おはよう

色鮮やかな桜色の爆発が静寂の夜空を一片の容赦なく粉砕する
爆発音は無い、発光も朝日のように優しく、しかし衝撃は激烈であった
高層ビル群が飴のように溶け崩れ、空を覆い尽くしていた暗雲が見渡す限りにおいて消滅する
空間が歪んでいた。町の夜空に「穴」が空いている。極彩色の雷が歓喜して咲き乱れる

魔界にでも迷い込んだような光景にほむらはめまいを覚える
この世にあらざる奇跡を操る事をさして「魔法」と呼ぶ。神の律法を脱した力はどんな事でも起こしうる
しかしそれにしても目前の光景は常軌を逸し過ぎていた。

ほむらの視線の先で少女が浮遊している。見えない床に立つように中空に静止していた
魔法少女、鹿目まどかに飛行能力は無い。彼女は重力に逆らう魔法を有してはいなかった
しかしまどかは現にそこにいた。当たり前のように浮遊していた
「鹿目まどかとはそういうものだ」と、彼女が「決定」したからだ。

宙空から落下していたほむらの姿が掻き消える、瞬間移動を利用した擬似的な飛行能力
ほむらの左腕の盾が変容し、鞭を思わせる柔軟な剣の形をとる
まどかの右腕が光り輝き、おおよそ儀礼用にしか見えない細身のレイピアが現れる
落下の勢いをそのまま叩きつけるほむらと、軽く腕を振ったようにしか見えないまどかの激突の決着は、
高層ビルディングの壁面に叩きつけられたほむらの姿が物語る。
刀剣の無限生成は今は亡きさやかの魔法だった。まどかはあらゆる魔法を自在に思い描き、発現する
それはまるで胸躍らせながらスケッチブックに絵を書くように。ありえない法外だが、実際にありえていた
「鹿目まどかとはそういうものだ」と、彼女が「決定」したからだ。

まどかの周囲に桜色の光が瞬き、純白と薄桃色のアンティークライフルが無数に出現する
慌ててその場を転移して飛び離れるほむらの足元で、穴だらけになった建造物が爆散する。
窮地を脱して息をつくほむらの体を桜色の鎖が捕縛するが、即座に生成した炸薬で強引に弾け飛ばす。
ほむらが右手をまどかに、私のもとに来て欲しいとでも言うようなしぐさでかざし・・・・握りつぶす
特大の瀑布が夜の闇に真っ赤な爆炎を咲かせる。視界が晴れ、現れたまどかの姿は、全くの無傷
手のひらのようにも、翼のようにも見える白い光のマントが、少女を優しく包んでいた。

壮絶な戦いを演じながらも、二人の少女の心には憎しみの欠片も存在していなかった
鹿目まどかは願った。時間を巻き戻し、大好きな友達を優しい日々に戻してあげたいと・・・・。
暁美ほむらは願った。魔法を消し去り、大切な友人を凄惨な戦いの責務から解放したいと・・・・。

この戦いに勝利したなら、お互いのいずれか一人を平穏な世界に返してあげられる代償として
たった一人で世界から魔女がいなくなる日まで戦い続けなけなければならない。
もはや魔女のほかは誰もいない世界で、辛い運命を自分だけで背負い、それでも大切な人だけは救いたいと。
二人の魔法少女は決意した。誰よりも幸せになってもらいたい人のために、
その相手を一切の容赦なく打ち伏せると。

二人の少女が全く同じ構えを取る。右手を敵手に向かって、左手を己に添える射手の体勢

まどかは純白と薄桃色と白銀に輝く、無垢と信心と傲慢のアンヘルアーチェリー
ほむらは漆黒と紅蓮と金色に煌く、献身と独善と純真のノーブルベトレイヤー

まどかは桜色の、ほむらは紫色の光の矢をつがえる。お互いのソウルジェムが急速にどす黒い闇に陵辱されてゆく
二人の弓から矢が爆発するように放たれる。
夜闇を光条で切り裂くように、もしくは暗黒で塗り潰すように
紫の光が桜色の光に飲み込まれる。
ほむらがまどかに勝てる道理があるはずも無かったのだ。なぜなら・・・・
「まどかはほむらを幸せにするための魔法少女だ」と、
鹿目まどかは願ったからだ。



はっと息を飲み、まどかは目を覚ました。へんてこな体勢で寝てしまったのか、ほっぺたが痛かった
抱きしめた枕で頬をさすりながら、まどかは想いをはせる。
何か変な夢を見た気がする。大事な友達とケンカしてしまったような、すごくこころ残りのある夢
実際にはいるはずのない夢の中のともだちに、むしょうに謝りたい気持ちがこみ上げてきて
ばふっとまどかは枕に顔をうずめて、朝の空気を一杯に吸い込んだ。
もし会えたらどうしようか?許してくれるかな?友達になってはくれないかもしれないけど
もし一緒の学校にいけるような日が来たなら、思いっきりの笑顔でこう言いたい・・・・。


『   おはよう   』




    /           ,ヘ   |ヽ lヽ   ヽ  ヽ \
   ./   |    / / | / |   | __、,|__\_l、ヽ  ヽ ヽ`=--
   |   | l |  | | /|  | ,.|   |  ヽ_|___ヽ ヽl | .|  ヽ
   |   | | |  | | /| |,イ ヽ |   .,r=,cーl、| |  |ヽ |
   |   .| v  | |/l/゙、|,r- ゙、 ,|   'ヽz=り  .l|ヽ | ゙、|
  // / |  |  .| |,/  イ,-ー V     /// / ヽ |ヽ l|
  /イ l| .|  | |   V ,イli゙',,>     ヽ    /  〉|、ヽ
/ | | | |  | |.i、 、.V 弋/              / | |ヾ
   l| ヽ| ヽ |=、 ヽ  ///      ,.,     ,イ |.|l|、_,| |
   l| ,| ,   | {ヽ |ヽ         ´   , ',,,) .リ | `ヽ、
    ヽ l i  | ヽ,l ト >、 ___       / ,l     、 .|  ヽ
     v/|  .| ヽ | .|r,y\   ̄ ̄ ̄ ヽ! _ }.)   ゙、.l  ヽ.、
     /ヽ!   V | |ヽヽ, '`ヽ  __    イ `´/    ヽ|   ヽ\
                  `゙´ `   `゙ ´

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年05月03日 00:35