ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-5

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「アンタはここで待ってなさい」
使い魔にそう命じ、自室へと入り込む。
そして魔法の失敗で埃まみれになった服を脱ぎ捨て、替えの服に袖を通す。
本当に昼休み前の授業で良かった。
みすぼらしい格好で授業を受けるなんて貴族としての名折れもいいトコよ。
部屋を汚さないように外で待たせているけどアイツも洗わないといけないわね。
それにしてもメイドの子に洗ってもらってる時は気持ち良さそうにしてるのに、
私が洗おうとすると逃げるのはどういう了見なのか。
後でそこの所を追求する必要があるわね…。

あれこれ考えている内に着替えも終わり扉を開ける。
だが、そこに使い魔の姿はなく代わりに見知らぬ男が二人がいた。
人の顔を見るなりへらへらと薄ら笑いを浮かべ、見てるだけで嫌悪感が沸いた。
この手の手合いは今さら珍しくもない。
ヴァリエールの三女でありながら魔法を使えぬ自分を蔑む目。
いつも通り無視して男達の前を通り過ぎようとした。
だが進行方向を男の手が遮る。
「……何のつもり?」
「別に。少しの間、部屋で寛いでいてもらいたいだけさ」
口の端がさらに釣り上がり、明らかな嘲笑へと変わる。
既に嫌悪感は吐き気をもよおす域に達している。
だけど一体、何を考えているのか。
私を部屋に軟禁するつもりにしても無理に決まってる。
そんなことをして問題になるのはこいつ等の方。
意図を理解できずにいた私に一抹の不安がよぎった。
「アンタ……私の使い魔をどこへ連れてったの!?」


ひたすらに宙を掻き、あらん限りの声で吠え立てる。
だが地面に足はつかないし、声も届いていない。
掛けられた『レビテーション』と『サイレンス』が彼の自由を奪っていた。
そのまま連れて行かれたのはヴェストリ広場という少し開けた場所だった。
そこで『レビテーション』を解き、地面に打ち捨てるように彼を解放する。
突然の事態に生徒たちの間でも動揺が出ている。
そのざわつきを鎮めるように男が演説を始めた。

「皆、落ち着いて聞いて欲しい!
つい最近、ある生徒が不正を働いているという噂を私は耳にした!」
不正という言葉の不穏当さに周囲にどよめきが広がる。
名前こそ明らかにしなかったが、その使い魔を見れば誰の物であるかは明らかだった。
半信半疑ながらも生徒たちは男の言葉に耳を傾ける。

「その生徒は学院に残りたいが為に、神聖なる召喚の儀式の際にわざと事故を起こし、
混乱に紛れて、あたかも使い魔の召喚に成功したかのようにすり替えを行ったのだ!」
「刻まれたルーンもただの偽物だ! 
その証拠に過去の事例に照らし合わせても、こんなルーンは見た事がない!」
よくやるものだと取り巻きの男が感心したように呟く。
全て根拠のない事なのに、まるで男は事実を語るかのように述べていく。
だが信憑性がある為に、生徒達の間では「そうかもしれない」という声が上がり始めていた。
誰もルイズが召喚している所は見ていないのだ。
見た者もいたかもしれないが所詮は人間の曖昧な記憶だ。
彼女の為に目撃証言を名乗り出る者などいない。


「だが私は彼女の無実を信じたい! 
同じ学院で学ぶ者として、そのような事をする者がいるとは思いたくない!」
糾弾から一転しての弁護。
男の突然の変遷に観衆も戸惑う。
だが、それも男の計画通り。
これから行う事を正当化する為には必要な準備なのだ。
「その真実を明らかにする為に私はこの使い魔に決闘を申し込む!」
突然の発言に、ざわめきが一層大きくなっていく。

“決闘は禁止されているのでは?”
“いや、禁止されているのは貴族同士だけだ”
“それよりも、どうして使い魔と決闘なんかを?”
生徒同士で始まった論議。
しばらく間を置き、再び男が口を開く。
「知っての通り、使い魔には主人の目となり耳となる能力がある!
ならば、ここで起きている事も主であるならば知っていて当然!
もしこの場に彼女が止めに現れたならば、紛れもなくこの犬は彼女の使い魔だ!
そうして疑いが晴れたならば、私は潔く彼女に謝罪しよう!」

(……よく言う。そんな気なんて更々ないくせに)
男の芝居がかった口調に辟易したギーシュが胸の内でぼやく。
これだけの騒ぎになればルイズの耳に入らない筈がない。
そうなればあの犬が使い魔かどうかなどは関係なく、彼女はここに来るだろう。
誰かに妨害さえされていなければ……。


要するに、これは周囲の理解を得た上での公開私刑。
直接彼女に手を出せない連中の嫌がらせだ。
あんなのが同じ貴族かと思うと反吐が出てくる。

男が杖を振る。
瞬時に地面が盛り上がり人型を成していく。
造型こそ荒いが10メイルに届こうかという巨大なゴーレム。
その両腕には犬一匹を相手にするには過剰すぎる破壊力があるだろう。
(人格は三流以下でも魔法は言うだけの事はあるのか……まずいな)
加えて、それなりに頭も回るようだ。
あのサイズにしたのは使い魔の逃げ場を奪う為だ。
多少精度が落ちたとしても両腕を進路に振り下ろすだけで動きを封じる事ができる。
じわじわと時間を掛けて嬲り殺しにする狙いか。

「ギーシュ。何とか止められないの?」
彼のローブの端をぎゅっと少女が握り締める。
これから行われるであろう凄惨な光景を想像し彼女の顔は青くなっていた。
「残念だけどねモンモランシー。
僕が戦うのは自分の名誉と愛する女性の為だけさ」
前髪を掻き揚げ、彼女の震える手に自分の手を重ねる。

何よりも相手が悪い。
男は少なくともラインか、それ以上の土系統のメイジだ。 
同じ系統同士だと、戦い方次第で何とか…というのは難しい。
それに相手は一人じゃない。
後ろにいるのは間違いなく取り巻きだろうし、この中にも紛れているだろう。
きっと教師たちも『生徒間の出来事』と取り合わない。
だからこそ誰も口を出さないのだ。
それに貴族同士の決闘は禁止されている。
ここで男を見せて勝ったとしても得る物は少ない。

まあ怪我はさせるだろうが、いくらなんでも殺しはしないだろう。
そんな事をすれば後々問題になるのは目に見えている。
見た感じ、正気は保ってるし理性も働いている。
彼の善性などに期待はしない。
単純な利害関係で彼は手を下さないと判断し、
モンモランシーに惨状を見せない為、彼女を連れてその場を後にした。


彼は自分の状況が理解できなかった。
ただ本能が警報を鳴らし続けていた。
前方には土塊の巨人。
その背後では自分をここに連れてきた男が凄惨な笑みを浮かべている
周囲には人が群れを成しているが、誰も自分に手を差し伸べようとはしない。
そして誰よりも信頼している主の姿はどこにもない。

振り下ろされる巨大な腕。
手というにはあまりにも歪で、大きさも全然違うというのに、
彼の目に映ったそれは、自分を支配していた残酷な手そのものだった……。


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