ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

タバサの大冒険 第7話

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  ~レクイエムの大迷宮 地下6階~

『それじゃあ何か?オレ達にお前さんの探し物とやらを手伝え、と言う訳かい?』
「マ、結果的にはそうなるね」
 ツェペリ男爵と名乗った男から詳しい事情を聞き終えた時、開口一番に口を開いたのは不満げな態度を隠そうともしないデルフリンガーだった。先程ツェペリにしてやられたばかりの噴上裕也は未だに仏頂面を浮かべたまま、タバサはいつも通りのぼんやりした無表情でツェペリの話を聞いていた。
 お互いに敵意が無いことを確認した一同は、まずタバサ以外の満場一致で彼女を休ませることにした。
 誰もが先程のハイウェイスターや運命の車輪との戦いによる消耗が激しいタバサを無理させたくはなかったと考えていたし、特に今まで散々ハイウェスターをけし掛けて来た張本人である噴上裕也は自責の念もあった為か、この場にいる誰よりも強くタバサの休養を主張していた。
 その為に、今の所は新しい敵の気配が感じられないこの階層を動かぬまま、皆でツェペリの話を聞くことになったのだった。
「エイジャの赤石……か。聞いたことだけはあるな。
 確か仗助のオヤジが昔、そいつを巡ってスゲェ化け物と戦ったとか何とか……」
 昔プレイしたテレビゲームのストーリーを思い出すような気分で、噴上裕也が言った。
 彼らの世界における吸血鬼を生み出す為の秘宝、古代の時代に作られた石仮面――
 それを作った男達が、より遥かなる高みを目指して求めた物がエイジャの赤石だった。
 赤石と石仮面が合わさった時、「柱の男」と呼ばれた彼らは天敵である太陽の光をも克服した究極の生命体となれる。噴上裕也はとある友人の父親から、そんな話を冗談半分に聞かされたのを思い出していた。
「そう、エイジャの赤石……私が“死んだ”時にはそんな物まであるとは思いも寄らなかったがね。
 だが偶然にも、私はこの世界でその存在を知り、それがこの大迷宮の最深部にあることを知ってしまった。知ってしまった以上、私は赤石を探しに行かねばならない。
 そして私は、それを永遠に封印せねばならんのだ……」
 グラスに注いだワインを口に含めながら、ツェペリは半分独り言のような口調でそう言った。
『フム……目的の場所が同じだから協力して先に進もうって話……それ自体はまァ、いいだろう。
 だがツェペリの旦那。アンタはまだ、オレ達に言ってないことがあるぜ?』
「何かな、デルフ君」
『何だって、お前さんがその赤石とやらを欲しがるか……その理由をオレ達はまだ聞いちゃいねぇ。
 その辺についてハッキリと聞かねー限りは、まだアンタを信用する訳にゃあいかねーな』
「――フム」
 口こそ開かなかった物の、今のデルフリンガー言葉と同意見とでも言いたげな態度で、噴上裕也もツェペリの顔を厳しい表情で睨みつける。対してツェペリは、大して動じた様子も見せずに、再びワイングラスを傾けて中に注がれた液体を少しずつ飲み干して行く。
「…………吸血鬼」
 三者の生み出す微妙な緊張感を打ち破ったのは、タバサのその一言だった。
 ツェペリから分けて貰ったサンドイッチを頬張りながら、タバサはツェペリの弟子、ジョナサン・ジョースターの記憶を封印したDISCの内容を一つ一つ思い出すように言葉を続ける。
「吸血鬼を増やさない為……石仮面に…力を与えない為……?」
「――そうだ。タバサ、君の言う通りだ」
 ワイングラスを脇に置いて、何時になく神妙な顔でツェペリは頷いた。
「私は若い頃、世界中を旅する船乗りだった。私はとある探検隊の一員として、世界のありとあらゆる場所を旅して来た。遺跡発掘隊の隊長である父と一緒にな。そして幾度目かの探検の中で 発見したのが、吸血鬼を生み出す石仮面だった。
 あの頃はまだ、そのルーツまではわからなかったがね。
 そして……石仮面を船に積み込んで本国へと持ち帰る最中に、その事件は起こってしまった」
『――石仮面を被って、吸血鬼になっちまった奴がいた。そうだな?』
「そう。君の言う通りだ、デルフ君」
 デルフリンガーの言葉に答えて、ツェペリはその唇を強く噛み締めながら続ける。
「その吸血鬼によって、私を除いて船の乗組員達は全滅した。
 ある者は血肉を食い尽くされ、またある者は血を吸われてその身を屍生人(グール)に変えられてな……
 私は辛うじて、今まさに沈もうとしていた船から脱出出来た。そして、私は見てしまったのだ……
 私を追って、天敵である太陽の光をその身を浴びて、崩れ落ちて行く吸血鬼の姿を……」
 ツェペリの噛み締めた唇から、一筋の赤い血が流れ出す。
「その吸血鬼の顔は発掘隊の隊長……私の父だったのだ……」
 そして彼は、これ以上は無いと言う程の無念と絶望を口に乗せて、言った。


「その後、あるきっかけで仙道の存在を知った私は、長年の修行の末についに波紋法を体得した……
 失われた石仮面を破壊し、人間の世界に二度と吸血鬼が現れぬようにな。
 そして私は、同じように石仮面と関わったジョナサン・ジョースターという青年に波紋法を教えた。再び姿を現した石仮面を破壊すべく、彼と共に新たに生まれた吸血鬼を倒そうとしたのだが……
 私は結局、それを果たせぬままに死んでしまったのだ。私の遺志をジョナサンに託して、な」
 そこでツェペリは言葉を区切って、先程から黙って話を聞いているタバサに顔を向ける。
「タバサ。君はこの世界が生み出したDISCによって、ジョナサンの記憶を読んだらしいね。
 だが私は、その話を聞かないでおくことにしよう。
 我が最愛の弟子であり親友であるジョジョは、私だけでない大勢の人々の意思を受け継いであの邪悪な吸血鬼ディオを倒したのだと――そう信じているからね」
 誇らしげに、そしてどこか悲しげな表情を浮かべながら、ツェペリは言う。
 その様子を見て、もしかしたらツェペリはジョナサンの未来を知っているのかもしれないとタバサは
思った。ジョナサン・ジョースターは確かに、目の前のツェペリの遺志を受け継いで、吸血鬼と化した親友ディオ・ブランドーを倒した。だがジョナサンは新婚旅行へ向かう航海の最中、首だけの姿となって生き延びたディオに襲われ、最期には妻エリナを逃してディオと共に爆発する船の中へと消えたのだ……
「……話が逸れてしまったな。ともあれ、私の目的は石仮面に纏わる全ての存在を闇へと葬り去ることだ。
 例え私を含めたこの世界の全てが、過ぎ去ってしまった遠い過去の“記録”であろうともな……
 そして石仮面の力に更なる“先”を与える赤石の存在を知った以上、それを見過ごす訳にはいかん。
 何としてでも私自身の手で破壊したい――これが、私がエイジャの赤石を求める理由の全てだ」
 まるで祈りを捧げるように語るツェペリの話を、タバサ達は黙って聞いていた。
 彼と共に戦ったジョナサン・ジョースター、そしてその血統を受け継いだ戦士達が、ジョナサンと同様に邪悪な存在と戦い続けて来たことを、タバサはこの世界に来て断片的ではあるが知るようになっていた。

 ジョースターの誇り高き血統。それは紛れも無く尊敬に値する物だとタバサは思う。
 しかし彼らは決して、一人でその戦いに勝利して来た訳では無いのだ。
 ジョースターの一族には常に仲間達がいた。その中には激しい戦いによって命を落とした者もいたが、彼らは皆、最後の時まで戦い抜き、そして残された者達に自らの意志を託して去って行った。
 それこそが人を遥かなる高みへと導く「誇り」であり、更に未来へと受け継がねばならない「遺産」だ。
 彼らが胸に抱いた光り輝く「黄金の精神」は、一人では決して掴めない物なのだ。
 「誇り」とは血統のみを拠り所として与えられる物では無い。
 タバサは父と母から受け継いだ血を誇りに思っているが、自分から全てを奪い去って行った憎むべき伯父一族の血族は、決して許すことは出来ない。
 彼らの持つちっぽけな「誇り」など、絶対に認めてやる訳にはいかないのだ。
 かつて、ハルケギニアでたった一人で戦い抜いて来た日々が間違っていたとは、タバサは思わない。
 だが、今までずっと長い間、自分は孤独な戦いを続けて来たと言うタバサの考えは、間違いだった。
 傷ついた母を守る為の戦いは、他でもないその母から受け継いだ命と心があればこそだ。
 そしてトリステイン魔法学院で新たに生まれた友人達も、一度は彼らを裏切ってしまった自分を助ける為に、それこそ命を懸けて戦ってくれた。
 もう自分は――いいや、最初からタバサは孤独などでは無かったのだ。
 この異世界にやって来てからと言う物、タバサはそのことを深く実感するようになっていた。
 孤独に耐えることは出来る。しかし全てを奪われて後に何も遺されないと言うのは、耐え難い苦痛だ。
 自分には帰る場所があり、待っててくれる人達がいる。それは何よりも至福なのだとタバサは思う。
 何よりも、今だってタバサには大勢の仲間がいる。ハルケギニアから一緒にやって来たデルフリンガーが共に元の世界に戻る為に力を貸してくれているし、この世界で出会ったエコーズAct.3等DISCのスタンド達や、あのトリステイン魔法学院の“記録”としてこの世界に存在するシエスタ、敵として出会ったにも関わらず、今ここで隣に座っている噴上裕也たってそうだ。
 タバサの知る限り、ツェペリがジョースターの血統に与えた「誇り」は真に尊きものだった。
 そんな彼が語ってくれた言葉を、タバサは今、信じてもいいと考えていた。


「…………わかった」
 長らくの沈黙の後に、タバサは小さな、しかしはっきりとした声で呟いた。
「あなたと、一緒に行く」
「――そうか。信じてくれてありがとう、タバサ」
 タバサの言葉に、ツェペリは心の底から頭を下げるように、そう感謝の言葉を述べた。
 彼女のその一言を切欠として、先程までツェペリに対して疑惑の感情を投げ掛けていたデルフリンガーと噴上裕也も、観念したかのようにふぅ、と大きな息を付いて後に続く。
『……しゃーねーな。タバサがそう言うなら……ってのもあるけどよ。
 そんな話を聞かされちゃあ、見て見ぬフリをすんのも寝覚めが悪くてしゃーねーや』
「だな。これでまだアンタを信用しなかったら、幾ら何でもカッコ悪いどころの話じゃねーぜ」
 そして噴上裕也は、何処かすっきりしたようなその表情をタバサの方に向けて、言葉を続ける。
「タバサ。何処まで力になれるかわかんねーが、俺もアンタに付き合うよ。
 そこの剣野郎の台詞じゃねーが、あんたらをここで放ったかしにすんのはマジで寝覚めが悪いしな」
『ほー、こりゃおでれーた。敵のクセにそんなコトを言って来た奴はお前さんが始めてだぜ』
「うるせーな、俺は誰だろうと一度受けた恩は絶対に返す主義なんだよ」
 驚き半分、呆れ半分の口調で口を挟んで来るデルフリンガーに、噴上裕也が憮然とした表情で言い返す。
「それに、女にゃ出来るだけ優しくしとけっつーのも、俺のポリシーの一つでな。
 第一、こんなチビを出会ったばかりの胡散臭ぇオッサンと二人っきりになんざしておけるか」
「ははは。いや、なんか、酷い言われようだねえ」
 まるで気にした素振りも見せずに笑うツェペリを無視して、お互いに睨み合うデルフリンガーと噴上裕也は次第に語気を強めて行く。
『まあ別に付いて来んのは構わねぇが……その前に一つだけ言っとくぜ。
 これから先、タバサにちょっかい出そうとか下手なコト考えんじゃねーぞ。
 もしそんな真似しやがったら、このオレがテメエを真っ二つに叩き斬ってやるぜ!
 こんな話がキュルケの奴にバレでもしたら、オラぁ消し炭にされても文句は言えねーしな』
「何言ってやがる!誰がこんなチビなんぞに手なんぞ出すかよ!
 そもそも、ちゃーんと元の世界に俺のことをいつも元気付けてくれる女共がいるからなァ。
 皆バカだけどよォー、あいつらのコトを放ったままじゃあ流石の俺でもそんな気分になりゃしねーよ!」
『そーかいそーかい。それだったら安心……とはまだ言えねェな!
 女に優しくする奴は大概女を泣かすって相場が決まってるからな!相棒を見てりゃよーくわかるぜ』
「アホか!剣のクセに一体何処からそんな話を聞いて来やがったんだ、このなまくら刀ッ!」
『なまくらじゃねー!このボロい見た目は単なるカムフラージュだ!
 六千年間生きて来た俺様の能力を舐めるんじゃねえぞ!』
「そんな大昔に作られたんなら充分ボロだろうが!吸血鬼なんてレベルじゃねーぞ、オイ!」
「……フフフ、賑やかな連中だ。これは想像以上に楽しい旅になるかもしれんな」
 騒ぎ立てる一人と一本の声を楽しそうに聞きながら、ツェペリは再びワイングラスの中身を一口呷る。
 タバサはそんなツェペリに近付いて、彼の耳に届くぐらいの大きさで言う。
「……ツェペリさん」
「うん?何かな、タバサ」
「どうして…知ってたの?」
「ム?」
「私のことを…どうして知ってたの?」


 それは今までの会話で、ついに明らかにならなかった疑問だった。
 先程ツェペリと初めて出会った時、最初から彼はタバサのことを知っているような素振りを見せていた。
 確かに自分はジョナサンのDISCを通じて、断片的ではあるがツェペリのことを知っていた。
 だが逆に、ツェペリが自分のことを知る機会など殆ど無い筈だとタバサは考えていた。
 あのゼロのルイズのDISCがこの大迷宮の中に落ちていたように、もしかしたら自分の記憶を封じたDISCも存在しており、その内容をツェペリが見たと言う可能性もゼロでは無いだろう。だがそう考えるにせよ、やはりツェペリが最初からタバサに敵意を見せずに、逆に「自分の安全を保証する」と言い切ったことに対しての違和感を払拭するには、説明不足としか言いようが無かった。
「そうか…そう言えばまだ説明してなかったかな――要るかね?」
 言いながら、ツェペリは懐から新しいサンドイッチの包み紙を取り出して、それをタバサに差し出す。
 タバサは小さく頷いて、肉や野菜がたっぷり挟み込まれたそのサンドイッチを受け取った。
「私がこの大迷宮に来る少し前に、ある少女と会ったのだよ。
 その娘から君とデルフ君の話を聞いてね、もし君達と会うことがあったら力を貸してくれと言われたのさ」
「…………」
「だからこそ私はこうして彼女から言われた通りに、君達へ同行を申し込んだと言う訳さ。
 正直に言って、私も一人でこの大迷宮を潜るのは、少々骨が折れそうだと考えていたからね」
 軽く肩を竦めて、ツェペリは既に空になっていたワイングラスを掌で弄ぶ。
「………シエスタ」
 殆ど考えることなく、タバサはその少女の名前を口に出していた。
 レクイエムの大迷宮に挑む前に訪れたトリステイン魔法学院の学生寮の部屋、その“記録”が形として実体化した場所で再会したメイドの少女。それはタバサも良く知っている彼女本人では無かったが、戦いで傷付いたタバサを暖かく迎え入れてくれたシエスタの優しさは、この世界に迷い込んだタバサの胸を強く打ったものだ。
 今、ツェペリが言う条件に該当する少女は、その彼女一人しか考えられなかった。
「そう、確かそんな名前だったかな。あの黒い髪と瞳は東洋人の血が混じっているのかもしれんな……
 ともあれ私がここに来る前にも、随分と君のことを心配していたよ。
 実を言うと、私が持ってるサンドイッチも彼女に作って貰った物なんだよ。
 いやあ、実に美味かった。あんなに美味いサンドイッチを食った経験は、私もそうそう無いね」
「…………」

 タバサはそれ以上は返さずに、ツェペリから手渡されたサンドイッチを一口噛み千切る。
 パンと具材の豊かな味、そしてその調和を取る為に適度な量を含んだソースがタバサの口内へと広がって行く。やはりシエスタは料理上手だ。その事実に感心し、またそれを羨ましく思うと共に、タバサは学生寮の部屋で別れて久しい彼女のことを思い出す。
 自分の身を案じ、こうまで気遣ってくれる彼女のその優しさが、なんと心地良いことだろう。
 例えそれが“この世界の”シエスタが自分の与えられた役割を忠実にこなしているだけだとしても、
それでもタバサは彼女に深い感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。
 それと共に、ハルケギニアで別れたきりの“本当の”彼女は今、何をしているのだろうと思い出す。
 やはりトリステイン魔法学院で日々の労働に一生懸命勤しみながら、主人であるゼロのルイズに与えられた任務に付き合わされた平賀才人のことを心配しているのだろう。直接面と向かって話す機会はそれ程多くは無かったが、ある時タバサがケーキ作りを始めた時なども、嫌な顔ひとつせずに作り方を丁寧に教えてくれた物だ。もし元の世界に帰れたら、シエスタに会ってもう少し色々なことを話してみよう。
 彼女が作ってくれたと言うサンドイッチの味を噛み締めながら、タバサは改めてその決意を固める。
『――妙手搦め手も結構だが、最後に物を言うのはやっぱパワーだぜ!
 圧倒的なパワーと汎用性のある能力!これこそが個人戦闘のキモって奴だろーが』
「剣野郎にキモもクソもあるか!大体、一人一人の能力全部がバラバラなスタンド使い相手に 毎度毎度真っ向勝負なんぞ挑んでられるかよ!
 相手のスタンドを使わせる前に潰せりゃベストだが、それが無理ならせめて相手をハメて こっちに有利な状況を作っとかねーと、命が幾つあっても足りゃーしねえんだよ!」
 お互いに熱い口調で続いているデルフリンガーと噴上裕也の応酬は未だに終わりそうに無い。
 タバサはそれを見てクラスメイトであるルイズとキュルケと言う友人二人の喧嘩を懐かしく思いながら、もう暫くの間はシエスタの作ってくれたサンドイッチの味を深く噛み締めることにした。


 ~レクイエムの大迷宮 地下8階~

 同行を約束してくれたツェペリと噴上裕也は、タバサにとって心強い味方となっていた。
 ツェペリが長年研鑽を重ねた波紋法は生半可な敵を寄せ付けなかったし、噴上裕也の発達した嗅覚とハイウェイスターのスピードは、敵に先手を打たせることなく終始こちらのペースに引き込むことが出来た。
 またタバサ自身も、彼らとの探索によって新しいDISCやアイテムを次々に確保して行った。
 そして今また、タバサ達は目の前に立ち塞がる新たな敵に対し、三人で力を合わせて立ち向かっていた。
「聞こえなかったかァ~?俺の「黄の節制(イエローテンパランス)」に弱点はねぇんだよォォォ!
 テメーらの肉を!ブヂュブブヂュル潰して引き摺り込み!ジャムにしてくれるぜェーーーッ!!」
 肉の塊を操るイエローテンパランスのスタンドを操るラバーソウルが、勝ち誇った笑いを上げながら
全身に着込んだ肉の塊の一部をタバサと噴上裕也に向けて撃ち込んで来る。
「……クレイジー・ダイヤモンド!」
「避けろッ!ハイウェイスター!」
 タバサは装備DISCによって発現させたクレイジー・ダイヤモンドの拳で肉塊を自分の体に付着しないように叩き落し、ラバーソウルから距離を置いていた噴上裕也は時速60kmの超スピードで以ってハイウェイスターを回避させる。
 イエローテンパランスによって操られるその肉塊はラバーソウルを守る鎧としての役割だけで無く、取り付いた人間の肉を食らい尽くし、自分の一部として吸収することも出来る。
 それはまさに「力を吸い取る鎧」であると共に「攻撃する防御壁」。
 勝ち誇るラバーソウルの言葉はコケ脅しでも何でも無い。
 彼の言う通りに、イエローテンパランスは攻防を兼ねた万能のスタンドに思えた。
 だが、既にタバサ達は理解している。
 例えどれだけ無敵に見えるスタンドであろうと、それを扱うスタンド使いが存在する以上、必ず何処かに付け入る隙がある。敵と、そして己自身のスタンドの特性やその限界を見極めれば自ずと突破口は開ける。それがスタンド使い同士の戦闘の基本だ。
 タバサは噴上裕也と目配せをしてから、肉の鎧を着込んだラバーソウルに向けて両手を突き付ける。
「フー・ファイターズ!」
 射撃用DISCに刻み込まれた能力によって、タバサの指からプランクトンの弾丸が撃ち出される。
「弱点はねーといっとるだろーが、人の話きいてんのかァァァァこの田ゴ作がァーーー!!」
 距離を置いて撃ち込まれたプランクトンの弾丸が、ラバーソウルが纏う肉の塊に吸収されて行く。
 そしてお返しとばかりに、先程と同様にラバーソウルは全身から肉の塊をタバサに向けて発射する。
 タバサは再びクレイジー・Dを展開し、飛来して来た肉塊を弾き飛ばそうとする。
「…………っ!」
 飛んで来る肉塊の動きは直線的ではあるが、早い。
 その内の一つを跳ね飛ばしきれずに、タバサは右肩に肉塊を一つ食い付かせてしまう。
 彼女に食らい付いた肉塊は、そのまま彼女の着ていた服を溶かし、タバサの白く柔らかい肩の肉を取り込んで少しずつ膨れ上がって行く。灼かれるような痛みが、彼女の右肩を通じて全身に走る。
「う……!うぅっ…!」
「テメェみてーなチビの肉なんぞ食った所で、大した量にはならねーだろうがなァ!
 だがッ!そんなチンケなスタンドで散々この俺様をコケにしてくれた礼はたァーップリしてやるぜェ~。
 死ぬ前にようやくこのイエローテンパランスの恐ろしさが理解出来たかァ?
 ドゥー!?ユゥー!?アンダスタァァァァンンンンドゥ!?」
「ああ…よォく理解出来たぜ?テメーの無敵のスタンドがブッ倒される瞬間ってヤツをよォ~」
「何ィ!?」
 タバサの攻撃に気を取られている内に、ラバーソウルの背後に回り込んでいたハイウェイスターが、勝ち誇った高笑いを上げるラバーソウルの頭部に向けてその拳を叩き込む。
 だが、その拳も肉の鎧に塞がれて、本体のラバーソウルにまではダメージが通らない。
「バカが……そんな下らねぇ攻撃でよぉ?
 まだ俺のイエローテンパランスをどうにか出来ると思ってんのかァ?このタマナシヘナチンがァー!!」
「思っているさ。その肉襦袢がよォー、ブチュブチュ動いてるってことはよォ~……
 そいつの中には動く為の「養分」がたっぷり詰まってるってコトだよなぁぁぁぁッ!!」

 噴上裕也の咆哮と共に、ハイウェイスターはイエローテンパランスによって操られる肉塊の養分を我が物とするべく、肉の鎧に埋め込んだ拳を通してその養分を全身に吸収して行く。
「何ィィィィッ!?」
 ハイウェイスターに養分を吸われた部分から、次々に肉塊が「壊死」してボロボロと崩れて落ちて行く。
「ま……まさかテメエのスタンドにこんな能力があったとはな……!
 だがッ!依然テメエが甘ちゃんなのは変わらねえなァ!肉のエネルギーが全部吸われちまう前にッ!
 逆にテメエをイエローテンパランスで食い尽くしちまえば全て終わりだからなぁぁぁッ!!」
「ああ……そうだろうな。だがそれも、そこまでテメエが無事だったらの話だよなァ?」
「何だとォ……ハッ!?」
 再びラバーソウルを覆う肉の塊がゴソリと崩れ落ちて、彼の体の一部分が外に露出する。
 その場所は彼にとって自慢のハンサム顔。人間とって思考と肉体の中心である頭部そのもの。
 今、ラバーソウルは最も優先して守らねばならない場所の一つを、敵の前に堂々と晒していたのだ。
「何イイイィィィィィーーーーーッ!!?」
 肩の肉を食われているせいで動かなくなった右腕をだらりと垂らしたタバサが、そんなダメージなど
お構いなしと言う態度で顔面を露出させたラバーソウルに駆け出して来る。
 そして彼女の背後には、既にDISCの力によってクレイジー・Dのスタンドが再びその姿を現している。
「ハハッ……!じょ……冗談!冗談だってばさあハハハハハ!!
 きゅいきゅい!お肉食べたいの~!だなんて……ちょ…ちょっとしたチャメッ気だよォ~~ん!」
 無表情で走って来るタバサに向けて、ラバーソウルは今まで生きて来た中で最高の笑顔を浮かべようとする。だがあまりの緊張によって顔の筋肉は激しく痙攣し、底抜けに明るく出そうと思った声も完全に裏返っており、さながら粘土をメチャクチャに引っ繰り返したように歪みきった表情になっている。
「た、他愛のないジョークさぁ!やだなあ!もう~!本気にした?
 ま……まさか……これから思いっ切りブン殴ったりなんてしないよね…………?
 重症患者だよ鼻も折れちゃうしアゴ骨も針金でつながなくちゃあ!ハハハハハ、ハハハハハ……!!」
「クレイジー……ダイヤモンド!!」

 ドラララララララララララァーーーッ!!

 哀れ過ぎて何も言えない。そうとでも言うかのように、タバサはラバーソウルの言葉に一切耳を傾けず、

 彼の自慢のハンサム顔に向けてクレイジー・Dの拳を叩き込み、そのまま終わりの無いラッシュへと繋げて行く。
「ブギャアアアァァァァア~~~~~~!!!!」
 ラバーソウルの悲鳴と共に、やがて彼が身に纏っていた肉の鎧が力を失ってその場へと崩れ落ちて
行く。同時に、タバサの右肩に張り付いていた肉塊もその動きを止めて、ボトリと地面に落ちる。
 それはラバーソウルがスタンドを操作する為に必要な戦意や精神力を失ったと言う証明だった。

 ドラァッ!!

「ブゲェッ!」
 最後にタバサは、トドメとばかりにラバーソウルの顔面へクレイジー・Dの右の拳を打ち込んでやる。
 潰された蛙のような声を上げて彼の体が吹っ飛んで行き、やがてその姿がスッと消え去って行く。
 それは単なる“記録”に過ぎないこの世界の住人が、“死んだ”時に迎える運命だった。
 ラバーソウル&「黄の節制(イエローテンパランス)」、再起不能(リタイア)。


「……ううっ…!」
「タバサ…!」
 緊張が途切れた為か、そこでようやく肩を抑えて痛みを堪えるタバサの体を噴上裕也が優しく支える。
 イエローテンパランスの肉塊に食い破られた跡からは右肩の筋肉が剥き出しとなって見えており、そこから溢れ出る紅の血が、彼女の身体を覆う白い制服の肩から右腕に掛けて染み広がっている。
 傷自体は致命傷では無さそうだったが、噴上裕也は寧ろ、彼女のそんな痛々しい姿を見せられる方が耐えられなかった。
 女を痛め付ける奴は最低のクズ野郎だ。
 噴上裕也の胸の内に、自分の住む町に潜伏していた、女の手首に異常な執着を見せる殺人鬼の話を聞いた時の憤りが蘇って来るようだった。
「大丈夫か、タバサ」
「………平気」
 痛む右肩を出来る限り動かさないようにしつつ、タバサは姿勢を整えて懐からアイテムを一つ取り出す。
 それは糸で作られたゾンビの馬だった。原理は不明だが、この糸で傷口を縫合すると傷が早く癒えると言う効用があるらしい。
「クレイジー…ダイヤモン――」
「待て、タバサ。俺がやってやるよ」
 右肩に広がる傷口を縫い付けるべく、スタンドを出そうとするタバサを噴上裕也が制止する。
「大丈夫……」
「そんなワケあるか。お前、さっきから右腕が全然動いてねーじゃねえか。
 本当は動かすのも辛いんだろ?
 ホレ、早くその糸渡しな。あまり綺麗にゃ出来ねーかもしれねえけどよ」
「……わかった」
 根負けしたように頷いて、タバサは左手に持った噴上裕也にゾンビ馬を手渡す。
 ゾンビ馬を受け取った噴上裕也は、糸の腹を咥えながら慎重な動作でタバサの体に糸を通して行く。
「うっ…!」
「痛むか?すまねえな、だがもうちょっとばかり我慢してくれよ、タバサ」
「うん……ぁうっ!くぅ…うっ…」
『おいおいフンガミよぉ、もうちっと優しく出来ねえのかよ?タバサの奴、随分と痛がってるじゃねーか』
 唇を噛み締めて肩口に走る激痛に耐えるタバサを見かねて、デルフリンガーが遠慮がちに言って来る。
「無茶言うなよデル助。傷口が開いてる以上、どっちみち痛むのは変わんねーんだ」
 噴上裕也は応急処置の手を止めないまま、デルフリンガーに向かって答える。
「俺も交通事故で入院したことがあるけどよ、そん時は包帯一つ巻き直すのだってスゲー痛かったからな。
 ま、あん時は逆に俺の方が女共に面倒を見て貰う側だったんだがな」
 そんな自分が、今こうしてタバサの手当てをしているのも妙な気分だった。
 だが、決して悪い気分では無かった。自分に妹でもいたらこんな感じなのだろうか、と噴上裕也は思う。
『クソッ……こんな時に水魔法の一つも使えりゃあ、苦労はねぇんだがな』
「魔法ねえ。俺にとっちゃ、そっちの方が余程ファンタジーやメルヘンな話なんだがな」
『何言ってんだい。こっちから見りゃあ、お前らのスタンドも大した違いは感じられねーぜ?』
「違えねぇ」
 入院中に初めてスタンド能力に目覚めた時、確かに初めて魔法を発見したような気分になったものだ。
 あの時の驚きと興奮、そして未知の力を得たことへの恐怖を思い出しながら、噴上裕也は素直に頷いた。



 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued……



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