ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-14

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雪風のタバサ。本名シャルロット・エレーヌ・オルレアン。
彼女はガリア王国の王弟オルレアン公を父に持つ、生粋の王族である。
シャルロットは幼少の頃からとても明るく快活で、いつも周囲は賑やかであった。

父のオルレアン公シャルルは5歳で空を飛び、12歳にスクウェアメイジとなった、いわゆる天才。
聡明で才気溢れ人望もある、何処から見ても非の打ちどころがない人間であった。
母も心優しく、シャルロットのことを理解し慈しむことが出来る心を持ち合わせ、シャルロットはいつも母の傍を着いてまわった。

父と母、双方からたくさんの物を与えられ受け継いだシャルロット。
幸せに満ち溢れた幼少時代を過ごし、いつまでもこの幸せが続くと笑いながら信じていた。

しかしそんな彼女の心を閉ざす、陰湿な出来事が起きる。

父、オルレアン公の死。
母と共に亡骸へしがみつき、夜通し泣き明かした。
当時のシャルロットは知る由もなかったが、王位継承での争いで謀殺されたのである。
悲しかった、悲しかった。
それでも母がいてくれたから、その悲しみも乗り越えられた。

だが現実はシャルロットを非情に打ちのめした。
オルレアン公の娘であるシャルロットにまで、その魔手が伸びたのだ。
水魔法の毒を盛られ、寸前で母が身代わりとなり毒を引き受ける。

子供を殺すのは躊躇われ、心を壊す毒を盛られたのが幸いした。
母は命はとりとめ、しかしその代償として母は母ではなくなってしまう。
破壊された心にはシャルロットへの愛だけが残り、その愛がシャルロットの心をさらに切り刻む。

自分のことが認識できずに、人形タバサを自分だと思い抱きしめる姿は、深い静かな怒りをシャルロットに植えつけた。
命が助かったことなど、瑣末事にすぎない。
母がタバサをシャルロットとするゆえ、シャルロットはタバサとなった。

その後、タバサは北方花壇騎士となり母を守るために危険な任務に従事する。
命を奪うために仕組まれた芝居だとしても受けないわけにはいかなかった。
さらに流れて、現在は厄介払いとしてトリステイン魔法学院へと追いやられていた。

時が流れ、それでも復讐心は衰えることを知らない。
そして人形は今日も静かに牙を研ぐ。

突然の攻撃であった。ただ一人タバサだけが、かろうじて反応できたほどの。
床に這いつくばる三人の目の前の男は、スデに事切れてもう何も聞き出すことは出来ない。

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「何処からだ、何処から攻撃されたッ!!」
アニエスが叫び、康一はハッとしたようにACT1を小屋の壁を透過して外に出す。
「暗くてよく見えないッ、でも少なくともこの小屋の周りには誰もいませんッ!」
続けてタバサ。
「私の使い魔の目でも捉えられない、たぶん相手は森の中から隠れて攻撃してきている」

康一のACT1、タバサの上空にいるシルフィードの目で状況を確認する。
「どうやら敵は小屋の中を窓から覗いて攻撃してきたようだな。
そうでなければ窓をブチ破って攻撃してくるわけがないし、もう追撃を受けているはずだ」
小屋の割られた窓を見ながら、アニエスは言った。

窓の射線上にいた男を狙った初撃。
おそらく何かが飛んできて、男の頭部を打ち抜いたのだろう。
目的は口封じだろうか、しかし今はそんなことを考える時ではない。

「このまま小屋の外に出れば、いい的になる。こうして床に伏せていれば、攻撃はされないだろう。
しかし相手を逃がしてしまうのもマズイ。さて、どうする…?」

冷静に思考を巡らせるアニエス。だが、そんな時間は残されていなかった。

ガスンッ!ガッ!ドガッ!

不気味に康一の背後の壁が、何かを打ちつけられるように音を鳴らし始めた。
「な、何なんですか…この音はッ!
「分からない。でも良いことではなさそう」
冷や汗が全員の頬を伝い落ちる。そして次の瞬間ッ!

小屋の壁に穴が開き、小屋の中に悪意を持って侵入してくるッ!
「何だかヤバイ雰囲気だぞッ、叩き落とさなきゃあッ!」

「ACT3!!」

康一が意思を込めて呼ぶ。宙に人型の像が浮かび上がった。
『S・H・I・T、了解シマシタ。康一様』
意思を持つスタンド、エコーズACT3。
小さな体躯であるが、パワーとスピードに優れる近距離パワー型。康一のエコーズ3番目の形態。

『コンナショボイモン、本気デ喰ラウト思ッテンノカーーーッ!』
ACT3がスピードの乗った拳を繰り出すと、小屋の中に入り込んだ物体は小気味いい音を立てて砕けた。
「うわッ、冷たいッ。何なんだ、この砕けた物冷たいぞッ!」
「これは…氷だ、相手は氷の弾丸を撃ち込んできているんだッ!」

小屋の中に細かく砕けた氷の欠片が舞い散る様子は、冬の雪山を髣髴とさせる。
氷の霧が溶けゆくにつれて、小屋の内部の熱が奪われ、程よく三人の体を冷やした。

「恐らく、この氷の弾丸がヤツの頭部を撃ち抜いたんだろう。
そして………」
床に転がる、死体を見てアニエスが呟いた。
「わたし達が隠れたから、相手はめくら撃ちの数任せでコチラを殺そうとしてきているんだッ!」

いまだ鳴り止まない、小屋の砕けゆく悲鳴。
一気に壁を突き抜いてこれない程度に威力は小さいようだが、もう何箇所か壁に穴が開いていた。
「このままだとマズイですよ、アニエスさんッ!」
ACT3で氷を叩き落としながら康一は言う。

スタンドはスタンド使い以外には見えないため、アニエスとタバサの目に映る現象は不可思議なものだが、
何となく二人は康一がやってることなんだと見切りをつけて、今どうするかを考える。
「ここでくたばる訳にはいかん。脱出だッ!」
中腰で康一が打ちもらした氷の弾丸に注意しながら、素早く出口に進むアニエス。

だが空中のシルフィードの視界から、タバサが危険を察知した。
「外に出ちゃだめッ!」
声に反応して立ち止まったアニエス。タバサはさらに杖を振るった。
風が入り口を封じ込める。だが風をもろともせずにドアは爆音とともに吹っ飛ぶッ!

「アアアァッ!」
ドガン、と凄い音を立てて吹っ飛ぶドアがアニエスを直撃した。
今度はアニエスが吹っ飛び床を転がる。

「か、あっ、一体…何………が…?」
床に伏せる形で、顔だけ前を向くとアニエスは目をひん剥いた。
真っ赤な、真っ赤な、物全て焼き尽くす炎が入り口の外でうねりを上げていたのだ。
だが様子がおかしかった。何故か炎は小屋の内部までは入ってはこない。
まるで悪戯をした子供が家から閉め出されたよーに、入りたくても入れない様子。

杖を構えるタバサの額に汗が浮かんでいた。
間一髪、炎が小屋に入り込んでくる前に風の壁で押しとめたのだ。
「風は、実体に弱い…ッ。飛んでくるドアは、防げなかった」
床に伏すアニエスを見てタバサが声を掛ける。

「いや助かった。感謝する」
タバサが炎にいち早く気付いて風で防御しなければ、今頃全員焼き死んでいたことだろう。
軽鎧に飛んできたドアが当たってくれ、軽症だけで済んだのは軽い奇跡だ。
打った胸を押さえながら、アニエスが立ち上がる。

だがアニエスの勘が警鐘を鳴らした。
まだ何かある。ヤバイ。ヤバイッ。
バッ、と小屋の天井を見上げ、眼光が鷹のように鋭く輝く。

康一も何か気付いたように上を見上げる。
一瞬の間もおかずに今度はタバサが上を見た。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「今度は……空ッ!」
叫ぶタバサに応えるように、アニエスはマントを脱ぎ去る。
そしてマントに付いた、四方の金具を壁にブッ刺したッ!
壁に金具を突き刺した、まさにその時。次の一手が叩き込まれた

バギャギャギャギャギャギャギャッッ!

屋根を突き破るけたたましい音と同時に、宙に張られたマントが揺れた。
また何かが撃ちこまれたのだろう、マントは撃ちこまれた物の形状を写しだす。
何か長い物であった。しかし布の先は何があるのか見ることが出来ない。
そうする間に、マントの端をすり抜けて撃ちこまれた物が床に突き刺さった。

ツララ。ツララだ。
しかもただのツララじゃあない。石のツララ。
康一は石のツララを見て、以前テレビで見た番組を思い出した。
日本の何処か洞窟の天井、見上げるような天井にぶら下がるアレだ。
そうっ、鍾乳石だ。

あんな洞窟にぶら下がる石のツララが落ちてきたら、人間などひとたまりもない。
喰らったら、まず死んでしまう。
それが現在小屋に撃ちこまれているのだ。

だがそのツララは小屋の屋根を突き破ってくるのに、たかがマントは破けないでいる。
このマントはアンリエッタが用意した装備の一つ。
少ない人数を補うため、せめて装備だけはとアンリエッタが考えた代物。
以前賊に襲われたときに康一がACT2の能力を使い、カーテンで魔法を弾き返したのを参考して、
固定化の魔法をマントにかけ、マント自体も魔力を込めて編まれた一品だ。
石のツララ程度を通すわけがない。

だがそれでも限界はある所詮はマントであり、数を受ければいつかは破れる。
現にマントは軋みをあげ始め、背筋がうすら寒くなる音を出す。
だが………

「マズイのは、いつマントが潰れるれるかじゃあない……………」
音に耳を立てながらアニエスは言う。
「本当にマズイのは、この小屋自体がブッ潰れることだッッ!!」

軋みをあげるのはマントだけではない。
スデに大量の攻撃を受けた小屋自体にガタがきはじめているのだッ!
たかが小屋、魔法に耐えられるハズもない。
逆によくぞここまで持ちこたえたと言ってもいいほどである。

「小屋が崩れれば生き埋めだ…ッ。
よしんば生き残れても、動きがとれずに抵抗できないまま殺されるぞッ!」
前からは氷、後ろからは炎、横はその両方が挟み撃ち。
空からは石のツララでシルフィードの救援は望めない。隠れた敵に撃ち落されるのがオチだ。

康一は氷の弾丸を叩き落すのに手一杯。
ただの剣士であるアニエスにはこれ以上のことは無理。
炎は風を操るタバサにしか防御できないし、その風で炎を防ぎつつ実体のある小屋の崩落まで防ぐのはとても出来ない。

タバサの心が暗闇に埋め尽くされてゆく。
人形である自分が隠し持っていた、復讐心というか弱い光さえも潰えてしまう。
自分の心がシルフィードに届き、返ってくる励ましの心も闇に吸い込まれた。

何故この仕事を引き受けたのだろうか。
そうだ。母を助けるため、オールド・オスマンから紹介された仕事を受けたのだ。
トリステインの王族なら、心を壊された母を助ける方法を知っているかもしれないから。
何も分からなくても、王族と繋がりを持っておけば役に立つだろうと踏んだのだった。

それに心の奥底で、かすかに感じ取ったのだ。
過去の自分と重なるものを。
父が命を落とし、王族であった過去の自分が命を狙われる。
アンリエッタもまた父を喪い、命を狙われている。

そこに何かを感じたのだ。
怒りなのだろうか、それとも同情、それとも義憤なのか?
何かは分からないが、仕事の内容を聞いたとき、深くしまいこんだ心が揺らいだ。
だから引き受けたのだ。

だが道は途絶えた。
彼女、アンリエッタも自分と同じく、死の運命を辿るのだろうか?
そう思うと心のタガが緩んで、タバサの瞳に涙が溢れる。
静かな、誰にも聞き取れぬような嗚咽が止まらない。
頬を伝う涙は悲しみか、悔しさなのか。

それは分からないが、時は無情に過ぎ去る。
心の中で遠くガリアの実家に軟禁される母を想う。
自分の死で母がどうなるのか。
それだけが、この「人形」の心残りだ。

「逃げ道が……ない………っ……」

ミシリ、と小屋が静かな断末魔を上げた。


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