ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-3

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
ンドゥールがいま現在の主人の部屋に戻る。その主人、ルイズはとうに着替
えを済ませていた。
「遅いわよ。それじゃあ食堂に行くから、ついてきなさい」
「わかった」
ルイズは部屋を出て廊下を静かに歩いていく。途中すれ違う人物の、好奇と
見下す視線は耐えるしかなかった。後ろからはカン、カン、と杖を突きなが
らンドゥールがついていく。規則正しい音が響いている。
食堂に着くと、相変わらずルイズはンドゥールにはパンとスープしか与えな
かった。だが彼は静々とその出されたものを床の上で食べていった。言って
はなんだが、慣れた様子だった。
周りも飽きたのか、初日にあった平民の使い魔への嘲笑も薄れており、ルイ
ズはこれまでとなんら変わらぬ光景を送っていた。ところが、今日この日は
少し変わったことがあった。
「一体どうしてくれるっていうんだ!」

誰かが怒っていた。ルイズがその声がした方向を見ると、金髪の同級生であ
るギーシュがなぜかずぶぬれになって一人のメイドに激昂していた。
内容は彼女の周囲の声で聞き取ることはできなかった。
だが、すぐそばの男にはそんな騒がしさなど問題ではなかった。
「恩はかえさんとな」
「ちょっと! ンドゥール!?」
主人の制止の声など耳に入らないのか、彼はまっすぐ諍いの場に歩いていっ
た。ルイズも怒りながら後をついていった。
「少年、ギーシュと言ったか、そこまでにしておけ。恥の上塗りだ」
「――な、いきなりなにを!」
「二股がばれて両方に振られる。そんなことを声高に宣伝しているのだぞ」
「え、ちょっとほんとなの」
ルイズがそれを聞いて軽蔑の視線を向けた。周りからも失笑が漏れ、ギーシュ
の顔は瞬く間に赤くなった。
「大体、それだけ自分の器が小さいだけだ。貴族というのは誇り高いらしい
が、お前は例外か」
「なんだと!」
「……ンドゥール、もうやめなさいよ」
ルイズはとめようとするが、それでも彼はわざわざ煽るかのよう言葉を並べ
ていく。ギーシュは歯をかみ締め、瞳はいつのまにかつりあがっていた。
そして怒りが頂点に達すると、彼は手袋をンドゥールに投げつけた。

「決闘だ!」
「お、落ち着きなさいよギーシュ」
「うるさい! ここまで馬鹿にされて黙っていられるか! 広場で待ってい
るからな!」
もうギーシュの憤慨は治まりそうになかった。彼は無責任に騒ぎたつ人垣を
抜け、食堂を出て行った。成り行きを眺めていた野次馬も大勢追っていった。
残ったルイズはすました顔をしているンドゥールを叱責する。
「あんた、はやくギーシュに謝りなさい。いまならまだ許してもらえるわ!」
「断らせてもらう。私が頭を下げるのはただのお一人だけだ」
「んな……!」
ルイズの心に苛立ちが募る。召喚してからこれまで大人しくしたがっていた
が、やはりこの男は彼女に対して忠誠などしていないのだ。
「あのね、平民が貴族に勝てるわけないでしょ! メイジなのよ!」
「それがなんだというのだ。恐いものなどここにはなにもない」
「あのね……」
「――ンドゥールさん」
ギーシュの怒りを受けていたメイドが彼の名前を読んだ。
「私からもお願いします。はやく謝りに行きましょう」
「そういうわけにはいかんのだよ。礼は返さんとな」
はっきりと、ンドゥールは重く響く声で言った。そして、大きく無骨な手を
シエスタの頭に乗せた。

食堂の騒ぎから数分後、広場で二人は対峙していた。結局ンドゥールはルイ
ズとシエスタの制止を聞かずに決闘をすることにしたのだ。
彼は右手に杖を持ち、左手には喉が渇いたということでシエスタに用意して
もらった水筒を持っていた。
「よく来たね。いま謝ったら許してやらないこともないよ」
「いつ始める?」
「……いま始めてやるよ!」
ギーシュの前に一体の青銅の像が現れた。ゴーレムだと誰かが言った。
女性の姿をしたそれは一歩一歩ンドゥールに近づいていく。その足音は当然
彼にも聴こえているのだろうが、水筒を地面に落とし、まったく動じること
なくいつものようにしっかりとした足取りでギーシュへ向かっていく。
(あいつ、気づいてないの?)
見学に回っているルイズだけでなくほかの誰もがそんなことを考える。
このままでは簡単にぶちのめされる。しかし、そうはならなかった。
ゴーレムがいよいよンドゥールを攻撃しようとしたとき、唐突に倒れたのだ。もがいても起き上がることができない。
ざわつきの中、ルイズは気づいた。
(ゴーレムの足、歪んでる?)

ゴーレムが再び現れる。
またしても肉薄するが、同じように倒れてしまった。
ギーシュは全力なのか今度はいくつものゴーレムを出現させた。だが、そう
しても意味はなかった。全てのゴーレムがひとりでに倒れてしまったのだ。
ギーシュの身体に厳冬のような寒気が押し寄せてきた。
彼にはわかった。この迫ってくる男がなにかをしているのだと。練金が甘い
わけではないと。
巨大な男が光のない瞳で見下している。
押しつぶされそうな圧力を感じてギーシュは声が出なかった。彼は知らない
が、いま感じているのは死の恐怖だ。
「ふん!」
太く堅い拳で殴られる。ギーシュは唇を切って、血を吐き出してしまう。
それでもンドゥールは歩み寄り、鼻っ柱をぶん殴った。芝生に鼻血を撒き散
らし、ギーシュは痛みで悶絶する。
ンドゥールは呆れたようにため息をつき、ギーシュを見下ろした。
「まだやるか?」
「……ま、まいった!」

平民が貴族に勝利した。その事実に野次馬は驚愕し、大きな歓声があがった。ンドゥールが盲目であるということも関係しているのか、盛り上がりは少しも冷めることはない。
しかし、その熱狂の中心である男の一応の主人であるルイズは、腑に落ちな
い顔をしていた。
彼女の手にはンドゥールが落とした水筒がある。そんなに容積があるわけで
はない。グラスに五杯ぐらい注げられるていどだ。それでも、横にしていた
ところで空になるようなものではない。
なのに逆さまにしたところで一滴たりとも水が出てこない。確認したが地面
にも水が浸み込んでいなかった。
ルイズは見物人のなかのある人物に近寄っていった。
「ちょっとあなた、ええとシエスタって言ったわよね」
「あ、はい。なにようでしょうかミス・ヴァリエール」
頬が若干赤くなっているが、ルイズはそのことに気づかず質問をした。
「あなた、この水筒にどれだけ水を入れたの?」
「いっぱいにですけど。それがなにか……」
「いいえ、なんでもないわ」
念のためにかルイズは水筒に指を突っ込み、内壁を滑らせてみた。水は一滴
たりとも付着していなかった。

水はどこにいったのか。
答えは一人、ンドゥールだけが知っている。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー