ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第二十四話 『カントリーロード』後編

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第二十四話 『カントリーロード』後編


キュルケがヴェストリ広場でボロ切れのテントを見つけたのは夜も更けてからだった。
ウェザーを探すためにフレイムの目を使おうと思って感覚を共有した瞬間に目の前にウェザーがあらわれたのには驚いた。
どうやら大分前からウェザーと一緒にはいたらしい。そしていざ行ってみると――――
「ピンゾロのアラシ」
「ぐわー!また負けたッ!タバサ、オメーイカサマしてないだろうなあ?」
「ざわ・・・ざわ・・・」
火を囲んでタバサ、ウェザー、ギーシュの三人が何かしているのだ。
「・・・何やってるの?」
「あれはチンチロリンって言ってサイコロを使った博打遊びですよ」
背後から声がしたことにキュルケは驚いて振り返った。そこには手にバスケットを持ったシエスタが立っていた。
「チンチロリン・・・?」
「はい。曾祖父が伝えた遊びらしくて、わたしは全然苦手なんですけど父がやっていたのを見たことあるので」
すると三人はこちらに気づいたのか大声で呼んでいる。近寄ってみればなるほど、すり鉢の中にサイコロが三つ入っている。
「ウェザーさんの暇つぶしにとお教えしたんですけど・・・」
「あとから来たタバサにあっという間に追い抜かれたよ。勝てる気がしないぜ」
「これは面白い。ありがとう」
タバサがシエスタの顔を見てお礼を言ったのでシエスタは慌ててしまった。
「いえ、そんな!こんな平民のお遊びでよかったらいくらでもお教えしますわ、ミス・タバサ」
「そう言えばあなたこういうの大得意よね。でもなんでここにこのメンバーが集まってるのよ?」

「ルイズに使い魔クビにされたから寝床がなくて仕方なく野宿をしようと準備をしてたら――」
「テントを張っているウェザーさんを見つけて、せめて食事は良い物を食べないと病気になってしまうのでお料理を作っていたら――」
「僕が訓練の帰りにたまたま通りかかったらウェザーとシエスタがご飯を作っていて、ごちそうになっていたら――」
「はしばみ草の匂いに誘われて――」
「――全員ここに集まっちゃったわけだ」
何とも奇妙な縁で集まったものである。キュルケも思わず苦笑してしまった。
「でもま、丁度いいわ。今から出かけるから用意して」
「出かける用意?」
タバサはキュルケの突飛な行動に慣れているのか動じていないが、他の三人は意図が掴めずに戸惑っている。
「ねえウェザー。あなた貴族になりたくなあい?」
「おいおいキュルケ、トリステインでは平民が『領地の購入』と『公職につくこと』が禁止されていることくらい知っているだろう」
「あら、だれがこんな伝統やしきたりに固執している貧弱な国でだなんて言ったのよ。ゲルマニアならお金さえ積めば貴族の性を名乗れるわ」
ウェザーはいきなりの話しに頭をかきながら確認するかのようにゆっくりと尋ねた。
「あー、なんだキュルケ。つまりお前は俺に金で貴族になれと言うわけだ。お前の国で」
「その通りよ」
「だが肝心の金がない。姫様からもらった報酬じゃとても土地は買えないだろう?」
「ないなら手に入れればいいじゃない」
キュルケはキッパリとそう言うと羊皮紙の束をウェザーに投げ渡した。開いてみてみる限りでは地図のようだが、これが一体なんだというのかとウェザーはキュルケを見た。
「ちまちま小金を稼いだってたかが知れてるわ。だったら!一攫千金狙うしかないでしょ!」
キュルケは熱く語るがギーシュは冷めた目をしてキュルケを見た。
「お宝なんて嘘さ。『宝の地図』がこんなにたくさんあるわけないだろ?」
地図を一枚ピラピラと摘んでみせるがキュルケはすでに聞いていなかった。ウェザーの隣に座り体をすり寄せて囁く。

「ねえ、貴族になれたら・・・きっとあたしにプロポーズしてね?もちろん今のあなたも大好きよ。でも、困難を乗り越えた男の人ってすっごおくかっこいいじゃない?タフでワイルドな人って見てるだけで感じちゃう」
キュルケは指をウェザーの胸につつつ、と這わせて色っぽく笑った。
「そうだな・・・ここにいても暇だし、悪くないか」
「ウェザー!本気かい?こんなの骨折り損に決まってるぞ!くたびれもうけになる前に考え直したまえ!」
するとキュルケが指をつきだしちっちっち、と振りこう言った。
「でっかく生きろよ男なら」
それに最初はタバサが呟く。
「横道それずにまっしぐら」
そしてキュルケが再び尋ねる。
「過激に生きてる男なら?」
「ハートはいつでもまっかっかっかっかっ!燃えてるさ!」
ギーシュはやおら立ち上がると拳を突き上げそう叫んだ。シエスタがびっくりして反応弾を撃ちそうになっていた。
「気づいたよキュルケ!人生勝つも負けるもイッキ討ちだって事に!」
「おっし、じゃあ行くか!」


立ち上がったウェザーにキュルケが抱きつくがそこにシエスタが飛び込んできた。
「わ、わたしも連れて行ってください!」
「ダメよ。あなたこれはピクニックじゃないのよ」
「わかってます!たしかに皆さんみたいに魔法は使えませんけど、わ、わたしこう見えても・・・・・・」
「こう見えても?」
拳を握りわななくシエスタを見てキュルケはもしかしたらこの子にもなにか能力が?と思ったが・・・
「料理が出来ます!」
「知ってるよ!」
全員が脱力して突っ込んだ。
「でもでも!食事は大事ですよ!宝探ししている間は野宿でしょう?だったらちゃんと新鮮なお料理で栄養をとらないとマズイです!でもそれもわたしがいれば解決しますよ」
「でも、これから行く場所にはどこも怪物やら魔物やらがわんさかいて危険よ?」
「へ、平気です!ウェザーさんが守ってくれるもの!」
そう言ってシエスタはキュルケとは反対の腕に抱きついた。両側から挟まれたウェザーはシエスタの頑なな様子に苦笑しながら言った。
「じゃあこの五人でパーティー結成だな」


所変わってトリステインの王宮。アンリエッタは居室から出て廊下を歩いていた。
ついさっきまで居室で花嫁用のドレスの仮縫いをして母である太后マリアンヌと話をしたのだ。今頭の中はその話のことで一杯だった。
自分の結婚は国の未来のため。そう母に言い聞かされた。もちろんアンリエッタだってわかっていた。けれど、けれど――――
「アンリエッタ」
考え事をしていたためかその声に気づくのが遅れてしまい顔を上げたときにはその声の主とぶつかってしまっていた。
「あはは、君はおっちょこちょいだなアンリエッタ」
「も、もうしわけありませんウェールズ様・・・」
声の主ウェールズは鼻を押さえるアンリエッタをのぞき込むようにして笑った。いつもと変わらない、凛とした声で笑う。
アンリエッタはそれが少し悲しかった。この人は悲しんではくれないのだろうか、と。
「よかった、ケガはないね」
「心配しすぎですわ。いくら箱入り育ちだからってそこまで虚弱じゃありませんわ」
「わかってるさ。でも、お輿入れ前の身体に傷を付けたと合っては大問題だからね」
「あ・・・」
ウェールズのその言葉にアンリエッタは再び俯いてしまう。胸の前で握られた手はきつくきつく握られている。
「ウェールズ様は・・・この結婚を祝福してくださるのですか?」
「もちろんだとも」
その瞬間アンリエッタはキッとウェールズを睨みつけたが、すぐに怒りは消えてしまった。なぜならウェールズが笑顔だったからだ。
いつもと変わらない笑み。でもその裏側は悲痛な、今にも崩れてしまいそうな笑顔だった。
アンリエッタにしかわからない感情の変化。心の裏側が見て取れた。だから怒ることなどできようはずがなかった。
「ウェールズ様・・・・・・」
「どうしたんだいアンリエッタ。僕の可愛い従妹がそんな情けない顔をしてはいけないよ」
するとウェールズは自分の指から指輪を外した。風のルビーである。アンリエッタの手を取ると手のひらにそれを置き、握らせた。
「盛大にお祝いが出来ればいいのだが、今はこれが精一杯だ。情けないが受け取ってくれ」


アンリエッタは手のひらの中の温もりを感じていた。同時に今二人の間にある冷たさも。
それでもアンリエッタは笑顔を作って見せた。これ以上ウェールズを苦しめないために。精一杯の、王女の笑顔で。
「ありがとうございますわ。ウェールズ皇太子殿下。これがあればどこでも挫けることなくやっていけそうですわね。あら、もう時間。ごめんなさい、用事がありますのでこれで・・・・・・」
そう口早に言うとアンリエッタはウェールズの横を走るような速度で駆けだしていった。後に残されたウェールズはただ立ちつくす。そこへ太后マリアンヌがやってきた。
「あなたたちには辛い思いをさせますね。本来ならわたくしたち大人が世の中に撒いてしまった火は我々が消し止めなければならないのに・・・」
しかしウェールズは首を振った。気持ちを納得させるかのようにゆっくりと。
「いいのです。これは我ら王家の宿命であり義務なのですから。ただせめて・・・皇太子ではなくウェールズとしての気持ちを言うのであれば、アンリエッタが安心して先へ進めるようにしてやりたいと思います」
真っ直ぐ前を見ているこの青年こそアンリエッタを幸せにできるのだろうとわかっていながら、そうさせてあげることのできない空しさをマリアンヌは感じていた。
「どうか無力なわたくしを許してください」
「それを言うのであれば我らアルビオンこそあなたがたには迷惑をかけます。では、私はこれで・・・」
ウェールズは踵を返して歩き出した。強く握りすぎた手からは涙の代わりに血が流れていた。

タバサは息をひそめて木の陰に隠れていた。目の前には廃墟と化した寺院がある。かつては壮麗を誇ったであろう門柱は崩れ、鉄の柵は錆び朽ちていた。
それでも日差しを浴びたそれは未だ壮麗さを保とうと輝くようで、牧歌的な雰囲気が漂っていた。しかしそんな雰囲気も爆発音にかき消された。その音に反応して中から現在の寺院の主が現れた。
オーク鬼だ。その身体は二本足で立った豚と言えばいいだろうか。もっとも、豚と言っても身の丈は二メイル。体重は成人男子の五倍を優に越える。
豚なりに羞恥心でもあるのか、獣の皮を体に巻いていた。
その豚たちが怒りの方向を上げて一点を睨む。キュルケが炎で燃やした木を指さして。
タバサは素早く使う呪文を検討した。敵の数はおよそ十数匹。呪文が連発できない以上慎重にことを運ばないと奇襲の優位が崩れてしまう。
タバサは木の陰から手を出してハンドシグナルを送った。
「オーケイ。まかせてタバサ」
タバサは呪文を唱えた。『水』『風』『風』。二ツの系統が絡まり合い呪文が完成する。
空気中の水蒸気を凍り付かせ何十本もの標注を打ち出す、タバサの十八番『ウィンディ・アイシクル』は先頭にいたオーク鬼を貫き一瞬で絶命させた。
しかし他のオーク鬼たちに驚いている暇はなかった。間髪入れずにキュルケの放った炎の塊が絶命したオーク鬼にあたり氷ごと溶かして水蒸気を上げた。
視界が奪われたオーク鬼たちが右往左往する中に風のように影が飛来する。その手に青銅の剣を握ったウェザーである。
そして視界が悪い中でも気流を感知して正確にオーク鬼たちを斬りつけていく。とは言え青銅では深く斬れば簡単に刃が歪んでしまうので手足を狙うのだ。
一通り仕事をしたウェザーが水蒸気の中を抜けて森の中に逃げ出す。ようやく水蒸気がはれたオーク鬼たちが目の前で背を向けている敵を追いかける。無数の切り傷をつけられ頭に来ているオーク鬼たちは何の疑いも持っていない。
『ガンダールヴ』によって素早さを上げたウェザーはわざとオーク鬼たちが追いつけそうな速度で走る。
あとはこのまま落とし穴まで行けばいいだけだが、ちらりと後ろを確認したとき、なんとギーシュがウェザーとオーク鬼との間に立っていたのだ。


「ギーシュ!」
「特訓の成果を見せてやる!」
ギーシュが杖を振るうと地面から騎士槍を手に持った青銅の戦乙女が現れた。ただし一体きりで。
そしてギーシュが杖を真っ直ぐ向けると、それに従うかのようにオーク鬼の塊に吶喊して――先頭の腹に刺さってあっけなくひしゃげた。
「あれえ?おっかしーなあ」
さらに怒り突撃してくるオーク鬼たちの前でギーシュはのんきに首を傾げ
後ろから追いかけていたタバサとキュルケが魔法で助けようとしたが呪文がとても間に合わない。
「ダメ!間に合わないわ!」
「『あれえ?』じゃねーよ!しゃがめギーシュ!」
ギーシュがしゃがむのとほぼ同時に頭の上を突風が吹き抜けた。
ギーシュは自分が浮かんだのを感じたが、体重の重いオーク鬼たちはせいぜい足止め程度にしかならなかったらしい。
それでもその間にギーシュを森の茂みに放り投げて剣を構えた。その隣にフレイムが並ぶ。
「ギーシュはもっと剣を出せ。俺が正面からやるからフレイムはタバサとキュルケのところに回り込んでくれ」
フレイムはきゅるきゅると炎をちらつかせて頷いた。ギーシュがウェザーの足下に剣を『練金』したのを合図にウェザーとフレイムが飛び出した。


タバサが口笛を吹いてシルフィードを呼び出す。貴重な移動手段を傷つけるわけにはいかないので戦闘には参加していなかったのだ。
そしてそれを呼び出したと言うことは――
「すごい!すごいです!あの凶暴なオーク鬼たちが一瞬で!ウェザーさんはやっぱりすごいですッ!」
物陰から飛び出したシエスタがウェザーに駆け寄りそう叫んだ。ウェザーはそれを適当に聞き流して返り血を拭った。
目の前には肉塊と化したオーク鬼たちの残骸が転がっている。
そこへ近づいてきたタバサが腕を組んで唸るギーシュを杖で小突いた。
「なにするんだい!」
「なんで勝手な行動をとったの?」
「え?そ、それはそのほうが良いと僕が判断・・・あィっ!」
タバサが言葉の途中でギーシュの腹に杖を刺した。
「なにするんだって!」
「あなた自信があったの?」
「当然あったに・・・イぎィ!」
再び杖で小突く。ギーシュが耐えかねて腹を押さえながらウェザーに助けを求めた。
「ちょとウェザー、タバサに『杖』で小突かないように言ってやってくれよーッ」
「『小突く』『小突かねー』はおめーらの間での問題だ・・・だがな!」
いきなりのウェザーの怒声にギーシュは身を縮めた。ヴェルダンデが心配そうに見ているがかまわずにウェザーは説教をする。
「作戦はその落とし穴にこいつら落として油で焼くんだろうが!なんで飛び出した!しかもワルキューレ一体で!」
「いや、僕が特訓で編み出した新しい魔法をだね、試してみたくて・・・」

「阿呆!だったら事前に打ち合わせしろ!お前のことだからどうせ隠しておいていざだして格好つけようとしたんだろ!死んでからじゃ遅いんだよ!」
どうも図星だったらしく呻いて頬をかいている。
「すいませんでした」
反省はしているようなのでウェザーもそれ以上は責めなかった。すると話の切れ目を待っていたキュルケがウェザーに話しかけた。
「でも本当すごいわね。ウェザーの詠唱しないであんな強力な風が使えるんだもの。先住魔法ってヤツなの?」
「いや、先住魔法とは違う」
「じゃあなんなの?あたしたちにも言えないような事なら無理には聞かないけど・・・」
「で、でもわたしウェザーさんのことももっと知りたいです。好きな料理や生まれ故き・・・」
その瞬間キュルケとタバサがシエスタの口を封じて押し倒し、ギーシュが前に立ちウェザーから隠した。押し倒した二人が小声で話しかける。
「ばかー!ウェザーは正体隠してるのよ!」
「え?え?」
「彼はエルフ」
「ええ~~っ!」
ギーシュの影でなにかごそごそやっている三人を奇妙に感じたウェザーが尋ねる。
「おい大丈夫かあいつら?」
「ぜ、全然問題ないよ!はっはっは!」
ギーシュの様子を不審に思いながらも三人が起き上がったので話を進めることにした。
「・・・そうだな。黴の塔を経験したお前らには知る権利がある。それにまた同じようなことがないとも限らないからな。俺の能力は『スタンド』だ。
そもスタンドっていうのは、生命エネルギーが形を成して具現化したものだ。これは誰にでも出せるものじゃあない。一握りの才ある者が何かのきっかけで手にする力だ」
「この間の奴らも才ある者だったって言うの?」
キュルケの疑問もわかる。アヌビス神やカビ使いのような明らかに快楽を求めて暴走している奴らがスタンド能力を持つことの恐ろしさは身をもって学んだばかりだ。

「・・・才能に善悪は関係無い。手に入れた力をどう使うかだ。そして原則スタンドは一人に一つ。スタンドが能力は一つっきりだ」
「え?でも君は『風』と『雷』と『氷』と・・・その、『カタツムリ』を操っていたじゃない」
「・・・『天候』」
キュルケの問いにタバサがハッとしたように答えた。
「その通りだ。俺のスタンド『ウェザー・リポート』の能力は『天候操作』」
ウェザーはそう言って天を指差した。全員が指先を追って天を向く。すると――
「あ!雨だ!」
ギーシュの叫びとともに空がにわかに曇り、押し流すような雨が降り注いだ。
「た、大変ですッ!早く片付けなくちゃ・・・あれ?」
そこでシエスタもようやく気づいたようだ。雨は自分たちを避けて降っていることに。天を仰げば厚い雲の一点に穴が穿たれて光をここに注いでいた。
「すごい・・・」
「これをウェザーが?」
「信じなくてもいい。偶然たまたまだと思えばすむ話だ」
「信じるわよ!すごいわこんな能力!他にはどんなのがあるの?」
「そうだな・・・身体を紐状にして伸ばす能力や人でも物でも何にでも潜行して内部構造を作り替えてしまう能力、シールを貼った対象を二つにしたり、物体の幽霊を持ち運びするのもあったな」
最後のくだりでタバサがビクリと震えたが、皆話に夢中で気づかなかった。そのタバサが尋ねた。
「回復や治療の『治す』能力はある?」
「ん~・・・俺が知っているヤツにはいなかったが、スタンドは無意識の才能だ。『治したい』と強く望んでいる者が発現させたスタンドには治す能力がついているんだろうな」
ウェザーはしばし考えてから答えたが、タバサは「そう」とだけ言って質問は終わった。代わりにギーシュが手を挙げる。
「じゃあじゃあ、僕にも才能があれば『スタンド使い』になれるのかい?」
「その才能ってどうやって見分けるんですか?わ、わたしにも才能があるかもしれませんし・・・!」


「そうだな、『スタンドはスタンド使いにしか見えない』というルールがあるんだが・・・俺の後ろにボンヤリとでもいいから何か見えないか?」
四人は一生懸命寄り目にしたり眉間にシワを寄せたり心眼を開いたり邪気眼になったりしたが、結局何も見えなかったらしい。
「ダメだわ・・・ちっとも見えやしない」
「右に同じく。自信はあったんだがねえ・・・」
「み、見えた!見えました!何か白いものが見えましたよ!何か長い黒髪を垂らした女性みたいな!」
「シエスタ、お前スタンドじゃなくて霊媒師の才能があるよ・・・」
「・・・・・・」
「あら、どうしたのタバサ?あなたからくっついてくるなんて。震えてるみたいだけど寒いの?」
と、どうやら四人にスタンド使いの才能はないようだった。
「それからスタンド使いと戦うことになった場合、優先されるのは相手の能力の把握だ。スタンドは魔法ほど融通のきくもんじゃない。典型的な一能突出型の能力だ。
 だが能力が魔法の四大系統のようにハッキリしない分能力の特定がしにくく奇襲されるとかなり辛いが・・・」
「反面、能力がわかれば対策は立てやすい・・・でしょ?」
「その通りだ。そしてスタンドには射程があり、そこからある程度のタイプがわかる。射程はおよそ二~五、六メイル程度と短いがパワーが桁違いな『近距離パワー型』、
 パワーはないが射程が長く本体が姿を見せない『遠距離操作型』、そして本体から離れてもパワーを残している『自動追跡型』があるが、こいつは単純な命令にしたがっているだけだ。
 とは言え、スタンドのダメージは本体のダメージが基本だが『自動追跡型』だけはダメージにはならないことを覚えておけ」
シエスタは非戦闘員なのでよくわからない顔をしていたが残りの三人は真剣に聞いて頭で整理しているようだ。と、ギーシュが顔を上げてウェザーに尋ねた。
「だけどきっかけがあればスタンド使いになれるかもしれないんだよね?ウェザーはどんなきっかけだったんだい?」

「一度死んだ」
しばらく沈黙が場を支配した。重苦しさに耐えられないシエスタがおろおろとしている。
「死んだ・・・って、一体・・・何があったんだい?」
「・・・・・・・・・そうだな、俺の話を少ししようか・・・」
しばし考えてからウェザーは語りだした。自分が貧しい家に生まれたこと。父はいなく母に愛され育ったこと。
貧しかったのでバイトをしていたらペルラに出会ったこと。だが人種差別により引き離され殺され、ペルラが自殺したこと。
しかしスタンドを手に蘇り、世界を呪い暴走したが黒幕であるプッチに記憶を奪われ監獄に押し込められていたこと。
だが仲間を得て脱獄し、天国を目指すプッチと戦い、敗れてここに来たことを。
「――だが俺が託した想いと力でプッチを倒してくれた。だから俺は満足だ・・・」
話が終わって聞こえてくるのは鼻をすすり嗚咽を溢す音だけだった。
「う・・・ううう・・・ばんべがなじいばなじなんだ・・・(なんて悲しい話なんだ・・・)」
「愛し合う二人は引き裂かれ、あなたは復讐に生きた・・・悲しすぎるわ」
「感動・・・ぐす」
「そんな過去があったんですね・・・」
ウェザーも過去の話をしただけで元の世界と言わなかったために、四人の脳内ではこんな映像になっている。
エルフとして生まれたウェザーは人間のペルラと恋に落ちたがその兄プッチは認めず、別れさせるために人を雇い、人間ではないからとウェザーをリンチして吊るし、絶望したペルラは身を投げ、蘇ったウェザーは力を手に入れ復讐に生きた・・・完全な悲恋の物語が出来上がった。
「お前ら泣くなよ」
「ばっべ、ばっべ・・・(だって、だって・・・)」
ギーシュは顔をぐしゃぐしゃにしてむせび泣いていた。シエスタが背中をさすって落ち着けている。
「とにかくそんなわけだから、お前らもスタンド使いになりたいなんて思うな。だいいち、お前らには魔法って立派なもんがあるじゃねーか」
「あの・・・わたしは?」
「シエスタには料理の才能がある。俺が保証してやるよ」
ウェザーに褒められたのが嬉しいのかシエスタは小さくガッツポーズを取った。
「まあお話しはこの辺にして、本命のお宝探しと行こうぜ」

その夜、一行は疲れ切った様子で焚き火を取り囲んでいた。誰も彼もが疲れ切った顔で、ギーシュなどは恨めしそうに手のひらの上のものを眺めた。
「これが『お宝』かい?だとしたら悪い冗談だ」
ギーシュの手にはがらくたが乗っかっていた。秘宝があると思われた祭壇の下にあったチェストの中身がこれだったのだ。当然気持ちも萎えてしまい、四人はぐったりしているのだった。シエスタを除いて。
「みなさーん、お食事ができましたよー!」
明るい声でそう言うとシエスタは鍋からシチューをよそってめいめいに配り始めた。いい匂いが食欲を刺激した。一口食べてみればこれは旨い。貴族である三人も舌鼓を打ったほどである。
しばらくはおかわりをしたり料理の話をして過ごしたが食べ終わってしまうとどうしてもまた宝の話になってしまう。
「キュルケが持ってきた地図の内七つが立て続けに空振り。宝の『た』の字もでてきやしなかったじゃないか」
しかしウェザーは全く違うことを言った。
「宝なら手に入れたじゃないか」
「ええ!いつの間に!?」
「お前らと冒険した思い出っていう名の宝がな・・・」
「いやいやいやいや!そんな『良いこと言った』みたいな満足げな顔されてもなかったものはなかったよ!三人も!『目から鱗』みたいな顔で感心しない!」
「じゃあさ、あと一件、あと一件だけつき合いなさいよ」
キュルケは地図を一枚地面に叩き付けた。
「これでダメなら諦めるわ。何を隠そう実は一番勝率の高そうなお宝なのよね。お宝の名は『竜の羽衣』」
それを聞いたシエスタが食後のお茶を吐きだした。ギーシュがもろに被る。
「そ、それ本当ですか?」
「なによあなた知ってるの?場所はタルブ村の近辺らしいんだけど、タルブってどこらへんなの?」
キュルケの質問にシエスタは焦ったように答えた。
「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原のある・・・・・・わたしの故郷です」

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