ズドン、と何度目かわからない爆発音に、砂埃が巻き起こる。
日は既に落ち、二つの月は穏やかな光で草原を照らしている。
「もうそろそろ休んだらどうかね? ミス・ヴァリエール。使い魔召喚は明日にでもやり直したらいい」
「まだですっ、まだやれます! お願いしますミスタ・コルベール、納得がいくまでやらせてください!」
そう言って、月に照らされた人影はその手に持った杖を振り下ろした。
そして再度。何もない空間が爆発、轟音と爆煙を巻き上げる。
「また失敗……」
咳き込む少女、目尻に涙を浮かべながら、また杖を振り上げて呪文を唱える。
そして振り下ろす。
すると今度は爆発しなかった。
数え切れないほど呪文を唱え、数え切れないほど杖を振り上げ、杖を振り下ろし。
ただ一つだけ、使い魔を呼び出すことだけを考えて、一心不乱に。
そしていま、やっと『失敗』しなかったのだ。
視界を邪魔する土煙がうっとおしい、早く、早く己の使い魔の姿を見たかった。
どんな姿をしているのだろうか、美しいのだろうか、強いのだろうか、賢いのだろうか。
コレで、コレでやっと、誰にもゼロなんて言わせない!
煙を散らすと、そこには…………
日は既に落ち、二つの月は穏やかな光で草原を照らしている。
「もうそろそろ休んだらどうかね? ミス・ヴァリエール。使い魔召喚は明日にでもやり直したらいい」
「まだですっ、まだやれます! お願いしますミスタ・コルベール、納得がいくまでやらせてください!」
そう言って、月に照らされた人影はその手に持った杖を振り下ろした。
そして再度。何もない空間が爆発、轟音と爆煙を巻き上げる。
「また失敗……」
咳き込む少女、目尻に涙を浮かべながら、また杖を振り上げて呪文を唱える。
そして振り下ろす。
すると今度は爆発しなかった。
数え切れないほど呪文を唱え、数え切れないほど杖を振り上げ、杖を振り下ろし。
ただ一つだけ、使い魔を呼び出すことだけを考えて、一心不乱に。
そしていま、やっと『失敗』しなかったのだ。
視界を邪魔する土煙がうっとおしい、早く、早く己の使い魔の姿を見たかった。
どんな姿をしているのだろうか、美しいのだろうか、強いのだろうか、賢いのだろうか。
コレで、コレでやっと、誰にもゼロなんて言わせない!
煙を散らすと、そこには…………
男が一人、額に手を当て、眉を不愉快そうに顰めていた。
「こここ、コレが。つつつつt強くて。カカカカか格好良くて。うううううつうつ美しい使い魔………?」
変なギザギザのバンダナを額に巻いていて、服は見たことのない物を来ている。
明らかに平民だ。
ルイズはとっさにコルベールにアイコンタクト。
「平民です」
「構わん、行け」
「平民の使い魔なんて聞いたことありません」
「一度で良いことを二度言うことは無駄です」
とりつく島もない、ルイズは諦めてその男に近づこうと一歩歩み寄った瞬間。
「全員動くな!!!!!」
男が声を張り上げた。
変なギザギザのバンダナを額に巻いていて、服は見たことのない物を来ている。
明らかに平民だ。
ルイズはとっさにコルベールにアイコンタクト。
「平民です」
「構わん、行け」
「平民の使い魔なんて聞いたことありません」
「一度で良いことを二度言うことは無駄です」
とりつく島もない、ルイズは諦めてその男に近づこうと一歩歩み寄った瞬間。
「全員動くな!!!!!」
男が声を張り上げた。
突然の声にルイズは歩みを止め。また周囲で笑っていた他の生徒もしいんと黙りこくってしまう。
男は両膝を付き、両手も付いて何かを探しているかのようにきょろきょろと周囲を見回している。
「くそッ……せめて範囲が広がってくれれば見つかりやすいモノを………どこだ、どこにいる……」
彼のその動作は、まるで地面に落ちたコンタクトを探すかのように、まるで地面に『壊してはならないモノ』が落ちているかのようにゆっくりと両腕で草を払っていた。
「………ッ、ちょっといきなりなによ!平民のクセに貴族に「黙れ! 動くな! 聞こえない!」命rひっ……」
固まっていたルイズが男に詰め寄ろうとしたが、瞬間男は怒気を露わに叫んだ。
さながらその男の顔は鬼気迫っていて。たとえ平民だとしてもそれに抗うことを躊躇ってしまうほどだった。
「ここが何処か。なぜぼくがここに来たのかは今はどうでも良い。それよりまずぼくには捜し物があるんだ。いいから黙っていてくれ、絶対に動くんじゃないぞ」
それだけ言って、男は顔をまた地面に向けた。そして捜し物を再開する。
「…………なっ、なっ、何よその言いぐさはぁーーーーーーー!」
「喧しい!!黙れと言ったはずだぞ! 今は君に付き合っている暇はないんだ!」
ルイズの怒りの言葉をさらなる怒りで男は吹き飛ばす。
そして次の瞬間、ルイズの体がどしゃりと崩れ落ちた。
突然倒れたルイズに驚いたのは教師コルベールだ。
男は両膝を付き、両手も付いて何かを探しているかのようにきょろきょろと周囲を見回している。
「くそッ……せめて範囲が広がってくれれば見つかりやすいモノを………どこだ、どこにいる……」
彼のその動作は、まるで地面に落ちたコンタクトを探すかのように、まるで地面に『壊してはならないモノ』が落ちているかのようにゆっくりと両腕で草を払っていた。
「………ッ、ちょっといきなりなによ!平民のクセに貴族に「黙れ! 動くな! 聞こえない!」命rひっ……」
固まっていたルイズが男に詰め寄ろうとしたが、瞬間男は怒気を露わに叫んだ。
さながらその男の顔は鬼気迫っていて。たとえ平民だとしてもそれに抗うことを躊躇ってしまうほどだった。
「ここが何処か。なぜぼくがここに来たのかは今はどうでも良い。それよりまずぼくには捜し物があるんだ。いいから黙っていてくれ、絶対に動くんじゃないぞ」
それだけ言って、男は顔をまた地面に向けた。そして捜し物を再開する。
「…………なっ、なっ、何よその言いぐさはぁーーーーーーー!」
「喧しい!!黙れと言ったはずだぞ! 今は君に付き合っている暇はないんだ!」
ルイズの怒りの言葉をさらなる怒りで男は吹き飛ばす。
そして次の瞬間、ルイズの体がどしゃりと崩れ落ちた。
突然倒れたルイズに驚いたのは教師コルベールだ。
「き、君!一体ミス・ヴァリエールに何をしたんだ!」
歩み寄ろうとするコルベールに、男は躊躇せず『ソレ』をぶち込んだ。
瞬間、コルベールは脚を踏み出した状態で固まってしまい、前に進むことも引くことも出来なかった。
「な………う、動けない……そんな……杖も持たずに……まさか、先住魔法………?」
「どこだ、どこだ、どこにいる。せめて範囲が広がれば、手の先にでも触りさえすれば………っ」
かさり、と草が動く音が聞こえればそこに聴覚を集中させる。
しかし音がするのは一度だけ、ソレでは確証には至らない。
動き回るのはそんなに早くない。ならば絶対近くにいるはずなのに!
「ぁ……きゃ……あは……だー」
「!!!?」
(聞こえた! どこだ、確実に聞こえたぞ。あそこは、娘が倒れている方向、もうあそこまで言ったのか……ん?)
草原に倒れているルイズの方向から声は聞こえた。
「んん?」
倒れているルイズのスカートがめくれ、その下着が露わになっている。
しかし、男が見ているのはソレではなく、不自然にヒラヒラと動くスカートそのものだった。
「いた………よかった………見つかったぞ」
そして男はゆっくりとルイズのスカートに手を伸ばした。
歩み寄ろうとするコルベールに、男は躊躇せず『ソレ』をぶち込んだ。
瞬間、コルベールは脚を踏み出した状態で固まってしまい、前に進むことも引くことも出来なかった。
「な………う、動けない……そんな……杖も持たずに……まさか、先住魔法………?」
「どこだ、どこだ、どこにいる。せめて範囲が広がれば、手の先にでも触りさえすれば………っ」
かさり、と草が動く音が聞こえればそこに聴覚を集中させる。
しかし音がするのは一度だけ、ソレでは確証には至らない。
動き回るのはそんなに早くない。ならば絶対近くにいるはずなのに!
「ぁ……きゃ……あは……だー」
「!!!?」
(聞こえた! どこだ、確実に聞こえたぞ。あそこは、娘が倒れている方向、もうあそこまで言ったのか……ん?)
草原に倒れているルイズの方向から声は聞こえた。
「んん?」
倒れているルイズのスカートがめくれ、その下着が露わになっている。
しかし、男が見ているのはソレではなく、不自然にヒラヒラと動くスカートそのものだった。
「いた………よかった………見つかったぞ」
そして男はゆっくりとルイズのスカートに手を伸ばした。
いったい何が起こったのかは、私にはわからなかった。
あの子が、あの『ゼロのルイズ』が、使い魔を召喚できたことには、『おめでとう』と言ってあげても良いと思っている。
それがたとえ平民であったとしても、今まで一度たりとて魔法を成功させていなかったあの子にとっては、初めての快挙なはずだから。
ところが、どういう事だろうか。
その使い魔は突然『動くな』と言った。主であるはずのあの子、ルイズが近寄ろうとするのを大声で制した。
なおもルイズが近寄ろうとすると激情を露わにして怒鳴った、次の瞬間ルイズはぺたりと崩れ落ちた。
あの平民がいったい何をやったのか、それは全くわからなかった。
ただ、右手を上げて空中で素早く動かしていたみたいだったけれども、それ以外は、何も。
横たわるルイズを尻目に、その男は両手を地面について何かを探しているようだ。いったい何を?
「………あ……ー」
ん? 今何か聞こえた………ような気が……。気のせい……かしら、こんなところで赤ん坊の声なんて。
コルベール先生も動こうとしない、それならば先生は『危険はない』と判断したのだろう。
しかしそんな判断は、その使い魔がルイズのスカートに伸びた瞬間、跡形もなく消えた。
「ファイアボールっ!」
杖を抜いて即座に呪文を唱え、小さな火の玉を飛ばす。
ルイズと平民の距離が近すぎるため、当たらないよう放つ。
その呪文を、平民は頭を下げて避けた。
当たらないように十分高さを取って頭上を通り過ぎるようにしたのが裏目に出たか。
男が、私を睨み付ける。
「今のは……君の『スタンド』か……?」
あの子が、あの『ゼロのルイズ』が、使い魔を召喚できたことには、『おめでとう』と言ってあげても良いと思っている。
それがたとえ平民であったとしても、今まで一度たりとて魔法を成功させていなかったあの子にとっては、初めての快挙なはずだから。
ところが、どういう事だろうか。
その使い魔は突然『動くな』と言った。主であるはずのあの子、ルイズが近寄ろうとするのを大声で制した。
なおもルイズが近寄ろうとすると激情を露わにして怒鳴った、次の瞬間ルイズはぺたりと崩れ落ちた。
あの平民がいったい何をやったのか、それは全くわからなかった。
ただ、右手を上げて空中で素早く動かしていたみたいだったけれども、それ以外は、何も。
横たわるルイズを尻目に、その男は両手を地面について何かを探しているようだ。いったい何を?
「………あ……ー」
ん? 今何か聞こえた………ような気が……。気のせい……かしら、こんなところで赤ん坊の声なんて。
コルベール先生も動こうとしない、それならば先生は『危険はない』と判断したのだろう。
しかしそんな判断は、その使い魔がルイズのスカートに伸びた瞬間、跡形もなく消えた。
「ファイアボールっ!」
杖を抜いて即座に呪文を唱え、小さな火の玉を飛ばす。
ルイズと平民の距離が近すぎるため、当たらないよう放つ。
その呪文を、平民は頭を下げて避けた。
当たらないように十分高さを取って頭上を通り過ぎるようにしたのが裏目に出たか。
男が、私を睨み付ける。
「今のは……君の『スタンド』か……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
ぎらりと男の瞳が私を睨み付ける、その視線はまるで敵を目前にした戦士のような瞳だ……っ。
思わずぞくりと背中が震えるのがわかる。
『スタンド』の意味はわからなかったが、彼はこちらを警戒しているのがわかった、右腕がゆっくりと持ち上げられる。
「何度も言うが。動かないでくれたら何もしない。彼女はそれを無視して動いたから少し眠ってもらっているだけだ、危害は加えない。約束する」
男の目がじっと私を見つめてくる。
闇のように真っ黒な瞳、あぁ、吸い込まれそうな黒い瞳、私はその中の『覚悟』を見た。
彼には一つの目的がある、それを果たすため、それを邪魔するモノに容赦はしない、と。
ほんの十数秒の邂逅、私が一歩引くと。彼は視線を落として、その手をルイズのスカートへ。
ぽん、と置いてもう片方の手を伸ばす。
そして、透明な水をすくうように型作り、見えない何かを持ち上げているように見えた。
「よかった………もしこの赤ん坊に何かあったらジョースターさんに顔向けできないところだった……」
何かをその腕の中にしっかりと納めるような動作、相変わらずそこに何かあるようには見えなかったけれど。
ただ、彼のその衣服が、不自然な形に歪んでいるように見えた。
「あぶぶ。きゃ、あは♪あばば」
赤ん坊の声が聞こえる、どこからだろう。
思わずぞくりと背中が震えるのがわかる。
『スタンド』の意味はわからなかったが、彼はこちらを警戒しているのがわかった、右腕がゆっくりと持ち上げられる。
「何度も言うが。動かないでくれたら何もしない。彼女はそれを無視して動いたから少し眠ってもらっているだけだ、危害は加えない。約束する」
男の目がじっと私を見つめてくる。
闇のように真っ黒な瞳、あぁ、吸い込まれそうな黒い瞳、私はその中の『覚悟』を見た。
彼には一つの目的がある、それを果たすため、それを邪魔するモノに容赦はしない、と。
ほんの十数秒の邂逅、私が一歩引くと。彼は視線を落として、その手をルイズのスカートへ。
ぽん、と置いてもう片方の手を伸ばす。
そして、透明な水をすくうように型作り、見えない何かを持ち上げているように見えた。
「よかった………もしこの赤ん坊に何かあったらジョースターさんに顔向けできないところだった……」
何かをその腕の中にしっかりと納めるような動作、相変わらずそこに何かあるようには見えなかったけれど。
ただ、彼のその衣服が、不自然な形に歪んでいるように見えた。
「あぶぶ。きゃ、あは♪あばば」
赤ん坊の声が聞こえる、どこからだろう。
赤ん坊の声が聞こえた途端、男から発せられる威圧感はなくなった。
それと同時に、横たわっていたルイズが目を覚まして起きあがった。
「もう良いよ。こちらの用は済んだ。では君がぼくらをここに呼び出した理由を聞かせてもらおうか」
ぞんざいに言い放った男の言葉に、ルイズの怒りが爆発する。
「コッこここここここのっ、へへへ平民の。くっ、くくせに、ご、ごごごご主人様になんて口の利き方を………!」
「ご主人様? 心外だな。勝手にこちらに飛ばしたのは君の……君達の、か? 敵意はないようだがその理由を聞かせてもらおうか」
「理由………そう、そうよ! あんたは私の使い魔なんだから!」
「使い魔? おいおいやめてくれよ。魔法使いごっこをするために呼び出したってのかい?使い魔が欲しいんならその辺にいる蛙とか猫でも捕まえてきたらいいじゃないか」
「何言ってるのよ! サモン・サーヴァントで召喚したものを使い魔にするってのが常識なのよ! そこらの生き物捕まえたって使い魔に出来るわけ無いわ!」
要領を得ないルイズの言葉に嫌気が差した男は、やれやれと溜息をついた。
「………埒があかないな」
それと同時に、横たわっていたルイズが目を覚まして起きあがった。
「もう良いよ。こちらの用は済んだ。では君がぼくらをここに呼び出した理由を聞かせてもらおうか」
ぞんざいに言い放った男の言葉に、ルイズの怒りが爆発する。
「コッこここここここのっ、へへへ平民の。くっ、くくせに、ご、ごごごご主人様になんて口の利き方を………!」
「ご主人様? 心外だな。勝手にこちらに飛ばしたのは君の……君達の、か? 敵意はないようだがその理由を聞かせてもらおうか」
「理由………そう、そうよ! あんたは私の使い魔なんだから!」
「使い魔? おいおいやめてくれよ。魔法使いごっこをするために呼び出したってのかい?使い魔が欲しいんならその辺にいる蛙とか猫でも捕まえてきたらいいじゃないか」
「何言ってるのよ! サモン・サーヴァントで召喚したものを使い魔にするってのが常識なのよ! そこらの生き物捕まえたって使い魔に出来るわけ無いわ!」
要領を得ないルイズの言葉に嫌気が差した男は、やれやれと溜息をついた。
「………埒があかないな」
『ヘブンズ・ドアァーーーッ』
本にして記憶を読む。その方が嘘はないし曖昧さも回避できるからだ。
「ん? 『魔法』だと? そんなばかな……しかし『スタンド』のことは書かれていない……それに……」
記憶のあちらこちらに書かれている事柄に、男は目を丸くする。
魔法。サモン・サーヴァント。コントラクト・サーヴァント。魔法成功率ゼロ。トリステイン。魔法学院。ゼロのルイズ。精霊。四大系統。虚無。エルフ。胸もゼロ。先住魔法。
ヘブンズ・ドアーに隠し事は出来ない。ただ、本人の勘違いや記憶違いもそのまま読んでしまうのが欠点ではあるが。
(スタンド攻撃……では『無い』か。どうやらサモン・サーヴァントとやらであの鏡みたいなものを出現させるのか。それに魔法。ハルケギニアという地名も聞いたこと無いし………)
男は、自分の体が歓喜に震えるのを感じていた。
(素晴らしい、素晴らしいぞこれは。まさか『異世界』なんてモノを目の当たりに出来るとは思ってもいなかった!)
しかし、ネックなモノが男が今胸に抱いているモノ。
どうにかこの『赤ん坊』だけ先に返せないモノか、ルイズの記憶を更に読む。
しかし、呼び出すことは出来ても、送り返すことが出来ないと言うことを確認することだけしかできなかった。
家族構成や、始めて初潮のあった日、寝小便をいつまでしていたか、なんて本人ですら覚えていないようなことすらも読み取れるその力でさえも。
その本人が知らないことは、どうあっても読み取ることは出来ないのだ。
(なんにせよ。とりあえず従っておくのが得策か? こちらのことなど何一つわからないのだからな。赤ん坊を連れてよそへ行くにしても近くの町までこれほど離れてるのでは無理がある……)
意外にあっけなく納得して、男は本になったルイズの空白部分に一つ小さく書き加えた。
「ん? 『魔法』だと? そんなばかな……しかし『スタンド』のことは書かれていない……それに……」
記憶のあちらこちらに書かれている事柄に、男は目を丸くする。
魔法。サモン・サーヴァント。コントラクト・サーヴァント。魔法成功率ゼロ。トリステイン。魔法学院。ゼロのルイズ。精霊。四大系統。虚無。エルフ。胸もゼロ。先住魔法。
ヘブンズ・ドアーに隠し事は出来ない。ただ、本人の勘違いや記憶違いもそのまま読んでしまうのが欠点ではあるが。
(スタンド攻撃……では『無い』か。どうやらサモン・サーヴァントとやらであの鏡みたいなものを出現させるのか。それに魔法。ハルケギニアという地名も聞いたこと無いし………)
男は、自分の体が歓喜に震えるのを感じていた。
(素晴らしい、素晴らしいぞこれは。まさか『異世界』なんてモノを目の当たりに出来るとは思ってもいなかった!)
しかし、ネックなモノが男が今胸に抱いているモノ。
どうにかこの『赤ん坊』だけ先に返せないモノか、ルイズの記憶を更に読む。
しかし、呼び出すことは出来ても、送り返すことが出来ないと言うことを確認することだけしかできなかった。
家族構成や、始めて初潮のあった日、寝小便をいつまでしていたか、なんて本人ですら覚えていないようなことすらも読み取れるその力でさえも。
その本人が知らないことは、どうあっても読み取ることは出来ないのだ。
(なんにせよ。とりあえず従っておくのが得策か? こちらのことなど何一つわからないのだからな。赤ん坊を連れてよそへ行くにしても近くの町までこれほど離れてるのでは無理がある……)
意外にあっけなく納得して、男は本になったルイズの空白部分に一つ小さく書き加えた。