ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サーヴァント・スミス-17

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匿名ユーザー

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右フックがワルドの頬を掠めた。
エアロスミスが少し後方から援護射撃をし、牽制する。
加速して横薙ぎに機銃を掃射するなり、足元の石を蹴り飛ばした。
大き目の石に、エアロスミスの加速によって倍増した威力を持った弾丸が直撃、砕かれる。
それが細かい小石をばら撒きながら、砂程度の小ささまでなった石の『霧』がワルドの視界を塞いだ。

その砂の霧を抜け、また拳が飛ぶ。今度はデルフリンガーが握られていた。
向上した身体能力は、もう一押し、と言うところでナランチャのスピードを速め、結果としてワルドの腹部に強烈なストレートが叩き込ま

れることとなった。

「ぐぶッ……、チッ、舐めてもらっちゃ困るぞ、使い魔君?」

「ナランチャだって……言ってんだろ」

「エア・ニードル」を唱え、杖の周りに風の刃を纏わせる。
瞬時に気づいて、ナランチャは距離をとってエアロスミスを加速。
弾丸を撃ち込むが、風の動きを読んだワルドはそれを軽々と避ける。
ウェールズの怪我を気にしつつも、デルフリンガーで杖と打ち合う。防ぎきれるかどうかが分からない。
だからこそこちらから仕掛けてみる。

「ユビキタス・デル・ウィンデ………」

一つの呪文が詠唱されると共に、暫しの沈黙。
そして一瞬。
ワルドが分身を作り出し、一斉にエア・ニードルを唱えて飛び掛る。

「……そうか、やっぱりテメーか。今はどうでもいいがよ」

確信の声を挙げる。
あの仮面メイジは、ワルドの遍在だったのだ。
その確信の元は、後に明らかになる。

エアロスミスが最大加速での機銃を乱射する。風の動きを読もうと、5人にまで増えたため、被弾範囲が増えてしまったワルドには十分な
スピードで弾丸が迫る。
遍在の内の一人が数発被弾し、あっけなく風に溶けた。

「ガンダールヴ……伊達ではないようだが……それだけでは勝てんよッ!」

「ナランチャだクソ野郎ーッ!」

デルフリンガーを地面に突き刺し、杖を潜り抜けて回し蹴りをワルドの顔面にお見舞いする。
そして、勢いのまま手を離した。
その拍子にデルフリンガーが抜け、それを手で掴みつつ距離をとる。
装填が完了。再びの機銃掃射。
距離は十分、遠慮は要らない、最大加速。
同時に駆け出す。デルフリンガーを突き出し、突貫の体制。

迎え撃つワルド。
呪文の詠唱。それはどこかで聞き覚えのある、稲妻の呪文。
ライトニング・クラウド。
閃光が一瞬のうちにナランチャへ突き刺さる……かに見えた。

弾けるような音と共に放たれたいくつもの雷撃は、デルフリンガーに吸い込まれたのだ。

「あー、思い出したぜ、思い出したッ。俺って魔法吸い込めるんだったぁーン」

「な、舐めたような声出すんじゃねぇよデルフ。何か力抜けるだろうが」

「ハッハッハ。あーんな魔法全部吸い込んでやるッつーの。クックック」

「急に調子に乗り出したなァ」

上手く雷を捌いて、デルフリンガーに吸い込ませる。
ほう、とワルドが感心したような声を出すが、それも一瞬。
エア・ニードルなら吸収しきれないと踏み、接近戦を挑んでくる。
敵は四人。こちらは一人。

「本体はその内一人、そいつさえ突ければ……って?感じかなぁー」

賭けに出たナランチャ、本体を攻撃し、連動して遍在が消えなければ自分は串刺しになる可能性もある。
埒が明かなかったからこそ、判断力をフルに活用して、実行へと移した。
振ったデルフリンガーの刃が、驚愕の表情を浮かべる本体のワルドを切り裂く。
しかし、遍在は消えない。とはいえ、本体のワルドを押し倒す形で遍在を潜り抜けたので、結果オーライということになった。

「ぐ……貴様……明らかに『見切って』、いたな……何故分かった?」

「一つだけ言っておくとさァーッ、呼吸?」

「……こ、呼吸……だとォ?」

エアロスミスのレーダーは、二酸化炭素の量に応じて、光点の大きさを変化させる。
本体のワルドは人間だ。通常通り、二酸化炭素を排出し、光点を出現させる。
だが、遍在は完全な人間ではない。人間は攻撃されて一定量のダメージを受けると勝手に消えたりはしない。

だからこそ、呼吸量には変化が見られる。
その変化を見分ければ、極々簡単にワルドと遍在の違いを見分けられるのであった。
この場合、同一の大きさの光点が3つ、違う大きさの光点が一つだったので、ワルドはその『違う』光点だということだ。
ちなみにワルド本体の方が排出する二酸化炭素が多い。

同時に、仮面メイジも、呼吸量が少ない遍在だった。
唱える呪文もほぼ一致、属性も一致。あまりにも出来すぎている一致だ。
だからこそ、ここでワルドが仮面メイジだと、少々『勘』に頼りつつも見抜くことが出来た。
(さらにツケが増えちまったみてーだな、ワルド)と呟き、睨む。

「だが……遍在は消えてなど居ないッ!」

ウィンド・ブレイクでナランチャを吹き飛ばす。
それを猟犬のように追いすがる遍在が、ナランチャの右腕に深い切込みを作った。
左腕に掠るエア・ニードル。それだけでも、ライトニング・クラウドの傷が疼いた。

「……ッ、うおりゃあぁッ!!」

上空から降下してきたエアロスミスが、機体底部から爆弾を投下し、狭い爆破範囲ながらも遍在二人を巻き込み、消え去らせる。
至近距離でなければ威力を発揮できない為接近したが、エア・ニードルほどの威力が、偶然でも何でも直撃していたら、魔法に『強め』のス

タンドでも、切り裂かれていただろう。
ライトニング・クラウドが再び強襲、しかし、デルフリンガーが吸い込む。

「またまたやらせていただきましたァン!」

「……デルフ、何言ってんだお前」

しかし、その数秒後に、ナランチャの右肩にパックリと切れ目が入った。
そのエア・ニードルだ。人肌など、紙のように切り裂ける。
デルフリンガーで相打ちに持ち込み、また遍在を一つ切り裂く。これでワルド一人……と思った直後。
再び遍在を作り出す、しかし、今度は3人だった。

「スクウェアクラスの魔力……つっても、あんだけ作れば、限界も来るかァ?ワルド」

「ふん……貴様も、その出血ではまともに剣も振えまい」

「俺には……まだ力が『ある』んだよ……忘れたか?」

「私も同じだ……」

ワルド自身も加わり、四方からライトニング・クラウドを放つ。大分魔力を消費しているにもかかわらず、それだけの力を残していた。
エアロスミスを警戒して、確実にしとめようと、襲い掛かってきている。
口だけではないのは、分かっている。確かな実力者なのだ。
ナランチャも『覚悟』を決め、エアロスミスとデルフリンガーの力を同時に使う。

恐らく、ライトニング・クラウドを一発でもまともに喰らえば命が危うい。
全て防いで、かつ遍在を消し去る方法――思いつかない。本体は、この距離だと風を感じて、避けてしまうだろう。
なら、自分流のスタイルだ。勢いに任せて――
情けないかもしれないが、自分は生き抜きたい。そして、ワルドを決して許しはしない、倒したかった。
だからこそ彼は、『ガンダールヴ』の力に賭けた。


「殿下……ッ!」

必死に、ルイズはウェールズへの呼びかけをしていた。
返事がないのだ。
心臓は動いているようだが、弱弱しい鼓動になっている。
ナランチャのことも心配だった。あのワルドに勝てるかどうか、と。

そこでまた、自責の念が目覚める。

(私が……断ったから、こうなったの?)

それはネガティブ思考と言うものだろう。ただ真意を伝えただけだし、別に悪い事ではない。
大体、誰もが予想しえなかった事だ。ルイズに非があるわけではない。
だが、ルイズにとっては、それが元となってこうなったとしか思えなかった。

「……君は、悪くない。気にする事ではないよ」

顔を上げる。そこには目を開いた、ウェールズが居た。
立つ事さえ出来ず、口調も掠れていながらも、やはり強い声だった。
頬を伝う涙もそのままにして、言葉を聞いた。

「大切なのは……その物事に対処する『意思』だ……彼も、な」

ウェールズの上げた合図。天井を吹き飛ばしたこと。
それにめざとく気づいて、ナランチャは対処した。

「先を予測できる人間など……ほとんど、居やしないんだろう。余程の特別な人間以外はね。だからこそ、立ち向かう意思が必要だ」

から笑いするウェールズ。いよいよ、声が小さくなってくる。
その言葉が恥ずかしい事だとは、ルイズは思っては居ない。
格好をつけているだとか、そんな雑念は全て消えていた。

「ただ……君達には無理はしないで欲しい」

頷くと、その言葉を皮切りに、ルイズは立ち上がった。
膝はまだ震えているが、瞳はきちんとワルドを見据えている。

「やってやるわ……」

ほんの数分で、変わった。彼女の意思は。覚悟は。

突如として、ナランチャを囲んでいた遍在のうち、一体の側に奇妙な現象が起きる。
空間が歪むかのような錯覚。
激しい、突発的な轟音を響かせて、爆発が起きた。彼女の意思を反映したかのように。

遍在は、吹き飛んで消えた。
呆気に取られた様子のワルドとナランチャだったが、ナランチャはすぐに薄い笑みを浮かべ、残りの2人を切り刻む。遍在だ。
後方右左に2人、前方右左に2人。
内、後方一人を爆発で始末した為、前方2人を横に薙いで、すぐに後ろを振り返れば、恐怖を顔に滲ませたワルドの姿。
その足は、止まっている。

「……ありがとよ」

素っ気無いながら、少なくとも勝利へのきっかけを作り出したルイズにそう言って、自分は、ピタリと動きを止めたワルドと対照的に、歩

む。
恐怖に駆られながらも落ち着きを取り戻していくワルドと、向かい合って。

「……ナランチャ……ギルガ……」

「……俺は正面からお前を叩き潰す。出しやがれって言ってんだよ……お前の……お得意の『魔法』をよ……」

さっと杖を構えた。
もう見飽きたと言うほどの、青白い光。
全ての魔力をつぎ込んだかと思うほどの、巨大な雷の塊。
怖気づいてなど居ない。ゆっくりと、歩み寄っていく。

「へ?」

だが、次の瞬間に起こったことは訳が分からなかった。
気づけば自分の胴体が蜂の巣のようになり、そして――

「ボラボラボラボラボラボラボラァァッ!」

精密動作性。そんなものは、既に意味がない。
四肢、胴体、頭蓋、全てを撃ちぬくようにエアロスミスが飛んで、撃つ。
スタンドの硝煙がワルドの体の所々を覆い隠すように舞い上がる。
返り血を浴びつつも、多少の哀れみを持って呟こうとする。

最後に、ワルドの羽帽子が飛んだ。

「ボラーレ・ヴィーア……」

ワルドは失念していた。エアロスミスの機銃の装填は既に済んでいて、腕に乗せることさえ出来るのを、彼は知らなかった。
腕をカタパルトにして、飛んだのだ。あの突き出した拳を沿って。
もちろん、分かっていたとしても回避は不可能だっただろう。
殆ど『ゼロ』距離だったのだから。

「テメーの力……使い方さえ間違えなけりゃあな」

物言わぬワルドを見て、皮肉を言った。
思い出せば、あの『ボス』のキング・クリムゾンも。
今まで戦ってきたスタンド使いも、いくらでもその力の使い道はあったはずだ。
だが、彼らとは『戦う』運命だった。
あのボスは、どうしているだろう。自分たちが倒すべき敵として定めた、彼は。

自分の力の使い方は、間違っていないだろうか。

「えーと、このエニグマの紙にはスタプラが入ってて……、お、あったあったキンクリ見っけ」

「おい、ボヘミアン早くもってこいよ」

「うるせーぞ漫画家。オレぁ今からエアロスミスをストフリに合成しに行くんだよ。クレDが足りなくて困る」

「一巡後の世界へ行くかい?」

『ボス』は案外楽しそうだった。


「よくやってくれた……ね、ナランチャ君」

「ウェールズ。喋ると傷に響くぞ」

「……君こそ、その怪我ではレコン・キスタには立ち向かえないだろう?だから、早くここから脱出するんだ」

フライで浮き上がると、天井の穴から抜け、自分の『仕事』をする為に城へと向かう

「おい……そ、そんな怪我で出来るわけ……お前が逃げ切れないぞ!」

「どうせ長く持たないのだ……君の友達が来ているよ?早く、逃げてくれ」

その言葉を裏付けるように、大きな風を巻き起こしながら、シルフィードが礼拝堂の近くへ降り立った。
背には、ボロボロで血を流しているキュルケとタバサが居る。
驚くナランチャを背に、ウェールズはすがすがしい笑顔を浮かべていた。

「さよならだ」

ウェールズの姿は、それを最後に消えていた。







「ウェ、ウェールズ様!それは作戦とは……」

「いいんだ……僕が中に居た方が、成功率は上がる……」

兵士達は、すかさず敬礼をする。
止められないと悟るのは、一瞬の時を要するだけで十分だった。
単身城の中に残ったウェールズは、すぐにレコン・キスタがこの城の隅々まで埋め尽くそうとしていることを知る。
ウェールズが残っているのは、一番奥の、倉庫のような場所だった。
周りには、松明や、木などの燃えやすいものが大量にある。『火の秘薬』もだ。
油なども城中に撒き散らされていたが、城の前に掲げられた白旗に、戦わずして勝ったと歓喜していたレコン・キスタは見逃していた。

ナランチャが提案したのは、『空城の計』と呼ばれる策である。
古代の日本で実際に行なわれている。それを、少し改造してみた。
城の中を空っぽにして、レコン・キスタの兵が限界まで入ったところで、火のメイジが一斉に城を燃やすのだ。
中に居る兵は、当然焼け死ぬ。
水メイジの消火があったとしても、この城の広さと『秘薬』の多さを考えれば、多大な戦果を上げられるだろう。

しかし、古代の作戦では、敵が知能的でなければ成功しえないこの作戦だが、この改良した作戦では相手が何も考えずに突っ込むような者

でないと成功しない。
だからこそ、ウェールズは残った。
ホールにも『倉庫で待つ』と書置きを残している。こうすれば『ウェールズの殺害』という明確な理由が出来てしまう。
敵は、ウェールズを知るものが筆跡を判断してくれれば、確実にここへ来るはずだ。
だが、城に火を放つと言う事は――

「見つけたぞ、ウェールズ!……ぬ?」

ここまで来て、やっと敵の兵たちは気づいた。

「……これで私は」

ウェールズは、松明を油の上に落とす。
外からも炎が燃えあがり、たちまち城は赤い光に包まれる。
レコン・キスタは慌てて脱出しようとするも、土メイジ総動員で作り出した鋼の壁が出口を塞いでいた。
その内火が消えるだろうが、どっちにしろ煙を吸って死ぬ。
パニックになったレコン・キスタは、一瞬にして炎で埋め尽くされた城内で、魔法を使うことさえ出来ずに焼けて行った。

「……後はただ、駆け抜けるだけのこと!」

彼らは玉砕を覚悟していた。
誰彼ともなく、再びの敬礼。
『最後の客人』がいるであろう礼拝堂と、燃えている城に向けたものであった。

「……ウェールズ様、私達も死に場所を見つけました」

剣を掲げ、特攻する。杖からは、様々な魔法が飛び出す。
城の外に居たレコン・キスタも応戦する。
もはや悔いという言葉とは無縁の者達は、誇りと名誉を守るために、敵へ向かっていった。

いまや血の飛び交うアルビオンからシルフィードで脱出したナランチャ達。
高所恐怖症の方が下を見れば失神する高さから降下しているため、ルイズはガタガタ震えている。
軽い応急処置を施されたナランチャは、いつまでもアルビオンを見つめていた。やがて、視線をルイズに移したかと思えば、すぐ視線を変え、虚空を眺め続ける。
ギーシュは失神している。隣には、どこから出てきたのか、ヴェルダンデが鼻をひくひくさせていた。

「……はぁ。『ゼロ』っていう数字な、足し算や引き算だと、どんな数字も変えることが出来ない……俺たちに似てるよなぁ」

それを聞いて、『ゼロ』のルイズは、何か痛いとこを突っつかれたように、俯いた。
そんなルイズの肩に手をやって、ナランチャは続ける。

「だけど、掛け算や割り算だと、どうだろうね」

いつの間にか、ナランチャの目には、こちらを向くルイズの姿が映っていた。

「……あいつらは、その掛け算や割り算を、見つけたんだろ。多分」

「……私も、出来るかな?そんなこと」

「……さぁね。何事も、力の使い方次第だろうよ」

かつての敵の言葉を借りる。

「ついでにアンタの話聞いてたら体が痒くなってきた」

「……うっせ。気にすんな」

やっぱり邪気眼とかそういう年頃……じゃなかった。
とにかく、ボロボロのワルドを放置して、ご一行はトリスティンへと帰るのであった。




ちなみに帰ってきた瞬間、迎えに来たアンリエッタにナランチャは『このゾンビ野郎!』と声を投げかけた。
タイムラグを殆ど置かずにナランチャの体は爆発に包まれることとなるが。

(ヒント 手紙の内容)
(ヒント2 かゆ うま)
(ヒント3 ナランチャはド低能)
(ヒント4 相手は王女ですが何か?)

(計画通り……!)

アンリエッタは多少壊れていた。
彼女が新世界の神へと上り詰める物語――は展開されたりしない。




第2章『吹き抜ける黄金の風』完

To Be continued ...

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