351
③「その、粘膜接触って、例えば?」
逆に聞き返してみる。

「……? ですから、先ほどのあなたの質問が答えになります。
キスをすればその際に口腔内の粘膜同士が多少なりとも触れる可能性がありますので。
…それ以外の粘膜接触に関しても何かご質問がありますか」

まるでお医者さんのように感情を差し挟まない口調で御門くんは言った。
(ほっといたら恥ずかしげもなく昼間の公園にそぐわない話を始めちゃいそう…!)
私は慌てて首を振って疑問は解消されたとアピールをする。
納得してくれたのか、御門くんはそれ以上の説明はしなかった。

ほっと胸を撫で下ろした所で御門くんに聞いてみる。

「じゃあ、『触れる』って具体的にどうするの?」

「先ほどお伝えしたとおりに手順を踏んで頂いて、最後にあなたが対象者に触れれば
まじないは効力を発揮するはずです。……触れる場所はどこでも結構ですが、
肌に直に触れるようにまじないをかけてください。
半端なまじないは、術者・対象者をかえって危険な目にあわせかねませんから」

「わかった。気をつけるよ」

「最後に……」
私が頷くのを見届けて、御門くんはゆっくりと話し出した。

「ここが一番重要です。まじないを施す際は、対象者があなたに心を開いて
あなた自身を受け入れようとする姿勢がなければなりません。
心が通わない状態ではあなたが消耗するのみで、まじないが成功する事はまずありません」

(要注意、ってことね?)

確認してみようかな?

①「まじないが成功したかどうかはその場でわかるの?」
②「ケンカ中だとまじないは無理ってこと?」
③「消耗するって、具体的にどうなるの?」

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②「ケンカ中だとまじないは無理ってこと?」

『もうこれ以上の厄介事は、ご免なんだ!』と言った春樹の顔を思い浮かべる。
(ケンカって訳じゃないけど……すれ違ったままよね)

「疑念や不安、怒りなどの負の感情はまじないの妨げになります。
術者のあなた自身もできる限り穏やかな精神状態が好ましいでしょう。
対象者との同調性が最も重要だということです」

マニュアルでも読み上げるように御門君はよどみ無く説明した。

「それで……説明してもらった通りの手順でいいのね?」
「はい。術が完了していれば、術者のあなたにも対象者の体にも印が現れているはずです」

私は指先にある印を見つめる。
(きっとこんな感じで現れるんだよね)

「わかったよ。でも……術者の私にも印が現れるんだね」
「さきほどのあなたとの契約によって、僕の体にも印が現れています」

御門君の手を見ても、これといった印は見当たらない。

「どこに現れているの? 見たところでは判らないけど……」
「…………確認したいですか?」

御門君はジッと私を見つめたまま言った。

「うん、どんな印なのか見ておきたいかも」
「…………わかりました」

御門君は冷静にベルトを外し始める。
そして、ジーンズに手を掛けた。

(嫌な予感……)

「ストップ! ストップ! やっぱり見なくていいから」
「いいんですか?」
ジーンズのボタンを外しかけている手を止めて御門君は尋ねる。
「いいの!」
「…………わかりました」
御門君は何事も無かったように答えた。

あと、聞くことは……
①周防さんが大丈夫なのか尋ねる
②もう少しまじないについて尋ねる
③もう聞くことは無い

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①周防さんが大丈夫なのか尋ねる

「周防さんは、大丈夫なの?」

さっきの夢の中では大丈夫だと言っていたから大丈夫だとは思うんだけど。
やっぱりまだどこか心配と不安とが収まらなくて……気がつけば私は御門君に問いかけていた。

「本人に聞いたのではないのですか?」
御門君が淡々と聞き返してくる。
「うん、聞いたよ。聞いたけど……結局あの時から、ずっとこっちでは姿を見てないから」
なんとなく気恥ずかしくて、だんだんと言葉が尻すぼみになっていってしまう。

「大丈夫、だよね?」
再び問いかけながら、御門君をちらりと伺ってみる。

「……大丈夫です。彼は嘘をついていません」
少し間が空いたものの、御門君はそう断言してくれた。

「今すぐに、と言うのは無理でしょうが……
明日明後日くらいにはまた現れるのではないかと思います」
続いた言葉に、ようやく胸をなでおろす。
(よかった……周防さんにまた会えるんだ)

「では、帰りましょうか。送ります」
そして、御門君が私にそう声をかけて帰宅を促した。

そこで、私は……

①御門君にプレゼントを渡していないことに気がついた。
②春樹がどこへ行ったのかが気になった。
③一郎君の朝の電話を思い出した。

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②春樹がどこへ行ったのかが気になった。

(そういえば、春樹はどこに行ったんだろう?先に帰るって言ってたけど…)

「どうかしましたか」

数歩歩き出して立ち止まった私を不思議に思ったのか、見れば先を歩いていたはずの
御門くんが振り返ってこちらを見ている。

「え。…えーと、ね。春樹…弟のことを考えてたの。どうしてるかなあって」

「あなたの弟さんですか。あなたが周防とこちらに戻られるまでの間、彼はあなたの事を
心から心配している様子でした」

「そう……」

御門くんの言葉に、意識を取り戻して一番に目に飛び込んできた春樹の顔が目に浮かぶ。
今、春樹はどんな気持ちでいるのだろうか。
目に見えない胸の奥が、鈍く痛んだ。

「…僕に兄弟はありませんが、僕の目から見てもあなた達は血の繋がった姉弟以上に
お互いを想いあっているように見えます」

黙り込んだ私に、御門くんは控えめにそう声をかけた。

「…私と、春樹が?」

「はい。当初は春樹さんは頭に血が上っているようでしたが、僕と言葉をかわすうち
次第に落ち着かれてこの状況をどう対処すべきかに考えを巡らせていたようです。
…最終的に彼は自分にもできることをみつけたと、そう言っていましたが」

(でも。さっきの春樹は『面倒はご免だ』って、そう言ってたのに…)

どうしよう?

①春樹の真意を確かめたい。春樹を探しに行く。
②これ以上御門くんに心配をかけられない。おとなしく家に帰る。
③もう少し御門くんと話がしたい。

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②これ以上御門くんに心配をかけられない。おとなしく家に帰る。

よく見ると、陽は落ちて薄暗くなり始めている。
公園内の街路灯にも明かりが点っていた。

「御門君……今日はありがとう。ハイ、プレゼント」
私はバッグの中からプレゼント用に包んでもらったムーンストーンを手渡した。

「………………」
御門君は手の中に納まっているプレゼントをジッと見つめている。

「せっかくのショッピングが途中になっちゃったけど、楽しかったよ」
「僕も……楽しかったです」
「また、こうやって遊べるといいね」
「…………はい」
私はいつの間にか寝てしまったチハルを鞄の中にそっと入れた。

「私は一人で帰れるから、送ってくれなくても大丈夫だよ。
周防さんに会ったら、プレゼントは今度渡しますって言っておいて。
俺だけ貰えなかったーって拗ねちゃうと可哀想だしね」
口調が暗くならないように、私は努めて明るく振舞う。

「送らなくてもいいのですか?」
「うん。なんだか、一人で帰りたい気分だし」
「わかりました……」
「それじゃ、御門君。バイバイ」

私は手を振り終わると駅に向かって、ゆっくり歩き出した。
だけど、足取りが重くてなかなか前に進まない。
これまでの事、これからの事いろいろ私の肩にのし掛かってくる。
(少しでも前に進まなきゃ……今日みたいに周防さんや御門君に迷惑をかけてしまう。
それに、関係無い人々にまで被害が及んでしまうんだ……)

「……愛菜!」
不意に投げかけられた声に、私は振り返る。
「御門君……?」
「…………これ、ありがとうございまいた」
御門君はプレゼントを大切そうに両手で包み込んでいた。
私はその言葉に大きく頷いて、もう一度手を振った。

……家まで帰ろう。
①まっすぐ駅に向かう
②騒ぎがあった方へ寄り道して帰る
③春樹の携帯に電話する

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①まっすぐ駅に向かう

人気のない所を避けるようにして、大通りをまっすぐ駅へと向かう。
平日ほどではないけれど、私と同じ様に駅へと歩く人たちも多かった。

(なんだか、疲れちゃったな……)

歩きながらぼんやりと目を向けたショーウィンドウに映りこむ自分の顔は
随分泣いたせいか、目の充血はそうでもないものの瞼がうっすら腫れあがって
お世辞にも可愛いとは言えない、そんな表情だった。

どこか冷静にそう思う自分がおかしくて、自然と小さく笑みがこぼれた。

「……大堂?」

不意に後ろから呼び止められた。反射的に振り返ると、そこには一郎くんの姿があった。

「一郎くん……」
「一人で一体どうしたんだ?弟くんは……」

よほど私の顔に出ていたのだろうか。言いかけて、一郎くんは途中で口をつぐんだ。
気付いてしまった一郎くんの気遣いがなぜだか悔しくて、私は無理矢理笑顔を作って言った。

「私たち、いつも一緒にいる訳じゃないよ?春樹だって春樹の都合もあるしね」
「……そうだな」

一郎くんはそれ以上、何も聞かなかった。
ただ一言『家まで送ろう』、そう言って私の前を歩き出す。

どうしよう?

①一人で帰りたいと断る
②黙って後をついてゆく
③なぜそれ以上聞かないのか尋ねる

357
②黙って後をついてゆく

断る気力もなくて、前を歩く一郎くんについていく。
電車が来るまで少し時間があるみたいだった。

並んで電車を待つ間、一郎くんは何も言わずに時々、気遣うように私を見る。
何があったのか聞きたいと思うのに、何も聞かないのが一郎くんらしい。
でも、今の私にはそれがうれしかった。

いろいろなことを詰め込まれて、今何かを聞かれてもうまく答える自信がない。
もう少し自分の中で今聞いたことを頭の中で整理しようとして、ふと御門くんに重要なことを聞いていないことを思い出す。

(お母さん…!)

御門くんはお母さんに育てられたといった。
じゃあ、いまお母さんはどうしているのか?
御門くんはお母さんが死んだとは言っていない。
御門くんは聞いたことには答えてくれるけれど、逆を返せば聞いていないことは言ってくれない。


「大堂、電車が来た」

一郎くんの言葉に、ハッと現実に戻る。
ちょうど電車がホームに入ってくる所だった。

今戻れば、まだ御門くんは公園に居るかもしれない。
そうすれば、すぐにお母さんのことが聞ける。

どうしよう…

①電車に乗る
②すぐに公園に戻る
③一郎くんに説明して一緒についてきてもらう

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①電車に乗る

今からすぐに公園に戻れば、御門くんに会えるかもしれない。
でも、もしいなかったら?

(騒ぎのあった近くに一人で行くのはまずいんじゃないかな。
…一郎くんだって不審に思うかもしれないよね)

それに呼べば御門くんは夢の中にも出てくれる。明日だって学校で会えるかもしれないし。
なにより、これ以上話を聞くのが辛かった。
お母さんが元気でいてくれれば私はそれだけで嬉しいけれど、もしもの場合は?
ずっとお母さんを待っていたお父さんの気持ちは?お義母さんは?

考えなければならない事から無意識のうちに目を背けていたのかもしれなかった。

「大堂?」

一郎くんの声に我に帰ると、目の前の乗車口がちょうど開くところだった。

「あ、ううん。なんでもない」

首を振って混み合う車内に乗り込んだ。
日曜の夕方だというのに、電車の中は乗客でいっぱいで息苦しい。

「大堂、こっちへ」

走り出した電車が揺れる度によろける私の肩に、一郎くんの大きな手のひらが触れた。
導かれるまま移動したのはてすりのすぐそば。
気付けば一郎くんは他の乗客から私をかばうように立って、流れる車窓に目をむけていた。

一郎くんは、こういう人だ。
態度はそっけないしわかりづらいけれど、いつもさりげなく気にかけてくれる。
私は部活でそんな姿を何度も目にして、一郎くんに憧れたのだから。

「…ん?どうした?」

ぼんやりと見上げていた一郎くんと目があった。
身長差のせいで近くに寄るとどうしても私が一郎くんを見上げるかたちになる。
うつむき加減の一郎くんの顔を流れる街灯の明かりがうっすらと照らし出していた。

何か、言おうかな?

①私をかばうように立っていて辛くないか聞く。
②どうして駅の近くにいたのか尋ねる。
③せっかくなので今は何も言わずに一郎くんの隣りにいたい。

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②どうして駅の近くにいたのか尋ねる。

「そういえば、一郎くんはどうしてこの駅にいたの?」
何気なくたずねてから、家を出る前に一郎くんから電話が来ていたことを思い出す。

「朝の電話の用事?」
「いや……」
一郎くんは何かを思案するように言葉を切り、さりげなくあたりを伺うように視線を走らせた。
その視線が、一瞬一点で止まり何事もなかったかのように私に戻ってくる。

「一郎くん…?」
同じようにあたりを伺うけれど、私には何も分からない。
御門くんときちんと契約をしたといっても、一郎くんと同じものが見えるわけではないようだ。

(一郎くんと修二くんは「見る力」に特化してるのよね…?)
もしかしたら、御門くんや周防さんにも見えないものが見えているのかもしれない。

「俺があそこに居た理由は降りたら話す。ここは人が多すぎる」
「そうよね…」
確かに、こんなに混んだ電車の中でするような話ではないだろう。


最寄の駅に着き、駅舎をでると、一郎くんが尋ねてきた。
「大堂、どうする?」

さっきの話をどこで聞こうか?

①家に帰って聞く
②駅の近くの喫茶店で聞く
③家の近くの公園にで聞く

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③家の近くの公園にで聞く

今日はいろいろあったし、早めに帰宅したかった。
私は家の近所の公園で話そうと提案し、一郎くんは「大堂の好きなところでいい」と言って承諾してくれた。

駅からしばらく歩くと、公園が見えてきた。
「あのブランコ……全然変ってない」
懐かしさのあまり一郎君のことも忘れて、思わずブランコに駆け寄った。

「わぁ。ブランコが小さくなってるよ」
私はブランコに座って、少しだけ揺らしてみる。
軋む鎖の音や、錆びた匂い、すべてが懐かしい。
はしゃぐ私に少し呆れつつも、一郎くんも私の隣のブランコにゆっくり腰掛けた。

「……………」
一郎くんは何も言わず、体に合わないブランコを足だけでゆっくり漕ぎ始めた。

夜の児童公園に来た事は無かったけれど、昼の明るさとは対照的だった。
白熱灯のぼんやりとした明かりのせいで、一郎くんがどういう顔をしているのか判らない。

「大堂。さっきは元気が無かったようだが、大丈夫なのか?」
漕ぐのをやめ、一郎くんはポツリと私に話しかけた。

「うん。さっきはちょっと落ち込んでいたけど……今は大丈夫」
「そうか」
一郎くんは安心したように頷いた。
「そういえば……前も泣き顔を一郎くんに見られてたんだよね。泣き虫の子供みたいで、恥ずかしいよ」
「いや……。こうなる事がわかっていて、泣かせてしまったのは俺の責任だ。
やはり大堂は何も知らなかった方がよかった。知らなければ、泣かせずに済んだんだ」

そう言って、一郎君は白熱灯を見上げた。

私は
①「公園にいた理由を教えて」
②「一郎くんは何を知っているの?」
③何も聞かない

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