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②一郎くんを呼んで行く

「修二くん。一郎くんがどこか教えてくれないかな?
香織ちゃんが勾玉だって教えてあげなきゃいけないし、神器が揃っていた方がいいと思うんだ」
「……兄貴はひと足先に愛菜ちゃんの家に向ったよ」
「一郎くんも……。じゃあ、急がなきゃ」
「そうね。行くわよ、愛菜、宗像くん」

香織ちゃんは一足先に私の家に向って走り出した。

「ま、待ってよ。香織ちゃん!」
数歩走ったところで、修二くんが全く動いていない事に気づいて足を止めた。
私は再び修二くんの傍まで駆け寄る。

「早く行こう。みんなが心配だよ」
「……………ど」
修二くんは私から視線を落しながら、小さく何かを言っていた。
「どうしたの? 修二くん」
「さっきの答え、まだ教えてもらってないんだけど」
「さっきの答え?」
「付き合ってもらえるかどうかの返事を、まだちゃんと聞いてないんだけどな」

(そういえば、香織ちゃんが突然現れてきちんと返事してなかったんだっけ。
修二くんは全部終わってからでもいいって言ってくれだけど……。こんな状態じゃ恋愛どころじゃないし、先のことなんてもっと考えられないよ)

「やっぱり無理だよ。その……ごめんなさい」
私は頭を下げて、けじめをつけるためにきっぱりと断った。
すると、修二くんは苦しそうに笑い出だした。

「バカみたいだな、ったく……。最初は兄貴へのあてつけのつもりだったのに、なんでこんなに悲しいんだ……」

「愛菜。宗像くんも何してるの? 急ぐわよ」
香織ちゃんが少し離れたところから、私たちを呼んだ。

「香織ちゃんが呼んでる……。みんなが心配だし、行こう?」

私の言葉が聞こえているはずなのに、修二くんは一歩も動こうとしない。
そして、私を見据えながらゆっくり口を開いた。

「他人の心配ばかりして、愛菜ちゃんは優しいね。でも知ってる? その優しさって時にはすごく残酷なんだって事」
「私が残酷……」
「そうだよ。俺を突き放しておいて一緒に行こうだなんて、愛菜ちゃんは残酷だ。
『道具なんかじゃない』って声高に言うわりに、結局は俺を鏡として利用しようとして……矛盾してるよね。
俺はね、ずっと兄貴に、愛菜ちゃんが納得できるやり方にするべきだって言ってきた。けど、間違いだったみたいだ。
もうどんな手を使ってでも解決していくことに決めたよ。たとえ、愛菜ちゃんや兄貴と敵対することになってもね。
だから……本当にさよならだ、愛菜ちゃん」

修二くんはそう言うと、学校の方へ歩きだした。

私は……
①香織ちゃんの方へ走っていく
②修二くんを追いかける
③立ち尽くす

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②修二くんを追いかける

とっさに修二くんを追いかけて、腕を掴む。
修二くんは私の腕を振り払いはしなかったけれど、振り返った顔には何の感情も浮かんでいなかった。

(修二くんじゃないみたい……)
「なに?」
感情を感じさせない声。
無表情の顔と声にふと冬馬先輩の姿が重なる。
けれどどこか優しい冬馬先輩とは違い、今の修二くんはただ無機質な冷たさしかない。

「用がないなら、手を離してくれる?」
豹変した修二くんの態度に硬直していた私に、さらに感情の削げ落ちた声がかけられる。

「あ……」
雨が降っていて乾燥しているわけでもないのに、口の中がからからに乾いていく気がする。

(でも今の私には神器の力が必要なんだよ……)
修二くんの言うとおり、不本意だけれど今は鏡の力を利用することになる。
一郎くんと香織ちゃん、そして冬馬先輩は今までの態度から私に力を貸してくれるだろう。

(けど、修二くんが鏡として扱われるのがいやなら……)
壱与の記憶がよみがえる。
物に宿った力を別のものに移すための儀式。
鏡や勾玉はその性質上この儀式を行うことは無かったけれど、剣は戦でつかわれ、破損や劣化するために古い剣から新しい剣へと力を移す儀式を数十年に一度行っていたらしい。

「修二くんが望むなら、鏡としての役割を終わらせることが出来るよ……」
「……どういうこと?」
無表情だった修二くんの顔に少しだけ疑問が浮かぶ。

「内に宿った力を、別のものに移す儀式があるの。その儀式をすれば、修二くんの中から鏡の力は消える。普通の人になるよ」
(その儀式を今の私がやって無事でいられるかは分からないけど……)
最後の言葉は口には出さない。
巫女としての知識のみある今の私が、巫女として修行をした壱与と同じ事が出来るかといわれれば、難しいだろう。
それに、壱与は知識はあるが実際にこの儀式を行ったことはない。
先代の巫女が剣の力を移したばかりだったことと、鏡は壱与の意思で壊したため新たな鏡に力を移す儀式は行わなかった。
けれど鏡の力があるために修二くんがつらいのなら、鏡を割ってしまった過去の私の責任だ。

「本当に?」
修二くんの言葉に私はただ頷いた。

(移す器が無いから、しばらくは私が力をあずかることになるだろうけど……)
儀式は、古い器から力を一旦自分の中へ取り込み、それから新しい器へと移すものだ。
新しい器となるものが無い以上、修二くんがこの儀式を望むなら私の内に力をとどめておくことになる。
生まれつきこの力を宿して生まれた一郎くんや修二くん、香織ちゃんと冬馬先輩と違う私が、別の力を宿してどうなるかなんて分からない。

(でも、こんな修二くん見たくないよ……)

私は……
①「どうする?」
②「考えておいて」
③修二くんが何か言うのを待つ

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②「考えておいて」

今の私には、これだけ言うのが精一杯だった。
思い出した儀式の記憶も説明しようかと思ったけれど、今の修二くんにはどうしても言えなかった。

「わかった。考えておくよ」
相変わらず射抜くような視線だったけど、話し方だけはいつも通りに戻っていた。

(よかった。一応、私の言葉に耳を貸してくれた。あっ、そうだ……)

「あの……あと、もう一ついいかな……」
「なに?」
「余計なお世話かもしれないけど……修二くん、風邪ひかないようにね」

傘をさしているけれど、さっきの告白で修二くんの制服はすっかり濡れてしまっていた。
もう傘をさしている意味がないほど酷い有様になっている。

私の言葉を聞いて、修二くんは冷ややかに視線を上下させた。
そして、呆れたように口を開く。

「……愛菜ちゃんもずぶ濡れじゃない」
「あっ、そういえば……そうだね」
「何? もしかして、気づいてい無かったとか?」
「必死だったからすっかり忘れてたよ。……クシュン」

修二くんに指摘されて、急に寒気を覚えた。

「くしゃみしてる」
「平気。それじゃ、香織ちゃんが待ってるから行くね」

私はきびすを返し、香織ちゃんの方へ走ろうとして――手を掴まれている事に気づいた。
次の瞬間、グイッとその手を引き寄せられた。
すぐ目の前に修二くんの顔が迫っていて、思わず身を強張らせギュッと目を瞑る。

(……あれ?)

また何か怖いことをされるんじゃないかとビクついていたけれど、これといって何もされることはなかった。
むしろ、心なしか身体のだるさが無くなったような気がする。

「……これって、修二くんの気を少し分けてくれたんだよね。あ、ありがとう」

目を開けた私は、修二くんにお礼を言った。
けれど修二くんは不機嫌な顔で押し黙ったまま、私の手を離した。
そして、何事も無かったように校舎の方へ歩いて行ってしまった。

どうしよう…
①香織ちゃんのところへ行く
②もう一度修二くんにお礼を言う
③黙って背中を見送る

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②もう一度修二くんにお礼を言う

「本当にありがとう、修二くん!」
最後にもう一度お礼を言って修二くんの反応を見ずにきびすを返すと、香織ちゃんの元まで走る。

「ごめん、香織ちゃん」
「宗像くんは来ないんだ?」
「……うん」
「そう。ま、いいわ。いきましょ」
香織ちゃんが私の手を取る。
それに驚いて視線を上げると、優しい香織ちゃんの視線とぶつかった。

「大丈夫よ愛菜」
「香織ちゃん?」
まっすぐに前を向いて歩く香織ちゃんに手を引かれるままに、歩き出す。

「愛菜、覚えてる?」
「?」
「勾玉の力」
「あ、うん……護りの力だよね」
剣が戦うための攻めの力、鏡が相手を見極める補助的な力とすると、勾玉は身を守る護りの力だ。

「そう、だから私は戦うための力は極端に低いの」
「う、うん」
「それに人になって知ったんだけど……」
香織ちゃんはそう言いながら、少しだけ私を振り返る。
振り返った香織ちゃんの目には、強い決意が見える。

「強力な護りに入ったら私は動けなくなる。
 もとは勾玉で護るべき対象が身に付けてたから、動けなくてもぜんぜん問題なかったんだけどさ。
 だからね愛菜、私の側を離れないで? 強い力を使っている間は私は動けないけど、その間は絶対に守るから」
「う、うん……」
「まぁ、軽い護法なら平気だけどね。でも、私が呼んだら私から離れないでよ?
 離れてても、守れるけどやっぱり近くにいたほうが守りやすいもの」
「わかったよ」
「ということで愛菜、私から離れないでね」
「え?」
「ん~、囲まれてるっぽい?」
「えええ?」
肩をすくめながら、香織ちゃんはゆっくりと確認するように辺りを見回す。

「ん~、見えないけど……悪意は感じるのよね。あーあ、鏡がいればなぁ」
香織ちゃんはため息を付く。 そのとき軟らかい感触が手を叩いた。

「え?」
手元を見ると、修二くんにぬいぐるみに戻されてピクリとも動かなかったチハルが私の手をぽふぽふとたたいている。

「チハル!」
手のひらにのせるように持ち直すと、ポンいう音と共にチハルが人の姿に代わる。
今回は子供の姿だ。

「愛菜ちゃぁぁぁん」
「ええええ!? うそ、かわいい!」
私にしがみつくチハルの姿を見た香織ちゃんが、歓声を上げる。
さっきまで廻りを囲まれてるかも、と言っていた割には緊張感がない。

えっと……
①チハルを紹介する
②廻りは大丈夫なのか聞く
③チハルに大丈夫か聞く

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③チハルに大丈夫か聞く

「チハル。身体は大丈夫? なんともない?」
「うん。ビックリしたけどへいきだよ。それより、愛菜ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「くるしい……」

よく見ると、香織ちゃんはしゃがみ込み、チハルを力の限り抱きしめている。
頭を撫でたり頬擦りしたりして、すごい歓迎ぶりだ。

「ホントかわいい! ほっぺもぷにぷに~」
「愛菜ちゃん。たすけてぇ」

香織ちゃんの過剰な可愛がり方に、さすがの人懐っこいチハルもお手上げのようだ。

「香織ちゃん。チハルが苦しがってるよ」
「あっ! ごめんごめん。つい我を忘れちゃったわ」

(さすが、かわいいものに目が無い香織ちゃんだ……)

ショッピングモールで買い物する時も、まずファンシー雑貨屋に行きたがる香織ちゃん。
ここ数年は『ブーさん』と『ハローキャティ』にはまっている。
辛いカレーも大の苦手だし、大人っぽくみえて、意外と少女のままなのだ。

「ボクは精霊のチハルだよ。おねえさんのことは知ってるんだ。香織ちゃんだよね!」
チハルが元気に挨拶すると、今度は香織ちゃんの瞳がうるうるとしだした。

「私の名前を呼んでくれるのねぇ! もうっ最高!!」
香織ちゃんは感動のあまり、またチハルをひしっと抱きしめて頬擦りしていた。

(私でも止められそうにないな。あっ、でもそういえば……)

「香織ちゃん。そういえば、廻りを囲まれているって言ってたよね」
「あっ、忘れてた」

(だ、大丈夫かな)

香織ちゃんはすくっと立ち上がると、廻りを探るように意識を集中させだした。

なんて言おうかな…
①「香織ちゃん。チハルには少し見える力があるみたいなんだけど」
②「チハル。敵は何人かわかる?」
③「チハル。香織ちゃんを助けてあげて」

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②「チハル。敵は何人かわかる?」

「んーとね。三人だよ」
「あら? チハルくん。もしかして、鏡みたいに見える力があるの?」
香織ちゃんが不思議そうに、チハルを覗き込んでいた。

「うん。少しならわかるよ。えーっと、あっ、この人……」
突然、チハルが怯えたように黙り込んだ。
「どうしたの? チハル」
「すごく怖い人がみえる……」
「まずいわね……。あの児童公園で結界を張るわ。私についてきて」

香織ちゃんに手を引かれ、児童公園までやってきた。
私はチハルの手を取っていたけれど、小さく震えているのがわかった。

「チハル。大丈夫?」
「う、うん……」
「嫌な感じ。私にも威圧するような気配が伝わってくるわ。愛菜、チハルくん、少しそこに立ってくれる?」

私とチハルは香織ちゃんに言われるまま、公園の中央にある広場に立った。
地面は雨でぬかるんで、水溜りが出来ている。

「私が良いっていうまで、そのまま立っててよ」

そう言うと、香織ちゃんは小さな声で呪文を唱え、指を組みながら印をきりだした。
ただ、日本語ではない全く聞いた事の無い不思議な言葉が紡がれている。

(香織ちゃん、違う人みたい……。これが勾玉……)

「香織おねえさんは神様の言葉でお願いしているだけだから、心配ないよ」
私が不安な顔をしていたのを見て、チハルが話しかけてくれた。

「さてっと、それじゃ……頼むわよ」
香織ちゃんはぬかるんだ地面を手のひらでグッと押さえつけた。
すると、私とチハルと香織ちゃんを取り囲むように、青い光を帯びた魔方陣が浮き上がった。

「すごいよ! 香織ちゃん」
「まぁねー。これは護りの魔方陣なのよ。でも、よかったわ。成功し……」

香織ちゃんが地面から手を離そうとして、そのまま糸が切れたように崩れ落ちた。
バシャンという音と共に、香織ちゃんの身体が地面に横たわる。
地面に描かれた魔方陣が、跡形も無く消滅してしまった。

「香織…ちゃん……?」
「この程度の干渉に耐え切れなかったとは……八尺瓊勾玉もたいしたことは無い」

顔を上げると、そこには人影があった。

その人は……
①秋人
②春樹の父親
③美波さん

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①秋人

「こんにちは。大堂愛菜さん」

黒い傘をさした秋人さんが、ゆっくり私に近づいてくる。
倒れた香織ちゃんの横を通り、私の前で立ち止まった。

「秋人さん……」
「おや? 私の名前を知っているとは。光栄だな」

秋人さんは穏やかな笑みを浮べていたけど、相変わらず眼鏡の奥の瞳は冷え切っていた。

「愛菜ちゃんは……ボクが守るんだからね!」
震えていたチハルは私の前に出て、精一杯の虚勢を張っていた。
「……ダメだよ。チハルじゃこの人には敵わない。うしろに下がってて」
「愛菜ちゃん?」
「ごめんね、チハル。もう私のために誰かが傷つくところは見たくないんだ」

私はチハルを諭すと、目の前の秋人さんを見る。

「秋人さん。一体、何をしたんですか。香織ちゃんは大丈夫なんですか?」
「さあ? 無事かどうかは自分で確認するといい」

秋人さんの言葉を聞き流しながら、私は香織ちゃんの元へ駆け寄って肩を抱いた。
香織ちゃんの顔は青白く、微かな息が口から漏れていた。

(わかる……。このままじゃ香織ちゃんが危ない…)

香織ちゃんが行っていた術が暴走した跡があった。
多分、秋人さんの干渉で香織ちゃんは術を自分の身に受けてしまったのだろう。

私は目を閉じ、私の内にある生命力を香織ちゃんの身体に流し込んでいく。
香織ちゃんを支えていた腕の力が入らなくなり、酷い倦怠感が全身を蝕んでいく。

「自らの命を削るとは……愚かな」

私は秋人さんの言葉には答えず、代わりにチハルを呼んだ。
「チハル。香織ちゃんを連れて、なるべく遠くまで逃げて」
「でも……」
「お願い。今は私の言うことに従って」

チハルが青年に変身し、香織ちゃんを背負う。
それを確認して、私は再び秋人さんに向き直った。

①「投降します。だから、このふたりを見逃してあげて」
②「私は戦う。秋人さんの好きにはさせない」
③「もう止めてください。秋人さんはなぜこんなことをするの?」

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③「もう止めてください。秋人さんはなぜこんなことをするの?」

チハルと香織ちゃんを庇うように、私はふらつきながらも両手を広げる。

「そんな抵抗をしても無駄だ。ようやく見つけた勾玉は逃がさない。道具として必要だからね」
「香織ちゃんを道具なんて言わないで」
「壱与、いや大堂愛菜さんも大切な道具として生まれてきたんだ。気高い鬼の姫君の器としてね」
「壱与でも、鬼の姫でもない! 私は、大堂愛菜。あなたの弟、大堂春樹の姉。ただそれだけです!」

言い放つ私をあざけるように、秋人さんは薄笑いを浮かべる。

「……春樹か」
「春樹は……私の弟は無事なんですか?」
「ああ、もちろん。私にとっても大切な弟だからね」
「早く春樹を返して!」
「では、私について来るといい。春樹に会わせてあげよう」

(春樹に会える……でも……)

私が躊躇っていると、秋人さんが哀れむように深い溜息を漏らす。
そして、一歩、また一歩と私に向かって近づいてきた。
私はチハルと香織ちゃんを守りながらも、ジリジリと後退していく。

「怯える必要は無い。君に……渡したいものがあるだけだ」
「私に?」
「いい子だから、手を出してごらん」

(手を……)

私は言われるまま、ゆっくり手を差し出す。手の平には、赤茶色の小さな石が置かれた。

「この赤い石はもしかして……」
「やはり、身に覚えがあるようだな」

(赤い石といえば、夢で見た出雲のメノウだ。秋人さんはもしかして……帝?)

私の知っている帝と秋人さんは、雰囲気が違う。
だけど、壱与と帝だけしか知りえない事を秋人さんは知っている。

「これは君がプレゼントした石だ」
「え?」

(違う。赤い石の勾玉は帝がプレゼントしてくれた物のはず……。じゃあ、これは、一体?)

「何を驚いているんだ。コード№673に、君が買い与えたものだろう?」

手の中の石は、降り注ぐ雨に洗われて本来の姿を取り戻していく。
乳白色のムーストーン。
私の手首を、鉄の匂いを帯びた赤い液体が伝い落ちていく。

「その血で汚れた石は、草薙剣がとても大切にしていた物だ。捨てるには忍びなくてね」
「冬馬……先輩の血……」
「そうだ。三種の神器は滅多なことでは死なないために、ついやり過ぎてしまったのだよ。
これでは、草薙剣も八尺瓊勾玉も当分は道具として使い物にならないだろうな」

私は……
①動揺のあまり、気を失った
②怒りにまかせて鬼の力を使う
③手の中の石を握りしめる

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③手の中の石を握りしめる

(冬馬先輩……)

「その石を見つけた時も、私に奪われまいと気を失う寸前まで抵抗していたんだ。
健気な剣じゃないか。どう手なずけたのか知らないが、たいした忠誠心だよ」

秋人さんは哀れむように、首を左右に振っていた。

「……冬馬先輩は無事なんですか?」
「コード№673は、私たちと違って高い自己回復力を備えている。問題は無いだろう」
「え?」
「彼の出生は特殊だからな。前例がない分、現存していた剣の遺伝子からまた剣が生まれるとは、当時の研究員も半信半疑だったようだが。
ただ、研究員が望んだような力の発現は無く、結果としては失敗だったようだな」

(まさか……冬馬先輩がいつも自分を粗末に扱っていたのは、特別な身体を持っているから……)

「秋人さん。組織は……冬馬先輩のような人を生んでまで、何をしようとしているの?」

私の問いかけに、秋人さんが眉根を寄せた。

「さきほど、説明したばかりだろう」
「三種の神器を使い、壱与を復活させる事……」
「わかっているなら、くだらない質問をしないでくれるか。不愉快だ」
「では、あなたも……十種の神宝だから……壱与にこだわるんですか」

秋人さんを見据えながら、私は問いかけた。

「ほう? そこまで思い出しているとは、伝承に綴られた巫女の中でも、君は壱与に最も近い存在なのかもしれないな。
そうだ。十種の神宝としての魂を授かった高村の者は、出雲の王族、とりわけ鬼の力が強い壱与を求める。
これは仕方のないことだ。それに、壱与は研究材料としての価値も高い。
伝承の中だけに住まう鬼が、君の中に眠っている。それを見たいと思うのは、この分野を研究する学徒としては当然の欲求だよ」

(十種の神宝……。でも、おかしい。神器がこんなにも簡単に倒されるなんて)

道具としての一つ一つの力は、十種の神宝よりも三種の神器の方が上回っていたはずだ。
なのに、秋人さんの力は神器の力を遙かに凌駕している。

(もしかして……)

「もしかして、神宝の圧倒的な力は……」
「待ってよ、愛菜ちゃん。あの人!」

今まで、ずっと黙っていたチハルが話しかけてきた。
私は、チハルが見ている視線の先を追う。
雨の向こう、佇む人影と、足元に倒れた人影が二体あった。

「あれは……。足止めすらできないとはな。全く使えない力の器どもだ」
秋人さんは視線を向けながら、苦々しげに呟いていた。

その人影は、真っ直ぐ私の方へ歩いてくる。
そして、私のすぐ横にまでやってきた。

「神宝の圧倒的な力は、十種の神宝の内、八種類の神宝の力を、すでにこの男が手に入れてしまっているせいだ」

現れた人物とは……
①一郎くん
②周防さん
③春樹
④冬馬先輩

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③春樹

「春樹か。やはりお前も神宝だったのか」
「はい。姉の覚醒と同時に発現しました」
「もう一つ見えるのは……神器。いや、違うな」
「兄さん、教えてください。あなたが自分の身体も省みず、八種類もの力を次々と自分のものにした事も、
神器と姉を手に入れようとしている事も、すべて、鬼が治めていた国を再興のため……違いますか?」
「なぜそう思う」
「すべて思い出しました。高村一族もまた、鬼の末裔だったんですね」

目の前には、間違いなく春樹が立っていた。
突然の出来事に、なかなか言葉が出てこない。
それどころか、段々、今が夢なのか現実なのか、よくわからなくなってしまう。

「春樹だぁ。ぶじだったんだね」
「チハル……」
「ボクね、春樹のことすごく心配だったんだ。けど、げんきみたいでよかった!」
「ずっと俺を守ってくれていたのに、置いていって…ごめんな」

(本当に……春樹なの?)

「……春樹?」
「姉さん……」

私の呼びかけで、春樹がようやくこちらに向き直った。
その顔は、嬉しそうにも、辛そうにも見えた。

「ホントに……本当に春樹なの?」
「姉さん。心配掛けてごめん」
「夢じゃなく、本当の春樹なのね」
「うん……」

目の前に居るはずの、春樹の顔が滲んでいく。
胸が熱くなって、次々と涙が溢れ出て、止められない。

「すごく……すごく心配したんだから!!」
「うん。わかってる」

私は力の限り、春樹を抱きしめる。
「春樹……春樹……会いたかったよ……」

春樹は苦しいのか、少しだけ身体を強張らせている。
けれど、静かに息を吐いたあと、私の身体に腕がまわされた。

「……俺も会いたかった」

懐かしい匂いに、顔を埋めて泣く。
たった数日なのに、離れている時間はとても長く感じられた。

(本当に……よかった)

「さあ。感動の再会も済んだようだし、壱与を渡してもらおうか。春樹」
秋人さんの声で、私たちはゆっくりと身体を離す。

「……姉さん、また無茶したんだね。だけど、もう大丈夫だよ。何があっても俺が守るから」

どうしよう……
①春樹のうしろに隠れる
②チハルたちと逃げる
③様子をみる

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