401
③考える

体は重たいのに、目をつぶってみても眠気が再び訪れる気配はない。チハルは隣で気持ち良さそうに眠っているし、仕方なく一人で御門くんの言葉を思い出す。

(何が相応しいのか、か…。そう言われても私の力自体、よくわからないんだけどな)
御門くんは過ぎた力は、半端な覚悟では、身を滅ぼすのだとそう言っていた。覚悟はしているつもりだった。大事な人たちを守る為、迷いはないと思っていた。けれど。
「私がそう思ってただけだったのかな……」
思わず口にした自分の声は充分すぎるほどに不安を色濃く映し出していた。
(これじゃ、御門くんがよく考えろって言うのも無理ないか)
口元に自然と苦笑いが浮かぶ。

「ん……」
私の声に眠りが浅くなったのか、チハルが横で小さく身じろぎをした。チハルが目を覚まさないようにベッドから起き上がると、私はそっと部屋を抜け出してキッチンへ向かった。昨晩よりは幾分疲れはとれているものの、全快には程遠い。

おぼつかない足取りでなんとか辿り着いたキッチンに、思わぬ先客をみつけた。
「あれ?……春樹?」
「……姉さん?」
流しに手をついて振り向いた春樹の目はなぜか大きく見開かれていた。

「そんなに驚かなくても良いじゃない。……おはよう、随分早いね?」
「え…ああ、ごめん。姉さんこそどうしたの、こんな時間に」
「なんとなく目が覚めちゃったんだ。喉渇いたから水飲みにきたの」
そう言って冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出す。春樹に差し出すと首を振った。

「春樹って早起きだとは思ってたけど、いつもこんな時間に起きてるの?」
「まさか。最近ちょっと、夢見が悪くてね」
春樹は目を伏せて小さく笑った。そういえば、こころなしか顔色が優れないように見える。
「…よく眠れてないの?」
「大丈夫だよ、もともとそんなに熟睡する方でもないし。姉さんこそまだ早いんだしもう一眠りしたら?」
春樹は笑顔でそう言って私の背中を押す。

(春樹は大丈夫って言ってるけど…)

どうしよう?
①心配なので、どんな夢を見るのか聞く
②眠れるようにホットミルクを入れてあげる
③和ませる為「添い寝してあげようか」と冗談を言う

402
③和ませる為「添い寝してあげようか」と冗談を言う

「春樹、私が添い寝してあげようか?」
私の言葉に反応するように、私の背中に添えられた手がパッと離れる。

「あ、朝から何を言っているんだよ!」
むきになりながら、叫ぶ春樹の顔が紅潮して見えるのは気のせいだろうか。

(私、顔を赤くするほど怒ること言った?)

「冗談よ。なに怒っているの?」
「そんなことくらいわかってるよ。だけど、不意打ちだったから少し焦っただけさ」
言い訳するように、春樹は呟く。

「ほら。眠れない子供に添い寝しながら子守唄を歌ってあげると眠るって言うでしょ?」
「それは、子供の話だろ? 姉さんは俺を一体なんだと思っているんだよ」

(春樹の事は……複雑な感情も少しあるのだけど、言えるわけ無いもん)
女の子かばって怪我したと聞かされたときの胸の痛みを思い出す。
あの感情は確かに嫉妬だった。

「大切な弟よ。うーんやっぱり、自慢の弟かな? 出来のいい弟でもあるし……」
「あっそ。それは光栄の極みだよ」
「なんだか棘のある言い方よね?」
「姉さんにとって、いい弟であるようにこれからも努力させていただくって言っているのさ」
「ほんと、かわいくないわね」
「じゃあ、かわいい弟になるように努力させてもらうよ」

(あれ……和ませるつもりが言い争いになってる)

①「夢見の悪かった春樹を和ませるつもりだったけど、ヘンな事になっちゃったね。ごめん」
②「何が気に入らないのか言ってくれなきゃ分からないじゃない」
③黙って去る

403
②「何が気に入らないのか言ってくれなきゃ分からないじゃない」

春樹はちらりと私の顔を見て、ふいと目をそらす。
「……別に、何も。気に入らないなんて、言ってないだろ」
「嘘。春樹はいつも思ってること口にしないで肝心な事はしまいこんじゃうじゃない。
なんでも一人でどうにかしようとするし。そりゃ春樹に比べたら全然頼りないかもしれないけど、
私だって春樹のお姉ちゃんなんだよ。春樹だってたまには、言いたい事言って良いのに」

言いながら、改めて思う。ほんの少しの差ではあるけれど、私の方が春樹より年長だというのに
春樹の方がよっぽど『兄さん』らしい。
春樹は昔から世話焼きで、優しくて、優等生で。わがままを言って両親を困らせたことも、
反抗期で苛立って私に八つ当たりをすることも無かった。本当に出来すぎるくらいに出来た弟で、
私はそんな春樹を誇らしく思う反面、その都度血が繋がっていないということを強く意識させられたものだ。

「私だって、春樹の力になりたいんだよ」
「……それなら」
私が素直に気持ちを伝えると、春樹は顔をそむけたまま目を閉じた。吐き出した言葉は、まるで溜息のようだった。
「俺にずっと『良い弟』で、いさせて」
「良い…弟?……今でも充分、春樹は良い弟でしょ?」
春樹の不可解な言葉に、知らず眉間に皺が寄る。それとは対照的に、向き直った春樹は私の眉間に刻まれた皺を見つけておかしそうに笑った。

「…そう言ってもらえるなら一安心かな。姉さんも、もっと『良い姉さん』になってくれると嬉しいんだけどね」
「なんなの、それ」
軽口に頬を膨らませると春樹は「別に」とだけ答えて、私を再びキッチンから追い出しにかかる。

どうしよう?
①最近春樹はどんな夢を見るのか聞く
②仕方ないのでおとなしく部屋に戻る
③後で御門くんに安眠のまじないがないか尋ねる

404
③後で御門くんに安眠のまじないがないか尋ねる

「春樹が眠れないんだったら、今度御門くんに安眠のおまじないを聞いておくよ」
「いいって、別に」
御門くんの名前を私が言うと同時に、春樹の表情が少し曇った。

(春樹は御門くんの事が苦手なのかな?)

「遠慮しなくてもいいじゃない。御門くんならきっと教えてくれると思うし」
「本当にいいからさ。さあ、俺の心配より姉さんこそ昨日倒れたんだから、少しでも休んでおく!」

ぐいぐいと背中を押され、強制的にキッチンから追い出される。
「ちょっ、春樹」
仕方がないので、私は階段を上り自室に戻った。

「…愛菜ちゃん」
部屋に入ると同時に、ハチルが私に向かって突進してきた。
眠い目を擦りながら、私にぎゅっと抱きついてくる。
「チハル……どうしたの?」

「ボクがおきたら、愛菜ちゃんがいなくなってたんだもん」
「キッチンでお水を飲んでいたの。まだチハルは寝ていいんだよ」
「いやだ。愛菜ちゃんが起きたなら、ボクも起きてる」
「じゃあ、私も寝るから一緒に寝よう」
「……うん」

チハルと再び、ベッドへと入る。
チハルは満足そうに、私にしがみ付きながら顔を埋めてきた。
(かわいいなぁ……)

①御門くんを呼ぶ
②チハルともう少し話をする
③春樹の事を考える

405
②チハルともう少し話をする

(そういえば、チハルならあの影を退治できるのよね…)
甘えてくるチハルを見てふと思い出す。
10歳という外見年齢以上に、幼い感じのあるチハルだが本当に力は強いのだろう。

(ためしに頼んでみよう…)
「ねえ、チハル?」
「なあに?」
「チハルは隆が作れる影…隆はミストっていってるけど、あれを退治できるくらい強いのよね?」
「うん!」
眠そうだったチハルが、私の言葉にパッチリと目を開けてにっこり笑う。

「それでね、お願いなんだけど」
「愛菜ちゃんのお願いならがんばるよ」
「ありがとう、でね、お父さんとお義母さんにはおまじないをしたんだけど、春樹にはまだしていないの」
春樹の名前が出た途端、チハルの顔が少し曇る。

「春樹は私に負担をかけないように、おまじないをさせてくれないと思うのよ。だから、代わりにチハルが春樹を守ってくれない?」
私の言葉に、チハルは少し考えたようだったが、すぐに頷く。

「それが愛菜ちゃんのおねがいなら、ボクが春樹を守るよ。きのう春樹ともいっぱい約束したし」
「え?」
チハルが思った以上にあっさりと頷いたのにも驚いたが、チハルが春樹と約束をしているというのにも驚く。

(昨日ってことは、私が寝た後よね…)
一体二人はどんな約束をしたんだろう?しかも、いっぱいって…。

①どんな約束をしたのか聞く
②気にせずに寝る
③考える

406
①どんな約束をしたのか聞く

「どんな約束をしたのか、私に教えてもらってもいい?」
「えーっとね、わがままは言わないとか、愛菜ちゃんが困る事はしないとか。
あとね、春樹が困っていたら助けてあげるのも約束したよ」
得意げに語るチハルを見ながら、ふと疑問が浮かぶ。

(あれ? 私が寝る前は春樹の事を嫌がっていたみたいだけど……)

「チハル。あれから春樹と仲良しになったの?」
「ちがうよ、仲良しってわけじゃないよ。ボクは春樹の事がキライだもん。
ボクの後から入ってきたのに、愛菜ちゃんとすごく仲良くするしさぁ。
だけどね、愛菜ちゃんと春樹は家族だから、春樹がいなくなっちゃうと愛菜ちゃんが悲しむって教えてもらったの」
「それは、春樹が言ってたの?」
「うん。たくさん約束したから覚えるの、すっごく大変だったんだよ」

(ということは……春樹に上手く言いくるめられたんだ)

黙っている私を見て不安に感じたのか、チハルは私を覗き込んだ。
「春樹の言うことを全部守ったら、愛菜ちゃんは喜ぶって言ってたけど……、
愛菜ちゃんはほんとうにうれしい?」
「え?」
「ねーねー。うれしいの? 教えて」
私の腕をぐいぐい引っ張りながらチハルが尋ねてくる。

①「うん、とってもうれしいよ」
②「一番うれしいのは、チハルが春樹と仲良くすることかな」
③「チハルは軽くだまされてるよ」

407
②「一番うれしいのは、チハルが春樹と仲良くすることかな」

ちょっとずるいかなとも思ったけれど、これは私の本心だ。
私がそういうと、チハルがちょっと首をかしげる。
「どうして?」
「チハルも春樹も大好きだから、大好きな二人が仲良しだとうれしいよ。逆に喧嘩したら悲しくなっちゃう」

私の言葉に、チハルは少し考えて小さく頷くとにっこり笑った。
「わかった!春樹とも仲良くする」
「チハルはいい子ね」

チハルの頭をなでてあげると眠かったのを思い出したのか、チハルが小さくあくびをする。
「寝なおそうか」
「うん…」

毛布をかけなおしてチハルを引き寄せる。
柔らかい髪が頬にあたってとても気持ちがいい。
チハルは少しの間もぞもぞと動いていたけれど、落ち着く場所を見つけたのかすぐにおとなしくなって寝息を立て始めた。
私も目を閉じるとゆっくり意識が薄れていった。



(あ、夢か…)
御門君がいうところのチューニングをして誰かに同調するのとは違う。
目の前では穏やかな日常が優しく流れている。

その夢は…
①お母さんの居る夢
②知らない男の子の夢
③みんなでピクニックに行く夢

408
②知らない男の子の夢

病院のような施設の中庭に私とその男の子は座っている。
その庭を見渡してみると、ピンクや白のツツジの花が満開を迎えていた。
季節は、五月か六月くらいだろうか。

「せっかく外に連れ出してやったんだ、感謝しろよ」
そう呟きながら、十二、三歳の勝気そうな目をした男の子は、突然上を指差しながら私を見る。
「おい、あれは何か答えてみろよ」
指の示す方を目で追ってみるけれど、何も思い出すことは出来ない。
少しだけ悲しい気分になりながら、私は首を横に振る。
「ばっか。この前教えたばかりだろ、あれは空」
「ソ、ラ」
「そうだ。あの大きくて青いのが空。フワフワ浮かんでる白いのが雲」
「ク、モ」
「じゃあ、俺の名前は覚えてるか?」
「ス、オ、ウ」
「なんだ、お前もやれば憶えられるんじゃん」
男の子はなんだか少し照れくさそうだ。
だけど、今の私にはなぜ照れくさそうにしているのかが分からない。

「お前の名前は?」
そう尋ねる男の子の瞳にすこしだけ、影が落ちる。
なぜ、そんな複雑な顔をするんだろう。
「コードNO.543」
私は無機質な口調で答える。
「ちがうって。俺と一緒のときだけはコードナンバーで言わないって決めただろう。
ていうか、俺が一方的に決めただけだどさ…。もう一度聞くからな、お前の名前は?」
「こよみ」
そう。私はこよみとこの少年に名づけられた。
男の子は満足そうに、微笑みながら私を見つめる。
さわやかな初夏の風が二人の間を吹き抜けていた。

半分は私の意識で、半分は別の誰かの意識に支配されている。
私は傍観者でもあり、当事者でもあった。
大堂愛菜として残る私自身の意識がこれは周防さんの少年時代だろうかと考えている。
私は…

①もう少し続きをみる
②起きる
③考える

409
③考える

(あれ、この男の子……どこかで、見覚えが……)
不意に『大堂愛菜』の……私の意識がそんな疑問を提示してきた。

「………」
「………」

少年と『こよみ』のやり取りは止まることなく続いていく。
私はそれを意識の隅に留めつつ考え始めた。

(そう、確かに私はこの少年に見覚えがある。……でも、どこなの?)

考える。
自分の持ちうる限りの意識と記憶を使って、情報を手繰り寄せ取捨選択していく。

(今じゃない……今見ている光景じゃない。でも、どこか近くのような気がする。
……いつ、どこで、私はあなたを知ったの?)

『罰、だから。だから、いい、んだ』

『信じる、って言葉、嬉し、かった』

(!!!……そうだ!)
やがて、思い浮かんだのは……春樹が帰ってくる前に見た夢の光景だった。

あの時に私の腕の中で横たわっていた少年。
今、目の前にいる少年よりは若干成長していた気もするけれど……でも、間違いないと思う。

(でも……)

私がさらに考えを進めようとしたその時。

「そうだっ。今日はお前にいいものやろうと思ってさっ」
目の前の少年が、そう言いながらポケットを探り始めた。

(あ……)

気を取られたせいなのか、再び『大堂愛菜』としての意識が曖昧になっていく。
そしてその代わりに目の前の光景がだんだんと鮮明になりはじめた。

それに気がついた私は……

①夢と割り切り、二人のやり取りに意識を戻した
②怖くなって、目を覚ましたいと願った
③更に考えることで意識を保とうとする

410
②怖くなって、目を覚ましたいと願った

このまま夢を見ていて良いのだろうか。ただの夢かもしれない、けれど私であって私ではない、誰かの記憶の奥を覗き込んでいるような、そんな不思議な感覚に囚われる。
目の前の少年の無邪気な様子をぼんやりと眺めているうちに、鮮明になったはずの景色が少しずつ色を無くしてモノクロの世界へと変化してゆく。

(……やめて、これ以上は――いけない)

なぜかそう思ったのは私なのか、それとも『こよみ』の方だったのか。全ては瞬く間に暗転した。



「……ちゃん、愛ちゃん」
誰かが私の肩を揺すっている。ゆるやかな振動が心地よくて、再びうとうととまどろんでいると声の主が柔らかな声で告げた。
「もう八時になるわよ、遅刻しちゃうわよ」
「ん……はち、じ……?っ、八時?」
瞬時に覚醒して飛び起きると、目の前にはフライ返しを片手にお義母さんが朝に相応しい爽やかな笑顔で立っていた。

「おはよう、愛ちゃん。朝ごはんできてるわよ」
「朝ごはんていうか、八時じゃ、ほんと遅刻しちゃう!」
あたふたと支度を始めた私の横でお義母さんはおっとりと言った。
「大丈夫よ、まだ七時前だから」
「……え」
「前に、お父さんに教わったの。愛ちゃんが起きなかったら遅刻しそうな時間を言えばすぐに起きるぞって。気持ち良さそうに寝てるから、起こしたら可哀想かとも思ったんだけど……」

(お父さんてば……)
拍子抜けしてベッドに座り込むと、お義母さんはだましてごめんなさいね、と申し訳なさそうに続けた。
「ううん、起こしてくれてありがとう。いつも時間ギリギリじゃさすがにマズイし」
「そう?それなら良かったわ」
意識して笑顔で答えると、お義母さんはほっとしたような笑顔を見せた。そのお義母さんを前に、チラリと目をやってベッドの上のチハルがぬいぐるみの姿なのを確認する。
(お義母さんにもチハルの話をするんじゃ収集つかなくなっちゃうよね……)

内心ほっと胸を撫で下ろして、不自然にならないように当り障りのない会話を探す。
「春樹はいつも時間ギリギリに声かけるから、朝はすごく忙しいんだ。今日はゆっくりできそうかも」
「あらそうなの。朝もたまにはゆっくりしなくちゃね。……そういえば春樹は今日はもう学校に行ったわよ」
何気なくそう言ったお義母さんの言葉を受けて、私は目覚まし時計に目をやった。時刻はもうすぐ七時になるところ。

(春樹、昨日は何も言ってなかったけど…何か用でもあったのかな?)

どうしよう?
①お義母さんに理由を聞いていないか聞く
②どうせ文化祭の用意だろうから気にしない
③メールで春樹に勝手に早く行った事について文句を言う

|