731
③様子をみる

「だけど……秋人さんはとても強いよ。春樹の力では勝てない……」
「力では圧倒的に負けてるのは分かってる。けど、兄さんに持っていないものを俺達は持ってるんだ。
だから、大丈夫だよ」

春樹の目に、失望の色は無い。

(春樹を信じよう)

「もう一度言う。壱与の器を渡してもらおうか」
「できません」
「それは……私に逆らうということだな」

秋人さんの言葉には、静かな怒りが含まれていた。

「兄さんに従うつもりはありません」
「馬鹿な弟を持ったものだ。お前の力で私に勝てると思っているのか」
「多分、勝てないと思います。けど、負けるつもりもありません」

春樹は一歩踏み出し、私の前に立った。

「祖父や父、そして兄さんがしようとしている事も全部知りました。多くの人たちを不幸にさせ、命を弄ぶ……。
こんなやり方、人間の出来ることじゃありません」
「人間か。私を愚劣極まりない者達と一緒にしないで欲しいな」
「兄さんがどれだけ人間を嫌い、否定しても、あなた自身が人間なんだ。もう、本物の鬼は遙か昔に滅んでいるんです」
「この娘と神器を使って、本物の鬼を復活させれば済むことだ」

春樹の背中が、怒りに震えている。

「だから……!科学の力を使って、命を弄ぶ計画が間違っていることに、なぜ気付かないんですか!
伝承に記された高村の祖先も、兄さん達も……高村の人間はみな狂っています」
「伝承……。神宝の力を得たお前も、見たのだな」

秋人さんは腕を組み、春樹を見つめていた。

「はい。高村の祖先は、壱与の魂をもった鬼の化身と交わることで、時代と共に薄まっていく鬼の力を維持し続けていたんですね。
神宝の力は陰の力。高村にとって、力を誇示するためには失ってはならないものだったんだ。
そして兄さんたちは、巫女を守る神器を利用し、より純粋な鬼の化身を得るために画策していた――そういうことですね」
「ああ、その通りだ」
「もうこれ以上、神器と神宝の馬鹿げた小競り合いに、姉さんを巻き込まないでください。
俺も姉さんも……神器のみんなだって、本当に欲しいのは力なんかじゃない。当たり前の日常なんです」

(春樹……)

①春樹に話しかける
②秋人さんに話しかける
③黙っている

732
①春樹に話しかける

「待って春樹……壱与の魂をもった鬼の化身って…私のこと…なのよね?」
「……うん」
「……鬼の化身って? もしかして…私は人ではなく、鬼なの?」

春樹は何も答えてくれない。
その代わりに、春樹の向こう側にいる秋人さんが口を開いた。

「弟に代わって私が教えてあげよう。その通りだ。君はもう人ではなくなっている。
もし人であったなら、勾玉に生命力を分け与えた時に、君は倒れているはずだからね」
「でも、周防さんが言ったんです。力を使いすぎるとこよみさんのようになるって……。
それは嘘なんですか」

秋人さんは数秒黙り込み、再び話し出した。

「こよみ……? ほう、そうか。コードNo543とは懐かしい。
一時は壱与の器かもしれないと目されていた娘だったな。まあ、周防の言うことが嘘か本当かと問われれば、本当だろうな。
力を使いすぎると、コードNo543のように死んでしまうからな。ただ……」
「ただ?」
「内包する力の容量が違うのだよ。一般の能力者と、覚醒済みの壱与の器である君とではね。
三種の神器と契約するということは、君の身も心も壱与、すなわち鬼に近づくということだ。
君はすでに剣と契約を交わしている。後は…言わなくてもわかるな」

(神器と契約するって……壱与そのものになっていくってことなの……?
じゃあ……私自身はどうなってしまうんだろう……)

「愛菜ちゃん。香織おねえさんが…!」

その言葉でうしろを見ると、チハルにおぶさったままの香織ちゃと目が合った。

「香織ちゃん! 目が覚めたのね」
「な、なんとかね。でもすぐには加勢できそうにないわ」
「無理しないで。そのまま安静にしてて」

私の言葉に、香織ちゃんの顔がいつになく真剣になる。

「愛菜、そんなこと言ってる余裕はないわよ?
春樹くんはこの男と刺し違えてでも、あんたを守るつもりだもの。勝てないけど、負けないってそういう意味だろうからね。
それだけの覚悟を春樹くんは持っていることに気づいてあげるべきよ」
「えっ……」

前を向いて、春樹を見る。
春樹にも聞こえているはずなのに、何も言ってはくれなかった。

「……春樹、教えて。香織ちゃんが言っていることは……本当なの?」

私に注がれていた悲しげな視線は、逸らされる様に、ゆっくり下へ移動していく。
嘘をつくことが苦手な春樹は、言いたくないことや都合の悪い話になると、いつもこんな風に黙り込んでしまう。

私は……
①「春樹、ちゃんと答えて」
②「絶対にそんなこと許さないよ」
③「春樹だけにはさせないよ。私も戦う」

733
①「春樹、ちゃんと答えて」

(春樹だけが犠牲になるなんて…耐えなれない……)

春樹がゆっくり顔を上げる。
その顔は、胸が苦しくなるくらい綺麗な微笑だった。

「あの日、家族になった時に交わした約束を……守らせて欲しいんだ」
「『母さんだけでなく姉さんも、父さんも守れるくらいに強くなる。ずっと守る』……だっけ」
「よく憶えてるね。恥ずかしいな」

春樹は照れくさそうに笑って、また私を見る。

「姉さん。ひとつ尋ねてもいいかな」
「うん。いいよ」
「家族になってから今日まで……姉さんにとって俺は『良い弟』だった?」
「春樹……?」
「いつも迷ってたんだ。『良い弟』にならなくちゃって……。あの日から、ずっと考えてた。『弟』である俺の姿を。
俺、ヘンじゃなかったよね」

なぜこんな質問を投げかけてくるのか春樹の気持ちが読めなかった。
黙ったままの私に、うしろから香織ちゃんの声がする。

「答えてあげなよ、愛菜」

しっかりもので、口うるさくて、いつも優しい春樹。
真っ直ぐで、素直すぎるせいで、少し損をすることもある。
けど、弟としてだけじゃなく、ひとりの人間としても尊敬できる男の子だ。

「私にとって、勿体ないくらい春樹は『最高の弟』だよ。
でもね、一つだけ不満があるんだ」

私は一度大きく息を吸って、吐いた。
そして、今度は後ろを振り向く。

「香織ちゃん。お願いがあるんだ」
「わかってるわ。私と契約するのね」

私は黙って、香織ちゃんにうなずいた。
その姿を見て、不意に春樹が叫んだ。

「それだけは、絶対に駄目だ!姉さんは契約の意味をわかってないよ! さっきも兄さんが言っていたじゃないか。
契約は、身も心も鬼に近づくことなんだ。
姉さんが姉さんで無くなる……もしかしたら、姉さんの自我が失われるかもしれないんだよ!」

春樹が私を止めようとしたが、秋人さんによって阻まれていた。

「邪魔するな、春樹。さあ、壱与の器よ。八尺瓊勾玉と契約を交わせ」

私は……
①契約する
②やめる
③考える

734
①契約する

春樹が言うように、私は身も心も鬼に近くなるのかもしれない。
けれどには一つだけ確信があった。

「香織ちゃん」
「ええ……チハルくん降ろしてくれる?」
「う、うん」
チハルからゆっくりと降りた香織ちゃんは、私の右手を両手で包むように握る。

「姉さん!」
秋人さんに阻まれた春樹の声に私は笑ってみせる。

「大丈夫だよ春樹。私は自我を失わない」
「なんで、そんな事が言えるんだ!」
「だって契約は「壱与」とするんじゃないもの。「愛菜」との契約だよ。ね、香織ちゃん」
私の言葉に、香織ちゃんは少し微笑んだ。

「冬馬先輩との契約も「壱与」とじゃない「愛菜」としたんだよ」
あの時の私は壱与の事なんて知らなかった。私は「愛菜」として先輩と契約したんだ。
あの契約によって、私の本質は人では無くなったかもしれない。
けれど、私の自我が失われることはなかった。たとえ、身も心も鬼になっても、私は私だ。

「香織ちゃん」
香織ちゃんに呼びかけると、香織ちゃんは握った私の手を掲げる。

「私は誓う」
「姉さん!」
香織ちゃんが宣言をはじめる。
悲痛な春樹の声が聞こえたけれど、私は香織ちゃんから視線を話さない。

「我が友と定めし、愛菜。私は愛菜の為に愛菜の望む道を共に進む。愛菜を護り、私の力が向かう先を愛菜へ託す。そして……」
香織ちゃんはそこで一旦言葉をきるといたずらっぽく私を見て、それから挑戦的に秋人を見る。

「古の契約を破棄、これより新たな契約をここに宣言する。この生が終わるまで、愛菜の親友として!」
香織ちゃんが高らかに宣言を終えると、一瞬なんとも言えない喪失感を覚えた。
けれどそれを喪失だと認識する前に、新たに優しくて暖かい感覚が身を支配する。
あの喪失感は壱与との契約が破棄された証、そして新たな契約。
私はその暖かい感覚に促されるように香織ちゃんに微笑む。

「よろしくね、香織ちゃん」
私の言葉に香織ちゃんは微笑むと、私を引き寄せて少し伸び上がると額に唇を寄せた。
香織ちゃんが触れた場所から暖かいものが流れてくる。きっとそこには契約の印が現れているだろう。


「勾玉め……」
その時、秋人さんが毒づくのが聞こえた。
その声に、香織ちゃんが笑うような気配がする。

「あなたの思い通りになるなんて思わないことね?
もし、これから「愛菜」の自我が失われて「壱与」になったら勾玉の力は使えないわ。それから三種の神器の力もね」
そうだ、三種の神器の力は壱与が使うためには3つが揃っていなければいけなかった。
けれどいま勾玉と壱与との契約は破棄され、壱与は3種の神器の力を使うことが出来なくなったのだ。
それに、私もまだ鏡とは契約をしていない。修二くんとの事がある以上鏡との契約は難しいだろう。
結果、今この世界に三種の神器をまとめて扱える人はいなくなった。

①「もう神器をまとめられる人はいなくなったわ」
②「ほらね、春樹、私自我を失っていないよ」
③「香織ちゃん、ありがとう」

735
②「ほらね、春樹、私自我を失っていないよ」

「よかった……。姉さんはいつも無茶するんだから」
春樹は安堵したように、深い溜息をついた。

「お取り込み中のところ悪いんだけど、愛菜……。私、もう駄目かも……立ってられないわ……」
気丈に立っていた香織ちゃんがフラフラとよたついた。
香織ちゃんの膝が折れ、チハルがそれを支える。

「ごめん。香織ちゃんに無理させちゃったね」
「そんなの、平気よ。だって、友達でしょ?」
「香織ちゃん。本当にありがとう」
「なんのなんの……。だけど、しばらくは……動けそうにも無い……かも」

香織ちゃんは笑うと、静かに目を閉じた。
術を身に受けて消耗しているのに、契約までして力尽きてしまったのだった。
だけど、気を失ってしまった香織ちゃの顔は、どこか満足げに見える。

(ありがとう。香織ちゃん)

香織ちゃんの頑張りで、巫女としての力を得た。
と同時に、私はまた一つ鬼へと近づいていく。

「契約の更新でなく、新たな契約を行ったか。伝承の壱与というものを見てみたかったが、仕方がない。
大堂愛菜。君自身を鬼の姫として迎え入れるしかないな」

秋人さんの望みは潰えたはずなのに、言葉に余裕すら感じる。
眼鏡の奥の瞳が、鈍くギラついていた。

「どういうこと?」
「君が十種の神宝と契約するのだよ。そして、永きに渡る高村の悲願、国の再興を果たす。
私が八種も力を入手している事の、これが……本来の意味だ」

不敵な笑みさえ浮べている秋人さんを、春樹は睨みつけている。

「姉さん、少し離れてて。兄さんの狙いは……俺だから」
「春樹……?」
「馬鹿な娘だな。正直、弟を殺すのは心苦しいが、君の選択が招いた結果だ。
恨むなら、軽率な行動をとった己を恨むがいい」
「えっ……」

秋人さんの姿が消えたと思った刹那、春樹が顔をゆがめた。
いつの間にか春樹を押さえ込んでいて、秋人さんの放つ赤黒い光が春樹を裂いた。

「ぐぁぁああ!!」

春樹は絶叫しながら、ぬかるんだ地面に叩きつけられる。
私はぐったりと横たわる春樹に駆け寄った。

「春樹!」

私は……
①春樹を回復させる
②自分から立ち向かっていく
③秋人さんに話しかける

736
③秋人さんに話しかける

「契約は成立しないわ。私があなたとの契約を受けないもの」
以前冬馬先輩が言っていた、一方的に契約は出来ない。
拒否しなければ、仮契約と言う事で一応履行はされるようだけれど、その事実を知っている今の私が秋人さんとの契約を承諾するわけがない。

「もしあなたが春樹を、私の大切な人たちをこれ以上傷つけるなら、これから先、絶対にあなたとの契約はしないわ」
私は春樹の上半身を抱き上げる。
もう服も泥だらけになってしまっている。

「春樹、大丈夫?」
私の言葉に、春樹はうっすらと目を開く。

「姉さん、逃げるんだ」
「春樹を置いていけるわけ無いじゃない」
「俺のことは、いいから。姉さんだけでも」
「春樹、さっきわたし一つだけ不満があるって言ったよね」
「……え?」
唐突に話を変えた私に、春樹は一瞬言葉を失う。

「春樹は私には勿体ないくらいの最高の弟だけど、私にぜんぜん頼ってくれないのが不満なの」
「姉、さん……?」
「確かに春樹は約束通り私を守ってくれる。でも、私だって春樹を守りたいよ?
大切な家族だもん。一人で苦しんでいるのを見ると、私だって苦しいよ」
「…………」
「だから、今は私に守られててよ? 私にだって出来ることがあるんだから」
「なにを、する気なのさ」
「秘密。チハル、ごめん春樹も頼めるかな?」
「うん、わかった」
チハルは香織ちゃんを背負い直し片手で支えると、もう片方の手で器用に春樹を支えた。
私はチハルに春樹を託すと、秋人さんに向き直る。

「何をする気かな? 鬼の姫」
秋人さんは笑みを浮かべたまま私を見ている。

「なにも?」
私は緊張で震えそうに鳴る声を何とか押える。
チャンスは一度だけ。失敗したら二度は無いだろう。
けれど香織ちゃんと契約したことで鬼に近くなった私なら、成功率は上がっているはずだ。
とりあえず、秋人さんを油断させなければいけない。

「この先、春樹たちに手を出さないって誓うなら、今あなたについて行ってもいいわ」
「姉さん!」
「ほぅ……?」
「偽りの誓いは許さない」
「だが、それでは神宝との契約はなされないぞ鬼の姫」
「そんな事無いわ。春樹と、もう一つの神宝とも契約をそれぞれ行えばいい」
「春樹が契約をすると思うのか?」
「するわけ無いだろ!?」
「説得するわ」
「姉さん!」
「もう一つの神宝も承諾はしまい」
「なんとかする」
「…………」
私の言葉に、秋人さんが考え込むように沈黙する。

もう一息かもしれない。
①ただ待つ
②更に一言言う
③秋人さんに近づく

737
①ただ待つ

私は、秋人さんの答えをジッと待ち続ける。すると、呻くような春樹の声が聞こえた。

「……絶対に、行っちゃ駄目だ。姉さん」
「私を信じてくれないの?」
「信じているに決まってるだろ。でも、姉さんはこの人の本性を知らないんだ」
「秋人さんの、本性?」
「そうさ。きっと姉さんの心を壊してでも、契約を果たすよ。今だって俺を殺して、力を奪おうとしているんだから。
兄さんは現代に蘇らなかった神宝を得るために、何千もの高村の遺伝子を持つ胎児を人工的に作り続けていた。
常識は通じないんだ。心を壊すことも、命を奪うのも、笑いながらやってしまう人なんだよ」
「酷いな、春樹。私はそこまで非情ではないぞ」
「どうだか。……くっ」

よく見ると春樹の脇腹に血が滲んで、制服が大きく裂けていた。
私は春樹に近づき、その傷口に触れながら祈る。
裂けてえぐれた皮膚が、ゆっくりと再生していった。

「……姉さん?」
「私って、意外とすごいんだよ? これでも信じてくれないかな」

目を見開いて驚いていた春樹だったけれど、治った傷口に触りながら笑い出した。
そして、観念したように口を開く。

「……わかった、俺の負けだ。だけど、姉さんだけに背負わせたりしない。一緒に家に帰ってもらわなきゃいけないからね」

春樹はチハルから離れ、静かに私の横に立つ。
そして、神の言葉をつむぎながら、空にすばやく印をきっていった。
春樹の周りに小さな赤い光がいくつも現れ、手元に集まっていく。
その発光体は握り拳八個分の長さをもった、光の剣になった。

「八握剣か」
「そのようですね。上手くいったことに、自分でも驚いていますよ」
「お前ごときが足掻いても、私に傷一つ付けることは出来ないぞ」
「神器との戦いで疲弊していて、兄さんの身体はあまり持たないはず。
八種類もの神宝を封じ込んだひずみが必ず現れる。その隙をつけばいい」
「ハハハッ……威勢のいいことだ」

秋人さんは冷たく笑って、私を見る。

「鬼の姫よ。私を油断させて攻撃するつもりだったのだろう?
春樹の機転で命拾いしたと気づいているのか。不用意に近づいた瞬間、目でも潰してやろうかと考えていたんだからな」

(震えが止まらない。怖い。でも、もう香織ちゃんに頼るわけにはいかない…私が……春樹を守らなきゃ)
その時、ふと私の頭の中に、ひとつの声が聞こえてくる。

(愛菜ちゃん……愛菜ちゃん……)
頭の中で、誰かが私を呼んでいる。
(愛菜ちゃん……ボクだよ……)
(チハル?)
(そうだよ。あのね……ボクのそばに……。春樹と愛菜ちゃんの力に……なるよ…)

私はチハルの傍に寄っていく。
(……ボク…がんばるからね……)
チハルは香織ちゃんを近くのベンチに寝かせると、ポンと音を立てて変身した。

変身した姿とは……
①盾
②鉾
③弓

738
③弓

私の手には、弓と一本の矢が乗っていた。
(弓矢……これ、梓弓だ)

梓弓は神に奉る神具として扱われる、梓の木で作った弓だ。
弓矢は昔から武器だけでなく、破魔矢などの魔物を打ち倒す道具として、呪具の意味合いも持っている。
(これを……私が…)

壱与が神楽弓を練習していたのは知っているけど、私は触ったことも無かった。
壱与の記憶だけは残っているものの、まったく自信がない。

(おまけに、矢が一本だけなんて……ねぇ、チハル……)

私は頭の中でチハルに話しかける。

(愛菜ちゃん。どうしたの?)
(私、弓を扱ったことが無いけど大丈夫かな。矢も一本だけだし)
(矢が一本なのはボクがまだ精霊だからだよ。チカラがたりないんだ、ごめんね)
(ううん。ありがとう、チハル)

弓は弦を引くだけでも技術が必要だと、弓道部の友達が言っていたのを思い出す。
私は試しに、スッと弦を引いてみた。

(わっ、すごい……)

身体が勝手に動く。
やはり壱与が学んだ身体の記憶までも、魂が継承しているのだろう。

「姉さん。なんで弓矢なんて持っているんだよ」
「チハルが変身して……」

「それは梓弓だな。まさか私を射抜こうというのか」
「そ、そうよ」
「震えているぞ。せいぜい春樹を射抜かないよう、気をつけるんだな」

春樹はチラリと私を見て、大きく息を吐いた。
そして、再び秋人さんに対峙しながら、私に声をかけてきた。

「危ないから、後ろに下がってて。弓矢だし、距離を取った方がいい。
それと……姉さんを高村の騒動に巻き込んでしまったこと、悪いと思ってるんだ。
黙って家を出てった事も含めて、家に戻ったら、怒ってくれて構わないから」

(春樹……)

「来い、春樹。お前の望みどおり、相手になってやろう」
「姉さんを守ってみせる! 絶対、一緒に帰るんだ……。いくぞ!!」

赤く光る剣を両手に持ち直すと、春樹は秋人さんの懐へ飛び込んでいった。

どうしよう……
①少し離れて構える
②香織ちゃんを見る
③考える

739
①少し離れて構える

弓を番え構えるが、春樹が近くて打つことが出来ない。

(それに、本当にこの弓で秋人さんをとめることができるの?)
秋人さんの内にあるものは、魔ではない。
この弓も、そして秋人さんの内にあるものも、どちらも神具だ。
そして神具の格としては、間違いなく秋人さんのほうが上。
チハルの矢は、けん制にしかならないだろう。

(その間に春樹が何とかしてくれる……? だめだめ、いけない春樹だけを頼っちゃ)
春樹だって動いているのがつらいはずなのだ。
いまこうして、弓を放つタイミングを計っている間だって顔をしかめている。

(他に方法はないの? もっと確実な……)
めまぐるしく位置が変わる春樹と秋人さんの戦いに、弓を打つことも出来ずじりじりとした時間が過ぎる。

「大堂! こんなところで何をしている。それに、この力……これは」
そのとき名前を呼ばれ、そちらに顔を向けると一郎君が立っていた。
一郎君は、春樹と秋人さんを見定めるように目を細めている。

「一郎君……春樹が……」
「……言わなくてもいい大体わかった。
 それに、勾玉との契約も行ったようだな……。
 ところで、修二はどうした? まだ学校に気配があるが一緒に来たんじゃないのか」
「修二君は……」
修二君のことを口にしようとして、修二君との会話を思い出す。

(そうだ、力の移行の儀式……。あれを秋人さんに……)
儀式と契約は違う。
契約は双方の同意が必要だが、儀式は手順さえふめば相手の意思は関係ない。
秋人さんの内にある神宝の力を、取り上げてしまえばいい。
そうすれば、少なくとも秋人さんは普通の人になる。
普通の人になった秋人さん相手なら、記憶の消したり、操作したりすることが出来るはずだ。

「うっ……」
「……春樹!」
考え込んでいる間に、春樹は秋人さんの力に弾き飛ばされ地面に叩きつけられていた。
今、隙を作れば、儀式を行うことが出来る。

①矢を放つ
②一郎に協力を求める
③秋人にしがみつく

740
②一郎に協力を求める

「春樹!」
「平気だ。姉さんが来なくても、大丈夫……」

秋人さんは春樹に攻撃されていても、着衣ひとつ乱していない。
まるで、見えない壁にはばまれているようだ。
春樹は汚れた顔を袖で拭い、口に入った砂を吐き出していた。

(儀式は手順さえふめれば……)

儀式は祝詞を捧げ、神に願わなければならない。
根本から解決するには一番いい方法だと思ったけれど、手順に時間が取られる。
今それを行うほどの時間は……やはり、無い。

秋人さんが纏う見えない壁に阻まれ、春樹がせっかく剣を振るっても全く届いていない。
見えない壁を打った剣から、赤い光が火花のように飛び散り、舞う。
秋人さんの放つ一撃に、またも春樹は身体ごと吹き飛ばされてしまった。

(もう見ていられない。けど、確実な方法も無い……)

「あれは……高村の者だったな。君の弟も……そういうことか。
にしても、あの男。なんて神宝の力だ。あんな力を身体に宿していたら、肉体が持たないだろうに」
「一郎くん、いい方法を教えて!?  儀式は無理だし……このままじゃ、春樹が……!」
「落ち着いてよく見てみろ、大堂。君の弟の連続攻撃に対して、あの男の動きが怠慢になってきている。
力の消耗が激しくて、決定的な反撃ができなくなっているんだ」

たしかに、動きがさっきよりも鈍く感じる。
春樹の無謀とも思えた捨て身の行為も、策があってのことだったのだ。

「大堂。その矢を貸してくれないか」
「えっ。うん……」

私は矢を一郎くんに手渡す。
一郎くんは矢をグッと握り締めると、青白く輝き始めた。

「さあ、この矢を。致命傷を与えるほどではないが、威力は増したはずだ」

私は矢を掴むと、構えをとった。
息を整え、ゆっくり弦を引きわける。
すると、一郎くんがスッと私のすぐ傍らに立った。

(一郎くん?)

「俺に弓道の心得はない。しかし、あの男が纏っている壁の一番脆い場所は見えている。
俺の指が示す方向に矢を放て。君の弟が離れた瞬間がチャンスだ」

私の左手に一郎くんの手が添えられた。
二人の人差し指が、秋人さんという同じ的に向う。
春樹がまた地面に倒れこんだ。体力の限界が近いのか、春樹は膝を立て息を切らしている。

「大堂なら、必ずやり遂げられる。君の弟が与えてくれた機会を無駄にするな。
俺が目になっているんだ。自信を持って思い切り、放て」

私は……
①放つ
②迷う

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