ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

外伝-1 コロネは崩さない

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匿名ユーザー

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ありのまま、今やっていることを全て話す。

ポルナレフさんの得意なことだが、そんな事は僕には出来ない。
僕には秘密が多いし、秘密を話すことができるような相手は全て話せば協力してくれるかもしれないからだ。
例えばポルナレフさんは、そう言う人だ。だが、それと僕が関わって欲しいかどうかは別の話だからな。

ある日、ポルナレフさんに麻薬が見つかってしまった。
僕を助けてくれたギャングにどこと無く似ていた前のボスの頃からあった物が、まだ全て処分できていなかったらしい。
そう言ってもよかったんだが、もう麻薬を売り始めていたので僕はそれはこちらに来てから作ったものの一つだと言っておく。
詳しい事は避けて説明しておいた。

とてもショックを受けているのが見て取れる。
当然だろう。金欲しさに麻薬を商いはじめる行為にポルナレフさんが素直に同意するはずがないし、死んでしまったブチャラティの価値観では嫌悪される行為だからな。

僕はその様子にブチャラティを思い出す。
初対面で頬を舐めたりだとかされた以外は僕の理想に近い人物だった。
もし生きていれば、僕の兄か父親のような対象になった。
そして、理由はわからないが、ブチャラティは麻薬の存在自体を嫌悪している人だった。
彼が今の僕の行為を知ったら許しはしないだろう。
この世界で麻薬を製造し、それを売っているなんて聞いたらラッシュを食らってティベレ河に捨てられちまう。
そう考えると苦笑が漏れた。

だが僕は麻薬を売り続けるだろう。
麻薬があるかもしれないと思いついた以上調べて見なければ気がすまなかったし、市場がありそれがどんなものか知ってしまった以上見なかったことにはできないから。


子供相手の授業を終え、食事を終え、入浴までの間を使い自室に戻った僕は僕の亀の中に入り、故郷で書斎の一つとして使っていた部屋に入る。
前のボス、ディアボロが使っていた机には今は現在把握できている情報を書き込んだ地図や書類が並べられている。
こちらの世界でも、この部屋は僕の書斎として使っていた。

まずは先日貰ったばかりの情報を整理してみる…予定通り、レコンキスタの行動は遅れているようだ。
僕の麻薬を買ったせいで資金などの集まりに遅れが生じ、行動を起こすのに手間取っている。
だが、思っていた通り、僕の麻薬という餌に釣られた貴族も少数だが確認できていた。
相手は大人だったので構わないが、子供などの本来関係がない人達にも広がっていくだろうなって事を思うと気が滅入った…滅入ったから予定変更と言うわけにはいかないが。

別の地図と報告書を見る。
コレが最も多く色々と書き込まれているものになる…武具、食品、嗜好品、魔法に使われる品々、服、様々な分野の情報が現在集まってきている。

僕の能力で生み出したものと麻薬で得た収入を使い、僕は他の仕事にも手を広げている。
幾つかの分野では、既に表の顔ができつつあった。
向こうで使い古された戦略も、こちらではまだまだ使える場合があるからどうにかなっているが、そろそろもっと沢山の出来る部下が欲しいな。

僕の指が地図の上書き込まれた情報を辿り、動いていく。
ゲルマニアとトリスティンにも僕の手は少しずつ広がっている。
ガリアなどにも広げていくつもりだが…これで当初の目的通り、どうにかテファ達を国外に逃がす事が出来るだろう。
レコンキスタとアルビオン王家の戦争は避けられない。
付近の大きな街シティオブサウスゴータなどを攻める為にこの村は良い位置にあるからな。
できればゲルマニアかガリア、ロマリアへ移したい所だ…それは間に合わせなければならない。


僕は椅子に腰掛け、瞼を閉じる。今後の事を考える。
ポルナレフさんの話を聞き訓練したやり方で呼吸すると、少しだけリラックスできた。
この呼吸法をしていれば、2,3日眠らなくても問題ないことは確かめてある…次はどこを買収するか。どこに物を流していくか。
戦争が始まるまでの時間的猶予はどの位あるだろうか?
考える事はたくさんあった。

だが考えても切がないものばかりになったので、一先ず考えるのをやめた僕は目を開き麻薬の事を記入したものへと視線を移す。
今もこの後も、僕が新たにこちらで立ち上げた組織の資金源になる忌まわしい品。
確実に、速やかにこのアルビオンでシェアを増やしている。他の国でもさっさと増やしたい所だった。

先日こっそりと送られてきた品を開く。
それには幾つかの実際に売られている麻薬が包まれていた。
体を壊しては元も子もないので、微かに舐めたりして後は報告書から情報を得る。

「相変わらずだな」

これらはこの世界の最底辺の麻薬と性質の悪い麻薬だ。
麻薬の中でも安価で、それゆえ質が悪い物。効果が高く、後遺症や依存性などが高いもの。
これらの多くは既に麻薬で人生を壊したものか、立場が弱かったり、誘惑に弱いなどの壊される者が使う。
こんなものを使えば、すぐに体を壊してしまう上に麻薬から抜け出せなくなる。

僕はこれらが出回らないようにする。
もっと安価で、まだしも害が少なく、依存性が低いもの、復帰しやすいものを これらの下にねじ込んでやる。
結果、僕が間接的に破滅させる人間が幾らでも沸いてくる事になるが、これらを出回らせておくよりはマシだって僕は考えているからだ。
サウスゴータで、この世界で最初に僕が触れた麻薬もまだこの机の上にある。

包まれていた布から取り出したものは最低の混ざり物だ。
一瞬夢を見せられているうちに体も心も壊してしまう代物。

幾つもの粗悪品の中から、まずはこれと同じ種類を市場から消滅させてみせる。
売る側が全く扱わなくなり、使う者がいなくなり…客や娼婦に、主人が立場の弱いものに使う機会など失わせる。
もっとマシなものを回し、彼らが希望を待つ時間を長くする…少しの時間があれば、彼らに気付いて助ける者がいるかもしれない。

時間を引き延ばす。ある意味、それが僕がこの麻薬を売る最も大きな理由だった。

ブチャラティ達には悪いが、劣悪な麻薬より同じ効果でマシな麻薬を出回らせる方が被害は少なくなるはずだ。
麻薬や、麻薬に関わってしまった者が突然いなくなったりはしないが、減らしていくことはできるかもしれないからな。
見なかったふりができないし、一瞬で消せない以上こうした事からするしかないと僕は考えている。

僕の触れた劣悪な麻薬が全て生命を与えられ、花へと姿を変えて散っていく。
そうしていけば、最後がどんな形かはまだ想像できないが、いつか麻薬に巻き込まれて不幸になる堅気の者は消せるかもしれない。

落ちていく花びらを目で追っていくと、元娼婦だった者から上申されている報告書が目に入った。
余り綺麗な文字ではなくて、解読するのに手間がかかってしまうそれはとても貴重だった。
彼女らの事を後回しにしてしまっていた事を思い出させてくれた…僕はそれに隅々まで目を通す。

そうだな…娼婦にも手を打たなければならない。
サウスゴータで見た彼女らの姿を脳裏に思い出し、僕は必要な手を幾つか考えていく。
娼婦などの扱いは良くない。知識の無さや彼女達を下に見る意識からくる劣悪な環境が多すぎる。

彼女達の中には娼婦になるしか無かった者もいるし、それでも強く生きる者がいる。
そんな彼女らの環境も、ある程度管理し良くなるようにしなければならない…

全て変えられるわけではないが、裏社会があることに気付いていて見ないことも、その中の最底辺の状況を知って聞かなかった振りをするのも僕の心に後味の良くないものを残す。
僕を助けてくれたギャングは、表の社会の一つの家庭の問題など知らぬ振りをしておく事も出来た。

だが彼は、全く係わり合いのない社会で、親にも周りの子供にもゴミクズのように扱われていた僕に希望を与えてくれたのだから。

幾つか打つ手を決めて、今日までに得た情報は全て消化したのを確認した僕は亀から出る。
そろそろ連絡役との待ち合わせの時間が迫っていた。
ポルナレフさんはまだ戻っていないが、食事をテーブルに置いておけば問題ないだろう。
外に出た僕は幾つかの指示を書いたメモを手に森の中へと入っていく。
暗い夜の森はとても歩きにくいが、昼夜を問わず何度も通った道を迷う事はない。
村からはかなり離れた場所に目印を見つけ、僕は足を止めた。

呼吸に乱れはない。波紋呼吸、ポルナレフさんから教わった呼吸法が僕の体を活性化していた。
周囲を見回し、僕はゴールドエクスペリエンスを出す。
まだ相手の姿が見えなかったからなんだが、そのまま周囲を探らずに僕は月の光が当たらない木影に移動した。
探らせようとした瞬間、僕の耳に風を切る音が届いたからだった。
音源は近づいてくる…来たか。
空を仰いだ僕の視界、枝と葉の隙間に空を風竜が通るのが見えた。
誰かが降りてくる。その人は近くに来て杖を構えていた。

「遅くなってもうしわけありません。合図を」

何度か聞いたことのある低い男の声は、内に警戒心が篭っていた。
僕は波紋エネルギーを高め、少し体を光らせる。
それを見て、男は警戒心を解いて近寄ってくる。
少しやせ気味に見える身なりの整った男の姿が月明かりに浮かび上がった。
貴族出身だという彼は、読み書きを始めとした事務能力とラインクラスの腕を持つ盗賊で、最初に僕の部下になった者の一人だった。
僕は彼から新しい報告と、詳しい情報を記した書類を受け取る。
思ったよりもいい結果もあるし、悪い結果もあるが予定を繰り上げても問題ないようだ。
リスクも少し上がる事になるがこの位なら許容範囲だといえた。
彼に次の指示を与える。

「…ところでさっきの風竜はどうしたんです?」

目的だった話を終えてから、僕はそう尋ねる。
彼は珍しく照れたような仕草を見せた。

「レコンキスタの貴族の一人が所有していたものです。これ以外に金目の物が無かったんで盗んできました。ハハハ」
「良く乗せてもらえましたね。乗り手を選ぶという話でしたが」
「父のお陰です。家が没落する前は代々竜騎士の家系でしたから…勿論後始末はつけてあります。誰に与えましょうか?」

感心する僕に、懐かしむような表情で語る彼に、僕はその竜を与えることにした。

「それは君が管理してください」
「いいんですか!?」

驚く彼に僕はわざとらしいなと軽く笑い返してから、頷いた。
少し離れた場所でゴールドエクスペリエンスの目で見た風竜は彼の事を案じていた。

「ええ、君を相棒と認めているようですからね…その代わり、極力目立たないようにゲルマニアかロマリア、ガリアで良い孤児院を探すよう手を回して置いてください」
「孤児院を?」
「ええ、そこで次の世代を育てます」
「ということは…」

僕は頷き返した。

「貴族との混血児には魔法も教えることになるでしょうね」
「は、はい!」

少し、急がなければならない。
喜び勇んで風竜を飛び立たせる彼を見送ってから、僕は風呂に向かった。
その後にレコンキスタに動きがあり、一月以内に開戦することがわかるとは予想していなかった。

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