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②逃げない
一緒に戦うために、力を手に入れた。
だから……
「周防さん。私、逃げたくありません。一緒に戦い――」
「駄目だ!!」
周防さんの大声で、私はビクッと動きを止めた。
「ごめんな、驚かせて。だけど駄目なんだ、愛菜ちゃん」
「どうして……」
「力の解放はさせるべきじゃなかった。だって、愛菜ちゃんが力を使ったら……」
せっかく力を手にしたのに、使っては駄目だってどういう事だろう。
私はただ呆然と立ちすくむことしか出来なかった。
そんな私の姿を見て、熊谷さんが痺れを切らしたように口を開いた。
「しっかし、この前といい興を削ぐのが好きな小娘だな。
力を使ってみたけれりゃ、使ってみるといいぜ。ただ、無事に済みゃいいがな」
(無事では済まないということ?)
「熊谷の言うとおり、俺も今の愛菜ちゃんが力を使ったら無事では済まないと思う」
「なぜ、そう思うんですか?」
私の質問には答えず、諭すように周防さんは私を見る。
「逃げるのも戦略のうちだよ。どうみてもチンピラだが、紳士的なところもある。熊谷なら抵抗さえしなければ、俺を倒すまで手出ししないだろう」
「周防のは一言余計だがな……いいぜ、逃げたきゃ行けよ。オレは周防と戦えりゃいいからな」
「ほら、熊谷の気が変わらない内にその精霊と……」
「待ってください。せっかくの力を使っちゃいけないなんて、どうしてですか!? 教えてください。周防さん!」
たくさん悩んで、決めたことだったのに。
(まだ、私には何か足りないというっていうの?)
「小さな力だったら使ってもいいんだ、気も回復するからね。だけど、無理に大きな力を使ってしまった時は……。
多分、こよみ……綾と同じことになる」
瀕死の重傷だった周防さんを、すべての力を使って救った綾さん。
綾さんは生命力そのものを削って、それを力に変えて命を落とした。
(綾さんと、同じ……)
「伝承どおりなら、今の君は太極でいうところの陰陽両儀だ。均衡がとれ過ぎていて、気を集めて力とする事ができない。
かといって、伝承の壱与のように、巫女としての修行を積んだわけではないんだ。
神器か神宝を完全に得なければ、愛菜ちゃんは生命力を削るしかないんだよ」
周防さんは何を言っているの…
①「それも高村の伝承ですか?」
②「陰陽両儀?」
③「一郎君たちはそんな事、何も言っていなかった」
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③「一郎君たちはそんな事、何も言っていなかった」
周防さんの言葉を疑うわけではないけれど、そんな大事なことを一郎くん達が言わないはずはない。
それどころか、冬馬先輩の傷を治す方法を思い出す手伝いまでしてくれた。
(周防さんたちしか知らないことがあるの……?)
でも、それだって神器である一郎くんたちが知らないことなんて、無いのではないだろうか?鏡には過去や未来をみる力だってある。
声が出なくなってしまったから力を解放するのが必要だったとしても、その後のことまで総合的に考えるのが一郎くんなのだ。
そして問題がないと判断したからこそ、力の解放を手伝ってくれたと思っている。
(一郎くんがなにも考えないわけないよ)
その点は一郎くんを疑う予知はない。いつでも、先を考えて行動する。
「もし力の解放でまったく力が使えなくなる状況になるって分かってたら、一郎くんは力の解放なんてしなかったと思う。
もし、そうなっても何か別の方法で力は使えるはずだよ」
「愛菜ちゃんは、その一郎くんを信じてるんだ?」
「……はい」
いつもの周防さんと違う、どこか寂しげな目に私は気おされつつ頷いた。
けれど周防さんはすぐにいつもの表情に戻ると言った。
「愛菜ちゃんが信頼するくらいだから、きっといい奴なんだろうけどそいつがすべてを知ってると思うのは危険だよ」
「確かにそうかもしれませんけど……」
周防さんの言うことも最もだ。
「そいつが全部知っていようがいまいがどうでもいいだろ? いい加減いつまでまたせんだ」
「きゃっ」
イライラとした熊谷さんの声と共に、私の近くで空気が弾けるような音がした。
「だいじょうぶだよ愛菜ちゃん」
「おいおい、女の子をいじめるなんて、男らしくないなあ」
「ふん、なんとでも言え。いつまでもぐだぐだ話してるからだぜ?」
熊谷さんが言葉を続けるたびに、パンパンと私の近くの空気が弾ける。
直接何かするわけではないし、ただの威嚇だと分かっているから怖くは無いけれど、熊谷さんは気が長いほうではないのが伺える。
「さっさと逃げろよ? 話しなんて後でいくらでもきけるだろ」
「そうそう、さくっと熊谷をやっつけちゃうからさ」
「ふん、簡単にいくかな?」
「さあ? まあ、愛菜ちゃんはとりあえず逃げてくれるとお兄さんうれしいな?
あ、そうそうそれに、別に殺したりするわけじゃないから安心してね?」
再度周防さんが私を促す。私は、仕方なく頷いてチハルを見上げた。
チハルは私の視線を感じたのか小さく頷く。
抱きしめられていた腕を解かれ、私はリビングを出た。
でも、逃げるっていってもどこへ……?
携帯を取り出して、時間を見る。
丁度学校は休み時間。
①学校に戻る
②電話する
③駅へいく
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①学校に戻る
携帯をポケットに入れ、とりあえず傘を持って玄関を飛び出した。
一緒に出てきたチハルに傘を渡して、私も急いで傘をさす。
「どこにいくの?」
「……一郎くん達もいるし、学校へ行こうか」
「うん。行こう愛菜ちゃん」
私とチハルは思いつくまま、学校に向って走りだした。
ハァ、ハァ、ハァ…
私は息を切らせて、走り続ける。
最初は私がチハルを引っ張っていたけれど、いつの間にかチハルに引っ張られるように走っていた。
走っているせいで、足元どころか制服もずぶ濡れになってしまった。
(にしても、周防さんの言っていたことって……本当なのかな)
わからない。けど、せっかく得た力を使ってはいけないなら、きっと一郎くんなら最初から言ってくれるはずだ。
目の前に学校が迫ったところで、私は人影を発見する。
校門前で傘をさし、立っている影には見覚えがあった。
「修二くん!!」
「……愛菜、ちゃん?」
「大変なの。冬馬先輩や周防さんが襲われて!」
「うん。わかってる」
修二くんはこの状況もわかっているのか、驚いた様子も無い。見ることのできる鏡は、さすが心強い。
「一郎くんと一緒に助けてあげて。私が力を使っちゃ駄目だって周防さんがいうの。逃げろって……」
「………」
「一郎くんはどこ? どうすればいいか聞かなきゃ」
「………………」
私の言うことは聞こえているはずなのに、修二くんは何も言わない。
その時、チハルが私の前に庇うように立った。
「この人、よくないかんじがするよ」
「どうしたの? 修二くんとは何度も会っているじゃない」
「なんだか、ドロってする」
「……ハハハッ。やっぱり兄貴に頼るんだね、愛菜ちゃんは」
傘が邪魔して顔までわからなかったけれど、笑っていても口調は暗く沈んでいた。非難するような、棘すら感じる。
「修二くん。どうしたの?」
「鏡だって、偽物より本物の方がいいに決まってるよね……」
「偽物って、なんのこと?」
「愛菜ちゃん、この人にちかづいちゃダメだよ!」
「この精霊……うるさいな。邪魔だから、黙っててよ」
修二くんがチハルの腕に触った瞬間、大きかったチハルが小さなぬいぐるみに戻ってしまった。
「チハル?」
呆然と、地面に落ちた濡れたチハルを抱き上げる。
突然の出来事に、頭が混乱する。
①「修二くん、一体どうしたの?」
②「修二くん! なぜこんなことをするの!?」
③「修二……くん?」
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③「修二……くん?」
「ねえ、愛菜ちゃん? 俺はね過去なんてどうでもよかったんだ」
「……?」
チハルが居なくなった分、さらに一歩ちかづいた修二くんがささやくような声で言う。
「兄貴と俺は同じようでまったく違う」
「……当たり前でしょ?」
なぜそんな事をいうのか。双子だって別の人間だ同じわけがない。
修二くんはさしていた傘から手を離す。さらに近づいてほとんど密着状態になった。
修二くんは怒っているような、泣いているような、いらだっているような、複雑な表情で私を見ていた。
傘を捨てた修二くんがあっという間に濡れていく。
私はあわてて、修二くんも入れるように傘をかざした。
「そうじゃない、そういう意味じゃないんだ。 兄貴には過去の記憶がある。俺にはない」
「そう言ってたね」
修二くんの腕が伸びてきて私をそっと抱きしめた。
普通なら逃げるところだけれど、修二くんのただならぬ様子に動けない。
「力も違う。現在を見る力は同じみたいだけど、兄貴には未来を見る力がある。俺には過去を見る力が」
(過去なんてどうでも良いって言ったことと関係あるのかな?)
「二人でいればどういう原理かどちらの力も使えるけど、一人のときは俺は未来を見ることができない」
「…………」
修二くんは未来を見る力がほしかったのだろうか?
「過去なんてどうでもいい、大事なのは先のことだ。だから俺は過去を見る力を使った事がなかったんだ」
「……そう」
「でもね、愛菜ちゃんに会ってから見える世界が変わった。その理由を知りたいと思った」
修二くんは私の肩に頭を預けるようにして言葉を続ける。
「兄貴といるとき愛菜ちゃんの未来を見たんだ、愛菜ちゃんがなにか大変な事に巻き込まれるのを知った。
でも、未来は確定じゃない、刻々と変わるものだ。見た未来で愛菜ちゃんが巻き込まれる原因を見つけられなかった
だから、過去になんかあるんだろうって思ったんだ。そのとき自分の力を始めて使おうと思った」
「え……でも………」
「うん、使わなかった。いや、正確には怖くて使えなかった」
「怖い……?」
「何で過去を知るのが怖いのか、もしかして今まで過去はどうでも良いと思っていたのも潜在的に怖がってたからじゃないか……って思うようになったよ。
そして予感は当たった。俺は自分の過去を知るのが怖かったんだ」
「え……?」
「さっき力を使ったんだ。過去を見る力を……」
修二くんの腕の力が強くなる。私は修二くんが震えているのに気づいた。
そのまま修二くんは沈黙してしまった。
どうしよう……
①「何が見えたの?」
②「無理して言わなくても良いよ」
③修二くんが話し出すまで待つ
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①「何が見えたの?」
私は間近にある修二くんの顔を、そっと覗きこむ。
「教えたくない。だって、俺にとって肝心なのは過去じゃなく、未来だから」
震えは治まったけれど、修二くんの様子はやっぱり普通じゃない。
いつもの余裕や軽い態度が、まるで影を潜めてしまっている。
「本当にくだらない事で、面白く無い話なんだ」
「ねぇ、本当にくだらない事なの? なんだか、苦しそうだよ」
「苦しい? まさか」
修二くんは低く笑うと、私の耳元に唇を寄せた。
「……つまらない話題より、もっと楽しいことを教えてあげるよ」
耳元で、吐息ともつかない言葉を囁かれる。
その甘い囁きに身体の力が抜けて、次の言葉が出てこない。
濡れた制服から、修二くんの体温がジワリと伝わってきた。
「や……」
「怖がらないで。髪までこんなに濡れて……可哀想に」
「…やめ……て」
「この前とは違う、ちゃんとしたキスをしてあげるから」
「…じ、冗談はやめて……」
私の声を聞いて、修二くんの腕がフッと解ける。
「……また冗談で済ませるつもり?」
「し、修二くん?」
「愛菜ちゃんは……また、はぐらかすつもりなんだ」
修二くんは頭を起こして、私を見据える。その顔はいつになく苦しそうに、歪んでいた。
「はぐらかすなんて、そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、どんなつもりなのか教えてよ。やっぱり、兄貴がいい? それとも俺が嫌いなのかな?」
「違うよ」
「だったら……! なんでいつも逃げるのさ」
「修二くんは、私の中の壱与が気になっているだけなんだよ」
「前世なんて関係ないじゃん。愛菜ちゃんは俺を信じてくれるって言ったのに、どうして否定ばかりするんだ」
「否定なんて……」
「否定してるじゃないか。一体、何を考えているんだよ」
「私、ずっと不思議だった。なぜ修二くんが私にこだわるんだろうって。でも気づいたんだ。修二くんは……鏡として壱与に惹かれているんだよ」
「……どうしてそうなるんだ。愛菜ちゃんだからいいって、ずっと言ってたのに」
修二くんは呻くように呟き、再び私を見る。
「……わかった。しつこいのは嫌だし、もうこれで最後にしよう。
俺の気持ちに応えてくれる? もし駄目でも、素直な愛菜ちゃんの気持ちを教えて」
どうしよう……
①「……やっぱり無理だよ。ごめん」
②「ちょっと待って」
③考える
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③考える
(私の気持ち?)
思わず考え込んでしまう。
以前は修二くんの事を軽薄な人だと思っていたけど、ちゃんと優しいところもあることを今は知っている。
(いつも自分の気持ちに正直に生きてるんだよね……え?)
そう考えて、ふと思考がとまる。
自分の気持ちに正直に生きてる、ということは私のことを好きだといったのも冗談でもなんでもなく素直な気持ちなのかもしれない。
そう思ったら急に心臓がドキドキと鳴り出した。
(え? え? もしかして本当に……?)
顔が熱い、きっといま私は真っ赤だ。
「愛菜、ちゃん?」
急に真っ赤になった私に、修二くんが少し驚いたような顔で覗き込んでくる。
「ち、ちがっ……あの……そうじゃなくてっ」
あわてて、修二くんに顔が見えないようにうつむく。
途端、修二君がクスクスと笑いはじめた。
「愛菜ちゃんホントかわいいなぁ。ね、いいの? そんな反応見せられたら期待しちゃうよ?」
「あ、あの、そうじゃなくって……だから……」
あわてればあわてるほど何を言えばいいのか分からなくなる。
けれど、修二くんと付き合うとかそういうことは今考えられない。
それ以上に不安があるから。
とりあえずこれだけは伝えないといけないと思った。
「あの、あのね? 修二くんが嫌いとかそういうのじゃないんだけど……」
修二くんの顔は見れなくて、うつむいたまま話す。
「今は誰かと付き合うとか考えられなくて……、それは修二くんだけじゃなくて、一郎くんも隆も同じなんだよ」
「どうして?」
「だって、高村一族が私を狙ってるし、春樹も行っちゃったし、お母さんは泣くし……それどころじゃないの、だから……」
我ながら支離滅裂な事をいっていると思う。
①「ごめんね」
②「全部終わるまで返事はまって」
③「……わかってくれない?」
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③「……わかってくれない?」
「もちろんわかるよ。ちゃんと、すべてが終わるまで待つつもりだし。
けど、愛菜ちゃんの気持ちはどうなのかな? 少しも俺と一緒の未来を想像できない?」
修二くんは私の手を握りながら、問いかけてくる。長くしっかりした指が、私の指に絡みついてきた。
その仕草があまりに自然で、逆に戸惑ってしまう。
(修二くんと付き合う……)
取り巻きに囲まれて、平気で何人もの女の子と同時に付き合うような修二くん。
多分、たくさんの女の子を泣かせているはずだ。
だから私は、そんな修二くんを冷ややかな目で見ていた。
でも同時に、その自由奔放な姿が気になって、目を逸らすことが出来なかった。
「あの……あのね、一つ教えて」
「ん? どうしたの」
「もし私が修二くんの彼女になるって言ったら、今まで修二くんが仲良くしていた女の子達はどうするの?」
「へぇ、妬いてくれてるんだ? 脈アリってことかな」
「そういうつものじゃ……」
「本当? ずいぶん顔が赤いけど」
わざと意地悪に囁いて、修二くんは私を覗き込んできた。
心臓が高鳴って、顔をあげることがてきない。
「愛菜ちゃんは、俺を取り巻くあの娘たちをどうして欲しい?」
「わ、わからないよ」
「俺に特定の恋人ができたとなれば、あの娘たち、きっと泣いちゃうだろうな~」
「…………」
私は否定も肯定もできず、黙り込むことしかできない。
「愛菜ちゃんから尋ねてきたんだよ。どうして欲しいのか、ちゃんと言ってみて」
「……そんな事言われても」
「俺は愛菜ちゃんが望むようにするよ」
修二くんは俯く私の顔を、そっと指で持ち上げる。
顔をあげた視線の先には、真剣な修二くんの顔があった。
「お願いだから、俺を受け入れてよ。そしたら、すぐにあの娘たちは捨てるから」
「捨てるって……そんな簡単な問題じゃないよ」
「じゃあ、あの娘たちが居てもいいって言うんだ?」
「そ、そういう訳じゃないけど」
「俺はね。愛菜ちゃんさえ居れば、他は要らない。どうせ今までも、ただの戯れだったんだ。もうあの娘達には、何の価値もないよ」
「恋人だった女の子達でしょ。そんな言い方、酷い」
「酷いって、何? 便利だから、利用しただけ。欲しがったから、与えただけ。それだけのことじゃない。泣いてすがってくる女の子もいたけど、ウザいだけたったし。俺は人間じゃないって、罵られたこともあったけど、否定なんてしなかった。本当のことだから」
「修二くん?」
「俺は人形だ。だけど、もう兄貴の横で、道化を演じるのは沢山なんだよ」
「人形って何? 言ってくれなきゃ分からない」
「教えたくないよ。それよりも……優しい愛菜ちゃんでも、俺を道具だと……鏡としての利用価値しかないって思うのかな?」
①思う
②思わない
③考える
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②思わない
「なにそれ……なんでそんなこと言うの? 思うわけないじゃない!」
修二くんの言葉に、ふつふつと怒りが湧いてくる。
「修二くんは道具じゃないよっ、修二くんだけじゃない冬馬先輩だってちゃんと人なんだから。
感情があるから悩むんでしょう? 心が痛くなるんでしょう? だからそんなに辛そうな顔をしてるんでしょ!?
先輩も先輩だよ……寂しいと感じてはいけない、喜んではいけない、ないてもいけないってっ、なんでそんな事いうのよ。
そう思ってる段階で、寂しがったり喜んだり泣いたりしてるって、どうしてわからないの!?」
怒りと、言葉にしているうちに湧き上がってきた悔しさに涙が浮かぶ。
「愛菜ちゃん……っぃて」
「はいはい、そこまで、ちょっと愛菜を泣かさないでよ。それから手を放しなさいっ」
パシンっといい再度音がして、修二くんが少し離れる。
「香織ちゃん……?」
「愛菜、大丈夫? まったくコレだから男は!」
「え? なんで香織ちゃんがここに……?」
「もう男どもに愛菜を任せておけないって思ったのよ」
「え? え?」
べりっと、修二くんを引き剥がしてかわりにぎゅーっと抱きしめられる。
呆然とした修二くんが傘の外へでてぬれていく。
「とうとう力を取り戻したんだね、愛菜。 もう封印は解けたから、私のことも思い出すと思うけれど……」
「え……? まさか、香織ちゃんが勾玉?」
「あたり! 本当はあなたに前世のことで苦しんでほしくなかったから私のことを封印していたんだけれど……。
思い出しちゃったものは仕方ないわよね」
そう言った香織ちゃんは、一転真面目な顔になると修二くんを振り返った。
「まったく、過去はどうでも良いって言いながら、一番こだわってるのはキミでしょ?
愛菜が本当に好きなら無理強いなんてしないでよ?」
「……香織ちゃんが勾玉? 本当に?」
「ウソ付いてどうするのよ」
「でも、俺には力が見えないんだけど?」
「そりゃ隠してるもの」
香織ちゃんは肩をすくめる。
(神様は、私を支えてくれる人っていってた。確かに香織ちゃんは親友だし私を支えてくれてる。じゃあ、本当に?)
「私だって鏡と剣と同じ、ずっと前から自分が勾玉って自覚もあったし、力を隠すくらいするわよ。過去の記憶も少しはあるしね」
「俺に過去はない」
「そう思ってるだけよ。ちゃんと振り返りなさいな。
怖くて振り返れないなら、過去を引きずらないことね。自分で言うとおり、前だけ見据えなさいよ?」
いったいどこから話を聞いていたのか、辛辣に言い放って香織ちゃんは私を振り返る。
「さあ、愛菜。私にして欲しいことを言って?」
「え?」
「何をして欲しい? 勾玉として力を貸して欲しい? それとも親友として励まして欲しい?」
そういって私を見つめる香織ちゃんは、とても優しい目をしている。
私は……
①力を貸して欲しい
②励まして欲しい
③力を確認する
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①力を貸して欲しい
「力を貸してほしい……けど……」
「けど?」
「香織ちゃんまで危険な目にあうのは嫌だよ……」
「~~~~~あ、い、なっ。本当に可愛い子ねぇ。大丈夫大丈夫」
思い切りぎゅっと抱きしめられ、さらに頭を撫でられ勾玉でも香織ちゃんは香織ちゃんだと、ホッとする。
けれど、ふと昨日のことを思い出して心配になる。
「昨日、熊谷さんにファントムつけられてたけど大丈夫? なんともない?」
「ああ、平気平気。あの時はまだ愛菜の封印が解けてなくて、私の力も封印されたままだったから、相手には私が勾玉だってわからなかっただろうし、今は封印が解けてるから、あの程度干渉なんてなんてことないわよ」
「……つまり、愛菜ちゃんの勾玉に関する封印をしたのは香織ちゃんで、ついでに愛菜ちゃんの封印と一緒に自分の力も封印。
愛菜ちゃんの封印が解けたら自分の封印も一緒に開放されるってカラクリだったわけだ?」
修二くんが憮然とした表情で、私たちを見ている。
「そうよ。私は愛菜には普通に生きてほしかったし、愛菜が普通に生きる限り私の力は不要なものだったからね」
それに、と香織ちゃんは私から離れると修二くんに向き直って言葉を続けた。
「私が始めて愛菜に会ったとき、すでに愛菜の力は自己暗示で使えないのと同じ状態だったもの。それをちょっと強化しただけよ」
「香織ちゃんに初めて会ったときって……」
「そう、小学の3年に上がったときね」
香織ちゃんは元は転入生で、小学3年から同じクラスになった。
「一目見て分かったわ。私は鏡みたいに見る力は強くないけれどね」
その言葉に、私は不意に不安になる。
「……じゃあ、香織ちゃんは私が壱与だから親友になってくれたの?」
「…………はぁ、おばかさんねぇ。そんなわけないでしょう?」
香織ちゃんは盛大にため息をつくと、軽く私の頭を小突く。
「過去なんてどうでもいいのよ。確かにきっかけは、愛菜が壱与だから引かれたのもあるかもしれない。
でも、愛菜をしれば知るほど、過去の壱与なんかどうでもよくなったわよ。あんたもそうでしょ?」
最後の言葉は、修二くんへ向けて。
その言葉に修二くんは頷いた。
「俺はずっといってるよ、愛菜ちゃんだから好きなんだって。 信じてもらえてなかったみたいだけど?」
「ご、ごめん……」
「まぁまぁ。さて、と、てゆーかこんなにのんびり話しなんてしててもいいの? 私には見えないけど、なんとなーく嫌なピリピリした空気をあっちから感じるんだけど?」
香織ちゃんが指差したのは、私の家の方向だ。
修二くんに詰め寄られたり、香織ちゃんが勾玉だったりと展開についていけずすっかり忘れていた。
①修二くんに家の状況を聞く
②とりあえず家に戻る
③神器をそろえるために一郎くんを呼ぶ
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①修二くんに家の状況を聞く
「ねえ修二くん、向こうがどうなってるか分かる?」
「ん~……」
修二くんは家の方向を見て、少し目を細めた。
「とりあえず片方は勝負がついたみたいだな。もう片方は逆に熾烈になってる。
勝負がついたほうの勝者がもう一方に向かってるな」
「どっちの勝負がついたの……?」
「愛菜ちゃんの家に近いほうの勝負はついてるね。ついてないのは、そこから少し離れた場所のほうだ。
けどまあ、この力は剣だよね。問題ないんじゃない?」
修二くんはどこか突き放したように言うと、肩をすくめて見せる。
(じゃあ、周防さんの方は決着がついたんだ……)
周防さんは大丈夫って言っていたけれど、熊谷さんに勝ったのだろうか?
それに敵だといっても、熊谷さんがひどい怪我をしていないか心配だ。
「どうする?行ってみる?」
香織ちゃんが私にたずねてくる。
「危険だろ?やめたほうが良いって。愛菜ちゃんがケガしたらどうするのさ」
修二くんは顔を顰める。
「私が居れば大丈夫よ。私の力は護りの力だもの。宗像くんはちゃんと覚えていないみたいだけれど、見えてるでしょ?」
「見えてるよ、でもせっかく安全な場所にいるんだ。わざわざ危険なところに飛び込まなくてもいいよ」
「まぁ、確かにその言い分にも一理あるわね。どうする愛菜? 行くのやめる?
なんなら委員長も呼んで皆でいく?そうすれば、古の契約が履行されるから、愛菜にとってはプラスになるかもしれないわよ」
香織ちゃんは私に判断をゆだねてくる。
最終更新:2008年03月17日 09:51