701
③十種の神宝について思い出す

(十種の神宝か……)

私は十種の神宝について、詳しく思い出してみることにした。

澳津鏡(おきつのかがみ)、辺津鏡(へつのかがみ)、八握剣(やつかのつるぎ)、
生玉(いくたま)、足玉(たるたま)、道返玉(ちがえしのたま)、死返玉(まかるがえしのたま) 、
蛇比礼(おろちのひれ)、蜂比礼(はちのひれ)、品物比礼(くさぐさのもののひれ)
が、十種の神宝と呼ばれていた。
それぞれの神宝にはすべて意味があり、その意味に沿った強い鬼の力を宿していた。

大和の民は出雲の持つ神宝の力を、黄泉の祟りとして恐れを抱いている者も多かった。
出雲は根の国と呼ばれ、死者の世界に通じている恐ろしい場所だと思われていたためだ。
死者甦生という禁忌も行える神宝が、死者の世界に通じているという誤解を生んでいたようだった。
また、出雲もそういった誤解をあえて解こうとはしなかった。
それは鬼の力を持ち、大和の民よりも優れているという慢心があったからだ。

けれど神宝が宿す力は、決して悪い力というわけでは無い。
強い力というのは、使う側で正義にも悪にもなる。それは十種の神宝も三種の神器も変わりは無い。
そういった、民族同士の偏見や誤解から無益な争いを生む結果になってしまった。

(十種の神宝の一つ、死返玉の力を使った者……)

「冬馬先輩。五百年前に見た死返玉の力を持つ者って、高村の一族だったんだよね?」
「はい」
「じゃあ、もしも冬馬先輩の言うように、春樹のお父さんが亡くなったまま操られていたとして……
操っている人も高村の一族の誰かだと思ってる?」
「はい。ですが先ほども言ったように、鏡でないと確認はできません」

もし操っている人がいるのなら、同じ一族だと冬馬先輩は思っている。
(高村一族か……)

強い力を持つ家系で、財力も権力もある。
そういえば、華族だったと美波さんが言っていた。
少なくとも五百年前から姓氏を名乗っているようだし、由緒正しいのは間違いなさそうだ。
もしかしたら、十種の神宝に関係している可能性だってある。
武くんや熊谷さんが言っていた、高村の伝承とも関わっているのだろうか。

どうしようかな?
①操っている人が誰なのか尋ねてみる
②高村一族の歴史を尋ねる
③高村の伝承を尋ねる

702
②高村一族の歴史を尋ねる

「冬馬先輩は、高村一族の歴史を知っている?」
「いいえ、残念ながら転生していた時代のことしか分かりません」
「そっか……」
高村一族のことを聞けば、何か分かると思ったけれど……。
そのときぽんっと音がした。
振り向くと、鞄から這い出したらしいチハルが制服姿で立っている。

「愛菜ちゃんひどいよー。ボクのコトわすれてたでしょう?」
ぷーっと頬を膨らませてチハルがすねている。

「ご、ごめんね」
事実なので慌ててチハルに謝ると、すぐに機嫌を直したのか跳ねるように私に近づいてくると、首に腕を巻きつけるようにぺったりとくっつく。

「愛菜ちゃん、春樹をつれていった人のケイフをしりたいの?」
「え?けいふ?……あ、系譜ね、うん知りたいけど……」
「それならボクが聞いてあげるよ。神様に聞けばおしえてくれるよ」
「え? 本当?」
「うん、まかせて!」
そういいながら、チハルは軽く目を伏せた。

「石見国そこがはじまり」
「石見国って……出雲の隣……」
ふと、記憶がよみがえる。

「十種の神宝は昔、出雲のものではなかった。大和の平定を助けた一族がもっていたもの」
ふと、チハルの様子が変わっているのに気付く。

(チハルの口をかりて別の人が話してる?)
きっとチハルがいうところの神様なのだろう。

「だが一族の力が弱くなり、神宝を守る力が弱くなったため、力ある一族へとその神宝を託した。それが出雲の鬼と呼ばれる人々」
「そっか、神宝はもともと別の一族のものだったんだね」
きっと神宝が託されたのは壱与が生まれるずっと前のことなのだろう。

「いかにも。そして十種の神宝を持っていた一族の傍系が、高村の一族の先祖。十種の神宝の伝承を正しく伝えるのがその一族の勤め」
「え?伝承?」
私の疑問の声を気にする風も無く、声は続ける。

「鬼の一族へ神宝が託された後も、高村の一族の先祖は出雲へは移らず石見国で伝承を伝え続けた。出雲が大和に破れ、神宝の行方が分からなくなってもそれは変わらなかったようだ」
そこまで話して声が沈黙する。

どんどんと新しい事実が語られ、混乱する。
えっと……

①「神宝の行方は神様でも分からないの?」
②「高村の伝承って、十種の神宝のことなの?」
③「行方不明の神宝の一つをなぜ高村一族がもってるの?」

703
①「神宝の行方は神様でも分からないの?」

「行方は分かっている。神宝は長い年月をかけ、石見国の主の元へ戻った」
「石見国の主って、もしかして高村一族の事ですか?」
「いかにも」

(十種の神宝の持ち主が高村だったなんて……)

「じゃあ、高村は十種の神宝を持っているんですよね?」
「持ってはいない。十種の神宝の力もまた、開放されている」
「十種の神宝の力も開放されたんですか?」
「無論。十種の神宝は三種の神器の対として天照大神から賜った宝具。
三種の神器が陽の気で作られ、十種の神宝は陰の気で作られた。陰陽は表裏一体。
三種の神器が開放されてしまったことで、十種神宝の力も開放されたのだ」

「まさか十種の神宝も開放され、人の魂に取り付いたってことですか?」
「いかにも。高村一族、もしくはそれに連なる血筋の特殊能力は、神宝の力。その力を以って伝承を伝えるのがその者らの勤め」
「伝承……。その高村の伝承って何ですか?」
「そなたらが行う事象そのものが伝承となる」
(……事象そのもの)

チハルの身体をかりた神様は、冬馬先輩の方にゆっくり向き直った。
「剣よ、巫女が進む道を示すがいい」
冬馬先輩はその声に黙って頷いた。

「託宣の巫女よ。三種の神器と十種の神宝を鎮めることができるのは、巫女の力と鬼の力を持つそなただけだ。
八尺瓊勾玉はそなたを支える者。迷わず進むがいい」
「勾玉は一体、誰? 鎮めるってどうすればいいんですか。教えてください!」
私は思わず、チハルの腕を掴んだ。
「………………」
私の問いに、チハルの身体をかりた神様は黙ったままだ。

(あれ……神様?)
心配になってチハルを覗き込むと、突然話し出した。
「愛菜ちゃん。お話しは終わったの?」
話し方がいつものチハルに戻っている。
「あ、うん。終わったよ」
どうやら神様は、言いたい事だけ言うと去ってしまったようだ。

(八尺瓊勾玉が誰なのか聞けなかったよ……)

①考えを整理するために思い返す
②冬馬先輩にどう思ったか尋ねる
③チハルに今の神様について尋ねる

704
①考えを整理するために思い返す

(えっと、まず十種の神宝は元々鬼のものではなくて……)
過去の記憶を探っても、このことに関しては初耳だった。
きっと鬼の一族が神宝を守るようになって長い年月が過ぎ、真実が伝わらなかったのだろう。

(それにあの神宝の力は、鬼の力にとても似てたよね)
陰の気の強い鬼の力。そして、陰の性質を持つ十種の神宝。似ていて当然かもしれない。
いつしか神宝が強い鬼の力が宿っているといわれるほどに近い力。
そして、三種の神器。あちらは陽の力で出来ているといった。
陽の力は、私が託宣の巫女として使う力に近い。

(壱与って陰陽どちらの力も使えたんだよね、って今の私もか)
それに三種の神器が陽、十種の神宝が陰と大まかに分けられているけれど、その中で三種の神器は鏡と剣が陽、勾玉が陰とさらに分かれている。
十種の神宝については詳しくは知らないが、おそらく神宝も陰のなかでもさらに陰と陽が分かれているのだろう。

(十種の神宝は王になる人が守ることになってたから、それ以外の人は詳しくわからないんだよね)
いくら王の娘だったからといって神宝に直接触れることはなかったし、ましてやその力を振るうこともなかった。

(思い返してみれば、鬼の一族の物とされていた神宝よりも、大和の宝だった神器のほうが身近だったな)
託宣の巫女として壱与は直接神器に触れ、そしてその力を行使していたから、そう感じるのも当然だけれど。

(それにしても、勾玉は一体誰に?)
思考があちこちに飛ぶ。
神様は私を支える人と言っていた。迷わず進めとも。

(私を支えてくれる人といえば……、冬馬先輩、一郎くん、修二くん、それから隆に、春樹、チハル、それから周防さんに美波さん?)
順番に思い返えす。
冬馬先輩と、一郎くん、修二くんはそれぞれ、剣と鏡だから除外する。
隆と美波さんを思い返すけれど、今思い返しても力を使っているときに勾玉の気配を感じたことはない。
チハルは精霊だから違うだろう。
春樹と周防さんは高村の一族だから、力があるとすれば神器の勾玉ではなく、神宝の力を持っていると考えるほうが妥当だ。

(神宝っていえば周防さんはそれっぽいよね……? 
 春樹は普通の人と変わらないみたいだったけど……あ、でもチハルが以前、春樹にくっついてれば気持ちいいって言ってたな)
考えれば考えるだけ思いつくことが多く、こんがらがっていく。
思考があちこちに飛んで脱線していくのが分かるが、気になるととめられない。

(高村の血を引いていて、能力が高い人といえば……)
すぐに思いつくのは3人。
周防さん、春樹のお父さんの博信、そして春樹の腹違いの兄秋人。
この三人に神宝の力が宿っている可能性は高い。
誰がどんな力を持っているのか気になる。

特に……
①周防
②博信
③秋人

705
③秋人

(秋人……春樹の異母兄弟)
この人のことはまだ何もわかっていない。
背格好やパッと見た感じは周防さんと似ていたから、歳は二十代だと思う。
会ったのは一度きりだし、夢の中だったせいか現実よりも曖昧だった。

(だけど……)
『君は今、幸せかい?』と尋ねた秋人さんはちっとも幸せそうには見えなかった。
眼鏡の奥の瞳は、暗く沈んでいたように思う。
神経質そうに笑う口許は、不自然そのものだった。

秋人さんの力が神宝だとすると、さっき冬馬先輩が言っていた死返玉の力である可能性も出てくる。
けれど、自分の父親を傀儡のように操ることなんて出来るだろうか。
もし私が同じ立場なら、死んだお父さんを自由に操るなんて、とても出来そうに無い。
それに春樹のお父さんが死んでいるのかすら、まだ確認できていないのだ。

「冬馬先輩。春樹のお父さんの能力も、秋人さんの能力も知らないんだよね」
「はい。僕には見えませんから」

(あっ……そういえば)

「チハル。少し聞いてもいいかな?」
「うん。何?」
「思い出すのが怖いかもしれないけど……春樹が家から出て行ったときの様子を聞きたいんだ。
確か、チハルは春樹のお父さんを見たんだよね?」
チハルは少し怯えた顔になったけれど、「うん。いいよ」と言って話し出した。

「……あの日はずっと春樹の胸ポケットに居たんだ。
夕方になって春樹がお家に帰ると、もうママさんが帰ってきてたんだ。
だから、ボクは変身するのを止めといたんだよ」

(そっか。たしかストラップになって春樹を守ってたんだっけ)

「それでどうしたの?」
「春樹が携帯電話で誰かとお話ししてて……少し経ったら、ピンポンって鳴ったんだ。
玄関に春樹が出て行ったら、ママさんがすごくドロドロしたおじさんとケンカみたいに話してたの。
おじさんが『春樹、行くぞ』って言ったら、ママさんが止めるのも聞かずに、春樹はその人と一緒に外に出ちゃったんだ。だけどね……」
「だけど、どうしたの?」
「家の前に、もう一人怖い男の人が立ってたんだ。その怖い人が春樹に『その精霊は置いていけ』って言ったの。
それで春樹はポケットの中にいたボクを門に置くと、三人は黒い車に乗って行っちゃったんだ」

(春樹を連れて行ったのは……二人)

①お継母さんと話していた男の人についてチハルにきく
②家の前に居た男の人についてチハルにきく
③冬馬先輩を見る

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③冬馬先輩を見る

「先輩、先輩には見える力がないって言っていましたけど、まったく見えないんですか?」
「まったく見えないわけではありません。
 ファントム程度は見えますし、人と精霊の違い位はわかります」
「それじゃあ、胸ポケットに入っているストラップが精霊だっていうのも分かるんですか?」
「状況にもよりますが、分かると思います」
「そっか……」
直接見えないものが精霊だと分かるのなら、もしかしたら神宝の鏡なのかもしれないと思ったけれど、状況にもよるというのなら鏡と断定も出来ない。
そもそも『見える力』というのはどういうものだったか……。
過去を振り返る。

(鏡の力は……映す力、見る力、反射する力)
神器と神宝の鏡が同じ力を持つかは不明だが、鏡というからにはこの3つの力はおそらくどちらにも共通にあるものではないだろうか。

映す力は遠くでの出来事を映すのに使うことが多い。過去や未来の出来事を映すこともあった。
見る力は正確には『内を見る力』。心や魂を見る力と言っても良いだろう。内に宿る真実を見る力。自分でも見失いがちな想いを映す。
反射する力は、自分に向かってくるものを、相手にそのまま返す力。呪詛などをそのまま相手に返すこともできた。

(ん……あれ………?)
ふと心に引っかかるものがあった。
初めて会った時の周防さん。

(まるで私の心を読んでいるようだった……よね?)
でもあれは、私の表情が分かりやすいからだといっていた。
たしかにその自覚はある。

(それに……、ショッピングセンターでの事件で一郎くんが言ってたよね、力を消そうとしている男がいたけれど、力の基が見えていないみたいだったって……)
鏡ならば基が見えたはずだ。神宝の力と神器の力が同じならば、という仮定での話しだけれど……。
それに、神器では鏡は一つ、神宝では二つというのも気になる。
なんにせよもっと神宝の情報がほしいところだ。

詳しそうなのは……
①チハルにまた神様と話せるようにお願いしようかな?
②周防さんに直接連絡してみようかな?
③近藤先生なら歴史の先生だし知ってるかも?

707
②周防さんに直接連絡してみようかな?

(周防さんに聞くのが一番早いよね)
私は携帯を取り出すと、アドレスから周防さんを探し出す。
探しているところで、チハルが携帯の画面を覗き込んできた。

「どうしたの? チハル」
「ねぇ、だれに電話するの? ボク、かけてみたい」
「携帯を使ってみたいの?」
「うん。愛菜ちゃんも隆も春樹もみんな持っているのに、ボクだけ持ってないんだもん」
「そっか。でも、私の携帯でチハルがいきなり話し始めたら、きっと周防さんがビックリしちゃうよ」
「そうなの?」
「ごめんね、チハル。また今度ね」

「……周防に連絡を取りたいのですか?」
私とチハルの会話を黙って聞いていた冬馬先輩が、突然話しかけてきた。

「うん。周防さんに神宝のことを尋ねようと思ったんだ」
「それは周防の能力を知りたいということですか?」
「まあ……そうだね。周防さんって神宝の鏡かもしれないって、フッとそんな気がしたから」

「……………」
「?」
「……………」
「先輩?」
なぜか急に黙り込んでしまった冬馬先輩を、私は促すように尋ねた。
「………だれか、こちらに来ています」
「どうしてわかるの?」
「気配が……この感覚…」
「気配?」

力を手にしても、私には何も感じない。
見えないと言っていた冬馬先輩だけど、何か感じ取っているようだ。
今までもそうだったし、能力者を知覚するカンが特に鋭いのかもしれない。

それにしても、誰だろう……
①周防さんかな?
②熊谷さん?
③隆かな?

708
①周防さんかな?

周防さんの話をしていたため、真っ先に周防さんが脳裏に浮かぶ。
冬馬先輩は無言で立ち上がると、チハルへ声をかけた。

「愛菜を守っていてください」
「うん!」
冬馬先輩は相変わらず静かな声で言うとそのままリビングから、庭へ出る戸を開け、雨の中へ出て行く。

「せ、先輩!?」
私は慌てて、先輩の後を追おうとしたが、やんわりとチハルにとめられる。

「ダメだよ愛菜ちゃん。あぶないよ、なんかねこわいのが来るよ」
「こわいの……?」
「うん、だから愛菜ちゃんはうごいちゃだめだよ」
そう言ってチハルは私の正面に回ってくると、ぎゅっと私を抱きしめた。

「こうしてればだいじょうぶだよ。ボクがまもるからね」
「でもチハル、先輩が……」
「……そのセンパイとやらは、しばらくここに来られないだろうよ」
「……!」
先輩が出て行った庭先に熊谷さんが立っている。

「センパイは、アイツが相手してるからな」
「熊谷さん……」
冬馬先輩と違い、ずぶぬれの熊谷さんは、楽しそうに笑ってリビングに近づいてくる。

「きちゃだめだよ」
ぎゅっと私を抱きしめて、チハルが冷たい声で言う。
こんなチハルの声は初めてで思わずチハルを見上げてしまった。

「なんだ? オマエ、ケガしたくなけりゃそこをどけよ」
「オマエじゃないよ、チハルだよ! それにクマガイは怖くないよ」
チハルはキッっと熊谷さんをにらんでいる。。
言ってる内容はチハルらしいけど、頼もしいことは確かだ。

「ふーん、やる気か? オレは楽しけりゃどっちでもいいぜ?」
「……そうかそうか、でもねぇ、愛菜ちゃんに手を出すのは許せないなぁ?」
「……! 周防さんっ」
「やっほー、愛菜ちゃん」
聞きなれた声がして、周防さんが庭の死角から歩いてくる。

(あ……周防さんもぜんぜん濡れてない……?)
冬馬先輩と同じく、水を操ることが出来るのだろうか?

いろいろと疑問は尽きない。

①「熊谷さんはどうしてここに?」
②「周防さんぜんぜん濡れてませんけど……?」
③「冬馬先輩が相手しているのは誰?」

709
①「熊谷さんはどうしてここに?」

私の質問に熊谷さんは「はぁ?」と呆れた顔をする。

「そりゃ、決まってんだろ小娘。オマエを連れ去るためだよ。
器の封印が解かれたのを感じて、ここまで追ってきたのさ」

熊谷さんが一歩近づいてくるたびに、チハルは一歩後退する。

「愛菜ちゃんは、ボクがまもるんだからね」
「チハル…」

リビングに入ってこようとする熊谷さんを、周防さんは肩を掴んで止める。
二人は対峙するように、顔を見合わせていた。

「愛菜ちゃんを奪うのは、まず俺を倒してからにしてもらおうかな?」
「周防……やっぱり生きてやがったのか」

苦々しく顔を歪めた熊谷さんだったけれど、反対に周防さんは至っていつも通りだ。

「あのさ、熊谷。一言いっていいか?」
「なんだぁ?」
「その派手なシャツは無いな。まるでチンピラじゃないか」
「……うるせぇな」
「そのだぼたぼのズボンも下品だ。相変わらず、趣味悪いよなぁ」
「放っとけ」

周防さんは冷ややかな目で熊谷さんを見ている。
言われた熊谷さんは少しムキになりながら、反論していた。

「オレが何を着ようと、テメェにゃ関係ないだろ」
「関係あるさ。一応、親戚なんだし」
「一族の裏切り者がよく言うぜ」

ぶん、と熊谷さんが手を振ると、周防さんの頬に赤い筋がついた。
その筋から、血が滴り落ちる。

「アタタ……かまいたちか。不意打ちとは卑怯だぞ」
「……フン。ショッピングモールで今度こそ殺ったと思ったのによ」
「俺は往生際が悪いんだ。お前と一緒でな」
「チッ、死に損ないが……」
「決着をつけたいなら、ここでは止めろ。愛菜ちゃんが怪我をするといけない」
「オマエに指図されたくねぇな」

(熊谷さんも親戚なんだ……。ていうか周防さん、熊谷さんに対して言いたい放題のような)

「あの……」
私は二人の会話を遮るように、声をかけた。
「はぁ? 邪魔すんな」
「どうしたのかな、愛菜ちゃん」

えっと……
①「熊谷さんも高村の血筋なんですか?」
②「周防さんぜんぜん濡れてませんけど……?」
③「冬馬先輩が相手しているのは誰?」

710
①「熊谷さんも高村の血筋なんですか?」

「いや、違う違う。俺の母が高村なんだけどさ、コイツはうちの父方の親戚。高村とは関係ないよ。
 能力者を多く出す血筋ではあるけどね。
 それに高村の一族なら、コードナンバーはつかない。
 まあ高村は嫌いだけど、コイツと同じ苗字を名乗るよりはマシだよね」
「オマエいいたい放題だな……」
周防さんがため息をつきつつ言うと、さすがに脱力したのか熊谷さんもがっくりと肩を落とした。

(周防さんって、案外毒舌なんだ……)
「いやいや、だってさこんな趣味悪いのと血縁ってだけで、同類にされたら嫌じゃない?」
そういわれて、つい熊谷さんを上から下まで眺めて頷いた。

「確かに……、でも周防さんは着こなし抜群だと思います。シンプルだけど趣味がいいと思いますよ」
「……お前ら言いたい放題だな、おい」
こめかみに青筋をたて、地を這うような声で熊谷さんがにらむ。

「事実だからね、と、まあそんな話はどうでもいいんだけど、で、俺とやりあうつもり?」
「邪魔する奴は排除していいっていわれてるなぁ」
青筋を立てたまま、熊谷さんが器用に口の端をクイッと持ち上げる。

「ふーん? で、俺に勝てるとおもってる?」
「やってみないとわからないな」
「なるほどね、確かに本気でやりあったことはないかな」
「日曜日に死にそうになってた奴がよく言うぜ」
「あの時は、愛菜ちゃんとの契約があったからね。力の制約があったんだよ」
「……へぇ、それじゃまるで制約がなければ余裕だったとでも?」
「じゃ、聞くけどさ、俺がアンタに勝てなかったことってあったっけ?」
「…………」
沈黙した熊谷さんに周防さんはにっこり笑った。

(す、周防さん笑ってるのに……なんか、笑顔がこわいよ……)
「愛菜ちゃん、愛菜ちゃん」
熊谷さんと周防さんの会話を、内心ひやひやして聞いていると、小声でチハルが私を呼んだ。

「どうしたの?チハル」
「周防がね、今のうちに逃げてって」
「え?」
「今のうちににげなさいっていってるよ」
周防さんは相変わらず熊谷さんと、向き合って立っている。

(テレパシーみたいなもの……?)
どうしよう……

①逃げる
②逃げない
③もっと詳しくチハルに聞く

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