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古泉一樹の誤算 未公開シーン エピローグ

最終更新:

hiroki2008

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エピローグ

没になったパターン



例によって、その後の話になる。

「よかったよかった」俺は笑顔で言った。
「よくありませんよ。どう考えても強引な歴史改変じゃないですか」
やっぱりそう思うか。
「そうですよ。だいたいジョンスミスって、本当はあなたのことでしょう」
「以前のハルヒにとってはな。今は違う、お前のことだ」
「こんな方法で本当によかったんですか」
「いいか悪いかは分からん。ただ、ハルヒがこれ以上ジョンスミスを待ちつづけるのは見ちゃおれん」
「偽者のジョンスミスでも?」
「ハルヒにとっちゃ、どっちでも同じことだろう」
「それはそうですが……。僕はなんだか腑に落ちません」
俺にも後ろめたい気持ちが、まったくなかったわけではないが。
そんな様子を見ていた長門が、こんなことを言った。
「事実が歴史なのではない。人の記憶にあるもの、それが歴史」
俺と古泉は顔を見合わせた。そういう考え方もあるか……。

それからの数週間、毎日のように閉鎖空間が発生したらしい。
長門がふいに顔を上げて呟くことがよくあった。「……また、閉鎖空間」
この頻発する異空間の発生が、ハルヒのどんな精神状態によるものか俺には分からなかった。あるときは古泉が顔を腫らしていた。
「あらら、古泉君。また涼宮さんにひっぱたかれたの?」
朝比奈さんが濡らしたタオルを持ってきた。
「いえいえ。これは神人にやられたんですよ」
ご苦労だなまったく。
「閉鎖空間の発生はこのところ連日、いや数時間おきですよ」
古泉はやつれて目の下にクマができていた。顔色もよくない。
「お前だいぶ痩せたんじゃないか。なんだか悪いことしたみたいだな」言葉とは裏腹に俺は笑っていた。
「好きな人のためなら、これくらいの苦労はしませんとね」
古泉、よくぞ言った。それでこそ男だ。
「ハルヒの様子はどうだ?」
「ええ。いたって元気です。むしろ元気すぎるくらいですが」
「じゃあいい傾向だろう。じきに治まるよ」
「だといいんですが」
そして古泉は俺がギクリとするようなことを言った。
「もしかして涼宮さんは、あなたがジョンスミスでなかったことにがっかりしているんじゃないでしょうか」
いまさらなにを言い出すんだ。
「僕が涼宮さんのタイプではないことくらい分かりますよ」
「いや、古泉。キミは間違っている」
俺はそこで、長門に言ったのと同じセリフを言おうとした。
「恋愛なんてものはだな。本人の意思とは無関係の、別の要因によるもの、」
朝比奈さんがじっと責めるような目で俺を見ていた。無理を言って歴史を書き換えさせた俺が言えることじゃないよな。
「だと思うわけよ」なんだか締まらない。
「それもそうですね」
妙に納得している古泉がいた。朝比奈さんは困った顔をして笑った。

古泉がふとなにかを思いついたように口を開いた。
「あの、今になって水を差すようで非常に申し訳ないんですが」
「なんだ、言ってみろ」
「涼宮さんがジョンスミスの話をする前日に戻って、僕がジョンスミスだと告白すればよかったんじゃないでしょうか」
その場にいた全員が、固まった。
「そ、そうかもしれんな」
「……うかつ」
朝比奈さんは必死で笑いをこらえている。
「こんな簡単なことに気が付かないなんて、あなたも僕も、ずいぶん必死だったんですね」
これはこれでいいんだ。回り道はしたかもしれんが、急がば回れって言うだろ。回りすぎて迷子になっちまったかもしれんが。それに、古泉が覚悟を決めるいいきっかけになった。そうだよな?

「ひとつだけ分からないことがある」
三人が俺を見た。
「改変する前の話だが、ハルヒが北高に入学してきたのはジョンスミスを探すためだろう。だったらなぜ俺に気が付かなかったんだ?」
「……疑ってはいたはず」
「確かに、自分と前に会ったことがあるかとは聞かれた。だがジョンスミスかとは聞かれなかったぞ」
「涼宮さんが会ったジョンスミスは、自分より年上だったからじゃないかしら?」
「かもしれませんが。にしても、まったく気が付かないというのはおかしい」
「……あのときは、わたしが介入した」長門がトンデモ告白をした。
なんだって!?
「あのとき、涼宮ハルヒは確かにあなたがジョンスミスかと尋ねた」
「俺の記憶にはないが」
「わたしが音声を一部変えてお送りした」
「なんでまた!?」
「あのときはまだ、あなたはジョンスミスではなかった。その名前が涼宮ハルヒの口から漏れると、ジョンスミスの発生過程で無限ループが発生する」
「最初にジョンスミスを名づけたのは誰か、ということですね」古泉が言った。
「……あなたにとってジョンスミスという名前は、未来の情報だった」
「すまん、なんだって?」また頭痛くなってきた。
つまり、入学したての俺にとってはジョンスミスという名前は、過去にいた未来の俺からの情報ということになるわけ、らしい。無駄にややこしい。

「……あなたと涼宮ハルヒが特別な関係になるという未来もあった」長門が言った。
「でも、ならなかっただろ?」
「あなた自身がそれを阻止した」
「俺が?」
「情報統合思念体は、あなたと涼宮ハルヒを添い遂げさせる計画だった」
なぜ俺がここまで意固地になって古泉とくっつけたのか、ようやく分かった気がする。俺とハルヒをくっつけようとする陰謀を、どこかに感じ取っていたからだ。そんなことをされてはたまらん。俺と長門を引き離そうとする陰謀は断固阻止してやる。
「計画は失敗したわけだな、ざまあみろだ」
「……そう。ざまみろ」
三人は声を立てて笑った。長門もクスリと笑った。

もう、誰の意思で歴史が刻まれているのか、俺にとってはどうでもいいことだった。みんなが、およそ均等に幸せに暮らせればそれでいい。誰かが極端につらい思いをして、別の誰かが極端に幸せなんて不平等は、俺にとっては嬉しくない。幸せも不幸せも、そこそこ、みんなで分け合うのがいい。その辺がたぶん、俺とハルヒの生きかたの違いなんじゃないかと、最近は思ったりするのだ。

END


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