ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-23

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 一晩眠って、ふっきれたわけではなかったけど、少し開き直っていた。
 ゼロだろうとエロだろうと馬鹿にされているという点では変わらないし、事実であるという点も変わらない。
 評価が上下しようと事実が動くわけでもなし、あんた達好きに言ってなさいよってこと。
 単純で苦しいとは思うけど、自分を鼓舞する……というよりどうでもよくなっていた。
 グェスは朝になったら隣で寝ていた。何この女。
「ねールイチュ、今日の朝ごはん何出ると思う? チーズ味のペンネ出ないかな」
「……さあね」
 昨晩あれだけやりあったというか一方的に蹴ったり殴ったり罵倒もしたのに、グェスは全然頓着していなくて、何も無かったかのように振舞っている。
 ひどいこと言っちゃったな、とか、いきなり暴力はなかったかな、とか、ご主人様の威厳を保ちつつ仲直りするにはどうしようかな、なんてことで悩んでたわたしが馬鹿みたい。
 これは彼女なりの優しさなのか、それとも脳みその代わりに別の物が詰まってるくらい底抜けにタフだからなのか。たぶん後者。
「おはよーミッキー、老師。なんか昨日大変だったみたいね」
「そちらも色々あったようじゃが」
「お二人とも元気そうですね」
「元気元気、あたしとルイチュは元気で仲良しなのォ」
 グェスは屈託無く笑ってた。命をかけた戦いの末、顔面どころか全身が変形するくらいボッコボコにぶん殴られた翌日だとしても、「はーい元気?」なんて言って胡散臭い笑顔で話しかけてくるんだろう。
 驚くというより呆れるけど、今朝はこの無神経さがありがたかった。
「そうそう、ミキタカ。あんたキュルケやタバサと何やってたの。ぺティだけじゃなくギーシュやモンモランシーまでいたみたいだけど」
「それはタバサ会ですよ、ルイズさん」
 タバサ会? タバサのファンクラブ? おっぱいは小さい方がいい派? それならわたしだって……。
「タバサ会とはタバサさんを中心にした勉強会です。使い魔たちにこの世界のことや文字などを教えているんです」

「なんだ、やっぱり勉強会なんだ」
「なんだと思っていたんですか?」
「……そりゃもちろん勉強会よ」
 タバサが中心ってのは意外だけどね。あの子ってそういうの嫌がりそうじゃない。
「はじめはタバサさんとキュルケさん、ドラゴンズ・ドリームさんだけの勉強会だったのですが、私と老師も混ぜてもらいました」
 ドラゴンズ・ドリーム? あのドラゴンか。変な名前。
「老師からギーシュとモンモランシーさんにも伝わって、人数が増えたのでシエスタさんがお茶を用意してくれたりもした、というわけです」
 シエスタか。どうせミキタカにひっついてきたんだろうな。
「なぜ中庭でやってるの?」
「図書館でやっていたそうですが、ドラゴンズ・ドリームさんが騒ぐので追い出されてしまったとか」
「ふうん」
「タバサさんの教え方は大変ためになります。とても分かりやすいです」
 なるほどぉ。対人スキルは最低ってタイプかと思ってたけど、案外あの子もやるようね。
「グェスさんも参加するといいですよ。文字が分かれば何かと便利ですから」
「だそうよ。どうする、グェス?」
「そうねェ」
 フォークとナイフを置き、腕を組んだ。
「正直勉強ってやつは好きじゃないんだよね」
 うん、知ってた。あんたってそういうタイプよね。
「でも今回は参加してみようかな」
 むっ。これは予想外。
「ちょっと思うところあってね。あたし今燃えてるんだ」

 だらしがない、やる気がない、仕える気もない、ないない尽くしのグェスがいつになく燃えている。
 ただし、本人がそう言ってるというだけの話。
 タバサ会――誰のネーミング?――でのグェスは、学習意欲があったとは到底思えない。
 ただ、他との比較でいうなら多少はあったと言えるかもしれない。
 なぜなら会はわたしが考えていたものとは少し違っていて、婉曲的表現を使うとすれば、自由かつ奔放なものだった。
「えッ!? あんたらも水族館にいたの? あたし以外にも『心の力』を使うヤツがいたのね……無茶しなくてよかった」
「水族館はオレの生まれ故郷ダぜ。何十年もアソコで暮らしてきたンだッツーの!」
「わたしは懲罰房くらいしか存じておりませんが。ゲロッ」
 訥々と文字の読み方について教えるタバサを他所に、教師役以外の全員が雑談に精を出していた。
 や、わたしは真面目に聞いてるんだけどね。タバサかわいそうだから。
「ロッコバロッコっていたよねー、あのイカレ腹話術士」
「キュイキュイッ! いたいた、クソ所長ナ。シャーロットはなかなかセクシィーだったよナァー」
「ヨーヨーマッ! のっかりてェー……セクシーさでございましたねェ」
 今、タバサが微妙に反応したような……気のせいかな?
「あとさ、七不思議女」
「あの黒人ナ。男子監の方でも有名だったゼェー」
「あの方もまたのっかりてェェェェェお美しさでした」
「自分の小便飲むジジイは知ってる? 頭おかしいって有名だったらしいけど」
「……聞いたことねェナ。ゼンッゼン覚えがネェーぜ」
「ノストラダムス信じて人殺しまくった間抜けポリ公のこと知らない?」
「……全く、少しも、ビックリするほど初耳でございます」
 機械的に相槌を打つヨーヨーマッとドラゴンズ・ドリーム……の腹話術をしているタバサで「水族館」とかいう場所の話をして盛り上がっている。
 ていうかこれ腹話術でもなんでもないよね。わたしタバサにまでタバカられてた? いや駄洒落じゃなくて。

「地獄へ行け、だなんて念を押されたんだ、ねっ、ねっ」
「酷い事をするヤツもいるもんだなあ。そのロハンってヤツは間違いなく悪魔だ」
「いじめられたよ、つらかったよ……ねっ」
「安心したまえチープ・トリック。ぼくは君をそんな目に合わせたりしないからね」
 こっちはこっちで聞いてないし。
 声が漏れてくるだけで大釜の中で何をしているのか分かったもんじゃない。
 まさか自分の使い魔と……ちょっと新しいわね。文字通り釜を掘る……ふふっ、上手いこと言っちゃった。
「老師、ギーシュは大丈夫なんですよね」
「心配することはあるまいよ」
 ぺティとモンモランシーは何かボソボソ話してる。
 ギーシュのことで相談しているみたいね。
「べつに、わたしはアレの恋人でも何でもありませんけど……」
 嘘つけ馬鹿。あれだけ見せつけてよく言うわね。
「でも、目の前で死なれでもしたら目覚めが悪いし」
「死にはせんじゃろう」
「老師がおっしゃったことは本当なんですよね? ギーシュは大地っていう」
「でまかせというわけではないが……こうなればいいと思ったことを口に出しただけじゃ」
 ぺティも大概いい加減ね。
「そ、そんな。それじゃギーシュは……」
「こうなればいい、ということを信じれば理想に近づく。今必要なのは生きる気力。目的じゃ」
「でも……」
「心配しなさるな。あの若者、ああ見えて強かに生きておる。少々の悪条件はものともせんよ」
 なんていうかこの爺さん、無理矢理いい話っぽく締めるの得意じゃない?
 モンモランシーも感じ入った顔してるし。忘れちゃだめですよー、この人は『あの』ミキタカの使い魔ですよー。

「ミキタカさん、サンドイッチ美味しいですか?」
「ええ。ティッシュペーパーよりも美味しいです」
 出たなァァァ……またいちゃついてからに。
 不順異性交遊を脇から眺めるのは嫌いじゃありませんけどね、あんた達に限っては別。大いに別。
 後からのこのこ出てきたくせにシエスタの彼氏面してる変人メイジに災いあれ。
 義務としてルイズヒップアタックを敢行し、二人の間に割り込もうとしたけど押し戻された。
 ミキタカではなくシエスタの手で。意外な展開に目を見張る。
「ちょ、ちょっとシエスタ。あなた勘違いしてるんじゃない?」
「……」
「あのね。えっとね。わたしは場も弁えずにべたつくあなた達を注意しようと……」
「へぇ……ほんとにそれだけなのかなぁ……?」
 え? ええ? な、なに? シエスタが言ったのよね? シエスタなのよね?
「あの……どういう意味?」
「べ、べーつーにー?」
「言ってごらんなさいよ」
「最近、ミス・ヴァリエールの目、ちょっと怪しいなと。そんな風に思っただけです」
 シ、シエスタ……ちょっと見ない間に強い子になって……。
 でもそんなあなたを……そんなあなたを見たくはなかった……!
「ほんと……今日は暑いですわね。夜だというのに汗が止まりません」
 おおっ……胸元をはだけて、かきもしない汗をハンカチで! え、シャツのボタンまで!? な、なんてサービス精神……ゴクリ。やはりわたしが睨んだ通りの隠れ巨乳!
 抑えられない色気が立ち上る……うう、その向かう先がわたしだったらよかったのに。
 シエスタ。その美しい胸じゃなく机の上の二十日鼠に目をやるような男のために……ああ……。
「ぷっ」
 え? 今シエスタ笑った? わたしの胸見て笑ったよね?

 そんな……はにかみ屋さんで頑張り屋さんで隠れ巨乳だったシエスタが……。
 優しげな兎の瞳が狡猾な狐の眼に変わってる。恋は女の子を女に成長させるのね。なんて残酷なの。
 わたしにできることといえば、ミキタカのために為されたサービスを横から覗き見ることだけ。
 惨めね。シエスタと仲良くなりたい、そんなささやかな願いさえぶち壊された。
 ミキタカはシエスタの作ったサンドイッチを残さず食べ切り、バスケットケースにかじりついた。
 にこやかにそれを押しとめる様はまるで世話女房みたい。
 チラッとわたしを見て、勝利の微笑み。なんてかわいい笑顔。それだけに皮肉。
 ああ、嘆息。わたしは完全な敗北を喫した……二人から離れることしか許されない。
 さよならシエスタ。わたしはあなたとお友達になりたかった。
 二人を置いてすごすごと元いた席に戻る。ただただ悲しい。
「ルイズ、そっちも大変みたいだね」
「うるさい! 何慰めてくれてるのよ、マリコルヌのくせに!」
 このデブちんはまったく空気を読めないんだから。
 だいたいこいつがここにいること自体がおかしいのよね。蛙に勉強させてどうしようっていうのかしら。
 マリコルヌ曰く、
「ぼくがこいつと心を通わせられないのは言葉が分からないからかもしれないって思ってさ」
 ってその発想自体が現実逃避してるっていうのよ!
 いい加減で現実見なさい! あなたの蛙は妙なナリってだけでただの蛙でしかないの!
 言葉教えたって分からないし、心が通じないのは単なる実力不足!
 隅っこでろくに動きもしない使い魔相手にぶつぶつお喋りする姿が気色悪いのよ!
 わたしとグェスを見習いなさい。力が無いという現実を見つめながらも向上心は忘れずに……
「ギャッハハハー! マジかよ! 教戒師の神父、あのヘアスタイル受け狙いじゃなかったのかよ!」
「しッかもあのデンパヤロー、実はホワイトスネイクなんダッツーの。コレ秘密なんだけどヨォー」
 ……忘れてないわよね?

「情けない。本当に情けないわ」
 くっ、やっぱりこいつが出張ってきたか。
「何が情けないのよ」
「横合いから殿方をかっさらわれるのがヴァリエールの伝統なんでしょうけどね」
 何勘違いしてるんだか色狂い。シエスタのどこが殿方だっていうのよ。
 ……え、まさかとは思うけどわたしが知らないだけでシエスタが男だったりしないわよね。
 あれだけ存在感のあるおっぱいを有していて、かつ、下にも一本ぶら下げている……人類の夜明けね。アリだわ。
「出し抜かれて悔しくないの?」
「うるさい」
「アピールが足りないんじゃない? 胸が足りない分そっちで頑張らなきゃダメよ」
「うるさいって言ってるのが聞こえないのお熱のキュルケ。あんたは向こうで熱湯作ってなさい」
 わたしに憎まれ口を叩かれようと、キュルケの余裕は崩れない。風邪っぴきと罵られてどもるマリコルヌなんかとは大違い。
 こういうところに憧れちゃうのよね。冷静に考えてみると、こいつってわたしのコンプレックスを象徴するような存在かもしれない。
「あたしは微熱。お熱はあんたの頭でしょ。胸や魔法だけじゃなく頭までゼロだったのかしら」
 やっぱり嫌な女。顔真っ赤にして涙目でうつむいてやる。少しは気まずくなるがいいわ。
「えっと……ほら、見ろよ。今日もミス・ロングビルが壁歩きしてる」
 なぜかその空気に耐えられないマリコルヌ。あんた関係ないでしょう。
「あら、本当。ここのところ毎晩出てるみたいね」
「そうなの? わたしは昨日初めて見たけど……やっぱり院長のセクハラでストレス溜まってるんでしょうね」
「更年期障害ってやつなんじゃない?」
「君たち本人がいないと無茶苦茶言うなぁ。案外宝物庫を調べてるんじゃないか」
「なんでそんなことするのよ」

「今話題の盗賊がいたろ。貴族相手にしか盗まないっていう」
「ああ、土くれのフーケとか……ミス・ロングビルが土くれのフーケっていうの? それ、無理あるでしょ」
 マリコルヌってば真面目な顔でとんでもないこと言うわね。
「呼びかけてみれば分かるんじゃない? フーケって呼んで返事をすればフーケなんでしょ」
 キュルケも笑いながらひどいこと言ってるし。
「フーケさーん!」
 ……え?
「フーケさーん! 聞こえていますかー!」
 ……は?
「フーケさーん!」
 ちょ、ちょっとミキタカ! あんた何やってるの!
 うわ、みんなこっち見てる。ミス・ロングビルまでこっち見てるじゃない。
「呼べばいいんですよね。フーケさーん!」
 誰もそんなこと言ってないって! 慌てて口を押さえたけど、ミス・ロングビルはどこかに消えていた。
 あーあ、一人で壁歩き楽しんでたんでしょうに。悪いことしちゃったわね。
「あんたは軽口と本気の区別もつかないの!」
 そりゃキュルケじゃなくても怒るわ。
「だからグラモンの人間は困るっていうんだ」
 いいぞマリコルヌ、もっと言ってやれ。
「待て待て。聞き捨てならないぞ。ド・グラモン家の人間が全員ほら吹きであるかのような言い方じゃないか」
「当たってると言えば当たってると思うけど」
「モンモランシー! 悲しませないでおくれ美しい人。ぼくは君のためなら全てを投げ打ち……」


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