。
ルイズ一行は彼のあとをついていくしかなかった。

ワルドは『女神の杵』で一番よいという部屋のドアをノックした。
部屋の前の廊下には、ルイズ一行のほかに、受付の親父もついてきていた。
彼は、騒動が起きるのを心底心配しているようである。
「は~い。ちょっと待ってくださいね」
ノックの返事として、部屋内から若い女性の声があがった。
しかし、ルイズはその声になんだか聞き覚えがあるように思えたのだった。
しばらくした後、勢いよくドアが開けられる。
「あら、ようやくお出ましね。 ねえ、タバサ! やっと来たわよ!」
声の主はキュルケであった。部屋の中にはタバサもいる。

「タバサ、それにキュルケ! なんでこんなところに!」
露伴が驚いた様子で叫んだ。タバサにもキュルケにも、今回の旅の真実は教えていないはずなのだ。それに学院は休日ではない。偶然彼女達がここに泊まっていたのではないことは明らかであった。
「あなたは『取材に行く』とタバサに言ったそうね。でも、同時にルイズとブチャラティも学院からいなくなるなんて、どう考えてもおかしいでしょ?」
「不自然」
キュルケは不敵に笑い、タバサは無表情のままうなずいた。
だが、キュルケと露伴は理解していた。彼女がかなり怒っていることを。
露伴はしかし、タバサの怒りを静めることよりも、自分自身に沸いた疑問を解決させることを優先した。
「で、なんで僕たちがラ・ロシュルにいることがわかったんだ?」
「学院の、馬小屋の人がとっても親切に教えてくれたわ。『二期生の生徒が馬を三頭借り出した。そのときに、ラ・ロシュルまで駆け通しても体力がもつ馬が欲しいなんて無茶苦茶なことをいっていた』って」

ブチャラティがルイズを見ながらため息をつく。それを聞いたルイズは顔を真っ赤に染めた。恥ずかしくなったのだ。
そんな光景をよそに、露伴がタバサに弁解を始めていた。
「しかたないだろ、今回は危険がいっぱいなんだ。さる人の密命だし」
ルイズも、ブチャラティの視線に耐えられなかったのか露伴の弁明に参加した。

「そうよ、私達は明日の夜明けとともに出るアルビオン行きの船に乗るの。
 アルビオンよ? 戦争やってるとこにいくのよ!」

「そうなの?」
「それは予想していた」
キュルケは目をパチクリさせたが、タバサは平然としている。
「この町はトリステインとアルビオンをつなぐ港。ここに来るなら目的は限られる」
キュルケは東の国、ゲルマニアの出身なので、トリステインの西方の地理はあまり詳しくはない。
だが、タバサは西の隣国ガリアの出身。このあたりの地理は十二分に詳しい。

「ふ~ん。で、船の手配は済んだの?」
「それが、明日の日の出まで出航しないのよ!」
ルイズは先ほど埠頭で起こった出来事をキュルケ達に話しだした。



以下抜粋
~文学への探求-諸作家の伝承を読み歩く~
       オリヴィエ・グラモン著
       第三巻 『マンガの出現と平民派の台頭 ロハンの時代』
       第二章 トリステイン学院に伝わるミスタ・ロハンの冒険譚 より

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| 今から五百年前のこの時代、ハルケギニアの飛行船の動力はすべて風石によ
| る魔力を消費した『風力』式魔力動力で稼動しており、船の稼動には大量のメ
| イジと風石を必要としていました。また、第一次産業革命よりもさらに前のこの
| 時、石炭の蒸気火力を併用したいわゆる『半火力』式動力機関すらまだ発明さ
| れていませんでしたし、現在のハルケギニアの軽火力飛空挺の様に、適当な大
| きさの広場さえあれば離発着できる、などというものでは決してありませんで
| した。そのうえ、完全に『風』系統の魔力に頼って飛行しているので、船の座
| 位を保持することでも非常な労力と技術が必要でした。
| そのため、飛行船の運航には、風読みに長けたベテラン航海士の存在が必要
| でしたし、また、離発着には海船と同じく特別に設営された埠頭が欠かせません
| でした。
| ロハン達が出発しようとしているこの季節、アルビオン大陸に最も近いトリス
| テイン国の埠頭はラ・ロシェールにありました。
| ラ・ロシェールの町は山岳地帯の山道に連なるようにある丘陵都市です。
| この町は、毎日の日の出と日の入りに、山の麓から吹きつける熱波『サンタア
| ナ』が街中を駆け抜ける事で有名ですが、この熱風は、最終的には街はずれに
| ある丘にぶつかり、そこにすさまじいまでの上昇気流を生み出していました。
| その丘にあるユグドラシルの木の化石をくりぬいて飛行船の埠頭にすることで、
| この『サンタアナ』を船の離発着に利用していました。
| この時代、トリステインからアルビオン浮遊大陸に渡るには、ここから出航す
| る定期便を利用するしか方法がありませんでした。
|
| 現在でこそ、ラ・ロシェールは観光都市として名高い巨大都市ですが、当時は
| 人口三百ほどの小村でしかありませんでした。ですが、今でも一部が現存する
| この巨大な埠頭跡は、中世のラ・ロシェールが交易都市として繁栄した歴史の
| 面影を垣間見ることができます。
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