391
②チハルに理由を聞いてみる

「ところでチハル、どうして急に人の姿になったの?」
私の問いに、チハルはにっこり笑う。

「愛菜ちゃんがボクを大事にしてくれるからだよ」
「?」
チハルの答えではさっぱり解らない。

「夢の中でも言ったとおり、人に作られたボクたちは人に大事にされればされるほど力をつけることが出来るんだ」
「うん」
「愛菜ちゃんはもともとボクを大事にしてくれていたし、ボクが動けるようになってからはもっと大事にしてくれた」
いっぱい話しかけてくれてリボンも新しくしてくれたしと、チハルはうれしそうに首のリボンをなでる。

「だから、急に力がつき始めたなー、って思ってたんだ」
「要するに、人の姿になることが出来るくらい力がついたってこと?」
「うん、そう」
うれしそうに笑うチハルを抱き上げたまま、私はベッドに腰掛ける。
チハルをひざに乗せるように座ると、チハルはギュっと抱きついてきた。

「それに、愛菜ちゃんはトクベツだよ」
「え?」
抱きついた体を少しだけ離して、私を覗き込むようにチハルは視線を合わせてきた。

「ボクと同じくらいかわいがられてる人形ってこの世の中にはたくさんいるよ」
確かにそうだと私は頷く。

「でも、10年くらいじゃ普通は人の姿になることは出来ないよ。愛菜ちゃんだから、だよ」
そう言ってまたぎゅっと抱きついてくる。
私がその言葉に疑問を抱いたその時、ノックの音がして部屋の戸が開いた。

「姉さん、なん…」
不自然に言葉を途切れさせ、春樹が目を丸くしている。
見ず知らずの男の子が部屋にいて、私に抱きついているのだから当然といえば当然だろう。

私は…
①チハルを紹介する
②とりあえずおまじないの話をする
③あわててチハルを引き剥がす

392
①チハルを紹介する

(春樹だったら話しても大丈夫よね)
ドアノブに手をおいたまま固まっている春樹に手招きをする。春樹は神妙な顔でドアを閉めると黙って私たちの正面に立った。

「……で。この子は誰だい?まさか姉さんの子供、とか言わないだろうね」
チハルから視線をそらさずに春樹が言う。こんな時でも春樹は比較的冷静だ。見つかったのが春樹で良かったとそう思う。自分で言うのもおかしいけれど、お父さんやお義母さんにこの状況を上手く説明できるとは到底思えない。

「この水色のリボンに見覚えない?」
手を伸ばして枕もとにおいた揮いリボンを指差す。その間もチハルは私にしがみついたまま首をめぐらせて春樹を見上げている。
「古い…リボン?ずいぶん焼けてるみたいだけど。……まさか」
「さすが春樹。察しが良いね」

春樹はどうやら古いリボンが示す何かに思い当たったようだ。それなのに、春樹はチハルを凝視したまま言葉にしようとしない。しばらく待ってはみたものの、チハルと春樹の間に流れる微妙な空気に耐え切れず私から声をかけた。
「この子は隆がくれたくまのぬいぐるみだよ。動けるようになったのは春樹も見たでしょ?」
「それは、確かに見たよ。でも俺にはこの子の姿はどう見ても人間、に見えるんだけど」

春樹は控えめに、それでもはっきりと私の説明に納得がいかないと訴えている。
(それもそうか、そう簡単には信じられないよね…)

どうしよう?
①チハルの口から説明してもらう
②論より証拠、春樹にチハルを抱き上げてもらう
③とりあえず先にまじないの話をする

393
①チハルの口から説明してもらう

私自身、突然の事で上手く説明できる自信が無い。
(ここはチハルに説明してもらった方が早そうね)

「チハルから春樹に説明してもらってもいい?」
私の言葉に、チハルは「うん!」と大きな返事をすると、元気よく話し出す。

「えーっとね。愛菜ちゃんとリボンのことでお話がしたくて……夢に入ったんだよ。
それで、愛菜ちゃんがボクと会えてうれしいって言ってくれたんだ。
指きりしてお別れしたんだけど、またお話したくなってきちゃったから、
ボクがへんしーんって思ったらまた愛菜ちゃんとお話できたの。すごいでしょ」

「……………」
説明に納得がいくはずもなく、春樹は黙ったまま何も言えなくなっていた。
逆にチハルの方は、ちゃんと説明できたと思い込んでいるのか春樹の言葉をじっと待っている。

「その説明では、ちょっと分かりにくい……かな?」
なんとも言えない沈黙に耐えかねて私が口を挟むと、チハルは頬を膨らまして反抗する。
「えーっ、ボクが悪いんじゃないよ。春樹がバカだからわからないんだよ」
それだけ言うと、チハルは私の影に隠れてべーっと舌を出した。

(ちょ、ちょっとチハル……)

「こんな子供に呼び捨てにされて、更に馬鹿と言われるなんてね……」
春樹は顔を引きつらせながら、チハルを見下ろしている。

①「春樹、子供に怒っても仕方ないでしょ」
②「チハル、馬鹿なんていっちゃダメよ」
③笑ってごまかす。

394
②「チハル、馬鹿なんていっちゃダメよ」

諭すようにそう言うと、チハルは下を向いてむっつりと黙り込んだ。それでも私にしがみついた手は放さない。

「春樹は怒らなかったけど、馬鹿なんて言われたらチハルだって嫌な気分になるでしょう?それに、春樹はチハルよりお兄さんなんだから」
「……ぼくのほうがずっとまえから愛菜ちゃんといっしょにいたもん」
チハルは小さな声でそう漏らした。

(チハル……)
チハルの声は春樹には届かなかったのか。春樹は諦めたように溜息をついて、私を見た。
「姉さんが言いたくないならそれでも良いさ。ただその子の親御さんが心配しないように家に帰してあげなよ」
「春樹!だから…」
「で、さっきは何の用事だったの?」

春樹はまったくチハルの話を信じていないみたいだ。腕を組んで私の次の言葉を待っている。
(こんなかんじじゃ春樹に今まじないをかけるのは難しいんじゃないのかな。チハルもご機嫌斜めになっちゃったし…)

どうしよう?
①とりあえずチハルをあやす
②まずは春樹にチハルの言うことを信じてもらう
③チハルの件はひとまずおいておいてまじないを試す

395
②まずは春樹にチハルの言うことを信じてもらう

(喧嘩とはいえないけど、しこりが残ったままおまじないしても効果がないかもしれないし…)
御門くんの言葉を思い出す。

「ちゃんと説明するわよ、でも私もあんまり良く分かってないから…」
「確かに今の説明じゃね…」
私の言葉に、春樹が苦笑する。
それに、チハルがムッとしたように春樹の前に出た。

「なんだよ、愛菜ちゃんのいうこと信じないのか!?」
どうやらチハルは自分の説明が悪かったことよりも、私がぬいぐるみのチハルだといったことを春樹が信じないことに怒っているみたいだ。

「信じないとは言っていないだろう」
その言葉に、春樹もムッとして言い返す。

「でも、しんじてないじゃないか!」
「ちょ、ちょっと二人とも」
にらみ合う二人に私はあわてる。

「愛菜ちゃんが言ったこと正しいってしょうめいするんだから!」
言うや否や、ちはるは軽い音をたててぬいぐるみの姿に戻る。

「…」
「…」
ぬいぐるみにもどったチハルは、勝ち誇ったように腰に手をあてて春樹を見上げている。

(そうよね、最初からこうすれば早かったんだわ…)
思わず脱力た途端、ぐらりと視界が揺れた。

「姉さん!?」
(あれ?)
何が起こったのかわからないまま、ベッドの上に倒れる。
体が鉛のように重い。

「愛菜ちゃん!だめだよむりしたら!今日は力をつかいすぎてるんだから」
「力…?」
ぬいぐるみから人の姿に戻ったチハルがあわてたように言った言葉に、春樹が眉をしかめる。

どうしよう…
①説明する
②何も言わない
③大丈夫だといっておまじないをする

396
①説明する

「おまじないをお父さんとお義母さんにしたら、疲れちゃったみたい」
倒れた体を上半身だけでも起こそうとするのに、うまく力が入らない。

「愛菜ちゃん。だいじょうぶ?」
チハルは私を覗き込むようにして尋ねてくる。
「心配かけてごめんね、チハル。今日はもう無理しないから安心して」
「うん……」
チハルはぎゅっと私にしがみついたまま、離れようとはしなかった。

私とチハルの会話を黙って聞いていた春樹も、段々事態が飲み込めてきたのか顔つきが神妙なものに変わってくる。
「さっき母さんが言っていたまじないって……まさか」
「本当はファントムを取り付かせないためのおまじないを施していたの。
御門君は私に負担がかかるから教えたくなさそうだったけど、お願いして強引に教えてもらってね。
思ったよりも大変だったから……ちょっとだけ後悔してるところ」
そう言って、私は笑ってみせる。

「姉さん……。なんて無茶するんだ」
春樹はふらつく私を支えると、そのままゆっくりベッドに寝かせてくれる。
「ごめん、春樹。おまじないは明日以降になっちゃうみたい」
「構わないよ。それより、ゆっくり休まなきゃ。……チハルも邪魔にならないようにこっちへ来るんだ」
大人しく春樹の言葉に素直に従って、私からチハルが離れる。
「愛菜ちゃん、早く元気になってまたお話しようね」
「ありがとう、チハル」

①もう少し話をする
②目を閉じる
③ふたりに「おやすみ」と言う

397
②目を閉じる

視界を閉ざした事で急速に意識が現実から遠ざかるのを感じる。
(もう少し、春樹にちゃんと説明しておかないと…)
どうにか踏み留まろうと抵抗を試みたものの、体全体を沈み込むような睡魔に捕らわれた。

「…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ」
(春樹…?)
意識を手放す寸前、遠くに春樹の声が聞こえた気がした。



体が重く、冷たい。なんだか自分の体じゃないみたいだ。
ふと気がつくと何もない闇一色の空間に、一人私は立っていた

「やはり、僕が想像していたとおりになったようです。…愛菜、あなたはまた無茶をしましたね」
心細さを感じていたところに、突如頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
振り仰いで見ても広がっているのは吸い込まれそうな暗闇だけ。たまらず声の主に大きな声で呼びかけた。

「御門くん?私また夢を見てるの?」
「ええ、そうです。あなたの肉体の方が休息を欲したのでしょう、半強制的に眠りに落ちたようです。いきなりあれだけのことをすれば、無理もない」
相変わらず姿の見えない御門くんの声は、私の耳にはこころなしか呆れているように聞こえた。

「ねえ、どうして今日は御門くんの姿が見えないの?」
叱られているような、いたたまれない気分になったので、それとなく話題を変えることにする。
御門くんは少し間をおいていつもの声で答えた。
「僕の姿が見えないのはあなたが疲弊しているからでしょう。こうしてあなたと話ができるのは、互いの精神世界の波動が合っている為…いわばラジオのチューニングが合っている状態だからです」
「チューニング?それって私もしてるの?」
「はい。僕は意識して行いますが、あなたは常日頃無意識のうちに行っているようですね。本来のあなたならばそのチューニングも難なくこなせるはずなのですが、それだけ今のあなたは消耗が激しい、という事です」

うまくかわしたつもりがまた同じ話題に戻ってきてしまったようだ。表情が見えない分、余計にきまずい。
「えーと…でも、今日はお父さんとお義母さんだけで、春樹にはまじないかけてないよ?」
ごにょごにょと口元だけで言い訳を言うと、御門くんから意外な言葉が返ってきた。
「そのようですね。ですがおかげで明日以降、春樹さんにまじないをかけるのは難しくなったようです」

(『おかげで』?春樹にまじないをかけづらくなった?)
一体どういうことだろう?

①どうして春樹にまじないをかけづらくなったのか尋ねる
②いつならまじないをかけられるのか尋ねる
③まじないの他に方法はないのか尋ねる

398
③まじないの他に方法はないのか尋ねる

御門くんの言葉に、眠りに落ちる寸前の春樹の声を思い出す。
『…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ』
きっと春樹は私に負担をかけない為に、おまじないをしようとするのを止めるだろう。

「他に方法はないの…?」
「あなたに負担をかけない方法がひとつあります」
「それは?」
御門くんの言葉に、私は飛びつく。

「あなたのそばに居る精霊」
「精霊…?チハルのこと?」
「はい、昼間見せてもらいました」
そういえば、食事の時に御門くんと周防さんに見せたんだった。

「あの精霊は力を急速につけ始めています。ファントム程度なら消滅させることが出来るでしょう」
「消滅?退治できるってこと?」
「はい」
チハル自身力が強くなってきたといっていたが、そこまでの力を持っているとは思わなかった。
そういうと、御門くんの頷く気配がした。

「僕も驚いています。昼間とは段違いに強くなっている。あの精霊がそれを望んだのでしょうが、あなたに大切にされていることも関係していると思います」
御門くんにしてはめずらしく、自分の思っていることを言葉にする。

「これほど力がつくと分かっていれば、あなたにおまじないを教えず、最初から精霊に力を借りることを提案したのですが」
御門くんは私におまじないを教えたことを後悔しているみたいだった。

でもチハルにお願いするとして、チハルが素直に頷いてくれるだろうか?
私のためなら喜んで何でもしてくれそうだが、春樹を守るためといったら嫌だといいそうだ。
さっきの春樹とチハルの言い合いを思い出して、思わずため息をつく。

いろいろ考えていると、御門くんが言った。
「さあ、もうちゃんと休んだほうが良いでしょう」
御門くんの言葉と同時に、気配が遠くなっていく。

私は…
①御門くんを呼び止める
②チハルを説得する方法を考える
③なんとか春樹におまじないをする方法を考える

399
①御門くんを呼び止める

「御門君、ちょっと待って」
離れていく気配を追うように、私は言った。
「………なんでしょうか?」
再び、私に意識が向けられるのを感じる。

「御門君ってすごいんだね」
両親におまじないを施しただけで私は倒れてしまった。
御門君が易々とこなしているから気付かなかったけれど、実は大変なことだった。
どうして簡単に力を制御できるんだろう。

「……僕がですか?」
「うん。夢に現れたり、契約したり、意のままに力を操れるのがすごいと思って」

今回のおまじないも私にもっと力があったら、効率よく事を運べるはずだった。
そんな自分をどうしてももどかしく感じてしまう。

「御門君がうらやましいな」
「……………」
私の言葉に、御門君は急に黙り込んでしまった。
表情で読み取ることが出来ない分、不安が増していく。
「御門君。聞こえてる?」
「……程度を超えた力は災いしか生みません。あなたは…それでも望みますか?」
降り注ぐ声に少しだけ溜息が混じった。

(御門君……)

①「軽はずみな言い方だったよ。ごめんね」
②「力を操れるようになったのは御門君が努力したからなんだね」
③「それでも私は力が欲しいよ」

400
③「それでも私は力が欲しいよ」

終わらせると決めた以上、迷っている暇は無い。
もし、力を手に入れる方法があるのならどうしても知りたかった。

「焦る気持ちはわかります。ですが……あなたは何もわかっていません」
どこか呆れたような、諭すような、含みのある口調で御門君は言った。

「私が? 私はただすべてを終わらせたいだけなの」
私は降り注ぐ声に向かって、叫ぶ。

「闇雲に力を求めても、その先にあるのは破滅だけです」
破滅。淡々と語る御門君だからこそ、その言葉に息を呑んだ。
「半端な覚悟では、自分自身の力に潰されてしまうでしょう。
僕や周防は、あなたが思っているよりもずっと残酷なのです」

「でも……!」
御門君も一郎君もなぜか肝心なところで私を突き放す。
私の考え方のどこがいけないんだろう。

「破壊する力もあれば、生かす力もある。
僕が必ずあなたを守ります。
その上で、あなたにとって何が相応しいのか――よく、考えてください」

その言葉を最後に、気配が途切れる。
意識が浮上し、私は目覚めた。

「すー、すー」
すぐ隣では、チハルが人間の姿のままで寝息を立てていた。
ずっと私のそばを離れなかったんだろう。

時計を見るとまだ朝の五時過ぎだった。

①チハルを起こす
②もう一眠りする
③考える

|