ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのパーティ-12

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
ふう、どうしたものか……。
才人と共に、ルイズの服を洗濯しながら、僕は空を見上げた。

衛兵の立場にありながら、昨日の騒ぎを収めるどころか率先して煽っていたと言うことで、僕は三日間、衛兵の仕事を干されることになった。
仕事を干されている間、僕はルイズから生活の糧を得るしかない。
しかし、既に昨日僕らは、三日間の御飯抜きを宣告されている。
言われた時点では、冗談だと思っていたのだが。
まさか本当に、その日の夜のご飯を抜いてくるとは。
乗馬鞭を調教と称して振り回したり、彼女は加減というものを知らないのか?
そもそも僕が何時、彼女にゼロと言ったのだ。
八つ当たりじゃないか。
僕の中のルイズ株は、連日ストップ安を記録している。もっとも上場を初めて、まだ三日目だが。

色々思い出して、凄く腹立たしい気分になった。
まあ、嫌なことでも仕事は仕事だ。
ここは我慢しよう。
ひょっとしたら、これから株価が上がるかも知れない。
そんな淡い期待を抱いて、洗濯を続ける。

「この、この!」
「?」

隣で洗濯していた才人が、突然、気張った声を挙げた。
見ると、ピンピンに伸ばす事で下着の紐を切っている。
……人が我慢をしている時に、どうしてお前はそれを無に返すんだ。

昨日洗った洗濯物を締まって、部屋のホコリを軽く取り除く。
ルイズは朝食の為、今、部屋にはいない。
コレで、ようやく一息つける。
そう思うと、空腹感が一気に襲ってきた。
正直、あのルイズなら、本気で三日ぐらいご飯を抜きかねない。
どうにかして、食事を手に入れる算段を考えなくてはならないな。

「そういえば昨日、才人は厨房で賄い食を分けて貰ったんでしたね」
「ああ。今からまた、もらいに行こうと思ってるんだが……お前も来る?」
「ええ、是非」

昨日の才人の様に手伝いをする必要があるかもしれないが、食事が得られることを考えると割は良い。
借りを作りすぎるのは遠慮したいのだが、どうこう言っている余裕が僕には存在しなかった。

「よう! よく来たな『我らの剣』!」

厨房に入るなり、40そこそこの男を中心として、コックやメイド達が僕らの来訪を歓迎してくれた。
才人が、僕らが食事を抜かれたということと、手伝いするので、食事を分けて欲しいと云うことを伝える。
目の前の親父(話しぶりから、ここの料理長であろう)は、話を聞くなりほほえんで、メイド達に僕らを厨房の適当な席に着かせるよう言う。

「それ、我らの剣に食事の用意をしてやりな!」
「へい、マルトー親方!」

席に着くなり、先程の親父…マルトーさんが、僕らの食事を持ってくる様、他のコックに呼びかける。
その際、マルトーさんがしきりに僕の方を見てきた。

「……」

じろじろと暫く眺めた後、マルトーさんは表情を崩して、厨房の奥へと入っていった。
何だったのだろうか?

椅子に座るなり、メイド達がすぐさまぱっと、席を作っていく。
この歓迎ぷりに、僕はいささか目を丸くした。
簡単な賄い食を分けて貰う程度のつもりだったのだが、これではまるで上客の接待ではないか。
僕たちは彼らに対して、何かをしただろうか?

考えていた事が、顔に出ていたのだろう。近くにいたシエスタが、僕に話しかけてきた。
「貴族って、私たち平民にとっては本当に怖いんです。私みたいな普通の平民には、特に」
「?」
「でも、お二人とも貴族を前にあんな毅然として…… 凄く、格好よかったです」

つまり僕たちは彼らにとって越えられない壁をぶち破った、平民代表という訳か。
なるほど。だから『我らの剣』だと。
「まぁ、マルトーさんが貴族嫌いだっていうのもあるんですけどね」

シエスタはそう、つけたして、僕ににっこりほほえんだ。
僕は、素直にかわいらしいと思った。

そういえば才人の方はどうしているだろうか。
僕は才人の座った席へ目をやる。
マルトーさんや、他のコックにもみくちゃにされながら、うらやましそうな目でこちらを見ていた。

そうこうしている間に、食事が運ばれてくる。
白い、ふかふかしたパンと、温かい、具材の多く入ったシチューだ。
僕と才人は、その料理を目の前にして、手を合わせる。

「「頂きます」」

「うまい!うまいよ! あのスープとは大違いだ!」
「これは、かなりおいしい……」

僕は一口食べ、その美味しさに驚愕した。
父さんや母さんと様々なレストランに行ったが、これほどの味に巡り会ったことはほとんど無い。
出されたシチューは、具材、ルー共に丁寧に作り込まれていて、口に入れればほぐれるようにとろけ、舌全体に味を行き渡らせる。
パンはもちもちとしていて、少ない唾液で芳醇な甘みを引き出している。
少し濃いめのルーが、程良い水気を帯びたパンの甘みと程良くマッチする事による、絶妙なハーモニーッ!
最高に『美味いぞ~~~!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハーッ!

そんな僕らの様子にマルトーさんは気をよくし、得意げに語り出した。

「そうだろ。そうだろ。こうやって料理を絶妙の味に引き立てるのも、一つの魔法さ。そう思うだろ? サイト、ノリアキ」

「全くその通りだ!」
「ええ、本当に。強く同意しますよ」

これは建前とかではない、僕の本心からの声だ。
たぶん才人もそうだろう。
マルトーさんは僕らの返答に、より一層気をよくして、僕らの首根っこに手を巻き付けてきた。
少々もさもさしている腕毛が、微妙に気持ち悪い。

「良い奴らだな。お前ら、全く良い奴らだ!」
マルトーさんは少し間をおく。
「いや、ノリアキははじめ、シエスタから魔法を使うって聞いてな。どんないけ好かない奴かと思ったが、なかなかどうして良い奴じゃないか。よし、『我らの剣』! 今から俺はお前らの額に接吻するぞ! こら! いいな!」

僕が返事をする前に、マルトーさんの唇は僕の額に触れていた。
なま暖かい感触がする。
うわああああああ……

「その呼び方と、接吻は止めてくれ」
僕の方を見ていた才人が、口を開く。
その言葉を聞いて、マルトーさんは僕の額からようやく唇を離した。
ナイスアシストだッ! 才人ッ!

「どうしてだ?」
「その、どっちもむずがゆい」

よし! 良いぞッ!
空気の読めない才人の事だから、気持ち悪いとか言い出すかと思ったが、実に良いッ!
ディ・モールトな断り方だ!

才人の言葉を聞いて、僕らの首にかけていた手を離し、両腕を自分の前に持っていく。
そして力強く、厨房の全員に聞かせるように言う。

「おまえは貴族のゴーレムを叩ききったんだぞ! わかってるのか、どういう事か!」
「ああ」
嘘をつけ。どうせ後先考えずに、怒りにまかせてつっこんだだけだろう。

その後、才人は槍を何処で習った、貴族が怖くないのかなど、質問攻めに合いながら、もみくちゃにされていた。
しかし、あまり僕の方に話しかけてくる人間はいない。

そう考えていたのが、またも顔に出ていたのか、シエスタが僕の思ったことに答えてきた。

「怖いんです。魔法が使える平民は、乱暴な方も多いですから」
またメイジと勘違いされている。もう、いちいち訂正する気も起きない。
いっそ、メイジだと突き通しておこうか?
まぁ、それはともかく。
「じゃあ、シエスタは僕が怖くないんですか?」
「ノリアキさん、友情に厚い方だって知ってますから。普通、力があっても助けに行くなんて、中々出来ないです」
「友情に厚い……ね」

友情か。
確かに僕と才人は友人だ。
だが、昨日までの時点で、僕は真の友がいるか? と言われて、Yesとは答えられなかった。
あのとき決闘に乱入しようとしたのも、結局は記憶の僕が、仲間と云うものを知っていたからかもしれない。
本当に僕は、友情というものを感じているのだろうか?
ああまでこだわった、真に心の通じ合う友人とは、何なのだろう。

「友情って、なんなんでしょうね」
「はい?」
「いえ、ふと思っただけです」
「友情ですか……」
シエスタはう~んと首をひねって、考え込む。
というか、出会って二日目の少女に何を聞いているんだ、僕は。
「すみません、シエスタ。今のは……」
「一緒にいて、楽しいとか、気が合うとかじゃダメなんでしょうか?」

一緒にいて楽しい。気が合う。
相手を立てるとか、そういうことばかり考えていた僕には、あまり強く考えていない感覚だった。

「そういうものですか」
「はい。私もはっきりとは言えないんですけど……」

一緒にいて楽しい。気が合う。
そういうことを考えながら、才人の方を見る。

まだマルトーさん達にもみくちゃにされながらも、相変わらずうらやましそうに、僕の方を見ていた。

「プッ!」

僕はあそこまで空気が読めない訳じゃないし、自分で言うのも何だが、三枚目というわけでもない。
一緒にいて楽しいかもしれないが、気は合いそうにないな。
そう思いながら、僕はこの食事の時間を楽しませて貰ったのだった。

「っと、すみません。いきなりこういう事を頼むのも何なのですが……」
「なんだ。『我らの剣』」

食事が終わり、そろそろルイズも部屋に戻るであろう所で、僕はあることを思いついた。
もう少し、親しくなってからとも思ったが、やはり言える内に言っておいた方がいいだろう。
下手に親しいと、返って切り出しにくい。

「何か、2,3人入れるぐらいの大量の水のはれる…そう、例えば古い鍋とかを譲ってもらえませんか?」
「鍋?」

不思議そうな顔をして、マルトーさんは首を傾げる。
だが、理由は聞こうとせず、

「まあ、いいさ。我らの勇者達と、この厨房との親愛の証として持っていけ!」

と快く、僕のお願いを聞き入れてくれた。

そうして、厨房の裏手にあった古い大鍋を手に入れた僕は、それを広場の端へ持っていく。
ここなら、塀が影になってばれることも無いだろう。

それじゃあ……
「作りましょうか」
「ああ」
「「五右衛門風呂を!」」

僕らは日本人ですから、お風呂は心の洗濯でありまして……
ここにあるようなサウナ風呂では、心の洗濯にはならないし、ゲロの臭いも落ちた気がしないので。

そうして僕らは早速、お風呂作りに取りかかったのだった。

To be contenued……

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー