341
③御門くんの何が『失敗』だったのかについて

「失敗は二つ。まず一つは僕の能力が彼の思い通りのものでなかったことです」
私の質問に、何の感情のなく淡々と答える御門君。
「彼はさまざまな調整を行い、僕が彼の望む能力を持って生まれてくるようにした。
……そのはずでした。しかし、僕に発現した能力は全く違うものだった」
ふと自分の手のひらをじっと見つめ―――やがてそれを握り締める。
それから御門君は再び言葉を続けた。

「そしてもう一つ。それは……僕が持って生まれた能力を制御できなかったこと。
結果、僕の能力の暴走により彼の目論見は白日の下に晒されることになりました。
……ただし、あまりにも多くの犠牲を払って、ですが」
そこで話を区切り、御門君はわずかに目を伏せる。
もしかしたら、そのときのことを思い出しているのかもしれない。

「彼がどうなったかは僕には分かりません。
その後すぐに僕は『危険である』と判断され、別の場所……能力者を制御する部屋へと移されましたので」

「そして、その場所はただ暗闇だけがありました。
どのくらい、その状態が続いていたかは僕には分かりません。
何も無い、誰も来ない、死なないように管理だけはしていたようでしたが」

ただ暗闇だけが支配する世界で、一人ぼっちでただ人形のように存在し続けること。
その光景を想像してみる。
私はそれだけで怖くなった。
もしも、自分がそうなったらと思うと……ぞっとした。

「しかし、ある時に変化が現れました。
勢いよくドアが開かれ、光が差し込んだかと思うと……僕は見知らぬ誰かに抱きしめられていました。
それが、志穂……あなたのお母様」
お母さんのことを語るときだけ、わずかに御門君の声が揺れた気がした。
―――それは本当にわずかのことで、そこにどんな感情があったかは分からないけれど。

「御門冬馬、と言う名もあなたのお母様からいただいたものです。
実の母親とは顔を合わせたこともありませんし、僕の父親は僕を実験のコードナンバーで呼んでいましたから」
そこで、御門君は私を見て言葉を止めた。
「……どうかしましたか?」
そして問いかけてくる。

そのとき初めて私は自分の状態に気がついた。
気がつけば私は……

①悲しみのあまり泣いていた
②怒りのあまり手を強く握り締めていた
③恐怖のあまり震えていた

342
①悲しみのあまり泣いていた

気付けばわたしの頬をいく筋もの涙が伝っていた。
いくら御門くんでもさすがに気になるのだろう。彼は黙って私の言葉を待っているようだった。

「……あれ、なんだろう?おかしいね、ごめんね」

取り繕うようにそう言って慌てて手の甲で涙を拭う。
当の本人である御門くんが何も言わないのに、私が泣いたりするのはおかしな話だ。
きっと同情されても嬉しくはないだろう。
御門くんが想像もつかない環境にたった一人閉じ込められている間、私は両親に慈しまれ何不自由なく育てられたのだから。

そう思うのに、涙はなかなか止まってくれなかった。
御門くんに何か言おうとしたその時。
目の前の御門くんが私の髪にそっと手を伸ばして、触れた。

「あなたはやはり、あなたのお母様によく似ておいでです。……あなたのお母様も度々、僕の為自分のことのように涙を流しておられた」

そう言いながら御門くんの手はいつだかそうしてくれた時のように、私の髪を解くように優しく撫でる。
ご自身で泣きながらも僕を慰めてくれていたようです、と御門くんは続けた。

「今思うと、歳の近いあなたの事も重ねて見ていらしたのでしょう。施設からひきとった後、女手一つで危険因子の僕を我が子同然に育ててくださいました。
今僕が持つ能力を制御する術も、あなたのお母様に教えていただいたものです」

私がどうにか泣き止んだのを見て、御門くんは私の髪を撫でるその手をひいた。

(そういえば、お母さんもよく私が泣いてると髪を撫でて慰めてくれたっけ……)

相変わらず無表情な御門くんを見ながらふと、そんなことを思った。

「何か、お聞きになりたい事はありますか」

御門くんが言う。

どうしよう?

①お母さんについて尋ねる
②周防さんとの関わりについて尋ねる
③特にない。御門くんに続きをはなしてもらう

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②周防さんとの関わりについて尋ねる

「そういえば、周防さんとはいつ知り合ったの?」
私が見聞きした限りでは、周防さんは結構御門君のことを知っているみたいだった。
御門君があまり態度に出さないから分からないけれど、お互いがお互いを分かっている感じがする。
だから、結構付き合いが長いんじゃないかなって思ったんだけど……。

「周防、とは……」
そこで、何故か少し間が空く。
(どうしたんだろう?何か考えてるのかな?)
私が内心で首をかしげていると、再び御門くんが口を開いた。

「彼が16の時に知り合いました」
「そうなんだ……」
確か、この間周防さんは24歳だと言っていたから……付き合いは8年くらいになるのかな?

「じゃあ、二人の付き合いは結構長いんだ?」
私は呟くように、何気なく言う。
「……」
だけど御門君は何故か黙り込んでしまった。

「そうといえばそうですし、違うといえば違います」
暫くした後に御門君から返ってきた答えはとても曖昧なものだった。

「最初に出会ったのは今か……少し前くらいでした。
最もその時は、存在を認識している程度のものでしたが」
それから御門君は「当時は共有していた時間もわずかでしたから」と続ける。

「彼と言葉を交わすようになったのは、再会してからです」
そこで御門君は区切りをつけるように、話を止める。

……今なら、質問できるかな?

①「昔の周防さんってどんな感じだったの?」
②「周防さんと再会したのはいつ?」
③「御門君……周防さんに気を使いながら、私に話をしてる?」

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①「昔の周防さんってどんな感じだったの?」

何気なく、そう尋ねてみた。
自分と同じ年のころの周防さんはどんな雰囲気だったのだろう。

「今と変わらず、抜きん出た能力者でした。優秀な能力者の家系の生まれで、
とりわけその血を濃く受け継いだのだと聞いた事があります。
幼い頃からの英才教育もあって、初めて会った時には既に僕が知る中でも
一二を争う力の持ち主でした」

「へえ、やっぱりすごい人だったんだ……」

思わずこぼした言葉に、御門くんは少し間をおいて答えた。

「すごい、かどうかは僕にはわかりかねますが。ただ、僕に出会った頃の周防は
あなたの知る周防とほぼ変わりありません」

(……?)

御門くんの言葉に、かすかに含みがあるような気がする。
私の顔にそう出ていたのか、御門くんは小さく頷いた。

「周防の方は僕に出会う前……正確には対面する以前に、
厳重な監視下におかれた僕の存在を既に知っていたようです。
僕をそこから出すようにと上層部にかけあったのも彼だったと、
後にあなたのお母様に聞かされました」

「……周防さんが?」

「はい。当時の周防には一切の権限はありませんでしたが、
恐喝まがいのなんらかの取引を持ちかけたようです」

『出さなければ施設の中枢を破壊するぞ、といった類の』そう言って御門くんは目を伏せた。

「ず…随分強引なかんじだね……。まあ、そのおかげで御門くんは外に出られた訳だけど…。
周防さんとは親戚か何か、なの?」

「いいえ。血縁は全くありません。何故僕をあの部屋から救い出したのか、
今までも彼の口から語られる事はありませんでしたので
これは僕の推測に過ぎないのですが。
僕が隔離された部屋の前の主は、力を暴走させた挙句病に冒され
再び日の光を浴びる事無く若くしてこの世を去ったと聞きました。
……周防はその人物と懇意にしていたそうです」

(そんな事があったんだ……)

御門くんに、聞いてみようかな?

①その周防さんと親しくしていた人について
②周防さんと再会した頃について
③御門くんが出会う前の周防さんについて

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①その周防さんと親しくしていた人について

「懇意にしてたってどんな人だったんだろう……」
私が漏らした独り言に対して、御門君は小さく頷いた。

「詳しい事は知りません。
ただ、周防と部屋の主だった人物はかなり親しい間柄だったと聞いています。
その主は髪の長い、美しい少女だったそうです」

(髪の長い少女……)

「その子の名前って……こよみさんっていうんじゃないのかな」

アンティーク雑貨に居る時、リボンを見つめながら周防さんは「こよみ」と呟いていた。
(寂しそうで悲しそうで、私は声をかけることすら出来なかったんだ)

「本来、厳重な監視下に置かれている者は人である事すら許されません。
さきほども話したように名前は捨てられ、すべてコードナンバーで呼ばれます。
身内他人問わず人との接点をすべて絶たれ、ただ監視される日々があるだけです」

御門君はまるで他人事のように淡々と話した。

「で、でも、前の部屋の主だった女の子と周防さんは親しくしていたって……」

「高村……。周防の家系の人々は特別ですから許されたのでしょう。
施設の創設者は周防の祖父で、その直系の者が施設を運営していたそうです。
僕の父も……高村の施設で、一研究員として働いていました」

「じゃあ、周防さんは直系なの?」

「違います。周防の叔父に当たる人物が僕が施設に入っていた当時の最高権力者だったようです。
優秀な能力者であり、研究者であり、権力者でもある……それが高村の名を持つ者なのです。
苗字を嫌い、周防と呼ばせる理由もそこにあるのかもしれません。
ただし、現在の施設の権力は大きく二つに分裂していますが……」

御門君は冷静な口調で答えた。

①施設について尋ねる
②周防さんについて尋ねる
③私を狙う組織について尋ねる

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②周防さんについて尋ねる

「周防のことは、僕よりも周防に直接聞いたほうがいいかと思います」
私をじっと見つめたまま、淡々とした口調で答える。

「僕から話をしても構いませんが、僕も全てを知っているわけではありません。
……何より、周防がそうされることを望まないでしょう」

そう言われて、私はこれ以上言葉を紡ぐことをためらった。
御門君も何も言わない。

しばらくの間、そんな微妙な沈黙が続いて―――けれど。

「ただ、ひとつ言わせてもらうならば……彼は成長しました。
それは……時が経過した分と、同じくらいといってもいいと思います」
御門くんの言葉で私は再び彼に視線を合わせる。

御門君にしては珍しい、すこしたどたどしく感じるような口調。

それは話すことにためらいを感じているからなのか。
それとも、私に誤解させないように彼なりに言葉を選んでいるのだろうか。
―――あるいは他に理由があるとか?

「ですから、今の周防は少なくとも、敵にはならないでしょう。
……ただし、味方になるかどうかは……あなたの心しだいですが」

その御門君の言葉に―――昨日の夢で、同じようなことを周防さんが言っていたことを思い出す。

『どの視点から物を見るのか、そしてお前がどのように動くのか。
……それによっても俺のスタンスは変わってくる』

そして確信する。
周防さんも御門君もこの一連の出来事の真実の……少なくとも、一端を知っている。

だけど、御門君は御門君の……周防さんは周防さんの。
それぞれの事情から、私にその大事な部分を明かさないままでいるみたいだ。

おそらく、それは私が関係しているからなんだろうけど。

―――だけど、待っているだけじゃ今までとほとんど変わらないんじゃないかな。
(それじゃ、きっと、本当にまた何も変わらないままで……)

そう思った私は口を開いて―――

①「御門君、私に真実を教えてよ」
②「周防さんに会いにいこうよ」
③何も言えなかった。

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①「御門君、私に真実を教えてよ」

私の言葉に御門くんはしばらく考えているようだった。
少しおいてゆっくりと口を開いた。

「真実は、時に形を変えます。人によって、見方によって。
僕がお伝えできるのは、今迄起こった出来事とその経緯のみです。
また、周防の存在を省いてはお話できません。
……先程も申し上げましたが、周防が今何を考え何を思って行動しているのか。
それについてはあなた自身で周防の口から聞いて頂きたいのです」

丁寧な前置きに、周防さんへの御門くんなりの配慮みたいなものが感じられた。
私が黙って頷くと、御門くんは組織について話し始めた。

「近頃とりわけ頻繁にあなたに接触を試みているのが高村の研究所内での
主流にあたります。それに対して主流の方針に異を唱え、
少数ながら独自の活動を展開しているのが周防の属する派閥です。
ひらたく言えば周防一派は『反主流』、ということになるでしょうか」

「主流と、反主流?」

「はい。設立当初より研究所で行われてきたのが、既存の能力者のデータに基づいた
能力開発とクローン技術を用いた能力者の複製とその管理です。
後にそれに付随して新たな能力者の発見・確保、動向を監視する部署も設置されました。
これらの活動は非合法かつ極秘裏に行われ、現在もその存在を知る者はごく僅かです」

にわかには信じがたい内容を次々に伝えられ、私は理解しようと一生懸命に
御門くんの言葉を反復した。

「ええと…つまり主流は裏家業っていうか、
隠れて色々とまずい事を研究所の中でしてるってこと?」

「世間一般からすれば、そうなります。……もっとも上層部の人間に言わせると
『人類の発展に寄与する、有益かつ有意義な行為』となるようですが。
その一方で周防の一派は組織内で大勢を占める主流のあり方に反発する者達で
構成されています。周防達の活動が表立って行われるようになったのもここ最近の事です」

「それは、どうして?」

「主流の活動が活発化した為です。周防達は主流の目的を阻止する為に動いていますから」

(御門くんの言ってること、わかるような…わからないような……)

確認してみようかな?

①「水野先生は、組織の主流の人ってこと?」
②「武くんが生まれたのも研究所の中なのかな?」
③「一郎くんや修二くんは組織とは関係ないの?」

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②「武くんが生まれたのも研究所の中なのかな?」

「武……?」
御門君は私の問いに考え込んだ。

(そっか。御門君は知らないのか……)

「あのね。武くんっていうのは幼馴染の隆の別人格らしいの」
私が説明しようとすると、御門君は納得したように顔を上げる。

「昨日、湯野宮隆とあなたが接触していたことでしょうか?」
「その時に隆の別人格の武くんが手紙をくれたんだ。
隆が大怪我をした時、隆のクローンである武くんの体の一部が使われたらしいの。
その時から、武くんが隆の中に別人格としているみたいなんだけど…」

御門君はしばらく黙り込んでいた。
そして、答えを探るようにゆっくり話し出した。
「そのクローンが研究所にいたのは、まず間違いないと思います。
主流派が被験者を病院に提供したのでしょう。
ただ……たとえ体の一部が移植されたからといって、もう一人の人格が形成されるとは考えにくいです」

「え? じゃあ、武くんの手紙はなんなの?」
「わかりません。僕の勉強不足でそういった事例を知らないだけかもしれません」

新しい事が分かったと思ったら、次の謎がでてくる。
真実に近づいたと思ったのに、謎はどんどん深まるばかりだ。

(うう~、混乱してきた。研究所や組織の話はまた今度にしよう)

「ねえ、御門君。これからの事を質問していい?」
「はい」
御門君は無表情のまま頷いた。

①「契約したけど、具体的にはどうなるの?」
②「家には…もう住まない方がいいのかな?」
③「今までどおり学校に通っても大丈夫よね?」

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②「家には…もう住まない方がいいのかな?」

口にしながら春樹の事が頭をよぎった。そしてお父さん、お義母さんの顔が浮かぶ。
(御門くんと契約した事で、この事態に本格的に首を突っ込んじゃったんだもんね…)

「愛菜、あなたはそうしたいのですか?」

御門くんの言葉に思考が現実に引き戻される。
目の前の御門くんはいつもの表情で私をみつめていた。

「……ううん。ただ、私のせいで家族が事件に巻き込まれるのが心配なの」

そうですか、とだけ答えて御門くんは何か考えているようだ。

「御門くん?」

短い沈黙の後、私が遠慮がちに呼びかけると御門くんは再び口を開いた。

「あなたと正式な契約を結んだ今なら、手を打つ事自体は可能です。
ただ、あなたに少しばかり負担を強いることになる。正直、僕はあまり気が進みません」

「どういうこと?それって、私の家族を組織から守る手段があるってこと?」

「はい。想定される組織からのあらゆる攻撃に耐えうるものではありませんが、
ファントムにさえ取り付かれなければ後付でも対処はできますので」

ファントムに取り付かれる心配がなくなる、それは願ってもないことだ。

(春樹にとっても当面の問題が解消されるわけだし…)

「教えて、御門くん!」

身を乗り出した私に御門くんは何故かゆっくりと目を伏せた。

「……あなたがお望みなのでしたら、仕方ありません」

そう言って、ファントムが取り付かないようにする術(御門くんは『まじない』と言っていた)を
順を追って丁寧に教えてくれた。

「手順はこれで大丈夫、かな?」

「はい。終わりに、施したまじないに効力を持たせる為相手に触れればそれで完了です」

御門くんの思いがけない言葉に、教わったまじないを頭から再現していた私の手が止まった。

(相手に、触れる…?)

それって…

①「……もしかして、キスしなきゃいけないとか?」
②「触れなかったら効果は出ないの?」
③「契約するみたいなもの?」

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①「……もしかして、キスしなきゃいけないとか?」

私は少し恥ずかしくなりながら聞く。
「いえ、それは逆に危険でしょう」
そんな私とは逆に御門君は冷静に首を振った。

「どういうこと?」
私は不思議に思って御門君に問いかける。

「この『まじない』は……貴方の能力の一部を、相手に加護として渡すものです」
御門君は淡々とした口調で説明をしてくれる。
「能力者なら大丈夫かもしれませんが、貴方が『まじない』をかける相手は一般人です。
ましてや……貴方は気がついていないでしょうが、貴方の力は強大なものです」
(そうなんだ……)
私は相槌を打ちながら、ぼんやりとそんな風に考える。

「耐性のない一般人には、どんな反動があるか分からない。
ですから、無闇に粘膜接触をするような行為はしないほうがよろしいかと」

(……は?)
頷いていた頭が止まってしまう。
(今、なんて言ったの?粘膜接触?)
突然、御門君から妙な言葉が出てきて驚いてしまった。

さっと御門君のほうを振り向くが、御門君の表情は全く変わっていなかった。
冷静そのものだ。

(これは真面目に言ってるんだ……)

①「み、御門君、何を急に……」
顔が赤くなって俯いてしまう。
②「御門君には、私が『無闇に』そう言うことをしそうに見えるの……?」
少しムッとしながら聞き返す。
③「その、粘膜接触って、例えば?」
逆に聞き返してみる。

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