ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-9

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匿名ユーザー

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「・・・ギ・・・ギアッチョ・・・?」
何がなんだか分からなかった。どうして?どうしてギアッチョが?私を
笑いに来たんじゃないの?それなら何故?私との違いを見せ付けるため?
それともただ暴れたいだけ・・・?
ルイズの頭には疑問符が次から次へと浮かんでいた。ギアッチョの真意が
分からない。それを確かめようと、ルイズは恐る恐るギアッチョの顔を
見上げようと――

グイッ!!

「!?」
ルイズが顔を上げようとした瞬間、ギアッチョの手によってルイズの頭は
下に押し戻された。
「・・・出たんだろ?ルイズ このガキとぶつかった時に・・・『鼻血』がよォォ
そんなみっともねーツラをこいつらに披露してやるこたぁねーぜ」
いつの間にか3人の周りには人だかりが出来ていた。そしてルイズは
ハッと思い出した。自分の顔が、涙でぐしゃぐしゃだったことを。
本気だ。ギアッチョは、本気で私の為に行動してくれている。
ルイズはようやく気付いた。
――ギアッチョは・・・私の味方なんだ・・・ こんなことになっても・・・
ギアッチョは味方でいてくれるんだ・・・!
我知らず起こる肩の震えを、ルイズは止めることが出来なかった。彼女の
宝石のような瞳から、今度こそ堰を切って溢れてきた涙と同様に。

「それで?そこのゼロのルイズの代わりに、平民の使い魔が僕の相手を
務めるっていうのかい?」
ギーシュはニヤニヤと笑ってギアッチョを見ている。
「さっきハッキリそう言ったはずだが・・・聞えなかったってワケか?
え?マンモーニ ミミズを狩るのに獅子を使うのはちと贅沢だが・・・
今回だけの特別サービスってことにしてやるぜ」
最初はヘラヘラ笑いながら聞いていたギーシュだが、次第に自分が
完全に下にみられていることに気付くと烈火の如く怒りだした。
「だッ・・・!誰がママっ子だって!?平民の分際でッ!よくも貴族に
そんな口が利けたもんだね!!一つだけ言っておくが・・・決闘で
死んだとしてもそれは合法だ!!手加減してやるつもりだったが・・・
無事にゼロの元へ戻れると思わないことだねッ!!」
ギーシュは忘れていた。昨日、自分達を縮み上がらせた彼の殺気を。
そしてルイズの爆発を恐れて遠巻きにサモン・サーヴァントを見ていた
彼には、ギアッチョがルイズを殺しかけたあの場面はせいぜい
「混乱した平民がゼロのルイズを押し倒した」程度にしか見えなかった
のである。

ギアッチョが色をなくしたままの眼でギーシュを睨む。
「ならこっちも一つ聞くがよォォ~~ てめー『覚悟』はしてるん
だろうなァ~~?オレを殺すつもりで来るってことはよォォ
逆に殺される『覚悟』は出来てるっつーワケだよなァァァ」
しかしギーシュは鼻で笑って答える。
「フン!覚悟だって?そんなものする必要はないね 何故なら
僕が負けるなんてことは万が一にも有り得ないからだ」
ギーシュの大見得にギャラリーがどっと笑う。
「そうだそうだ!」
「平民相手に遠慮するこたねーぞギーシュ!」
「身分の差ってものを教育してやれ!」
こいつらは――、とギアッチョは考えた。
――こいつらの殆どは・・・昨日のことなんか見てもねぇし
覚えてもいねぇようだなァ~~・・・
「ま、どっちだろーと関係ねーがな」
相手が化け物であろうと歩き始めたばかりの赤ん坊であろうと、
ギアッチョの「覚悟」に変わりはない。「覚悟」とは相手に合わせて
コロコロ変えるものではない!ギアッチョはそう理解していた。
「今から5分後・・・ヴェストリの広場で待っている 言うまでもない
事だが――君が逃げれば君もゼロのルイズ同様直ちにこの
学院から退去してもらうよ せいぜい震えながらやってくるんだね」
ギーシュはそう言い放つと、ニヤニヤ笑いのまま去っていった。

ギーシュが去ると、3人を取り巻いていたギャラリーもギーシュと
一緒に広場へ向かっていった。
「ルイズ もういいぜ 頭を上げな」
ギアッチョが声をかけると、ルイズはごしごしと顔をこすって
立ち上がった。
「・・・ギアッチョ・・・」
ギアッチョは首をコキコキと鳴らしながら尋ねる。
「ルイズよォォ~ なんとかの広場ってのはどっちだ?」
「え・・・ あ、あっちよ ・・・あの、ギアッチョ・・・・・私」
ルイズが何か言おうとするが、
「話は後回しだ 5分後だからな・・・別にあいつをいくら待たせよーが
心は痛まねぇが 逃げたと思われるのも癪だからよォォ」
ギアッチョはそれを制して歩き出す。――逆の方向へと。
「・・・ギアッチョ?広場はあっち・・・」
「ルイズ おめーは先に行ってな オレはよォォ~ ちょっと
用事があるもんでな・・・ 待ってろ すぐにそっちに行く」
そうルイズに告げて、ギアッチョはどこかへ歩いていく。
「分かった ・・・待ってる」
もはやルイズは、万が一にもギアッチョの逃亡を疑わなかった。
私の為に戦ってくれるギアッチョの為に、自分に出来ることを
しよう。ルイズはそう決意した。ギアッチョが戻ってくるまで、
逃げず、怯えず、うろたえず、ヴェストリの広場で待っていよう。
ルイズはスッと顔を上げると、広場に向かって駆け出した。

目的地に向かって歩くギアッチョの後ろから、「待ちなさい!」
という声がかかった。
「わりーが・・・後にしな 今は少々忙しいんでな」
しかし声の主はかまわず叫ぶ。
「あなたルイズをどうする気ッ!?」
その言葉を聞いて、ギアッチョはピタリと足を止めた。
「どうするつもりたぁ失礼なことを言うじゃあねーか ええ?おい」
肩越しに後ろを振り返ると、そこにいたのはあの赤髪の少女、
キュルケだった。
キュルケはさっきの騒ぎを最初から見ていた。二人の争いが
いい加減ヤバくなってきたら仲裁に入るつもりだったのだが、
彼女の先を越して二人を仲裁したのは――更に酷いことになったが――
意外にもギアッチョだったわけである。ルイズ共々殺されかけたキュルケが
それを不審に思わぬはずはなかった。
「召喚されてそうそうあの子を殺しかけたと思ったら今度は
手のひら返したように責任を取るですって?」
キュルケは信じられないという風に首を振ると、キッとギアッチョを
ねめつける。
「答えなさいッ!あなたは何者!?そしてルイズに何をする気!?」
ギアッチョはしばらくキュルケを見ていたが、やがて口を開いた。
「確か・・・てめーの家とルイズの家は・・・宿敵同士だと聞いたが」
「・・・あなた学校で習わなかったの?質問を質問で返すんじゃあ
ないわッ!」

キュルケの眼は「マジ」だった。ギアッチョは小さく舌打ちをすると、
「オレが何者なのか・・・話してやってもいいが それには少々時間が
足りねーー 二つ目の質問にだけ答えてやる」
そう言うとギアッチョはキュルケに向き直る。
「答えは『別に何も』、だ ただし・・・これだけは言っておくぜ
命の恩人が侮辱されてるのを・・・黙って見ているバカはいねえ!」
「――!!」
昨日ルイズを殺そうとした男が、そして今日人目もはばからず
食堂で大暴れした男が、果たして本気で言っているのだろうか?
キュルケには判断が出来なかった。ただ――
「・・・今はその言葉で納得しておいてあげるわ」
もう少し様子を見てもいいか、とキュルケは思った。

「・・・あ、待って!」
再び背を向けて去ろうとするギアッチョに、キュルケは何かを
思い出したように声をかけた。ギアッチョは振り向かないが、
話を聞く意思だけはあるようだ。
「・・・用心なさい ギーシュはあんなのでもうちの学年じゃ
かなりの上位に入る腕前よ」
ギアッチョがやられてしまえば、ルイズの人生はおしまいだ。
魔法が使えないまま使い魔を殺されて退学だなんて、ルイズで
なくとも自殺を考えるほど最低最悪の事態である。しかし
キュルケの忠告を、ギアッチョは鼻で笑って受け流す。
「フン・・・あのマンモーニが強かろーが弱かろーがよォォー
オレには関係のないことだぜ」

「あなたフザけてるの!?ギーシュはナメてかかって勝てる
相手じゃ・・・」
「『覚悟』はッ!!」
ギアッチョはいきなり声を張り上げる。その大声にキュルケは
思わず身構えた。
「・・・オレの『覚悟』は・・・相手を選んだりはしねえーーッ!
相手がドラゴンだろーがウジ虫だろーがよォォ~~ オレは同じ
『覚悟』を持って戦いに挑むッ!!」
それだけ言うと、ギアッチョは圧倒されているキュルケを置いて
歩いていった。
「なんなの・・・あいつ・・・ 『覚悟』・・・・・・?」
「大丈夫」
突然聞えた声にキュルケが隣を見ると、いつの間に来ていたのか
そこには透き通るような青い髪をした少女、タバサがいた。
「大丈夫・・・って?」
「昨日の戦闘」
タバサは短く言葉を繋ぐ。
「まだまだ力を隠してた」
「嘘でしょ・・・」
タバサの言葉は信頼出来る。キュルケは今更ながらギアッチョに
立ち向かった昨日の自分を思い出し、ゾクリと身震いした。

当たりをつけて覗いてみた食堂で、ギアッチョは目当ての
人物――シエスタを発見した。
「・・・あ、ギアッチョさん!ミス・ヴァリエールはご無事でしたか?」
メイド服の少女は食器を片付けながらギアッチョに声をかける。
デザートの配膳中にギーシュと言い争うルイズを発見し、いち早く
ギアッチョに知らせたのはこのシエスタだった。
「ああ なーんにも問題はねえぜ」
「そうでしたか」
よかった、と答えて食器の片付けを続けるシエスタに、
「それはともかくよォォ~~ 一つ報告することがあってな」
ギアッチョは本題を切り出した。
「報告・・・ですか?」
「ああ まぁ大した話じゃないんだがよォォ~~~
決闘することになった」
「・・・決闘・・・?」
ギアッチョの言った決闘の意味を量り切れないらしく、シエスタは
オウム返しに同じ言葉を口にする。
「ええと・・・決闘って 誰と・・・誰がですか?」
「ああ? 誰ってオレに決まってるじゃあねーか 相手はルイズに
絡んでた・・・あー・・・そうだ、ギーシュとかいうマンモーニだ」

 ・・・・・・。

どこかで見たような一瞬の沈黙の後、

ガッシャアアアアアアン!!

シエスタの手から滑り落ちた3枚の皿が音を立てて砕けた。

「な、ななな何をやってるんですかギアッチョさんッ!!
き、貴族と決闘だなんて 殺されてしまいます!!」
状況を理解した途端パニックに陥るシエスタをギアッチョは
片手で制して、
「落ち着けよシエスタよォォォ~~~ 死ぬのはギーシュの野郎
だぜ・・・それは決定してる オレが言いてーのはその話じゃあ
ねーんだ」
口では軽く言っているが・・・ギアッチョは決して決闘を甘く見て
いるわけではない。経過がどうなろうと、必ず「ギーシュを殺す」
という結果を出す。ギアッチョはそう「覚悟」しているのだ。
「シエスタ 今からよォーー 厨房の奴らを全員連れて・・・なんだ、
ヴ・・・ヴェ・・・ヴェラ・・・違うな、ヴォ・・・ヴァ・・・ヴァンダム・・・」
「・・・ヴェストリの・・・広場ですか・・・?」
「多分そいつだ そこまで来ちゃあくれねーか?咎められるよーなら
責任は全部オレが持つ」
シエスタはこの人なりの冗談なのだろうかと思った。しかしギアッチョの
眼は、悲しいほどに本気であった。

「決闘にゃあオレが勝つ・・・そいつは間違いねーんだが 別の意味で
お前らを失望させちまうかも知れねえ・・・
しかしオレとお前らが同じ『平民』だと言うのならよォ・・・ こいつを
見せねーわけにゃあいかねーんだ」
さっきと同様、シエスタはギアッチョの言葉の意味を量りかねて
いるようだった。しかしギアッチョはそんなシエスタの心中を忖度せず、
「頼んだぜ」とだけ言って食堂を出て行く。シエスタは一瞬逡巡したが、
「ま、待ってください!!」
やはりここでギアッチョを見送るのは、自分が殺すも同然だと思った。
「今日はよく後ろから呼び止められる日だなァァ~~ え?おい
決闘するなってんなら聞かねぇぜ 何度も言うがよォォーー
オレの勝利、それだけは決定してるんだ」
「ギアッチョ・・・さん・・・」
そう言い放つギアッチョに妙なスゴ味を感じたシエスタは、それ以上
何も言うことが出来なくなった。
「おっと・・・もう決闘が始まる オレは先に行くぜ」
言うがはやいか、今にも泣き出しそうな顔のシエスタに目もくれず、
ギアッチョは食堂を飛び出して行ってしまった。

ルイズはギーシュと対峙していた。
「フフフ・・・あと大体30秒だが・・・君の使い魔はどこにいるのかな?
ゼロのルイズ君」
ギーシュが心底哀れそうな声で――勿論演技だが――ルイズに語りかける。
「君の使い魔・・・随分とキレるのが早いようだが 逃げ足も速いようだねぇ
プッ・・・ハハハハハ」
ギーシュはニヤニヤと笑う。それを聞いたギャラリー達もドッと笑っている。
「ギアッチョは来るわ」
ルイズはギーシュの眼を睨んだまま、短くそれだけを返す。例えどれだけ
笑われようが、どれだけなじられようが――ギアッチョは自分に待っていろと
言ったのだ。ならば自分は彼を信じて待つだけだ。
――そうよ・・・、これが今の私があいつに返せる唯一の敬意 ならばどんな
侮辱だろうと罵倒だろうと・・・全て受け切ってみせるわッ!
ルイズは知らず知らずのうちに『覚悟』していた。ギアッチョが来るまで、何が
あろうと崩れないという『覚悟』を!
ギーシュはなおも続ける。
「1分経過だ!おいおいゼロのルイズ!!いつまで僕らを待たせるつもりだい?
僕らだって暇じゃあないんだ!ほらほら、怖がらないで杖を取ってかかってきなよ!
あの平民はもう森の中まで逃げてるかもなあ!ひょっとしたらもう森をうろつく
魔物に食われてしまっているかも!」
ギーシュの発言にギャラリーはまた爆笑する。キュルケは歯噛みしながらそれを
見ていたが、ルイズの眼に何の迷いも浮かんでいないのを知って飛び出したい
気持ちを抑えた。
――あれが、あの平民が言っていた『覚悟』というやつなの・・・?
キュルケのそんな疑問に答えるかのように、
「ギアッチョは・・・来るわ・・・!」
ルイズはただそれだけを繰り返した。そして・・・、

「やれやれ・・・ちょっとしたロスがあってよォォ~~~ ちぃとばかし遅れちまった
みてーだなァァァ」

ざわつくギャラリーを掻き分けて、ギアッチョが姿を現した。
一秒たりともギーシュから眼をそむけなかったルイズは、そこでようやく全身の
力を抜いた。
「どーやら・・・頑張ってたみてーじゃあねーか え?ルイズ 後はオレに任せて
そこで見てな」
またも意外なギアッチョのねぎらいである。
「お、遅いわよバカッ!」
などと照れ隠しに文句を言いながら、ルイズは非常な達成感と安心感を感じていた。
するとそこへ、
「ミス・ヴァリエール!!」
シエスタを先頭にマルトー達厨房の料理人や給仕達が駆けつけてきた。
「えーと・・・あなたは確かシエスタ・・・ こんなに大勢引き連れてどうしてここに?」
「分かりません・・・さっきギアッチョさんが食堂にやってきて 決闘をするから
見に来て欲しいと・・・」
「そう・・・ ・・・まさかあいつ・・・」
ルイズは理解した。ギアッチョはシエスタやマルトー達と対等に向き合う為に、敢えて
スタンドを見せることを決意したのだ。メイジだと――貴族だと思われる危険を冒して。
今、ギアッチョはそれほどまでに仲間というものに惹かれていた。

「ようやく来たようだねぇ面白頭君 てっきりもうアルビオンあたりまで逃げ出してる
んじゃあないかと思っていたよ」
ギーシュは心底愉快そうに言った。アルビオンとやらがどこにあるかは勿論知らな
かったが、その挑発のあまりの陳腐さにギアッチョはキレる気にもならなかった。
「逃げる?今逃げるっつったかァ~てめー?こいつは傑作だな!ええ?おい!」
わざわざギーシュがルイズに使った言葉でギアッチョは罵倒を返す。
「このギアッチョがてめー如きに逃げる必要なんざ全宇宙を探したって見つかり
そうにねーもんだがよォォォーーー 見つかるのはせいぜいてめー相手の決闘を
『やめてやる』理由ぐれーだぜ ええ?オイッ!」
ギャラリーから失笑が漏れた。ギアッチョはそのまま続けてギーシュを挑発する。
「今ここでよォォ~~~ 土下座をしてルイズに謝ってから学院を出て行きな!
そうすりゃあ『命までは』とらないでおいてやるぜマンモーニ!!ええ!?
やってみろよおい!!ああ!?」
ギーシュがルイズに言ったことをちょっとグレードアップさせただけのその挑発に、
ギーシュの怒りはいともたやすく爆発してしまった。
「きき、貴様ぁああーーーーッ!!!もう命乞いをしたって許さないぞッ!!
今ッ!!決闘を開始するッ!!!泣いて詫びろ平民がァーーーーーッ!!!」
「ハッ!てめーが言ったことを言い返されただけで面白いよーにキレてくれる
じゃあねーかマンモーニッ!!少なくともてめーの薄っぺらくて小汚ェ精神
よりゃあよォォーー このルイズのほうがよっぽど上等な魂を持ってるぜッ!!」
ギーシュが懐から乱暴に造花の薔薇を取り出すと同時に、ギアッチョの双眸が
スッと色をなくし――2人の決闘が始まった。


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