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ハイゲイン


システムに対して入力された状態と
それに応じて出力される状態の比,
すなわち増幅率を,一般的に「ゲイン」と呼ぶ.

世の中にとって,入力された状態を
増幅することが重要な場合が多々ある.
たとえば,オーディオアンプで音楽を再生してくつろぐのに,
蚊の鳴くような音では聞こえない.
これを増幅して聞こえる音にするのが「アンプ」である.

けれども,そのゲインの効果が高すぎることも,
現代の日本では多々あることだ.
これを高いゲイン,ハイゲインという.
ハイゲインは,剛健性は高いが,度がすぎれば悪影響をもたらす.
しかも,タチの悪いことに,
ひとは多くの場合,それに気がつきにくい性質にある.
電車の中で音漏れをして音楽を聴く若者のように.


現代におけるハイゲインは,
情報社会システムはおろか,個人に至るまで浸透している.

マスコミュニケーションは,普通の事件でも,
必要以上に増幅して大げさに報道することがしばしばある.
また,誰が離婚した・再婚したなどと,
ほとんどの人が必要のない情報まで面白がって増幅する.
そのうえ,その報道には,
コメンテータやキャスターの,
洗練されない月並みな批判がたいていもれなく付く.

これだけなら,とりあえず問題はないが,
忘れてならないのは,視聴者が影響されることである.
真実を決めるのは,事実ではなくマスコミ,世論である.
一見して,個人がマスコミとは逆の意見を持っている場合は,
影響されないようにみえる.
しかし,マスコミから個人,世論へは,
ほかならぬゲインが伝染している.
物事をやや大げさに言ったり,
人のことを影で批判するといった症状はこの例である.


ある事象から,マスコミ,評論家,個人と辿って,事象に戻るという
ある種のネガティブフィードバックループは,
適切なゲインでは,制御システムとして非常に優れた調節器である.
しかし,マスコミ,評論家,個人のゲインがそれぞれ増大した場合,
その調節器は機能しないどころか,収束せず,
やがて発散を招くことは明らかである.

結果として得られるのは,利己主義の社会である.



私の尊敬する100年以上前のひとりの日本人は,

  ``日本は高度な道徳性と利他主義を持つ妖精の国である''

と言った.
私は,今の日本にも,そんな妖精が住んでいることを願う.
私の中にも住んでいることを願う.






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