611
①隆をたたき起こす

「隆! 起きて遅刻するよ!」
部屋には入らず大きな声で叫んでみるが、隆はうるさそうに寝返りを打って向こうを向いてしまった。
起きる様子は無い。
隆の寝起きは良いほうだから、これで起きないのは珍しい。

「まったく……」
私はため息をついて隆の側まで歩いていって揺さぶる。

「隆、起きてってば!」
「……ん~」
返事はするもののそれだけだ。
今度は軽く叩いてみる。

「返事だけじゃダメなんだって! 遅刻するって言ってる……わっ」
唐突に隆の手が伸びてきて私の手を掴んだ。
次の瞬間には力いっぱい引っ張られ、私はバランスを崩して隆の上に倒れ込む。
とっさに手をついて隆に全体重をかけてしまうのは阻止したが、多少衝撃があったはずなのに隆が目覚める様子は無い。

「愛菜ちゃん!」
「あー、チハル大丈夫……って、隆! 寝ぼけてないで起きろー!」
心配そうに駆け寄ってくるチハルに苦笑してみせる。
隆は倒れこんだ私を枕か何かと間違っているのか、しっかりと腕が巻きついて身動きが取れない。
じたばたともがいていると、チハルが隆の腕を外そうと隆の腕を引っ張り始めた。

「う~~~」
顔を真っ赤にして引っ張っているが、子供の姿のチハルではびくともしない。

(隆って案外力が強いのね……)
妙な所で感心してから我に返る。

(あっ時間!)
「たーかーしーーーーー! おきろぉぉぉ」
もがきながら叫ぶが隆は目覚めない。

(なんでこんなに起きないのよ……、まさか組織が何か? 
 寝てるふりって訳じゃないわよね?)
少し心配になって隆の顔を覗き込む。

(ただ寝てるようにしか見えないけど……)

どうしよう?
①自力で起こす
②チハルにどうにかしてもらう
③このままおとなしくしている

612
②チハルにどうにかしてもらう

このままじゃ、遅刻確定だ。

(よーし、こうなったら……)

「チハル、ぬいぐるみに戻ってくれるかな」
「どうして?」
「起きない隆にお仕置きするの」
「うん、いいよー。えいっ」
チハルは軽い音を立ててぬいぐるみに戻った。

私は隆の顔の上にチハルを置く。
鼻と口を塞がれた隆は、もがき苦しみだした。

「んんんっ~~~!!」

断末魔に近い呻きの後、隆はガバッと飛び起きた。

「きゃっ、びっくりしたぁ。やっと起きたね、遅刻するよ」

ようやく起きた隆に向って、私は言った。

「お前、俺を殺す気だっただろう」
「もしかして起きてた?」
「ちっ、ちがう。……少し寝ぼけてただけだ」
「どっちでもいいけど、早く用意してよ。間に合わなくなるよ」
そう言って、私はキッチンに向かった。

暫くして、身支度の終わった隆がキッチンにやってきた。
私は、真っ黒に焦げてしまったパンを渡す。
一瞬驚いていたけれど、昨日の約束どおり、隆は文句も言わずにそれを食べ出した。

「……しかしさっきは、危なかったな。違う意味で堕ちかけたぜ」
「二度寝するつもりだったの? ほんと、だらしないなぁ」
「お前のせいだよ!」

そんな他愛無い会話をしながら、手早く朝食を済ませた。
ぬいぐるみのチハルを鞄に入れると、家を出る。

ゆっくりしていると遅刻してしまいそうだ。

どうしようか?
①走る
②歩く
③バスに乗る

613
①走る

「隆、走るよ!」
「おう!」
私と隆は並んで走り出す。
が、隆のほうが足が速く遅れ気味になってしまう。

「ほら、急げ」
隆が遅れ気味の私を振り返ると、私の手を引いて走り出した。

「ま、まってよ……は、早い」
「遅刻したいのか?」
(誰のせいだとおもってるの……)
文句を言いたい所だが、走っている上に息が切れて来たので、批難の視線を隆に向けた。
前を向いて走っている隆はそんな私の視線に気付いているのか居ないのか、腕時計を確認して小さく頷く。

「よし、間に合いそうだ。ほらがんばれ、もう少しだ」
「う、うん」
校門の前に近藤先生がたっているのが見える。
先生たちが持ち回りで遅刻する生徒を注意しているのだ。
時間を過ぎたら注意されることになる。

「おはようございます!」
「お、おはよう、ございます」
「おはよう」
ぎりぎりで遅刻にならなかった私たちに、近藤先生はあいさつを返してくる。

(あ、そういえば、春樹がしばらく休むって言わないと……)
「隆ちょっとまってて」
「ん?」
「先生!」
近藤先生のところへ戻り声を掛ける。

「ん?どうした?」
「あの、春樹なんですけど。しばらく学校を休みます」
「大堂くんが?なにかあったのか?」
先週末はボールを頭にぶつけてしまった事を思い出したのか、心配そうに近藤先生が尋ねてくる。

どうしよう……
①本当のことを言う
②嘘を言って乗り切る
③別の話題でごまかす

614
②嘘を言って乗り切る

「えーっと…風邪なんです。熱があってしばらくお休みします」

うつむきながら、思いついたまま言った。

(やっぱり…嘘ってバレるよね)
そんな思いでチラリと近藤先生を見ると、なぜか納得したように頷いていた。

「そうか。以前の脳震盪とは関係ないんだな」
「はい。あれはすぐに病院に行って、大丈夫でしたから」
「……ところで君の方はもういいのか?」
なぜか近藤先生は私を心配するように言った。

「え?」
「昨日はずいぶん具合が悪そうだったからな。風邪だったのだろう?」
「あっ……。そ、そうなんです。私の風邪が弟にうつってしまったみたいで」
「体調管理はしっかりしないといけないな。大堂くんにはお大事にと伝えといてもらえるか」
「はい」

キーンコーン

ホームルームの予鈴が校内に鳴り響く。

「愛菜。早く行こうぜ」
隆が焦りながら、私を促した。

「そういう事で、先生よろしくお願いします」

(近藤先生が勘違いしてくれたお陰で助かったよ……)
私はペコリとお辞儀をすると隆と共に教室に急いだ。

――慌しく日中の授業が終わり、放課後になった。

机の中の教科書を鞄に詰めていると、ツンツンと背中をつつかれた。

「ねぇ、愛菜」
「どうしたの、香織ちゃん」
私は振り向いて、香織ちゃんを見る。
「今から予定ある?」
「香織ちゃん、文化祭の準備はいいの? プロデューサーだって張り切ってたじゃない」

鞄を持って、帰る気満々の香織ちゃんに向って言った。

「平気平気、もう当日を迎えるばっかりだもん。私のプロデュースに抜かりは無いのよ。
最近は全然遊べてなかったし、愛菜が暇なら、どっか寄っていこうよ」

どうしようかな?
①承諾する
②断る
③考える

615
③考える

唐突な誘いだけれど、こういうときの香織ちゃんの行動パターンは分かっている。

「どっかって言ってるけど行きたい所があるんじゃないの?」
「さすが愛菜、話が早いわ! 実はね、隣の駅前に新しい雑貨屋さんが出来たの。すごく評判良いんだから」
「へぇ?」
香織ちゃんのこういう情報にハズレは無い。
しかもこれだけ張り切っているということは、香織ちゃん自身は一度下見に行ったのだろう。

「愛菜もぜったに気にいるって!」
「わかったわかった。でも、あんまり遅くなるわけにもいかない……」
「愛菜ちゃん!」
香織ちゃんと話をしていると、教室にひょっこりと修二くんが顔を覗かせた。
修二くんは私の顔を見つけると一瞬笑顔になり、その直後険しい顔に変わる。
クラスメイトの視線がそんな修二くんに集中している。
修二くんはその視線を気にする様子も無く、一直線にやってきた。

「どうしたの?」
いつもと違う様子に、私は首を傾げた。

「愛菜ちゃん、いつアイツに会ったんだ?」
「アイツ?」
「ナンバー535だよ」
「535って……熊谷さん?」
「熊谷……?外ではそう名乗ってるのかアイツは」
「でもどうして会った事がわかるの?」
私の言葉に、修二くんががっくりと肩を落とした。

「愛菜ちゃん……俺を誰だと思ってる? 忘れちゃったの?」
「もしかしてなんか見えてたり……?」
「愛菜……」
その時、いつの間にか修二君の後に冬馬先輩がたっていて私の名前を呼んだ。

「え!? 冬馬先輩?」
「げっ!」
それぞれの反応をする私と修二くんを気にした様子も無く、冬馬先輩はじっと私を見ている。
修二くんの存在は完全に黙殺しているのか一切感心を示さない。

「ちょっとちょっと、愛菜ってば一体どういうことぉ!? 修二くんは前からそうじゃないかなーとは思ってたけど、その先輩は誰!?」
香織ちゃんが小声ながら興奮気味に私に聞いてくる。
その間に、修二くんの機嫌が急降下していくのが目に見えて分かる。

えっと……
①香織ちゃんに冬馬先輩を紹介する
②とりあえず場所を移す
③香織ちゃんと用事があるからと逃げる

616
③香織ちゃんと用事があるからと逃げる

以前のやりとりから、二人の仲が険悪なのは分かっている。
香織ちゃんがいる前で喧嘩されたら、言い訳が大変だ。

「私たち、これから大切な用事があるんだよ。二人ともごめんね」
そして、香織ちゃんの手を掴む。

「さ、行こ」
「えっ……いいの? ちょっ、愛菜ってばっ」
「じゃあね。二人ともバイバイ」
私は手を引きながら、教室のドアを開ける。
残される二人の様子を目の端で確認すると、呆気にとられている様子だ。

「ま、待ってよ! 愛菜ちゃん」
「……………」
(心配してくれてるんだろうけど……たまには自由にさせて)
廊下を抜け、玄関で香織ちゃんをようやく解放した。

「ごめんね、香織ちゃん」
「私はいいけど。それより、愛菜。あの二人って、アンタを迎えに来たんじゃないの?」
「どうだろう。よくわからないよ」
「よくわからないって……」
靴に履き替え、校門を出たところで香織ちゃんは「……ところで」と言いながら私を覗き込んだ。

「な、何?」
「さっき、アンタが冬馬先輩って言ってた人。誰よ!?」
「え、えっと、御門冬馬先輩っていって……3年2組で……」
そこまで言って口ごもる。なんと言えばいいだろう?
よくよく考えれば、私は冬馬先輩のことをほとんど知らない。
困っていると、香織ちゃんがふと何かを思い出すように頬に手を当てた。

「御門……?3年2組の御門……先輩?……って、あの転校生の?」
「転校生……そうなの?」
「そうだよ。お互い名前で呼び合う仲なのに、知らなかったの?」
「うん」
「三年の間じゃ有名人みたいよ。三年の春で受験も控えてるってのに突然転校してきたのよ。
 編入試験もすごい点数だったみたい……そっか、あの人があの御門先輩なんだ」
「そうなんだ」
(全然知らなかったよ)

「でもね、全然しゃべらないし行動も変だから、みんな不気味がってるんですって。
怪しい部外者と話してる所を見かけたって人もいるし……あんまりいい噂は聞かないかも」
そう言いながら、香織ちゃんは私を見た。
次の瞬間、困った顔をしながら、慌てるように顔の前で両手を振ってみせる。

「あーっ、ごめん。アンタにそんな顔させるつもりは無かったの。本当に愛菜の知り合いを悪く言うつもりはないから」
香織ちゃんは少しだけ早足で前に出ると、スカートを翻しながら振り返る。

「アンタの事は信じてるんだけどね。ほら、愛菜って少しぼんやりしているでしょ。
変な虫が付かないか心配してるだけよ」
そう付け加えて、また歩き出した。

私は……
①「変な虫?」
②考える
③「ありがとう、香織ちゃん」

617
③「ありがとう、香織ちゃん」

ちょっと言っていることに疑問を感じないではないが、心配してくれているのは分かるのでお礼をいう。
すると香織ちゃんは歩き出した足を止めて、再度私を振り向くと両手を広げて抱きついてきた。

「もぉぉぉ! なんて可愛いの愛菜!」
「ちょ、ちょっと!?」
下校時間、校門の側で抱きつかれ慌てる。
同じく下校途中の生徒達が何事かと私たちを見ていくのが、恥ずかしい。
けれど香織ちゃんは気にする様子も無く、とりあえず私を解放すると今度は腕を絡めてきた。

「そんな可愛い愛菜に、おねーさんがご馳走しちゃう! 
 実はね雑貨屋さんもだけど、その近くにおいしいケーキ屋がもあるのよ」
「え? でも悪いよ……」
「いいのいいの、私がご馳走したい気分なんだから遠慮しない!
 さあ、そうと決まったら行くわよ!」
私に腕を絡めたまま香織ちゃんが歩き出す。
引っ張られるように歩きながら、ふと思った。

(もしかしてこれって……ケーキ屋さんで洗いざらい話してもらうから、覚悟しとけってことじゃ?)
しっかりと絡められた腕が、逃げられないぞと言っているような気がする。
どうやって言い訳しようと考えつつ、バス停までやってくる。
丁度来たバスに乗り込んだ所で、やっと香織ちゃんは私から手を離した。

「そういえば愛菜ってば、結局だれが本命なの?」
「え?」
「今日は修二くんと、御門先輩が迎えに来てたじゃない? 
 でも愛菜は一郎くんのことが気になってたみたいだし? 
 そういえば隆との喧嘩も和解したみたいだよね」
きらきらと目を輝かせる香織ちゃんに私は苦笑する。
私もこういう話は嫌いじゃないけれど、自分以外が対象の場合に限る。
それに、今はいろいろあってそういう事に気が回らないというのが正直な所だ。

「今はそういうこと考えられないというか……」
「ふぅん?」
香織ちゃんは私を探るように見て、ちょっと寂しそうに笑った。

「愛菜、最近私に隠し事してるでしょ?」
「え……?」
「気付いてないと思ってた? 香織様を甘く見ないで欲しいわね」
どうやら、ケーキ屋さんへのお誘いはこっちがメインのようだ。

なんて答えよう
①「さすが香織ちゃんだね」
②「隠し事なんて……」
③「……」

618
①「さすが香織ちゃんだね」

ずっと親友でいてくれた香織ちゃんには、隠し事はできないみたいだ。

「この香織様が相談に乗るって言っているのよ?まかせなさい」
ドンと、胸を叩きながら言った。

「…………」
私は何をどこから話していいものか迷った。
今、巻き込まれていることを話したとしても、非現実的すぎて香織ちゃんは困ってしまうだろう。
香織ちゃんは大好きだ。信用できるし、口も堅い。

(だけど……)

バスを降りて、ケーキ屋に入る。
美味しそうなケーキが運ばれてきても、私は口をつけず、一言も話せないでいた。

「話せないかー。まぁ、無理に話すことは無いわよ。愛菜が言いたくなったら相談してくれればいいから、ね?」
「あの……あのね…香織ちゃん」
「ん? いいよ、何でも言ってごらん。少しはスッキリするかもしれないし」
「実は春樹の事なんだけど……」

血の繋がった父親の元へ行ってしまった事について、私は堰を切ったように話し出した。
春樹の個人的な事情を話すことにはなるけれど、私にとって、やはり一番ショックだったからだ。
力や組織の事は伏せ、事実だけを伝える。
私が話している間、香織ちゃんは真剣に聞いてくれた。

「………じゃあ、春樹くんは苦手な父親の所に、自ら進んで行ったのね」
「うん、私のためなの。でも、はっきりした理由は教えてくれなくて……。だから、余計辛いんだ」
「え? 愛菜のためって……まさか……」
香織ちゃんはコーヒーを持ったまま固まっている。
「どうしたの? 」
「……ああ、ごめん。でも、そうじゃないかなとは思ってたのよね……」
「何を納得してるの?」
「アンタが他の男に興味ない訳ね。一郎くんも好きとは違う感じだったし。さすがに、私にも相談しにくい事だものね」
「??」
「春樹くんが彼氏だったとは……」
「え!?」

どうして春樹が彼氏だったなんて話に発展するのかわからず、声を上げる。

「いい、愛菜。春樹くんの決意は相当なものよ! アンタと真剣に結婚しようとしてるんだから」
「け、結婚!?」
「よく聞いて。春樹くんは戸籍を父方に移すために出て行ったんだと思うわ。アンタ達が血が繋がっていない以上、
戸籍が違えば他人だもの。今は多分、戸籍が一緒だから結婚はできないけれど、移籍すれば結婚だって出来るのよ。
春樹くんはいつか愛菜と結婚したくて、苗字を変えるために出て行ったのよ! 世間がどう言おうと、私はずっと愛菜の味方だからね!」

香織ちゃんは、ひしと私の手を取ると大きく頷いた。

①「誤解だよ!!」
②「………」
③「く、詳しいね、香織ちゃん」

619
①「誤解だよ!!」

私は慌てて否定する。

「どうして?愛菜の為に出て行ったんでしょ?それしか考えられないじゃない?」
「だ、だって……私、春樹のこと弟とおもってるし、春樹からも告白された覚えは無いよ」
まさか高村研究所のことを言うわけにもいかず、何とか誤解を解こうとする。
けれど香織ちゃんはあきれたように私を見た。

「なるほど……あんた自分でも無自覚なわけね?」
「な、なにが……?」
「春樹くんを好きって事」
(違うんだけどなぁ)
これ以上言っても平行線になりそうで、小さくため息をつく。

「あ! なにそのため息? 違うって言いたいの?」
「え? う、うん、まぁ」
けれど、香織ちゃんにはすぐにばれてしまう。

「はぁ、春樹くんも可愛そうに……」
やれやれと、いわんばかりに大きくため息をついた香織ちゃんにちょっとだけムッとする。

「ちょっと、なんでそうなるのよ」
「だって、そうでしょ? 愛菜の為に苦手な父親の所に行ったのに、当の愛菜はこの調子だもんねぇ」
「だから、根本的に香織ちゃんまちがってるから……」
思わず頭を抱えて唸った瞬間、視界が翳った。
テーブルの横に誰かが立った為だと気付き、顔を上げる。
同じく香織ちゃんも、テーブルの横に立つ人物に顔を向けた。

そこには……
①春樹
②周防さん
③熊谷さん

620
③熊谷さん

突然現れた熊谷さんを、私は呆然と見つめ続けた。

「あの……私たちに何か用ですか?」
香織ちゃんが眉をひそめながら、熊谷さんに話しかける。

「何でもねぇよ。話の途中に邪魔したなぁ、嬢ちゃんたち」
熊谷さんはそれだけ言うと、またどこかへ行ってしまった。

「今の人、誰? 見るからに怪しいわよね」
香織ちゃんは腹立たしげに言った。

「私の知り合いの人だよ」
「本当? あんな柄の悪そうな人と付き合っちゃダメよ。愛菜はぼんやりしてるんだから」
(何しに来たんだろう……)

「それよりも、あんた。本当に春樹くんのこと、自覚が無いの?」
香織ちゃんは納得いかないのか、さっきの話を蒸し返してくる。
熊谷さんのことは不安になりつつも、私は香織ちゃんに再び向き直った。

「香織ちゃん。いい加減、深読みしすぎだって。春樹は弟でしょ? やっぱり、あり得ないよ」
「えーっ、本当に? じゃあ、愛菜のために春樹くんが出て行った理由は何よ?」
香織ちゃんは身を乗り出して、さらに問い詰めてくる。

「多分…春樹が出て行った理由は……香織ちゃんが言ってた事と逆だと思うんだ」

下を向き、春樹の言葉の一つ一つを思い出しながら答える。

「逆? どういうことよ」
「春樹にとって、私たち家族は特別なんだよ。前の家庭が幸せとは言えなかった分、とても大切に思ってくれているの。
家族の一員である私を守るために、本当の『大堂春樹』になるために出て行ったんだよ」

春樹は『高村』という父親の呪縛から決別して、本当の『大堂春樹』になるケジメをつけに行った。
だから、子供の頃に約束してくれた『守る』も『家族を守る』ということで、私だけに向けられているものじゃないはずだ。

「うーん。その説明じゃ、いまいち理由はわからないけど……。でも、春樹くんなら平気でしょ。
愛菜が心配するのはわかるけど、しっかりしてる子だしさ。あんたにそんな顔をさせたくて出て行くような子じゃないものね。
ほらっ、笑顔笑顔」

(香織ちゃん……)

励ましの言葉を聞き、私が顔を上げたその時、香織ちゃんが突然机に突っ伏した。
そして、むくりと顔を上げる。

「よう、小娘! さっきはどーも。もう、香織ちゃんとの楽しい話は終わったのかい?」

私は……
①「熊谷……さん?」
②「香織ちゃん!?」
③「友達に何をしたんですか!」

|