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①「熊谷……さん?」

私は香織ちゃんに向って、半信半疑のまま話しかけた。
「よく判ったなぁ。でも、実際は俺じゃねぇんだ。操っているだけだからよ」

(操るって……まさか)

「ファントム……まさか、香織ちゃんにファントムを……」
「おっ、知ってるなら話は早いぜ」
香織ちゃんはフンと鼻を鳴らして私を見る。
「こんな汚ねぇ手は好きじゃないが、命令だからなぁ」

(で、でも……前に隆に聞いたときは、すぐに操れないって言ってたけど)
もしかしたら、嘘を言っているかもしれない。黒い靄は見ていないし、話を鵜呑みにするのは危険すぎる。

「黒い靄を見ていないけど、どういう事ですか?」。
「さっき近づいたときに、仕込んだんだよ。無防備すぎて、拍子抜けだったけどな」
「ファントムは、操るのに一週間はかかるはずですよ」
「はぁ? そんなことは知ったこっちゃねぇな。その術者はよっぽどの能無しなんだろうよ。
俺のは即効性抜群の、極上品だ。なんなら、すぐにでもこの嬢ちゃんを殺ってもいいぜ」
香織ちゃんは指を横一線に動かし、首を切る真似をした。

聞けばすぐに答えが返ってくる。嘘をついている感じでも無い。おそらく、本当のことを言っている。

(私には祓う力は無い。……だけど)

「香織ちゃんを……友達をどうするつもりですか」

震える手を机の下に入れる。
このままじゃ、本当に香織ちゃんが殺されてしまう。

「お前が俺達の言うとおりにしてりゃ、この嬢ちゃんからファントムを外してやってもいい。
だが、大切な人質だからなぁ。すぐに外すのは無理だろうな」
「もし、ファントムを憑け続けられたら、友達はどうなってしまうの」
「生気を抜かれて、あの世行きだろうよ。可哀想だか、それも運命だ」
「そんなっ……」
「恨んでもいいぜ? こんな外道な真似してんだからよ」
「早く友達を解放してっ」
「つべこべ言ってんじゃねぇよ。俺達のところに来るのか? 来ないのか?」
「わ、私は……」

会話で注意をこちらに引きつけるのも限界だ。
チャンスは一度きり。失敗は許されない。
見つからないように、感づかれないように近づいてもらわなければならない。

(お願い……)

「なっ! 何んだぁ!?」
香織ちゃんの体が徐々に青白く光り始める。

「もう少しだよ、頑張って!」
「うううぅぅぅうう…」
低い呻き声が、香織ちゃんの喉から漏れる。
何事かと、ケーキ屋の店内がざわついた。

「小娘ぇ!お前……何を…」

①「答えを知りたければ、足元を見てみて」
②「答えを知りたければ、窓を見てみて」
③「答えを知りたければ、後ろを見てみて」

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①「答えを知りたければ、足元を見てみて」

香織ちゃんの体を乗っ取っている熊谷さんが、足元に視線を落とす。
その足にしがみ付いているのは、青白く小さな塊だった。

「なっ……どういう…ことだ…」
「チハル……お願い! 香織ちゃんを助けて!!」
口を開けたままの学生鞄を握り締め、私は叫んだ。

「ぐっ……うわわぁぁ…」
テディベアのチハルが、より強い光を放ち始める。
香織ちゃんの体がグラッと揺れると、冷たい床の上に崩れ落ちた。

「香織ちゃん!」
私は急いで駆け寄り、その肩を抱き締める。
「だ、大丈夫? 香織ちゃんっ」
「たいした…もん…だよ。…だ…が……甘い!!」

香織ちゃんの手が勢いよく伸びて、私を捉えた。
喉元に、香織ちゃんの指がめり込む。
「きぁあああっ!!」
首筋に耐え難い激痛が走った。
(体が……)

全身の皮膚が粟立ち、視界が定まらない。
刺さるような痛みが体中を駆け抜ける。

「……へへへっ……ざまみろ…」
「……わ…たし…に何を…」

その問いに一言も答えないまま、香織ちゃんは薄笑いを浮べた。

「お客様!……一体、どうされましたか」
「と、友達が……貧…血で……」

駆けつけた店員に、息も絶え絶えに伝える。
店内が騒然としているはずなのに、何も見えない。
大声で叫ばれていたはずなのに、そのうち何も聞こえなくなった。

(私…死ぬの?)

ふと、そんな思いが頭をよぎる。
私はそのまま、ゆっくりと目を閉じた――。


「……愛…」
「……愛…菜…」

私を呼ぶ声が聞こえる。瞼が重くて、ひたすら眠い。

(これは現実なの? それとも、夢?)

どちらか分からない。
だけど、この声に導かれて、私がここまで来れた事だけはわかった。

その声とは……
①香織ちゃん
②チハル
③冬馬先輩

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③冬馬先輩

「……愛菜……どうか目を覚ましてください」
(冬馬先輩の声だ。そうだ……香織ちゃんは…)
私は痛みをこらえながら、張り付いたように重い瞼を開く。

「愛菜ぁ!……心配したんだからね」
目を開くと冬馬先輩ではなく、香織ちゃんが抱きついてきた。
(いつも通りの香織ちゃんだ。よかった…)
「何、びっくりしてるの。ここはもうケーキ屋じゃないわよ。自分の部屋だったから驚いたんでしょ?」
その言葉に視線を移して、ようやく自室だということに気付く。

「なぜか先輩が颯爽と現れて、愛菜をここまで運んでくれたのよ。ね、御門先輩」
香織ちゃんが後ろを振り向くと、壁際で冬馬先輩がじっと私を見ていた。

「でもねぇ、愛菜。倒れた私に驚いて、あんた自身が気絶しちゃうだなんて冗談にもならないわよ?
どうして貧血で倒れた私が、アンタの看病をしなくちゃいけないのよぉ。逆でしょ、普通」
香織ちゃんは呆れたように、ため息をついた。

(それより、香織ちゃん。体は平気なの?)

「……にしても、御門先輩のお陰で助かっちゃった。目が覚めたら、店員の人が『救急車~!』って叫んでるんだもの。
愛菜は私の横で倒れてるしで、大騒ぎでしょ? あそこで、先輩が愛菜を運んでくれなかったら、もっと騒ぎになってたのよ」

(チハルはどこ? 熊谷さんは?)

「愛菜もお礼を言っといたら? あの場を収めたのもぜんぶ御門先輩だったしね。ほんと、噂よりずっといい人だよ」
興奮ぎみに話しかけてくる香織ちゃんの後ろ側、冬馬先輩がゆっくり近づいてきた。

「長谷川さん、あなたはもう大丈夫です。ですが、愛菜はとても疲れています。申し訳ありませんが、お引取りください」
「えっ?」
「お引取りください」
「で、でも……」
「お引取りください」
「………だけど、愛菜がまだ…」
「お引取りください」

香織ちゃんが何を言おうとしても、冬馬先輩は同じ言葉を繰り返し続ける。

「……それじゃ御門先輩、愛菜をよろしくお願いします。もし気分が悪そうだったら、一応、病院に連れて行ってあげて下さいね」
結局、強引なやり方で、香織ちゃんの方が追い出されてしまった。
どう言っていいのか分からず、私はベッドから冬馬先輩の様子を伺う。

ベッドに寝たままの私を覗き込むと、冬馬先輩は私の前髪を梳いた。
「……愛菜」
真っ直ぐな眼差しと、吐息ともつかない呼びかけが、上から降り注ぐ。
制服のリボンに手を掛けられると同時に、一つ、二つとボタンが外される。
その指先は動きを止めることなく、なぞるように私の首筋を滑った。

(と、冬馬…先輩…)

「……守れなかった。あなたの大切な声を……」
冬馬先輩の綺麗な指が、もう一度、私の喉に優しく触る。
よく見ると、その指先は青白い光を放っている。
少しずつ体が軽くなり、突き刺すような痛みが和らいでいった。

①(私の……声?)
②(一体、どういうこと…)
③(やっぱり、熊谷さんのあれが)

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①(私の……声?)

不思議に思い冬馬先輩を見上げ問いを口に出そうとしたが、私の口から言葉が出ることは無かった。

(え?)
慌てて必死に声を出そうとするが、息が漏れる音しかでない。

「愛菜……」
表情はいつもの無表情で、けれど声は悲しみと後悔をにじませて冬馬先輩が私の喉をなで続ける。
そのおかげか痛みはもうほとんど消えていた。
声だけが相変わらず出ない。

(まさか、あの時の……?)
意識を失う前のことを思い出す。
熊谷さんに喉をつかまれた瞬間のあの激痛。
あれが原因としか思えない。
声を出すことが出来ない私と、元々多く話さない冬馬先輩の間に沈黙が横たわる。
と、部屋の外で足音が聞こえた。私が足音を聞き取った直後、部屋をノックされる。

「おい、愛菜?」
隆だった。
返事をしたくても、声を出すことが出来ない。
けれど隆は気にした様子も無く、言葉を続ける。

「玄関に靴があったが、春樹が戻ってきたのか?愛菜?開けるぞ」
だが、いつまでたっても返事がない事に業を煮やしたのか、軽い断りと共に、部屋の戸が開く。

「……あんたは」
顔を覗かせた隆は、驚いたように冬馬先輩を見た。
それから、冬馬先輩の手が私の首筋を撫でているのに気付くと、一気に真っ赤になる。

「おい!愛菜になにしてる!」
今にも飛び掛りそうな勢いで部屋の中に入ってくる。

(隆!冬馬先輩は私を助けてくれたんだよ!)
慌てて起き上がり、隆に事情を説明しようとするが声は相変わらずでない。

どうしよう……
①身振りで伝える
②筆談する
③冬馬先輩に助けを求める

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③冬馬先輩に助けを求める

口を開いて、「冬馬先輩」と呼びかけてみた。
すると、やはり喉からは細い息しか出てこなかった。

(そうだ。声が出ないんだった…)
ショックのあまり、手で口許を押さえている間にも、隆は冬馬先輩を睨みつけている。
だけど、冬馬先輩は隆のことなど意に介さず、私を見つめ続けていた。

「今はしゃべらない方がいいでしょう。僕は一度、美波と連絡をとってみます」

冬馬先輩はそれだけ言うと、ゆっくり立ち上がる。
その手には、私の学生鞄が握られていた。

「さきほど家に入る際、あなたの持ち物を勝手に使わせてもらいました。カギはここに置いておきます。
こちらはぬいぐるみです」

勉強机の上に、チハルが置かれる。
チハルはぴくりとも動かないまま、机に転がった。

(チハル……!ねぇ、二人とも喧嘩してる場合じゃないよ。チハルが動いてないじゃない)
私は身振りで伝えようとするけれど、二人はまったく気付いてくれない。

「おい。 あんた、聞いてるのかよ!」

冬馬先輩はその言葉を聞き、ようやく机から隆へ視線が移す。
「隆さん、僕は一度失礼させていただきます。愛菜をよろしくお願いします」

冬馬先輩はそれだけ言うと、ドアに向って歩き出した。
しかし当然のように、怒りを露わにした隆に阻まれる。

「ちょっと待てよ……」
「隆さん、冷静に聞いてください。愛菜は敵に襲われ、声が出なくなってしまいました。
身体にもダメージがありますが、精神的に相当なショックを受けているようです。
僕より、あなたの方が心の支えとなるには適役でしょう。頼みます」
「声……?おい、愛菜……声が出ないのか? あいつの言っていることは本当かよ」

隆は信じられないという顔で私に近づくと、心配そうに覗き込んできた。
私は乱れた襟を押さえながら、『うん』と頷く。
その後ろで、バタリとドアが閉まった。

私は……
①紙とペンを取る
②チハルを取る
③携帯を取る

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②チハルを取る

私は動かないチハルを抱き上げて覗き込む。

(チハル、どうしたの?チハル)
軽くチハルをゆすってみるが何の反応も無い。

「ん、チハルどうかしたのか?貸してみろ?」
手を伸ばしてきた隆に、チハルを託して成り行きを見守る。
隆はじっとチハルを見て集中しているみたいだ。

「……なんか力を使い切ったって感じだな。今は回復の為に寝てる。しばらくは起きてこないだろう」
(じゃあ、チハルは寝てるだけなんだね?)
ちゃんと確認したいが、声が出ずもどかしい。
けれど、そこは付き合いの長い隆だった。

「心配しなくても回復したら起きてくるさ。
 愛菜の側に居たほうが回復が早いんじゃないのか?そんな事を前言ってただろ?」
私を安心させるように笑って、隆はチハルを私に返してきた。
私はチハルを受け取ってそっと抱きしめる。

(無理させちゃってごめんね)
「……ところで、声ってまったくでないのか?」
しばらくそんな私を黙ってみていた隆だったが、心配そうに尋ねてきた。
私はただうなずく。

「そうか、あいつ美波さんに連絡するって言ってたな。あの人ならきっと治してくれるさ。
 ……ところで腹へらね?今日は俺が作ってやるよ。出来たら呼ぶからそれまで休んでろ」
そう言って隆は部屋を出て行った。

私は……
①隆を手伝う
②部屋で休む
③香織ちゃんにメールする

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③香織ちゃんにメールする

(腹減ったって……相変わらず食いしん坊だな。まぁ、隆らしいけど)
出て行ったドアを見つめて、私は思った。

(あっ、そうだ。香織ちゃんに連絡しておこう)

心配させたまま帰してしまったから、私からメールを送ることにした。
冬馬先輩の追い出し方は強引だったし、体調が良くなった事も伝えておきたかった。

『香織ちゃん、身体は平気だった? 私はもう大丈夫だよ。
さっきは、追い出すような帰し方をさせちゃってごめんね。
冬馬先輩の言い方はきつかっただろうけど、悪気は無いんだ。
今度、また雑貨屋さんに連れてってね』

送信、そしてすぐに返信が入る。

『よかったよー。先輩の言い方に気押されて思わず帰っちゃったから、心配だったんだ。
愛菜と先輩を二人きりにさせてよかったのかなーってね。今度、ゆっくり本命について
追求させてもらうから、覚悟しておいてよ。また明日、おやすみー』

私はメールを閉じる。
絵文字や顔文字が多いところが、相変わらず香織ちゃんっぽい。

(さて、身体も大丈夫そうだし……隆を手伝いに行こうかな)

私は、チハルと大学ノート、ペンを持ってキッチンに下りる。
キッチンでは、隆が一生懸命に料理を作っていた。

「おっ、愛菜か。休んでろって言ったのに、どうして大人しく寝てないんだよ」
隆は私にお玉を向けながら、怒ってきた。

『もう平気。なにか、手伝うよ』
ノートに書いて、隆に見せる。
そして、隆が作っているフライパンの中身を覗き込んだ。

(チャーハンね。あれ……他に作っている様子が無いけど…)

『チャーハンだけ?』
隆は私に指摘されると、不機嫌な顔になった。
「そーだよ。文句があるなら食わなくてもいいからな」

①『もしかして、チャーハンしか作れないとか?』
②『美味しそうだね』
③『何、怒ってんの?』

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③『何、怒ってんの?』

首を傾げつつノートに書く。
それを見た隆は私から視線をフライパンに戻すと、ぶっきらぼうに「なんでもない」と言ってチャーハン作りに戻る。

(なんなのよ?)
釈然としないものを感じながらも、チャーハンだけでは物足りないのでスープでも作ろうと鍋を取り出す。
それを見た隆が再度私に顔を向けた。

「……なんか作るのか?」
『スープでもつくろうとおもって』
「インスタントでいいだろ。今自分の状態が普通じゃないってわかってるんだろ?少しはおとなしくしてろよ」
隆はそういいながら私が持っている鍋を取り上げる。
字を書くのも面倒で、私は抗議の意味を込めて取り上げられた鍋に手を伸ばした。
けれど隆はすばやく空いている場所に鍋をおくと、軽く私の背を押す。

「向こう行ってろよ。急に具合が悪くなったりしたらどうするんだ?」
『大丈夫だって』
「いいから! 何かあってからじゃ遅いんだ」
強く言われて、私はしぶしぶ頷くとリビングへと向かった。

(隆が心配しているのは分かるけれど、自分の身体だ。大丈夫かどうかは自分が一番分かるのに……)
内心で文句を言いながら、特に何もすることが無いのでソファにすわりテレビにスイッチを入れる。
新聞を見る気にもなれず順番にチャンネルを変えていくと、ふと一つの番組で手が止まった。

その番組は……
①ニュース系
②生放送系
③史伝系

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③史伝系

普段ならすぐにチャンネルを変えてしまうような教育番組だった。
けれど、「鏡」という言葉を聞き、少し興味が湧く。

「……三種の神器とは、鏡、剣、勾玉で歴代天皇に伝えらている宝物です。
これらの宝物は皇位継承の証となります。
現在、鏡と剣はそれぞれ別々の神社でご神体として安置されていますが、
勾玉は宮中御所に安置されています。
さて、三種の神器の由来は神代まで遡り……」

アナウンサーの言葉とともに、緑の濃い、大きな神社が映し出されている。

(鏡って……たしか…)
以前、一郎くんが「割れた鏡」と言ってのを思い出す。
もしかして、このテレビの話と関係があるのだろうか。

テレビの方は、すでに三種の神器の由来について話題が移っていた。

「天照大神の岩戸隠れの際、用いられたとされるのは鏡と勾玉です。
この二種は、神々の手により作られたと伝えられています。
一方、剣は天照大神の弟である須佐之男命がヤマタノオロチを打ち倒した時、
その尾から剣が現れたとされています」

(うーん。観ててもよくわからないな)

「おーい、愛菜。夕食ができたぞー」
隆の呼び声でキッチンまで行くと、二組の山盛りチャーハンとインスタントで作った卵スープが用意されていた。

「ほら、座れよ。腹減ったな、早く食おうぜ」
私は隆の向かいの席につくと、チハルを隣の席に置いて、手を合わせた。
けれど隆を見てみると、すでにチャーハンを勢いよく口の中に入れている。
そんなに急がなくてもいいのにと思いながら、私はいつものペースで食べ始めた。

「なんだか懐かしいよなぁ」
あらかた食べ終えた隆が、私の様子を見ながら呟いた。
『何が懐かしいの?』
「愛菜がさ、そのチハルを連れて晩飯食ってるのを…久しぶりに見たからな」
『この間だって、チハルと一緒に食べてたでしょ?』
私がノートを見せると、隆は「違う違う」と首を振った。

「ほら、小さかった時のお前だよ。まだチハルを「くまちゃん」って言って肌身離さず持っていただろ?
ぬいぐるみなのに無理やり食わせようとしてさ、汚したこともあったよな」

お母さんが居なくなってしばらくの間、私はチハルを何があっても離さない時期があった。
小学校にまで連れて行くと我侭を言う私に、父だけじゃなく、隆やそのご両親にまで随分迷惑をかけてしまったな、と思い返す。

①『よく憶えてるね、隆』
②『そんな事、憶えてなくてもいいよ』
③『ところで、隆。三種の神器って知ってる?』

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③『ところで、隆。三種の神器って知ってる?』

昔のことを蒸し返されてなんとなく恥ずかしくなり、先ほどテレビで見た話を振ってみる。

「三種の神器?あー、そういや学校で習ったな。たしか、テレビ、洗濯機……掃除機?いや冷蔵庫か」
隆の言葉で、そういえば以前に学校で習ったことを思い出す。
たしかにそれも三種の神器と呼ばれてたけれど……。

『そっちじゃなくて、鏡と険と勾玉のほうだよ』
ノートを見た隆が頷いた。

「あー、そっちか。知ってるというか、まあ詳しくは知らないけど名前くらいはな。剣て草薙剣のことだろ?八岐大蛇を退治したら尾からでてきたっていう」
私は頷いて、ノートにペンを走らせる。

『じゃあ鏡のことは知ってる?』
「うーん鏡と勾玉のことはわからないな」
(そっか、知らないんだ……)
隆が知らないとすると、誰に聞けばいいだろう?
一郎くんは詳しそうだけど教えてくれるか分からない。
修二くんも案外詳しいかもしれないけれど、なんとなく交換条件にされそうな気がする。

(春樹ならすぐに教えてくれると思うんだけどなぁ)
「急にそんな事聞き出してどうしたんだ?」
考え込んでいると、不意に隆が尋ねてきた。
確かに唐突な話題だったかもしれない。けれど、なんとなく気になっただけなので理由があったわけではない。

『さっきテレビでやってたの。ただそれだけなんだけどね』
「ふーん?」
納得したのかしないのか、隆はあいまいに相槌を打って再度チャーハンを食べ始める。
それからふと、思い出したかのように顔を上げる。

「近藤先生に聞いたらどうだ?」
隆の口から思いがけない名前が出て首を傾げる。

「なに変な顔してるんだよ。近藤先生は歴史の先生だろ?図書委員の顧問もしてるし、結構詳しいんじゃないか?」
言われて思い出す。
直接授業を受けたことが無いからピンとこなかったが、確かに近藤先生は歴史を教えている。

うーん……
①『そこまでして知りたいわけじゃないから』
②『そうだね、聞いてみるよ』
③『近藤先生と話すのって緊張しない?』
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