ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-18

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匿名ユーザー

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タバサの使い魔であるシルフィードが地上に近づくと、フーケはスタコラサッサと逃げていった。
キュルケは他の面々と比べ無傷であったが、止めようとはしなかった。
魔力がない、というのもあったがそれよりも、気力が微塵も残っていなかったからだ。
船倉にぶち込まれ、最後の宴に招かれ、級友の結婚式に出たかと思うと裏切り者との戦いになった。そして最後にアルビオンの崩壊を目の当たりにした。
その瞬間は、胸の奥に虚無感が広がっていた。王子の誇り、国民への思い、散っていたものたちの忠誠心、すべてが走馬灯のように脳裏を過ぎった。
こんな状態では、戦うことなどできようはずがなかった。
彼女らはそのまま空を疾駆していき、トリステインの王宮へと向かった。
怪我人が三人もいて内二人は重体なので一刻もはやく治療しなければならないのだが、任務の完了も即座に伝える必要がある。
しかし、着いてみれば多くのマンティコアにのった警備隊に囲まれてしまった。彼らは大声で飛行禁止だと叫び、どこか遠くに行くよう命じた。
「……な、なんだね? ここは、どこだい?」
「あれ? キュルケ?」
「あら、ギーシュにルイズ、起きたの? ここは王宮の上空よ。タバサ、無視して降りちゃいましょ」
「わかった」
タバサがシルフィードを中庭に下降させた。そしてルイズたちは地面に降り立つのだが、もちろん衛兵に囲まれてしまった。
「杖を捨てろ!」
隊長らしき男に命令される。ルイズが少し顔をしかめていたがすぐに四人とも杖を地面に放り投げた。
「……何者だ貴様らは。えらく若いようだが」
その問いに、ギーシュが答えた。

「僕はトリステイン魔法学院に通うギーシュ・ド・グラモン。グラモン元帥の息子であります。アンリエッタ王女より与えられた密命を終え、いましがた帰還したしだいであります」
「なるほど。確かにグラモン元帥によく似た瞳をしている。だが、なぜ王女からそんなのものを受けたのだ?」
「こちらのラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズがアンリエッタ王女と幼少のみぎりより親しいものであったことでその命を受けたのです。僕らは彼女の級友であられます」
ルイズが小さくうなずいた。
「……嘘は言っておらぬようだが、確認をしなければならない。貴公らは一応拘束させてもらう」
隊長がそう言って杖を向ける。周りの者たちもそれに倣ったが、その行為を止めるかろやかな声が届いてきた。
「おやめなさい」
その声を知らぬものはここにはいない。警備隊の面々が背後に振り向くと、そこに彼らが敬愛するアンリエッタ王女がいた。彼女はやや早足でルイズたちに駆け寄った。
「姫様……」
「ルイズ、よくご無事で」
アンリエッタはそう言って小さな身体を抱きしめようとしたが、キュルケとタバサに止められる。
「怪我人」
「そういうわけだから、まずは医務室に運んでくださる?
 まだ竜の上に怪我人はおりますから」
「……わかりましたわ。あなたたち丁重にお運びして」
「かしこまりました」


数時間後、ルイズが目覚めるとそばにはキュルケとタバサがいた。彼女は目を何度かしばたたかせると、ゆっくりと重たそうに身体を起こした。
「……キュルケ、ここどこ?」
「忘れたの? 王宮よ。あなた治療の最中にまた眠ったのよ」
「手紙は?」
「急がないの。いまお姫様を呼んでくるわ」
キュルケはそう言って部屋を出て行った。ルイズはベッドから降りようとしたが、タバサに止められる。
「安静」
ほんの一言だけだったが力のある言葉だ。ルイズも自身の体が思ったより言うことを聞いてくれなかったのでもう一度横になった。そうしたら、すぐにキュルケがアンリエッタを伴って戻ってきた。
「姫様……こんな格好で申し訳ありません」
「何を言ってるの。私こそ一番のお友達をこんな目に合わせてしまって詫びなければなりませんわ。ごめんなさい。ルイズ」
アンリエッタが頭を下げた。
「……いけません。頭を下げては」
「いいえ。ルイズ、私はあなたに謝らないといけないわ。彼女から聞きました。ワルド子爵が裏切り者だったということを。ごめんなさい。あなたの婚約者だというから任せたのですが」
「……頭をお上げください。姫様。かまわないのです。それよりも、お手紙は、」
「はい。確かに、受け取りました」
「よかったです。ほとんど気を失っていたので、落ちてはいないかと気が気でなりませんでした」
ルイズは小さく笑った。と、そこで大事なことを知らないことに気づいた。
「キュルケ、ウェールズ皇太子は……」
「そのまま戦いに向かったわ。おそらく生きてはいないでしょうね」
なんの含みも持たず、彼女はあっさりと残酷な事実を告げた。キュルケも直には見ていないのだが、そうに違いないと思っていた。
ルイズが見ると、アンリエッタは小さく震えていた。胸の内がどうなっているのか、心の中にどれほどの嵐が巻き起こっているのか、それは彼女本人しか感じることができなかった。
涙を数滴、手の甲に落として尋ねた。
「ルイズ、あの方は勇敢でありましたか?」
ルイズはウェールズの顔を思い出し、答えた。
「誰よりも勇敢でした」

ルイズが授業に復帰したのは一週間後であった。彼女の傷は深く、完治に時間が掛かったのだ。ンドゥールも、そう傷が深かったわけではないが精神力を使い果たしたためか意識を取り戻すのに時間が必要だった。
そうして復帰一日目、ンドゥールを伴って教室に入ると一斉にクラスメイトの視線が二人に集中した。
今までのものとは違う。嘲りもあるにはあるのだが、それよりも疑いが強かった。それを不審に思いながらもンドゥールといつもの席に向かって教師を待った。
その時間にもなんだかこそこそと噂話みたいなものをしていてルイズは肌がムズムズした。ここで彼女は適当な人間に問い詰めてみようとしたがまともな答えを返されるとは思いがたい。そのため、隣のンドゥールに小声で尋ねた。
「ねえ、一体何の話をしてるの?」
「……欠席していた期間についてのことだ。詳しくはわかっていない

ようだが、なにか重大な任務を受けていたということを知られている」
ルイズの頭にすぐさま思い浮かんだのはキュルケ、タバサ、ギーシュの三人だった。このうちの誰かがちょろっと口を滑らせてそれが熱病のように伝播した可能性がある。
それが誰なのかを考えてみる。
まずタバサは除外。彼女はべらべらと話して回ることなど予想ができない。
もう一人はキュルケだ。彼女なら微熱がどうたらこうたらで上級生にも下級生にも粉をかけている。付き合いの最中にそういうことを言ってしまったのかもしれない。
しかし、その割には早すぎる。彼女もアルビオンから帰ってすぐさま男と遊ぶようなことはしないだろう。たぶん。そうなるとギーシュが残る。彼なら恋人であるモンモランシーに自慢をして、ギーシュってばかっこいい、なんて言われて有頂天になってるんじゃなかろうか。
そう結論が出たのでギーシュを見つめる。と、なんだかおかしなことに彼の表情からいつもと違う感じを受けた。取り巻きとの会話にも適当に返事をしていて女の子とも話をしていない。ぱらぱらと教科書をめくっている。
(あんな熱心だったかしら)
ルイズは結局、ギーシュも違うみたいだと思い、犯人探しを諦めた。


昼休み、食堂でルイズはキュルケとタバサたちと一緒だった。ちなみにンドゥールも隣に座って彼女たちと一緒の食事を取っている。主人であるルイズは食堂に入った当初、彼をいつものように床に座らせようとしたが、それはなんとなく気が咎めた。
「あのさ、なんであれが広まってんの?」
「私にもわからないわよそんなの。戻ってきたときにはもう私たちがなにかをやったって話があったのよ」
「まずいわよねえ……」
「そうでもない」
タバサがサラダを食べながら言った。
「誰も核心には近づいていない。大丈夫。例のことは明るみにならない」
「そうだな」
ンドゥールが同意を示した。
「誰も結局答えにはたどりつけていない。ただの噂の域を出ない。
しばらくすれば消えるだろう」
「なら、いいんだけど」
ルイズたちは、改めて誰にも話さないことを約束した。回りまわってゲルマニアの王に届いたら婚約破棄の可能性も出てくるのだ。
しかし、噂話はその数日後にはあっさり掻き消えてしまった。なにしろもっと大きな事件が起こったのだ。


朝一番の授業を受けるためルイズたちが教室に向かうと、扉の前に人だかりができていた。彼女は先に来ていたキュルケにどうしたのかを尋ねた。
「あれ、見なさいな」
「どれよ」
「あれ。扉に張り紙されてるじゃない」
ルイズは見ようとした。しかし、背が低いので見えなかった。ぴょんぴょんと跳ねるも無意味。それを見かねてキュルケが教えてやった。
「全部の授業が中止になったの。なんか厄介ごとみたいよ。理由がないんだもの」
キュルケがそう言った意味がルイズにはわかった。休講する場合、普通は教師が病気になったり急な出張だったりする。だが今回は全授業が中止、しかも理由がない。つまり、生徒たちに教えられるようなことではないということだ。
「まさか、手紙が関係してるんじゃあ、」
「ないでしょ。それなら真っ先に私らが呼ばれるわ。気になるならダーリンに頼めばいいわ」
「だからダーリンって呼ぶんじゃないわよ。でも、あんたの言うとおりね。
ンドゥール、頼めるかしら」
「かまわん」
三人はその場を離れ、図書館に向かった。そこは広さの割にはほとんど人はおらず、静かである。本の貸し出しも自由ではあるが、滅多に学生はやってはこない。そのため秘密の相談ごとにはうってつけの場所だ。


ルイズとキュルケは適当に棚から本を抜き取り、テーブルに着いた。

そこでぱらぱらと本を開いて読む振りをする。誰かに見られているというわけではないが、念のため熱心な学生を演じているのだ。
そして数分経過すると、ンドゥールがルイズのいすを叩いた。状況がわかったというサイン。
「で、どうだったの?」
決してンドゥールに視線を向けず、本を睨んだまま小声で尋ねる。
「どうということはない。この学院に多額の寄付をしていたモットというメイジが襲われた。ここの教師が何らかの形でその事件に関わっていないか取調べを受けているらしい」
「なんでわざわざ怪しまれるの?」
「その襲った人物が土系統のメイジだからだ」
二人が大声を出さなかったのは奇跡的なことだった。
メイジを倒せる土系統のメイジ、そんなやつは一人しか思い浮かばない。『土くれ』のフーケ。彼女ならそこらのメイジなんざ簡単に倒してみせるだろう。
しかし、ンドゥールはこうも続けた。
「フーケではないな」
「どういうこと?」
「下手人は二人組み。そして逃げる際に館に火を放っている。あやつの手口にしてはおかしい」
「ま、そうね。あの女にしちゃ派手だわ。やるとしたら、もっと小ばかにやるでしょうよ」


学院を騒がせている事態が自分たちに関係ないことを知り図書館を出て行こうとしたが、ルイズたちの目にギーシュが映った。彼はテーブルに座って本に目を通している。
その眼差しにはいつもの軽薄さはなく、なんというか『必死さ』があった。
「ねえ、あいつどうしたの?」
先に授業に復帰していたキュルケにルイズが尋ねる。
「私も知らないわよ。でも、フーケにコテンパンにされたのがさすがに堪えたんじゃない? あいつ、皇太子のことを随分気にしていたもの」
「……そう」
ルイズの胸にちくりと針が刺さった。任務を果たせたとはいえ、愛しい友の本当の願いは叶えられなかったのだ。
アルビオンが消えたことからおそらくあの皇太子も死んでいるはず。生き延びるなどということはしないだろう。
彼女は父のことを思い浮かべる。貴族であるため戦争になれば戦いに 借り出されることもあるだろう。金を払えばそうでないが。それでも、やはり最悪のことを想定せざるにはいられない。力、困難を打ち返せる力が必要だ。薬指にしている水のルビーがきらりと光った。そう、あの愛しい姫のためにも。
「それでルイズ、あんたこれからどうするの? 暇でしょ。自習でもする?」
「……そうね。練習、するわ」
「練習?」
ルイズは人気のない広場にやってきた。そこで適当なゴミを地面にばら撒き、杖を振るい、呪文を呟く。そして、これはもういつもの光景ではあるが、爆発した。
黒煙が舞い上がり、ルイズの顔には煤がこびりついた。彼女はぺっぺとつばを吐いて口に入ってきた砂を出した。それでももう一度呪文を唱える。またしても、爆発。
いま彼女が唱えている魔法はどの系統にも属さない初歩的なものだ。そんな簡単なものさえ成功しない。だが、何度も何度もルイズは魔法を唱えた。何度も何度も煤を浴び、顔どころか鮮やかな桃色の髪をも真っ黒にしてしまった。やがて、ゴミが全て爆発で粉々になってしまったところでキュルケが声をかけた。
「大丈夫?」
「んなわけないでしょ。あんたより黒くなっちゃってるんだもん」
「褐色を飛び越えて炭よね。これじゃあ」
「うるさい」
ルイズは邪険にあしらい、今度は地面に転がっている石に向かって魔法を唱えた、ところで杖を奪われた。
「ちょっと! 返しなさいよ!」
「駄目よ。ちょっとは休憩しなさい。体に毒だし、それ以上汚くなる前に顔を拭きなさい。ダーリン、こっちよ」
キュルケが呼びかけた先には、布巾を持ったメイドのシエスタと湯を張った桶を持って歩いてくるンドゥールがいた。


ルイズは濡らした布巾で顔をぬぐい、うがいなどをした。それでも髪はどうにもならないのでシエスタに洗ってもらっている。ルイズはそんな必要はないといったのだが、キュルケとシエスタが女として駄目だと言ったのでそうさせている。
「それで、成功したのか?」
「見たらわかるでしょ」
「見えん」
「……そうね。相変わらず『ゼロ』よ」
ルイズは不貞腐れた声だったが、それでも気落ちはしていなかった。

それどころかこのときでさえも杖を弄くっている様から、今すぐにでも練習を再開したいのだろう。
はあ、と、大きなため息をルイズはついた。
「でも参るわ。さすがに。どうして成功しないのよ」
「さあねえ。こればっかりは感覚的なものだから、助言もできないわ」
そんなことはルイズも知っている。だから無我夢中で繰り返し魔法を唱えているのだ。それでも一向に上達の兆しが見えない。
「あの、お聞きしてもいいですか?」
ルイズの髪を洗っているシエスタが問いかけた。
「どうしたの?」
「失敗した場合は全て爆発なんですか? その、単純に気になっただけなんですが」
「私は全部爆発よ」
ルイズは即答した。表情に変化はない。しかし、そばのキュルケは眉間にしわを寄せ、腕を組んでいた。何かを考えているようだ。大きさを強調された胸を憎憎しげに睨みながらルイズが尋ねる。
「どうしたのよ」
「ん、そういえば、私が失敗した場合は爆発しなかったのよね。単に魔力が霧散しただけだわ。たぶん他の連中も同じはず。ねえ、ルイズ。本当にいままで失敗したときは爆発だけ?」
「だけよ」
「おかしいな」
ンドゥールが言った。

「ダーリンもそう思う?」
「ああ。キュルケ、お前は同じ失敗をすることができるか? 同じ爆発を起こせるか?」
「無理よ。私の系統は火。燃やし尽くすことは得意だけど、任意の対象を爆発させることはできないわ。もちろん風も水も土も無理。そうなると、考えられるのは……」
「ねえ、結局どういうこと?」
ルイズが我慢できずに尋ねてきた。自分が話題になっているのに仲間はずれにされているようで嫌だったみたいだ。キュルケは推測と前置きしてから教えてやった。
「あんたの系統、もしかしたら虚無じゃないのかって話よ」
「……あんた馬鹿にしてんの? 虚無って言ったらもう失われた系統じゃない。
使ってるメイジなんか一人もいないのよ」
「違うわよ。卑屈にならないの」
キュルケはルイズの額にデコピンした。
「ま、聞き流してもいいんだけど。念のために先生に聞いてみましょうか。
適当に誰か呼んでくるわ。もう暇な人は何人かいるでしょ」
そう言ってしばらくたち、ルイズの髪がもとの鮮やかな桃色を取り戻したころにキュルケは一人の教師を伴って戻ってきた。遠くから見ても頭のテカリ具合でわかる。コルベールという教師だ。


「どうしたのかね改まって聞きたいことというのは」
「一度見せてやりなさい。ほら」
キュルケが小石を投げた。目の前に落ちたそれに向かい、ルイズは魔法を掛けた。爆発。煤で黒くなった顔を拭き、ルイズはコルベールに尋ねた。
「これについてです。先生、なぜ爆発が起きるんです?」
「爆発、ですか。そういえばおかしいですね。気にも留めませんでしたが」
「先生も確か火のメイジですわよね。あれと同じことはできますの?」
「いえ、できません。爆炎という魔法はありますが、それは空気を錬金で油にして火をつけるといった手法ですからあのような結果にはなりません」
「それでそこのミス・ツェルプストーが言ったのですが、」
「なにかね?」
「私の系統が、もしかしたら虚無ではないかと……」
コルベールは口をつぐみポリポリと光る頭をかく。それがルイズにはどうも馬鹿にされているようにしか見えなかったので強くキュルケを睨んだ。
だが、コルベールが答えたものは彼女の予想とは大違いだった。
「そうですね。その可能性はあります」
「マジで!?」
「ルイズ、言葉」
キュルケに窘められる。
「ああ、いえ、その、本当ですか? 到底信じられるものではないのですが」
「そうでしょうね。ですが、その可能性が一番高いのは事実です」
「で、でで、でも、そんな失敗したときに爆発するだけでそう結論を出すのは、尚早じゃあないでしょうか」
「いえ、それだけではありません。情勢が情勢なので知っておくべきかもしれませんので言いましょう。あなたの使い魔について、です」
「かまわんのか?」
ンドゥールがコルベールに尋ねる。
「ええ、学院長の考えには理解も納得もできますが、生徒に進むべき方向を教えてやるのも教師の務めです。ミス・ヴァリエール、あなたの使い魔は、始祖ブリミルが使役したという使い魔、ガンダールヴです」
「……はあ?」

あまりのことにルイズは目が点になっている。キュルケはンドゥールにじっと目を寄せる。
「彼の左手に刻まれたルーン、それはあらゆる武器を使いこなしたと言われるガンダールヴと同じものです。心当たりはありませんか?」
ルイズ、そしてその場にいたキュルケの脳裏にフーケのゴーレムを倒したときのことが浮かんだ。ンドゥールは誰にもわからなかった破壊の杖を使用していた。それはどうしてだ。どうしてそんな、見えもしないのに扱えたというのか。
「ガンダールヴの主、それは知っているでしょう。始祖ブリミル。虚無の使い手でありましたね」
「じじ、じゃあ、ほんとのほんとに、私は虚無の系統、なんですか?」
「それは、わかりません。情報が少なすぎますから。ですが、その可能性については考慮しておくべきです」
ルイズは自分の杖を見つめ、使い魔を見た。彼女はちょっとこんなことを思っていた。もしかしたら大きな力が手に入るかもしれない。もう守られることがなくなるかもしれない、と。
「しかし、ミス・ヴァリエール」
「は、はい!」
「虚無の力は伝承に残っているだけですが、強大であることは間違いありません。
決して、その力に呑みこまれることのないように、気をしっかり持っていてください」
彼の口調にどこか真に迫るものがあった。そのまま続ける。
「よろしいですか。力というのは獣です。それも獰猛で暴れたがりです。
貴族の誇りと矜持を持って、理性という鎖で繋ぎとめておかなければなりません。
昔、私の部下の一人が己の力に溺れたことがあります。あなたたちは決してそのようなものになってはいけません。いいですね」
「き、胆に銘じます」
「私も」
「よろしい。ああ、他言無用ですよこのことは。もしアルビオンに伝わればミス・ヴァリエール、あなたの命が狙われます。それでは」
コルベールはそう言ってその場を離れた。
姿が見えなくなってからルイズは、ためしに石ころに向かって呪文を唱えた。
また爆発した。
「……本当に、本当に虚無なのかしら」
「さあな」
ポン、と、ンドゥールがルイズの頭に手を置いた。
「しかし、あの教師の言葉は真実だ。気をしっかり持っていろ」

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