「おう、聞いたぜ兄ちゃん!貴族にケンカ売ろうなんて、大した度胸じゃねえか」
育郎をモット伯の所にまで案内するよう命じられた、如何にもベテランといった容貌の衛兵が、感心したように話しかけてくる。
「しかも女の為だって?あのおっさん、俺らも呆れるほどのドスケベだからな。
そりゃ兄ちゃん、押しかけてきて正解だぜ」
「んなに酷えのか、モット伯てぇのは?」
「あん?こりゃインテリジェンスソードか?変わったもん持ってるな兄ちゃん……」
育郎の背中のデルフをじろじろ見る。
「にしても……ほかに剣はなかったのか?ボロすぎるだろ、錆びも浮いちまってるし」
「……こう見えてもいい奴なんです」
「相棒、ボロって言われた事のフォローにはなってねえぞ」
「え?いや……」
「おもしれえ奴らだな……なあ、兄ちゃん」
それまでどこか楽しげだった衛兵の顔が、唐突に真剣なものに変わる。
「相手は貴族だ。俺ら見てえなベテランならともかく、兄ちゃんじゃ勝ち目はねえ」
「相棒を舐めんじゃねえぞ!おめえなんぞ相棒に掛かれば一撃でメコッ!だぜ!」
「おーおーそりゃすげえ。けどな威勢はいいが、モット伯はトライアングルだ。
どんだけ兄ちゃんが凄くても、まともにやりゃ相手にならねえ……
なあ兄ちゃん、あのおっさんが本気になる前にとっとと降参しちまいな」
「……すいません」
「そうかい……おっと、もうついちまったな。まあ、死なない程度にがんばんな」
そう言って育郎の肩を叩く。
育郎をモット伯の所にまで案内するよう命じられた、如何にもベテランといった容貌の衛兵が、感心したように話しかけてくる。
「しかも女の為だって?あのおっさん、俺らも呆れるほどのドスケベだからな。
そりゃ兄ちゃん、押しかけてきて正解だぜ」
「んなに酷えのか、モット伯てぇのは?」
「あん?こりゃインテリジェンスソードか?変わったもん持ってるな兄ちゃん……」
育郎の背中のデルフをじろじろ見る。
「にしても……ほかに剣はなかったのか?ボロすぎるだろ、錆びも浮いちまってるし」
「……こう見えてもいい奴なんです」
「相棒、ボロって言われた事のフォローにはなってねえぞ」
「え?いや……」
「おもしれえ奴らだな……なあ、兄ちゃん」
それまでどこか楽しげだった衛兵の顔が、唐突に真剣なものに変わる。
「相手は貴族だ。俺ら見てえなベテランならともかく、兄ちゃんじゃ勝ち目はねえ」
「相棒を舐めんじゃねえぞ!おめえなんぞ相棒に掛かれば一撃でメコッ!だぜ!」
「おーおーそりゃすげえ。けどな威勢はいいが、モット伯はトライアングルだ。
どんだけ兄ちゃんが凄くても、まともにやりゃ相手にならねえ……
なあ兄ちゃん、あのおっさんが本気になる前にとっとと降参しちまいな」
「……すいません」
「そうかい……おっと、もうついちまったな。まあ、死なない程度にがんばんな」
そう言って育郎の肩を叩く。
「よう、どうだったいあの坊や?」
持ち場に戻った衛兵に同僚が声をかける。
「そういやお前まだ賭けてなかったよな?どっちにする、あの坊やが死ぬ方か?」
「……あの兄ちゃんが勝つほうに賭ける」
「おいおい、正気か?穴ねらいにも程があるぞ」
「うるせぇ……」
そう小さくつぶやいて自分の手を、育郎の肩に触れてから、震えが止まらない手をじっと見つめる。
「あの兄ちゃん……なにもんだ?」
持ち場に戻った衛兵に同僚が声をかける。
「そういやお前まだ賭けてなかったよな?どっちにする、あの坊やが死ぬ方か?」
「……あの兄ちゃんが勝つほうに賭ける」
「おいおい、正気か?穴ねらいにも程があるぞ」
「うるせぇ……」
そう小さくつぶやいて自分の手を、育郎の肩に触れてから、震えが止まらない手をじっと見つめる。
「あの兄ちゃん……なにもんだ?」
「しかしミス・ロングビル、何故食堂で決闘を?しかも人払いまでさせて」
モット伯の疑問に、それを提案したミス・ロングビルが答える。
「もう暗いですし、外では貴方の勇ましい姿がよく見えないじゃありませんか?
それに……そんな素敵なモット伯、他の人にはみせたくありませんわ」
「いや、そんなことを言われるとてれますなぁ。はっはっはっ!」
モット伯の疑問に、それを提案したミス・ロングビルが答える。
「もう暗いですし、外では貴方の勇ましい姿がよく見えないじゃありませんか?
それに……そんな素敵なモット伯、他の人にはみせたくありませんわ」
「いや、そんなことを言われるとてれますなぁ。はっはっはっ!」
んなわけないだろ、このスカタン!ったく、男って奴は……
人払いをさせたのは、育郎の勝利を3人だけの秘密にする事により、モット伯の弱みを握る為である。わざわざ食堂で決闘するように言ったのも、外の衛兵に決闘の様子を知られないためである。
それにしてもいい気なもんだね……
ま、下手すりゃ死ぬなんて事、今のこいつにはわかんないからしょうがないか。
ま、下手すりゃ死ぬなんて事、今のこいつにはわかんないからしょうがないか。
育郎は何があっても人間の姿のまま戦おうとするのは間違いない。
しかし、それゆえにモット伯が勝利を収めるほどの傷を負わせた時、『バオー』の力はモット伯の命を確実に奪う事だろう。
もしそうなってしまった時は……
しかし、それゆえにモット伯が勝利を収めるほどの傷を負わせた時、『バオー』の力はモット伯の命を確実に奪う事だろう。
もしそうなってしまった時は……
「こ、これは!?僕はこの人を……」
モット伯の遺体を前に呆然とする育郎に、ミス・ロングビルがすがりつく。
「育郎君……逃げましょう!」
「し、しかし……!」
「ここで貴方が捕まれば、ミス・ヴァリエールまで!」
「わ、わかりました……」
モット伯の遺体を前に呆然とする育郎に、ミス・ロングビルがすがりつく。
「育郎君……逃げましょう!」
「し、しかし……!」
「ここで貴方が捕まれば、ミス・ヴァリエールまで!」
「わ、わかりました……」
「どうでした?」
安宿の部屋の中、帰ってきたミス・ロングビルに育郎が心配そうな声をかける。
「……これを」
ミス・ロングビルが差し出したのは、育郎の顔が書かれた手配書だった。
「話では、他の国にまで手配書は回ってるそうです」
「ロングビルさん……すいません、僕のせいで……
もう十分です、後は僕一人でなんとかしますから」
「良いんです……私がイクロー君に頼んだんですから……それに、貴方と一緒なら……」
「ロングビルさん……」
安宿の部屋の中、帰ってきたミス・ロングビルに育郎が心配そうな声をかける。
「……これを」
ミス・ロングビルが差し出したのは、育郎の顔が書かれた手配書だった。
「話では、他の国にまで手配書は回ってるそうです」
「ロングビルさん……すいません、僕のせいで……
もう十分です、後は僕一人でなんとかしますから」
「良いんです……私がイクロー君に頼んだんですから……それに、貴方と一緒なら……」
「ロングビルさん……」
「そんな!?身体を売るなんて……」
「でも、もうお金が……」
「僕に……僕に出来る事はないんですか!?」
「手配書が回ってる貴方に、真っ当な仕事なんて……」
「それでも、貴方にそんな事をさせるよりは……!」
「でも、もうお金が……」
「僕に……僕に出来る事はないんですか!?」
「手配書が回ってる貴方に、真っ当な仕事なんて……」
「それでも、貴方にそんな事をさせるよりは……!」
この後、土くれのフーケに無敵の青い魔人が付き従うようになった。
二人は数々の貴族のお宝を盗み出し、末永く幸せに暮らしたとさ。
二人は数々の貴族のお宝を盗み出し、末永く幸せに暮らしたとさ。
なーんて感じで……ふふふ、完璧な計画ね。
もし失敗しても男……じゃなくてパートナーゲット!
もし失敗しても男……じゃなくてパートナーゲット!
心の中でほくそえむミス・ロングビル(婚期が気になる23歳)であった。
「ふむ、やっと来たようですな。ミス・ロングビル?」
「あ、はい」
楽しい妄想を中断させ、食堂に入ってきた育郎を見る。
「あ、はい」
楽しい妄想を中断させ、食堂に入ってきた育郎を見る。
頑張りなさいよ坊や。
……むしろ頑張らなくてもいか
……むしろ頑張らなくてもいか
「さて、私と決闘を行うと言う名誉を得たのを、光栄に思うが良い平民よ」
尊大な態度でモット伯は告げる。
「……約束して下さい、もし僕が勝ったらシエスタさんを」
「わかっておる。もっとも、『もし』等起こらないだろうがな!」
そう言ってモット伯は杖を引き抜いた。
育郎もデルフリンガーを鞘から抜き放つ。
「ではゆくぞ!私の二つ名は『波濤』のモット、その力をとくと見るが良い!」
叫ぶモット伯が杖を振りあげ、呪文を唱える。
そして呪文が完成し、杖を振り下ろした次の瞬間、渇いた音と供にその手から杖が弾き飛ばされた。
「馬鹿な!」
十分距離はとっていたはずなのに、育郎は驚くべき瞬発力を持って、モット伯の呪文が完成する前にその手の杖を叩き落したのだ!
うまくいった……
尊大な態度でモット伯は告げる。
「……約束して下さい、もし僕が勝ったらシエスタさんを」
「わかっておる。もっとも、『もし』等起こらないだろうがな!」
そう言ってモット伯は杖を引き抜いた。
育郎もデルフリンガーを鞘から抜き放つ。
「ではゆくぞ!私の二つ名は『波濤』のモット、その力をとくと見るが良い!」
叫ぶモット伯が杖を振りあげ、呪文を唱える。
そして呪文が完成し、杖を振り下ろした次の瞬間、渇いた音と供にその手から杖が弾き飛ばされた。
「馬鹿な!」
十分距離はとっていたはずなのに、育郎は驚くべき瞬発力を持って、モット伯の呪文が完成する前にその手の杖を叩き落したのだ!
うまくいった……
安堵する育郎。しかしそれと裏腹に、彼の剣は
「ちょおおおおおおおおおおお!相棒おおおおおおおおお!!!!」
「で、デルフ?ど、どうかしたのか!?」
「で、デルフ?ど、どうかしたのか!?」
どうかしたのかじゃねー!
これじゃ俺のビックリドッキリ能力がわからねえじゃねーか!?
考えろ……考えるんだデルフリンガー!
何とかしてもう一度このおっさんと、相棒を戦わせるんだ!
これじゃ俺のビックリドッキリ能力がわからねえじゃねーか!?
考えろ……考えるんだデルフリンガー!
何とかしてもう一度このおっさんと、相棒を戦わせるんだ!
「いや、その……あのな相棒、こりゃちょっと卑怯じゃねえか?」
「え?」
その言葉に困惑する育郎。
「えーと、あれだ。別にいいんだけど、こりゃ決闘だぜ?
あのおっさんが納得しなかったら、約束を反故にされちまうかもなーって」
その言葉に、呆然としていたモット伯が我に返る。
「そ、そうだ!このような勝負無効だ!」
「な!ほら、あのおっさんもああ言ってるだろ?」
「う、うん……そ、そうなのかな?」
そんな事言わなければ、そのまますんだのでは?
とは思ったが、言われてみればそんな気がしてくる。
「あの……イクロー君、私がなんとかモット伯に話をつけてきますので」
ミス・ロングビルが、小声で育郎に語りかける。
「ロングビルさん……すいません。お願いします……」
「いえ、いいんですよ」
そう言って、今度はモット伯に近づき小声で話しかける。
「モット伯……」
「い、いや違うんだミス・ロングビル!こ、これはその、油断して……
こ、この勝負は無効ということで……」
「ええ、でもあの平民は自分が勝ったと思ってますし……
やりかたは少しあれですが、この決闘は彼の勝ちといっても間違いでは……」
その言葉にモット伯が焦る。決闘に立ち会ったメイジがそう判断したなら、自分にはどうにもならない。そして平民に負けた等と知られれば、王宮勅使の自分の立場が危うくなるのは間違いない。
「え?」
その言葉に困惑する育郎。
「えーと、あれだ。別にいいんだけど、こりゃ決闘だぜ?
あのおっさんが納得しなかったら、約束を反故にされちまうかもなーって」
その言葉に、呆然としていたモット伯が我に返る。
「そ、そうだ!このような勝負無効だ!」
「な!ほら、あのおっさんもああ言ってるだろ?」
「う、うん……そ、そうなのかな?」
そんな事言わなければ、そのまますんだのでは?
とは思ったが、言われてみればそんな気がしてくる。
「あの……イクロー君、私がなんとかモット伯に話をつけてきますので」
ミス・ロングビルが、小声で育郎に語りかける。
「ロングビルさん……すいません。お願いします……」
「いえ、いいんですよ」
そう言って、今度はモット伯に近づき小声で話しかける。
「モット伯……」
「い、いや違うんだミス・ロングビル!こ、これはその、油断して……
こ、この勝負は無効ということで……」
「ええ、でもあの平民は自分が勝ったと思ってますし……
やりかたは少しあれですが、この決闘は彼の勝ちといっても間違いでは……」
その言葉にモット伯が焦る。決闘に立ち会ったメイジがそう判断したなら、自分にはどうにもならない。そして平民に負けた等と知られれば、王宮勅使の自分の立場が危うくなるのは間違いない。
「な、なんとかもう一度決闘をやりなおせないか!?」
「しかし……決闘は神聖なものですし……相手がその申し出を受ければ別ですが……」
「な、なら負けてもあのメイドは解雇すると約束する!」
「それだけでは……やはり相応の物をお渡しになられないと……」
「む……で、ではあの者に勝てばさらに褒美を取らせると」
「モット伯のコレクション」
「へ!?」
ミス・ロングビルの言葉に、思わず呆けた声をあげてしまう。
「……下手をすれば命をとられるかもと考えているでしょうから、それぐらいのエサをぶらさげないと、あの平民も納得しないのでは?」
「……わ、わかった。私のコレクションの一つを、勝ったらくれてやると伝えてくれ」
モット伯は、渋々その提案を受けいれた。
「しかし……決闘は神聖なものですし……相手がその申し出を受ければ別ですが……」
「な、なら負けてもあのメイドは解雇すると約束する!」
「それだけでは……やはり相応の物をお渡しになられないと……」
「む……で、ではあの者に勝てばさらに褒美を取らせると」
「モット伯のコレクション」
「へ!?」
ミス・ロングビルの言葉に、思わず呆けた声をあげてしまう。
「……下手をすれば命をとられるかもと考えているでしょうから、それぐらいのエサをぶらさげないと、あの平民も納得しないのでは?」
「……わ、わかった。私のコレクションの一つを、勝ったらくれてやると伝えてくれ」
モット伯は、渋々その提案を受けいれた。
「駄目でしたか……」
「すいません……私の力が足りないばかりに……」
「ねーちゃんは良くやったって!大丈夫!相棒なら絶対うまくやるって!」
もちろんモット伯との取引の事は、カケラも話さないミス・ロングビルであった。
「すいません……私の力が足りないばかりに……」
「ねーちゃんは良くやったって!大丈夫!相棒なら絶対うまくやるって!」
もちろんモット伯との取引の事は、カケラも話さないミス・ロングビルであった。
こうして、各人のこすっからい打算と欲望が渦巻く中、育郎とモット伯の
決闘第2ラウンドが行われる事になったのであった。
決闘第2ラウンドが行われる事になったのであった。